特集 2015年4月14日

深海鮫釣って肝油抽出してコンフィ作った

水深約700mからやって来たサメ

ようやく気温も春めき始めた三月のある日。僕は和歌山県南紀沖で深海魚釣りに精を出していた。
深海への気軽なコンタクトを可能にしてくれる神器、電動リール。この日、その水深計は700mをたびたび超えていた。
深海への気軽なコンタクトを可能にしてくれる神器、電動リール。この日、その水深計は700mをたびたび超えていた。
海況は芳しくなかったが、しぶとく粘っていると一匹の深海鮫が釣れてくれた。
かなり僕好みのルックス。普通の釣り人はこの手のサメが釣れるとガッカリするらしいが、個人的にはとても嬉しい。
かなり僕好みのルックス。普通の釣り人はこの手のサメが釣れるとガッカリするらしいが、個人的にはとても嬉しい。
モミジザメという種類…かな?
モミジザメという種類…かな?
手元の資料を頼ってみると、どうもモミジザメという種類に特徴が合致する。でもあんまり自信無いなぁ~。深海性のサメ類は素人には同定が難しいのだ。
どこか爬虫・両生類っぽさもある。かっこいい。また、このサメを含むツノザメ科の背鰭には鋭いトゲがあるので注意が必要。
どこか爬虫・両生類っぽさもある。かっこいい。また、このサメを含むツノザメ科の背鰭には鋭いトゲがあるので注意が必要。
ツノザメの類は眼が月みたいで綺麗なんだ。
ツノザメの類は眼が月みたいで綺麗なんだ。
顎には細かいけれど鋭い歯が並ぶ。さすがはサメと言ったところか。
顎には細かいけれど鋭い歯が並ぶ。さすがはサメと言ったところか。
見て、触って、外見を堪能したら、続いては味もみておきたくなるのが人の性というもの。
血抜きをして捌いていこう。
腹を割くと大きな肝臓が!むしろ、腹の中ほとんど肝臓だ!
腹を割くと大きな肝臓が!むしろ、腹の中ほとんど肝臓だ!
内臓を取り去るべく腹を開くと、中にはみっちりと白い肝臓が。
深海鮫はこの巨大な肝臓に肝油を溜め込むことで浮力の調整などを行っているのだとか。
充填豆腐のような肝臓を確保。有難くいただきます。
充填豆腐のような肝臓を確保。有難くいただきます。
この肝臓を活用しない手は無い。そのまま食べてみてもいいし、でなければ肝油がたっぷり採れそうだぞ。肉と併せて持ち帰る。
ただ、この日は荒れ模様の中、一日船上に立っていたので体力が欠片も残っていなかった。とりあえず冷凍して、後日あらためて調理(?)するとしよう。

冷凍したのに凍ってない!

後日、いよいよ作業に取り掛かろうと冷凍庫から肝臓を取り出した瞬間、なかなか重大な違和感に気づいた。
ドリップ出まくり!実際は写真で見るよりもっと澄んでいる。
ドリップ出まくり!実際は写真で見るよりもっと澄んでいる。
大量のドリップでジップロックがたぷたぷ!凍ってないじゃん!
肝臓を触ると、ゆるいシャーベット状にはなっているがカチカチには凍っていない。
何だ?冷凍庫が故障してたのか?
ドリップと思われた液体は肝油だった。肝臓も凍り方が甘く、指で押すとグニッと変形するほど。
ドリップと思われた液体は肝油だった。肝臓も凍り方が甘く、指で押すとグニッと変形するほど。
一旦冷静になって考えると、謎はすぐに解けた。
冷凍庫は壊れていない。ちゃんと冷気を当ててこの状態なのだ。

ジップロックに溜まった透明の液体こそ、まさに肝油だったのだ。油が冷凍庫で凍らないのは至極当然と言える。肝臓自体も未だこの肝油を大量に含んでいるのだから凍り切るはずがないのだ。
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深海鮫の肝臓は牡蠣の代用になるか

