特集 2015年4月22日

子供が考えた漢字をプロに清書してもらったら立派な漢字に

プロが清書すると立派な創作漢字に。
プロが清書すると立派な創作漢字に。
息子が漢字を全く覚えない。びっくりするほど覚えない。

漢字の宿題を一緒にすることがあるのだが、練習した漢字も1日たつと書き方はおろか、読み方さえ覚えてない。本人にきいてみると、漢字にまったく興味がないという。

そうか、興味がないか……。
鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

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勝手な漢字作るの楽しいよね

興味がないものを毎日勉強させられるのは、本人にとってもつらいだろうし、なにより身につかないのではないか?
いやいや宿題しても身につかないのでは?
いやいや宿題しても身につかないのでは?
じゃあ、覚えなくてもいい漢字、自分が勝手に考えた漢字を作ったらどうか? と提案してみたところ、乗ってきたので、漢字練習の合間に、息子と一緒に考えた漢字をノートに書き出すという遊びを始めてみた。

いわゆる「創作漢字」というやつだ。ぼくは子供の頃、わりと漢字が好きだったので(成績は悪かったけど)この遊びはよくやった。

子供の考える漢字は、漢字に対する知識や先入観がないぶん、大人が思う漢字像とかけ離れたアイデアをくり出してくる。

イメージのカオスから生まれる「野良漢字」

そんなわけで、息子が適当に考えて作った漢字を幾つか鑑賞してみたい。まずはこれ。

息子が最初に作った漢字、うかんむりみたいな物の下に車が2つ並んでいる。
これ、なんて字かわかります?
これ、なんて字かわかります?
「バイク」という漢字らしい。うかんむりの上の斜めの線がシート、下の車はタイヤを表す。
一生懸命かきました!
一生懸命かきました!
ハンドルやエンジンみたいなわかりやすい場所ではなく、タイヤとシートの傾斜という微妙にわかりにくい部分をフィーチャーした漢字だ。そうか、そっちか、シートか。という思いがわいてくる。

続いてはこちら。
食べものです
食べものです
「あまいってどう書くの?」と聞くので教えたらこんなのを考え出した。田に甘。チョコレート(板チョコ)だ。

板チョコの象形「田」と、それが「甘い」という意符。会意文字? の仲間にはいるだろうか?
最初の絵がチョコレートじゃなくて薬物に見えるというクレームはひとまず置いて、田と甘のアンバランスさがいい
最初の絵がチョコレートじゃなくて薬物に見えるというクレームはひとまず置いて、田と甘のアンバランスさがいい
大人なら「左側の田を小さくして甘を大きく書くとバランスが漢字っぽくなるな」とか、よこしまなことを考えがちだが、そのへんは気にしてないのがおもしろい。

まあ、勝手に作る漢字なのでそのへんはどうでもいい。
大人が作るとあざとさが……
大人が作るとあざとさが……
ちなみのこの「ココア」という漢字はぼくが作った。

カタカナの「ココア」を組み合わせて漢字っぽくしたのだが、アを「阝(こざとへん)」で表現するあたり、なんだか大人のあざとさ出てしまっている。かっこ良く見せようという思いがじんわり伝わってきて、ちょっときはずかしい。
大好きなイカの漢字を作ってみたけど、やっぱりどこかこざかしい
大好きなイカの漢字を作ってみたけど、やっぱりどこかこざかしい
それに比べて、子供の作る漢字はケレン味がなくていい。

もっと、子供の作る粗野で荒削りな「野良漢字」をみてみたい。「あー、なるほどそう来たか」という、歯に挟まってたネギがとれる感じのアハ体験をもっとしたい。
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子供の野良漢字を書家の先生に清書してもらおう

というわけで、子供に集まってもらった。
手前から順に太郎、洵平くん、英くん、洸太くん
手前から順に太郎、洵平くん、英くん、洸太くん
漢字に関しては、太郎が苦手で、英くんは普通なのだが、洸太くんと洵平くんはすでに自分でオリジナルの漢字を創作するほどの漢字好きらしい。漢字が苦手でも得意でも、いずれも頼もしい。

そして今回、せっかく子供たちに集まってもらったので、彼らが考えだした漢字を、書道家の関先生に、楷書で清書してもらうことにした。
子供の考える野良漢字を清書してくれる書家の関先生
子供の考える野良漢字を清書してくれる書家の関先生

