特集 2015年5月30日

石垣島で石になった男

どこかに人がいます
どこかに人がいます
石垣島を舞台にしたツアーコンテストの審査員を引き受けた。
さまざまなツアーのアイデアがあるなかにひとつ目をひいたものがあった「石垣島で石になる」というものだ。
石垣島の自然や食をテーマにしたものが多いなか、それだけ異彩を放っていた。

気になったので審査員としてそのツアーを推し、実際に石になるときについていったのだ。
1971年東京生まれ。デイリーポータルZウェブマスター。主にインターネットと世田谷区で活動。
編著書は「死ぬかと思った」(アスペクト)など。イカの沖漬けが世界一うまい食べものだと思ってる。(動画インタビュー)

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石の模様の布で石になる

ツアーコンテストとは、石垣市とロフトワークが石垣島の魅力を再発見するというコンセプトで始めたウシオデザインプロジェクトの第2回。第1回はおみやげをデザインして、2回ではいよいよ石垣島でやってみたいことを旅のプランとして募集したのだ。

「石垣島で石になる」というプランを送ってきたのが永尾純一さん。大阪でゲームを作る仕事をしている。
左・永尾さん、右・石垣市役所 翁長さん (ながおさんとおながさんというアナグラムになっています。が、特にこれは伏線ではないので忘れてください)
左・永尾さん、右・石垣市役所 翁長さん (ながおさんとおながさんというアナグラムになっています。が、特にこれは伏線ではないので忘れてください)
石になる方法は、布である。
永尾さんが作ってきた石垣柄の布
永尾さんが作ってきた石垣柄の布
頭からかぶって…
頭からかぶって…
ほらこの通り!
ほらこの通り!
しめしめ…
しめしめ…
若干、ツヤがあるが通りすがりならほぼわからないレベルである。記念写真をとってもどこにいるかわからない、というのは新しい。写りたいのか写りたくないのか。
近くで見ると丁寧に縫ったあとがあります
近くで見ると丁寧に縫ったあとがあります

だじゃれじゃない

石垣島で石になる、はただのダジャレではない。石垣島には人が石になったという伝説が実際にあるのだ。入り口は「石垣島で石になる」というおもしろでありながら、きちんと石垣島の歴史にもつながる企画になっている。
ツアーの審査のときに石垣島の観光協会の人がそう評していた。

素晴らしい企画である。僕はそんなことは知らなかったのだが。ついでに言うと永尾さんも知らなかったらしい。
ふざけたら偶然いい話になってしまったパターン
ふざけたら偶然いい話になってしまったパターン

発見・丸まったほうがいい

住宅地での成功に気を良くして、ビーチに移動した(徒歩10分ぐらいなのだが)。ビーチの岩をもとにした石の布もあるのだ。
今度の布はビーチにある岩のテクスチャ
今度の布はビーチにある岩のテクスチャ
テクスチャのもとになった岩の近くで布の影に隠れてみる…。
ここで問題ないはずなのだが
ここで問題ないはずなのだが
なんというか、ちょっと石には見えにくい。四角い。あからさまに不審だ。やばい人が裏に隠れている感じがむんむんする。うーん…。
布のなかで状況を察した永尾さんがちょっと形を変えてみた。
「こうしてみたらどうですか」
あ、これは…
あ、これは…
永尾さんが石の才能を開花させた瞬間である。ちょっと移動してまたしゃがむ。
かなりいけてる。石だ。石垣島で石になった。
かなりいけてる。石だ。石垣島で石になった。
ここでーす。立ったときのポーズがあきたこまちの米の袋みたいである。
ここでーす。立ったときのポーズがあきたこまちの米の袋みたいである。
石Tips 1
大きい石の一部になるよりも自身がひとつの石になるほうが溶けこむことができる
大人が長い時間準備をかけて(永尾さんは大判の布に写真をプリントしてくれる印刷屋さんを探して、そして縫った)、さらに休みをとって石垣島まで行って獲得したノウハウである。

それが誰にも有用ではないというのはなんだか清々しくもある。
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絶景で石になる

石になって満足ではなく、石垣島のいろんなところで石になるがツアーの目的である。石になる楽しさを通じて、石垣島の魅力を伝えるのだ。

断崖絶壁に行っても、まずは石である。
永尾さんはどこでしょう。かなり難解
永尾さんはどこでしょう。かなり難解
こたえはこちらです。
遠くて表情がわからなくても笑顔であることは想像に難くない
遠くて表情がわからなくても笑顔であることは想像に難くない
これは絶対わからないのでこたえ書いておきます
これは絶対わからないのでこたえ書いておきます
石になっている様子を望遠で撮ったところ。
後ろは東シナ海。後ろに落ちたら死ぬ。
後ろは東シナ海。後ろに落ちたら死ぬ。
うっかり命がけのことをしていることに気づいてないだろう。
写真撮りながら崖が崩れたりしないか心配だったのだが(石の人が落ちたらどう説明しても信じてもらえなさそうだ)、永尾さんも「周りの音が聞こえなくなるので、みんな帰っちゃったんじゃないかと心配になった」と言っていた。
石Tips 2
石になると孤独
人に戻って笑顔
人に戻って笑顔

ジャングルだと妖怪になる

東京の住宅街で石のふりをしてしゃがんでいたら「事案」と呼ばれてしまうが、石垣の自然、とくに林の中だと事件性があるようには見えない。
妖怪っぽいのだ。

妖怪 石もどき
妖怪 石もどき
水木先生がジャングルで出会ったのはこんな感じだろうか
水木先生がジャングルで出会ったのはこんな感じだろうか
楽しく書いているが、石になるときにうっかり足を滑らせて滝つぼに落ちそうになったことは明記しておきたい。

