世の中のあらゆるものに名前があります。使用方法や形態からついた名前を持つモノモノや、誰かの願いや祈りが込められた名前を持つモノモノなど、名前由来もさまざまです。
ちなみに「島」と言う名前は「まだ誰も立ち入ったことのない、スリルと発見が秘められた、魅力的な人間になってほしい」という願いを込めて、画家だった祖父が付けてくれてたらいいなあ、なんて思ったり。はい願望願望。
今回は名前にあふれた世の中には珍しい「名前のないお弁当屋さん」に突撃取材をした記事でございます。
住宅街のなかにぽつねん
やってきたのは中区、本牧・吾妻神社。
横浜市営バス106系統「吾妻神社前」で下車するのが良いかも
投稿していただいたキニナルには「吾妻神社の裏」との情報で、ちゃんと見つけられるか心配しながらやってきたのだが……。
全然大丈夫
バス停から徒歩30秒、吾妻神社のすぐ向かいに
そのお店はあるのです
家と家の間にちょんと建っている赤い店舗。これが件の「名前のない弁当屋」だ。
あらら
山崎が到着した時はお昼の営業時間が終わった後だった。ついてないなあ、と足元に目線を落とすと……。
ん?
月曜日が定休日なのねえ、じゃなくて「(元)日航ホテル総料理長が店長です」という文字が。
おっほー!! どういうこと?? 日航ホテルの元総料理長? この一文で一気にテンションが上がる。だって有名ホテルの元総料理長が本牧で名前のないお弁当屋さんをやってるなんて、ロマンチックではありませんか!? これは絶対お会いしなくては!!
夕方の営業は午後5時からだそうなので、しばらくぶらぶらして待ちました。
で、午後5時ぴったり
改めてお邪魔します。店内には店主らしき男性が1人。もしかしてもしかしてこの方が……。
そうです
元日航ホテル総料理長「名前の無いお弁当屋さん」のご店主であられます北向伸二(きたむかい・しんじ)さん。なんとはまれぽのユーザーさんでもいらっしゃった。突撃で取材に行ったにもかかわらず、あたたかくお受けくださった。
元ホテルシェフの作る激安弁当のあれこれ
まずは北向さんのご経歴について質問をさせていただくと……。
さすが!!
プロフィールが書かれた用紙をいただきました。幼稚園から大学、そして今まで働かれたレストランが一目でわかります(写真もついています)。私もこういうの作ろう!
ん?
北向さんが料理の道へ入ったのは東海大学海洋学部に在籍していたとき。飲食店でアルバイトをしたのがきっかけ。
「大学よりも、料理の方が楽しくなってしまって……」と、大学を中退し、中華街のレストラン「ウィンドジャマー」にて料理のあれこれを学んだ。
落ちついた雰囲気のウィンドジャマー
同店では副料理長としても働かれたのだそう。その後、香港の三越デパートのケーキショップ「ロシュ」の日本人ディレクターとして海外へ。
「もともとはフランス料理を勉強したくて、フランス行きを考えていたのですが、人づてに香港での仕事の話がきまして、いろいろ悩んだ結果、ケーキの勉強をすることもやりたいことにつながるのでは、と思い香港へ行きました」とのこと。
なんと香港では10年、台湾で10年、アメリカで3年、計23年もの間、料理人として海外で働かれていたそう。
すごい経歴です
日本に帰国したのは11年前。日本では東京や横浜で激安の食べ放題のレストランを開くなどして、飲食業を続けていらっしゃる。この場所でお弁当屋さんを始めたのは約4年前から。北向さんのご実家の駐車場だったところに、このお店を建てたのだとか。
なるほど
そしてキニナル店名について質問すると「名前はね、まだ決まってないんだよねえ」と苦笑いする北向さん。こちらでお店を開く前、すぐ近所で別のお店をやっていて、その時は「ドカッ亭」という店名があったそうだが、こちらのお店では店名は未だ決めていないのだとか。
「もうちょっとしたらちゃんと決めますよ。今のところは“スラッシュ”にしようかなあとおもっています」とのこと。お客さん方は、以前の店名「ドカッ亭」と呼ぶ方が多いらしいです。
と、お話を伺っていると、続々とお客さんがいらっしゃった。
お客さん方にもすこしお話を
北向さんとお顔見知りという、こちらの男性のお客さん。この日はお友達のお家で飲み会があるそうで、お酒のおつまみを買いに来られた。
このお店をなんて呼んでいるのか、質問すると「名前は……知らないなあ。知らなくていいんだよ別に」とのご返答。
たしかに、ご近所さんだったら「北向さんのお店」とかで共有できますよね。おすすめのメニューについては「なんでもおいしい」とのこと。
お父さん、お母さん、娘さんの3人でいらしたご家族にも
お話伺えました。なんとお父さん、はまれぽ読者の方でした。いつもありがとうございます。
こちらのお店には、以前よく来ていたそう。お子様がこちらのカレーがお好きなんだとか。名前については「“ドカッ亭”と呼んでいます」とおっしゃっていた。
続々とお客さんがいらっしゃる
「名前のないお弁当屋さん」、かなりにぎわっているご様子。小学生の男の子からご年配の方まで、幅広い年齢層の方々が次々にお弁当を買っていった。
そんな知る人ぞ知る「名前のないお弁当屋さん」のメニュー一覧
外看板。賛否両論?
