特集 2015年6月2日

「ツルグレン装置」で小さな土壌動物観察

土を集める

まず、ツルグレン装置で処理を行う土を集める。

花壇や草むらの土でもいいらしいが、せっかくだからここは森の地面に広がる腐植土を使ってみよう。そっちの方がなんか色々いそうだし。
いかにも土壌の豊かそうな照葉樹林の土をチョイス
いかにも土壌の豊かそうな照葉樹林の土をチョイス
林床に積もった落ち葉は分解されて、微小動物の好む腐植土となる。
林床に積もった落ち葉は分解されて、微小動物の好む腐植土となる。
500mlほど採取。実験後に観察した生物とともに元の場所へ返す。
500mlほど採取。実験後に観察した生物とともに元の場所へ返す。
落ち葉をかき分け、その下に溜まった土を採取する。森の香ばしい匂いが生物の存在を予感させるが、一見した限りは特に何も見つからない。大丈夫かこれ。

制作時間は5分

おいおい、まだ装置自体が無いのに土を集めるなんて順番が逆じゃないか。

そんな読者の声が聞こえてくる。確かにその通りなのだが、実際はたいした問題でもない。
なぜなら、ツルグレン装置の製作にかかる時間などあっという間だからだ。

ではその一部始終を見ていこう。
ツルグレン装置の材料たち
ツルグレン装置の材料たち
今回用意した装置の材料は画用紙、電気スタンド、ふるい、コップ、そしてキッチンペーパーである。特に変わったものは必要無い。

ノッポさんやわくわくさんでもたいしたものは作れそうにないラインナップであるが、これでいいのだ。あの頃読んだ図鑑が正しければ。
画用紙を丸めて漏斗状にする
画用紙を丸めて漏斗状にする
漏斗の内側にふるいをはめ込む。今回は網の目が2ミリ程度の物を使用。
漏斗の内側にふるいをはめ込む。今回は網の目が2ミリ程度の物を使用。
画用紙で漏斗を作ってふるいをはめ込み、湿らせたキッチンペーパーを入れたコップに刺す。さらに漏斗を上から照らせるように電気スタンドを配置すればツルグレン装置の完成である。

うわ、二行で作り方を説明できてしまった。実際、たったの5分で製作も終わってしまった。
見た目がチープすぎる。
見た目がチープすぎる。
何とも言えぬ安っぽい装置が部屋の中に鎮座している。

でもまあ、小学生の自由研究感があってこれはこれで良い。
電気スタンドには必ず白熱球を使用する。LED球はNG。
電気スタンドには必ず白熱球を使用する。LED球はNG。
ただし、これは経費を削減して必要最低限の機能を確保した簡易版のツルグレン装置である。本格的な物はもう少しハイテクでサイエンスでメタリックでラボラトリーな雰囲気を醸し出していて格好がいいのだ。

まあ、電球+漏斗+ふるい+受け皿という基本的な構成は変わらないのだが。

光と熱であぶり出す

さあ、さっそく装置を使ってみよう。

漏斗に土を注ぎ、スタンドの電源を入れる。このとき「ツルグレン装置、起動!」と心の中で叫ぶと一瞬盛り上がるけど、電球が点いた瞬間にとてもむなしくなるのでおすすめだ。
ジリジリと照らされ、熱される土。紙で漏斗を作る場合は火事に注意。
ジリジリと照らされ、熱される土。紙で漏斗を作る場合は火事に注意。
漏斗を照らす電球は熱を放ち、炙るように土の水分を奪っていく。

察しの良い人ならもう分かったかもしれない。この装置は光や熱、あるいは乾燥を嫌う土壌動物を土中から追い出し、受け皿であるコップに集めるものなのだ。
実験終了後に回収したキッチンペーパー。一見、何もいないようだが…。
実験終了後に回収したキッチンペーパー。一見、何もいないようだが…。
数時間かけてあぶり出し作戦を敢行したら、コップの中からキッチンペーパーを取り出す。

ここに1?2ミリ、あるいはそれ以下の微小な動物達がうごめいているはずなのだが。
ハンディー顕微鏡を持ち出したが、あまり役に立たなかった。
ハンディー顕微鏡を持ち出したが、あまり役に立たなかった。
よく目を凝らしてみると、確かに何やら小さな物体がちょこちょことキッチンペーパー上を動き回っている。おお、本当に採れてるぞ。