石に人は気づくか

絶景を巡って川平湾という砂浜にやってきた。ミシュランガイドで観光地として3つ星を獲得したというほどの場所である。
白い砂浜、エメラルドグリーンの海、石になる人
白い砂浜、エメラルドグリーンの海、石になる人
ちなみにこのころ、永尾さんはまたあらたな石tipsを発見していた。
石Tips 3
布をかぶって土下座のポーズを取るとコンパクトになって石になりきれる
横を通り過ぎる親子。全く気づいてない
横を通り過ぎる親子。全く気づいてない
土下座ポーズが功を奏してまったく気づかれない。
石化のテクニックが上達するにつれて、「あれは見ちゃいけません」と言われてもいいから気づいて欲しくなったと言っていた。模倣の向こう側に行った感想である。
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人か石かとかどうでもいい

寂しいのでちょっと石であることをばらしてちやほやされようという作戦に変更した。観光客も多いので面白がってくれるのではないか、そういう魂胆である。
左端で石になりきる。右の女性は貝を拾っている
左端で石になりきる。右の女性は貝を拾っている
おもむろに立ち上がる。女性「あらあら」
おもむろに立ち上がる。女性「あらあら」
そしてまた貝ひろいにもどる
そしてまた貝ひろいにもどる
「あらあら」

もしかしたら永尾さんはもう石になっているのではないかと思うほどのリアクションの薄さである。石垣島の豊かな自然のなかでは石になる人がいてもおかしくない。
生物多様性というのはこういうことかもしれない。

動物をだます

人を驚かしたところで、次は動物シリーズである。石になった人を動物たちは気づくだろうか?
犬・やや気づく
犬・やや気づく
このあと人に戻ったら犬はものすごく吠えてた。
猫・気づく
猫・気づく
その後なつく
その後なつく
道端に巨大な牛がいたので手前で石になってもらった。
牛・表情が読めず
牛・表情が読めず
ふだん牛に触れてないので、牛が不審がっているのか石だなと思っているのかわからなかった。永尾さんにチャレンジしてもらったわりにぼんやりした結果となった。
ただ、石から人に戻ったら怒った
ただ、石から人に戻ったら怒った
石Tips4
牛は怒る
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いよいよエクストリームに

1日永尾さんが石になるようすに同行していたわけだが、その後も永尾さんの石化はまだ続いていたのだ。
サンゴをプリントした布で水中で石になる計画
サンゴをプリントした布で水中で石になる計画
この日、僕は別の用事があったので同行できなかったため、ライターの玉置さんに同行をお願いした。
海底にへばりついて布をかぶる
海底にへばりついて布をかぶる
右下半分が永尾さん
右下半分が永尾さん
魚は寄ってきてないのでばれているかもしれないが、隣にいるサンゴは仲間と思っているに違いない。サンゴがしゃべれないでよかった。

ところで永尾さんはダイビング初体験どころか海水浴が20年ぶりだったそうだ。
船に上がって真っ白になっている写真が混ざっていた
船に上がって真っ白になっている写真が混ざっていた
このときの気分をメールでもらったのだが
「海中でじっとしてると寒い」
「こんなことをふだんからしているサンゴって偉い」
「呼吸って大事」
と地球の生物の歴史のかなり最初のほうの生物みたいな感想が並んでいた。5億年ぐらいさかのぼった。

そして石化伝説の場所に

石垣島で2番めに高い山、野底マーペー(そういう名前の山なんです)に女性が石になったという伝説がある。そこでも石になった写真を送ってくれた(これはダイビングの翌日、3日目である)。
山は高くはないものの道が険しく、前日の雨で足元がぬかるんでいたそうだ。そのため、石になるときも身体を低くして身を守っている。

なるほど、と思いながらも写真だけ見ると石が山を登っているようでおかしかったので連続写真でどうぞ。
厳しい登山道を登る石
厳しい登山道を登る石
山頂に近づく石
山頂に近づく石
山頂からの景色を楽しむ石
山頂からの景色を楽しむ石
山頂で石になった感想として、
「風に飛ばされないように身を低く体を石に密着させながら布にくるまって石化していると、だんだん自分が人の生よりも長い時間、厳しい雨風を耐え忍んできた石の一部になったような、そんな不思議な感覚を覚えました。三日目にして、ようやく本当に石垣島の石になれたような気がしました。」
と感想を送ってくれた。2日目でサンゴにシンパシーを感じ、3日目でついに石にシンパシーを感じている。

そう思って上の写真を見ると、後ろの石とコンビのように見える。
石Tips5
石になるのには3日かかる

石になるなら石垣島

永尾さんは後日竹富島にも行き、牧場に石があるし石垣も縦横無尽にあるので石垣島よりも石になりやすかったと興奮気味に感想を伝えてくれた。
「石になる業界ではかなりホットな島になりそうです」とのことだった。

その業界狭そうだなと思うのだが、ともかく石垣島では石だと思っても永尾さんのことがあるので注意してください。
石とツーショットの写真・左が永尾さん
石とツーショットの写真・左が永尾さん
special thanks

coromoza
隠れ蓑の布のプリントのお手伝いをいただきました

Breeze石垣島
ダイビングツアーに参加させていただいたダイビングショップ
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