漢字の作り方をレクチャー

さて、まずは趣旨説明を兼ねて漢字のでき方を軽く説明する。スライドで会意、象形、指示、形声などを説明。
ヘたな絵ですがひっしに作ったスライドです、見てください
ヘたな絵ですがひっしに作ったスライドです、見てください
参加してくれた監物兄弟のかっこ良すぎる名字から「監」の字の成り立ちを説明する。
一生懸命かきました。
一生懸命かきました。
「監」という字は、「水かがみにうつった姿をみる人の形」から「上から下のものをみる」という意味になり、そのうち「みはる」「取り締まる」「つかさどる」……という意味に発展していった。らしい。
一同「へー」の図
一同「へー」の図
大人を含め、みんなに「へー」と感心されたものの、ぜんぶ漢和辞典の受け売りでしかないので、感心するなら漢和辞典に感心してほしいし、ぜひ漢和辞典を読んでみて欲しい。特に小中学生向けの漢和辞典は読み物として面白い。

特徴を思い出して漢字にしよう

以上のような、漢字のなりたちや象形、指事、会意、形声などの説明をしたうえで、子供たちにはまず「パンダ」という漢字を考えてもらった。
パンダのイメージ。ササ、白黒、かわいい、中国……ぐらいしかないな
パンダのイメージ。ササ、白黒、かわいい、中国……ぐらいしかないな
「まずは、パンダの特徴を思い浮かべてみよう。目のまわりが黒いとか、なにを食べるとか、そういうところを漢字にしたらどうかな?」とアドバイスしたところ、みんな納得できたらしく、次々と漢字を仕上げていった。

考え方の手がかりがつかめればアイデアはどんどん出てくるようだ。
まずは紙で漢字を書いてもらって
まずは紙で漢字を書いてもらって
出来上がったら、書道の先生にきれいな字で清書してもらう
出来上がったら、書道の先生にきれいな字で清書してもらう
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個性がでてくるパンダの漢字

四人に、同じパンダの文字を創作してもらったのだが、やはり、というか当たり前というか、個性というものが出てくる。

息子の太郎が書いたパンダはこれだ。
太郎作「パンダ」
太郎作「パンダ」
衝撃的な造形である。黒と白の間に分解された竹がサンドイッチされている。デザインがアバンギャルドだ。

ふつう漢字の知識がある人間なら、バランスを考えて竹を分解して黒白でサンドイッチしようなんて思い至らない。

左側の黒を「点」の正字「點」の黒みたいに右側をあがりぎみに書くなど、関先生が文字のバランスに苦心しながら書いた様子がうかがえて申し訳ない。

ちなみに今回採用したもの(左)と、ボツになった字(右)の下書きがこちら。
黒白のイメージは必ず入れたいらしい
黒白のイメージは必ず入れたいらしい
竹の字の分解もだが、右側のボツ案、パンダはかわいいから「かわ」というひらがなで挟む。という発想もいいかげんでいい。

続いて漢字を完成させたのは英くん。
英くんの漢字はイラストだ
英くんの漢字はイラストだ
竹らしきものの下に圀のような文字。素直でいい漢字だ。見たとおり、竹とパンダの顔だろう。
タレ目のように見えるパンダの顔と竹
タレ目のように見えるパンダの顔と竹
英くんは竹を表すのに「竹(たけかんむり)」を使っているのだが、右側のケに突起が付いている。おそらくパンダが竹を食べるさい、割れた部分を写実的に表したものだろう。

英くんは、下のパンダの顔の象形も含めて、ビジュアル重視である。

そして漢字が得意な洸太くんのパンダがこちら。
さすがのけものへん
さすがのけものへん
目の周りの黒がタレているパンダの顔の象形だ。この部分に関しては英くんと同じだけれど、ちゃんと「犭(けものへん)」をつかって動物を表現しててかっこいい。漢字の作法がしっかりわかってる。
パンダの絵がうまい
パンダの絵がうまい
洸太くんの下書きは、ボツの漢字も面白い。
「木(きへん)」のパンダ
「木(きへん)」のパンダ
森の木によりかかるパンダの姿を漢字にした洸太くんの作品。つくりの部分の口2つがパンダの目を象徴してるのだろう。

パンダをみてやはりいちばん印象にのこるのは目の部分なのだということがわかる。

そして、洵平くんのパンダがこちら。
強そうなのが出た
強そうなのが出た
洵平くんのパンダは重に熊である。強そうなのが出た。

他の子は、色が白黒だとか、食べものが竹という部分に注目したけれど、洵平くんはパンダがクマ科であることに注目したようだ。

魚類じゃないのに魚へんがつく鯨のように、ときに漢字は生物学的に正確でない場合もあるけれど、洵平くんの漢字は生物学的に正しい漢字である。
生物学的に正しい漢字
生物学的に正しい漢字
横の「重」は重いからではなく、本人の弁によれば「動物の動」らしい。

あえて「犭(けものへん)」を使わず、「重」を使うことで重厚感と、動物としての荒々しさが十分に表現できているといえる。
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子供たちがノってきた

当初、どんな言葉で漢字を作るか、みんな悩むかな? と思い、キーワードがたくさん書いてあるカードを準備して持っていったもののそんなものは必要ないほど子供たちは次々に漢字を考えだしてくれた。
みんなノリノリで漢字を考えてくれる
みんなノリノリで漢字を考えてくれる
ここからは、自由に考えてもらい、みんなでなんて漢字か当てっこする「野良漢字クイズ大会」にした。

まずは英くんの問題
黒の点がないやつ
黒の点がないやつ
「風車?」「ろくろ?」などの答えが出るものの、正解は……テレビ!