急いで携帯顕微鏡で観察を試みるが、対象が動き回るのでとても追いかけきれない。

仕方ないので、デジカメの拡大機能で代用する事にした。
オリンパスのTG-3というカメラ。顕微鏡モードという撮影機能がある。
オリンパスのTG-3というカメラ。顕微鏡モードという撮影機能がある。
1~2センチしかない昆虫のすね毛まで撮れる。これなら顕微鏡代わりになるかも。…言っておくが、僕はオリンパスの回し者ではない。
1~2センチしかない昆虫のすね毛まで撮れる。これなら顕微鏡代わりになるかも。…言っておくが、僕はオリンパスの回し者ではない。
拡大接写モードに設定したデジカメでキッチンペーパーを撮影すると、想像以上に素敵な世界が写し取られていたのだった。

ダニがかわいい

なんかいっぱいおる。
なんかいっぱいおる。
微小な虫達がたくさん歩き回っている。しかも、ざっと見て10種類以上30匹以上はいる。

2,3種類、5,6匹も集まれば上出来かなと思っていたので、良い方向に予想を裏切られてテンションが上がる。
指先とのサイズ比較。赤茶色や黒のつぶつぶが虫。
指先とのサイズ比較。赤茶色や黒のつぶつぶが虫。
ではさっそく、どんなものが採れたか見ていこう。
テントウムシのようにかわいいササラダニの一種。ササラダニ類は今回一番多く見られた生物。
テントウムシのようにかわいいササラダニの一種。ササラダニ類は今回一番多く見られた生物。
まず、一番多いのがダニの仲間である。ダニというと気持ち悪がる人もいるだろうが、実際に動いている姿を見ると案外愛嬌があるものだ。

特に、丸くてつるつるしているササラダニ類にはマスコット的なかわいらしさがある。
この小さなクモのようなダニも複数見られた。
この小さなクモのようなダニも複数見られた。
このダニもころころしていてかわいい。
このダニもころころしていてかわいい。
ノミやクマムシみたいな虫。たぶんこれもダニの一種。
ノミやクマムシみたいな虫。たぶんこれもダニの一種。
画面中央にいるのも体長0.5ミリほどのダニ。しかし、あまりに小さ過ぎる上に動き回るので満足にピントが合わない。
画面中央にいるのも体長0.5ミリほどのダニ。しかし、あまりに小さ過ぎる上に動き回るので満足にピントが合わない。
こちらはダニではなくザトウムシの一種かも?赤くて丸い奴はササラダニ。
こちらはダニではなくザトウムシの一種かも?赤くて丸い奴はササラダニ。

ムカデも怖くない

また、クモ、ムカデ、昆虫といったダニ以外の節足動物も多い。
極小のクモ。幼体なのか、それともこういう小型種なのか。
極小のクモ。幼体なのか、それともこういう小型種なのか。
ムカデも観察に顕微鏡が必要なサイズになるとまったく怖くない。むしろかわいい。
ムカデも観察に顕微鏡が必要なサイズになるとまったく怖くない。むしろかわいい。
ヤスデも見つかる。よく見ると顔がかわいい。
ヤスデも見つかる。よく見ると顔がかわいい。
上とは別の種類。少し褪せたピンク色がガーリーかつアダルト。
上とは別の種類。少し褪せたピンク色がガーリーかつアダルト。
ミニチュアのゲジみたいな虫。まさに僕がツルグレン装置を知った図鑑に載っていのだが、名前を失念。なんという虫だったか…。
ミニチュアのゲジみたいな虫。まさに僕がツルグレン装置を知った図鑑に載っていのだが、名前を失念。なんという虫だったか…。
ワラジムシの子どもも多い。比較的大きいので撮影しやすい。
ワラジムシの子どもも多い。比較的大きいので撮影しやすい。
陸生のヨコエビであるオカトビムシ。丸めたお尻をバネにしてジャンプする。
陸生のヨコエビであるオカトビムシ。丸めたお尻をバネにしてジャンプする。