メニューは洋食中心
何故こんなにお安くできるのかというと、北向さんは市販の材料にご自分のアレンジを加え、できるだけ安く、いろいろな種類を提供できるよう、工夫されているからなんですって。
洋風のメニュー中心なのは、デミグラスソースをたくさんの料理に応用していることと、お客さんからのリクエストも多かったため。しかも!!
同店にはこんなメニューも
人気のオニオンカレーや日替わりの丼ものを、立ち食いだと100円でいただけるというシステムが!! 容器代を節約できるため、超格安ワンコインで提供されている。
いろいろな方に、お腹いっぱい食べてほしい、という想いがお強いんだろうなあ
いよいよ試食開始!!
そんな北向さんの真心がこもったメニュー、いくつか試食させていただきました。
定番のオニオンカレー
玉ねぎとカレー粉だけで作ったカレー。お年寄りやお子さまに食べやすいように、甘口になっている。本当にシンプル極まりないカレーだが、玉ねぎが丁寧にじっくりあめ色になるまで炒めてあるため、とてもコクがある。いろいろ入れてある山崎のカレーより全然おいしい。
お好みでカレー用の自家製ラー油を入れてくれる
ラー油を入れるとぴりりスパイスが効いた、本格的な味わいになる。お客さんの層を幅広く考えて作られているのが伝わってくる一品。これはぜひとも召し上がっていただきたいです。
次にいただいたのは、デミグラス丼チーズのせ
濃厚なデミグラスソースが食べ応えのあるデミグラス丼チーズのせ。ご飯がサフランライスなのもうれしい。
それから「世界一おいしい」と自負されている甘豆腐・杏仁味
甘豆腐とは、豆乳を使った中国のデザート。なかでも杏仁味は、杏仁をすりつぶし丁寧に裏ごしした、北向さんの自信作。
中にはこの甘豆腐・杏仁味を目当てに地方からいらっしゃる方もいるんだとか。杏仁のしっかりとした風味が爽やかで、食感も滑らか。大変に美味です。そのほかにも……。
抹茶
チョコレート
いちご
をいただきましたが、どの味も濃厚で口当たりもそれぞれ特徴があり、大変おいしかったです。「例えばいちご味なら、普通にいちごを食べるよりもおいしくなければいけない、というポリシーを持ってつくっています」と北向さん。甘豆腐の数々、北向さんの「志」を納得できる美味しさでした。
北向さんの真心とこだわり、そして料理人としての誇りが詰まった「名前の無いお弁当屋さん」。今後も地域の方々に愛され、末永く多くの人のお腹をいっぱいにしてくださいますように。
山崎もいくつかお弁当を買ってきました。一挙ご紹介ー。
まずはローストビーフ丼(洋風ソース)、50グラム(300円)
北向さんお手製のローストビーフにデミグラスソースがかかっている。ローストビーフの量は50グラム(300円)、100グラム(500円)、250グラム(1000円)と、ソースは洋風・和風・カレーの3種類から選ぶことができる。
ローストビーフはとっても柔らかくて食べ応えがあります
それから鶏肉(300円)と
フランス料理のアリゴ(300円)
鶏肉は甘じょっぱい照り焼き風味で、こんがりと焼かれている。あめ色玉ねぎがたっぷりの和風ソースとわさびをつけていただく。ワインにもビールにも日本酒にもあいそう。おつまみにもってこいです。
アリゴはマッシュポテトにホワイトソースとチーズがたっぷりとかかったオシャレな味わい。幅広い年齢の方に喜ばれそうな一品。
チーズ甘豆腐(300円)も
こんなチーズ味のデザート、初めていただきました。山崎はチーズが大好きですが、チーズを使ったデザートはくどくてあまり好きじゃない。でも、これは無言ですいすい食べてしまった。チーズの酸味と豆乳のやさしい甘さのバランスが絶妙で、くどすぎずさっぱり過ぎず、とても美味しゅうございました。あーまた食べたいー!!
「名前のないお弁当屋さん」堪能させていただきました。まさに、私が住んでいる街にもあったらいいなあ、と思えるお店でした。本牧へ「ぶらりさんぽ」しに行ったときは是非またお伺いさせていただきます。北向さん、ありがとうございました。
取材を終えて
今回のような、知る人ぞ知る、地域密着型のお店、もっと知りたいです。ちなみに、ジュディ・オングのDVD出演について伺うと、少し恥ずかしそうに笑っていました。
―終わり―