確かに最近のテレビはみんな一本足だ。テレビの形の特徴をよくとらえた漢字で面白い。

テレビって昔は四本脚のイメージがあったが、それがそのうち無くなり、今は一本脚になった。スフィンクスのなぞなぞみたいな話である。

続いてはこちら。洸太くんの作品。ちょっとこれはすごかった。とにかく見ていただきたい。
口と再みたいな形のもの
口と再みたいな形のもの
「再」の棒が無かったり長かったりするのと、口。この字、答えを聞くと「あー、なるほどねー」となるが……いったいなんという字か?

なかなか回答が出ない中、洸太くんが「ヒントは食べもの」といったとたん、太郎が「パスタ?」と回答。正解である。

「ひだりがわがフォークで、パスタのひもをまいて口でたべてるんでしょ」……「ひも」って表現が若干きになったが、その通りだ。

下書きをみてみると、よく分かる。
確かにスパゲッティだわー
確かにスパゲッティだわー
たしかにスパゲティをフォークに巻きつけてる。これはすごい。

こういう、脳みその手が届かないところを刺激してくれるような野良漢字を見たかったのだ、ぼくは。

続いて太郎の作品。
凹凸に木
凹凸に木
これは出題した瞬間に太郎が「子供が遊ぶもの」というデカすぎるヒントを言ったため、即座に「つみき!」と答えられてしまった。

ただ、漢字は頓智ではないので、わかりやすいというのはいいことなのだ。

木を右側にもってくるセンスも太郎らしくていい。木を左に置かなければいけないという決まりなんてないのだ。

さて、なかなかアイデアがまとまらなかった洵平くんも漢字ができた。それがこちら。
手止。
手止。
ひとつの漢字である。手と止。

これはすぐわかると思う。ゴールキーパーだ。

手を「扌(てへん)」にするとか、そういうこざかしいことは一切せず、そのまま左側にもってきた。そして止。立派な会意文字です。金石文ぐらいの漢字だと思う。

止まらない子供たちの野良漢字

その後も子供たちの野良漢字がどんどん出てくる。割愛するのはもったいないので、ざっと鑑賞してみたい。
英くん作「ビール」、毎日ビールで晩酌してるお母さんのことをちゃんと見てるんだなってのが伝わってくるいい漢字。しっかり泡とビールに分かれてるところがすばらしい
英くん作「ビール」、毎日ビールで晩酌してるお母さんのことをちゃんと見てるんだなってのが伝わってくるいい漢字。しっかり泡とビールに分かれてるところがすばらしい
太郎作「ピクミン」右側の部分がピクミンの姿を表してるらしい。突然なぜピクミンかというと、最近DSでピクミンのゲームにはまってるんです
太郎作「ピクミン」右側の部分がピクミンの姿を表してるらしい。突然なぜピクミンかというと、最近DSでピクミンのゲームにはまってるんです
洸太くん作「バースデーケーキ」、宗教的な行いを表す「礻(しめすへん)」を使ってるところがさすが。ろうそくの炎もちゃんと火に関係する「灬(れんが)」であらわして下側に持ってきてるのが粋だ
洸太くん作「バースデーケーキ」、宗教的な行いを表す「礻(しめすへん)」を使ってるところがさすが。ろうそくの炎もちゃんと火に関係する「灬(れんが)」であらわして下側に持ってきてるのが粋だ
洵平くん作「ライオン」、「辶(しんにょう)」の上の「囗(くにがまえ)」に米の部分が、たてがみ。そして背中のルは爪を表すらしい、なんかよくわかんないけど、強そうでかっこいいぞこれ
洵平くん作「ライオン」、「辶(しんにょう)」の上の「囗(くにがまえ)」に米の部分が、たてがみ。そして背中のルは爪を表すらしい、なんかよくわかんないけど、強そうでかっこいいぞこれ

野良漢字鑑賞おもしろい

最初は戸惑っていた子供たちも、慣れてくると次から次へと新しい漢字を考えてくれた。

子供のつたない文字でも、楷書でちゃんと清書すると、ものすごい説得力で漢字が目の前に現れてくる。

特に漢字の決まりごとを無視した漢字の数々は、漢字が、もっというと、文字が文字たりうることとはなにかを問いかけてくれるものばかりであった。

などと、小難しいことは抜きにして、純粋にただ楽しかった。
作者不詳「ウンコ」
作者不詳「ウンコ」
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