昆虫採集もできる

トビムシの一種。おなじくトビムシと名がつくが、こちらはヨコエビではなく昆虫。下の黒くて丸いやつはマメダルマコガネ。
トビムシの一種。おなじくトビムシと名がつくが、こちらはヨコエビではなく昆虫。下の黒くて丸いやつはマメダルマコガネ。
アカイボトビムシの幼虫。こちらも昆虫の方のトビムシ。形も色も可愛い虫なので、上手く撮影出来なかったのが心残り。
アカイボトビムシの幼虫。こちらも昆虫の方のトビムシ。形も色も可愛い虫なので、上手く撮影出来なかったのが心残り。
ナガコムシの一種。翅も眼も無い。
ナガコムシの一種。翅も眼も無い。
昆虫のトビムシを主食とするウロコアリ。獲物探しに都合がいいのか、眼が下向きに付いている。そのため、上から観察すると眼が無いように見える。
昆虫のトビムシを主食とするウロコアリ。獲物探しに都合がいいのか、眼が下向きに付いている。そのため、上から観察すると眼が無いように見える。
あまりに小さ過ぎて撮影出来なかったものもあるが、照葉樹林の林床で採った土から集められた虫はまあざっとこんな感じである。いろいろな虫たちが次々に現れてなかなか楽しかった。作って良かったツルグレン装置。

土を採る場所によって生物の種類も違う

ここで終わってもいいのだが、せっかく装置を作ったのだから今回はもう一回だけ別の場所から採ってきた土で実験をしてみようと思う。
閉鎖された土壌であるミミズコンポストにはどんな微小生物がいるのか。
閉鎖された土壌であるミミズコンポストにはどんな微小生物がいるのか。
それは照葉樹林の土とは対照的な、限りなく人工的な環境である「ミミズコンポスト」だ。

ミミズコンポストとは家庭で出た野菜くずなどの生ゴミをミミズに食べさせて堆肥化させたもので、箱やいけすの様なある程度閉鎖されたされた空間にある土壌。

こんな環境にはどんな虫がいるのだろう。ミミズしかいないのか?あるいは林床と大差なかったりするのか?
きめ細かく堆肥化した土の中には大量のミミズが。混じっている木屑は直前に投入された廃ホダ樹のカス。
きめ細かく堆肥化した土の中には大量のミミズが。混じっている木屑は直前に投入された廃ホダ樹のカス。
都合の良い事に、僕の実家では父が古いコンクリート槽をコンポスト生産農場としてミミズを育てている。今回はここから照葉樹林の時と同じだけの土を拝借することにした。良い父親を持ったものだ。
真っ白な赤ちゃんダンゴムシ
真っ白な赤ちゃんダンゴムシ
シャベルでほじくると、出るわ出るわ。大量のミミズが躍り出る。

さらに、無数のダンゴムシと陸貝(カタツムリなど陸生の巻貝)もいる。おそらく彼らはそれなりに大きく移動能力も高いので、近所の草むらや植え込みから侵入してきたのだろう。

肉眼ではっきり確認出来る物は全て取り除き、ツルグレン装置にセットする。
ミミズって小さい頃は食べた土が透けて見えるんだよ。
ミミズって小さい頃は食べた土が透けて見えるんだよ。
しかも、もっと小さい頃は無色なんだよ
しかも、もっと小さい頃は無色なんだよ
結果、採集出来たのはミミズの赤ちゃんにダンゴムシの赤ちゃん、そしてちいさな陸貝ばかりだった。

一応、ダニや昆虫など他の小動物もちらほら見られたのだが、林床の土と比べるとバリエーションも個体数もやや劣った。

ミミズ、ダンゴムシ、貝の御三家に圧されて、もはや割り込む隙がないのかもしれない。
ガラス細工の様な陸貝。こんなに綺麗な貝だが、ツルグレン装置を使わなければずっとその存在にも気づけなかったかもしれない。
ガラス細工の様な陸貝。こんなに綺麗な貝だが、ツルグレン装置を使わなければずっとその存在にも気づけなかったかもしれない。
あるいは、周囲をコンクリートで固められ、他の土壌と隔絶しているのも原因だろう。あまり小さな生物にとっては自力でたどり着く事も困難なので、風などで偶然運ばれた場合しか新規入居の機会が無いのだ。

やはり、環境によって生息している生物相も変わってくるのだ。

いろんな場所の土でやってみよう

集めた虫を拡大して観察する顕微鏡やカメラさえあれば、ツルグレン装置を使用した実験はとても楽しいものなので興味を持った人はぜひ試してほしい。

その際は草原と森、低地と高山、沖縄と北海道など、色々な環境下での結果を比較して出現する生物の違いをチェックしてみると面白い発見があるかもしれない。
実験中はこのサイズの虫でもやたら大きく見えてしまう。
実験中はこのサイズの虫でもやたら大きく見えてしまう。
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