ところで、肝油を採る前に確認しておきたいことがある。肝臓そのものの味だ。
そのまま食べたらどうだろう…。
そのまま食べたらどうだろう…。
そして、それを知るにはやはり生のままつまんでみるのが最良の方法だろう。
が、採取時には白子のように白かったのが、冷凍しているうちに変色してほんのり灰色がかっている。鮮度が気になる…。つまみ食いと言うにはちょっと勇気が要る行動だが。
あれ、意外と…。
あれ、意外と…。
匂いを嗅いでみても、あからさまにデンジャラスな印象は受けない。一口だけと覚悟を決めて生のまま、何もつけずにかじってみる。

…食感はまさにごま油をたっぷりまぶしたレバ刺しだ。味は、魚の肝と牡蠣の中間といった印象を受ける。「深海鮫の中には牡蠣みたいな味の肝臓を持っているやつがいる」と噂に聞いたことがあったが、なるほど。これがそうか。ただ、舌の付け根にまとわりつくようなエグみが若干あり、生でパクパク食べたくなるようなものだとは決して言えない。
ちなみに余談だが、もう少し浅場(水深200~300m)でよく釣れるフトツノザメという種類の肝臓は腹の中に占める割合が小さく、
ちなみに余談だが、もう少し浅場(水深200~300m)でよく釣れるフトツノザメという種類の肝臓は腹の中に占める割合が小さく、
締めたて、捌きたてでもエグみが強かった。また、採れる肝油は黄色みがかっていた。
締めたて、捌きたてでもエグみが強かった。また、採れる肝油は黄色みがかっていた。
じゃあ揚げてみたらどうか。大抵の食材は揚げれば食べられるだろう。そんなもんだろう。この肝臓も高温の油という魔法の液体を使えば美味しくなるかもしれない。いや、ひょっとするとそれこそカキフライそっくりの物体になるのではなかろうか。
深海鮫の肝臓で作ったカキフライもどき(使用した油は普通のサラダ油)。
深海鮫の肝臓で作ったカキフライもどき(使用した油は普通のサラダ油)。
肝臓を適当な大きさに切って衣をまぶし、サラダ油で揚げていく。

…抽出した肝油で揚げてみようかとも思ったのだが、この後に控えている「あるメニュー」のために温存しておくことにした。そちらの方が、より肝油の味と香りを楽しめるはずだからだ。
断面はこんな感じ。一見してオイリー&ジューシー。
断面はこんな感じ。一見してオイリー&ジューシー。
揚がったカキフライもどきを皿に取り上げると、エビフライそっくりの香りが漂う。カキフライではなく、なぜかエビフライだ。エビの尻尾が焦げるような匂い。なぜだろう。

さあ、冷めないうちにさっそくレモン汁と塩をかけて食べてみる。
まあ…、食べられなくはなかったかな…。
まあ…、食べられなくはなかったかな…。
確かにカキフライに似た歯ごたえ、舌触りを感じる。噛み切るとジュワッと油が滲み出てくる。そしてジュワッと油が浸み出し、油が浸み出す!…くどい‼
くどい割に味は薄い。ほぼ衣の味しかせず、素材の味としてはほんのり残ったエグみを感じる程度である。うーん、食べられなくはないが、お客さんに出そうと思える味ではないかな。

でもまあ、肝臓自体の味はとりわけおいしくもないが、かと言って極端にクセが強いとか臭うというわけでもなかった。
肝油を採るにあたっての不安はとりあえず払拭された。

身は美味い

ちなみにこのサメ、身自体はなかなかおいしい。釣ってすぐに下処理をしたのが功を奏したか、サメ特有のアンモニア臭さも無い。
身はこんなに綺麗!新鮮な深海鮫よりも綺麗な白身もそうそう無いと思う。
身はこんなに綺麗!新鮮な深海鮫よりも綺麗な白身もそうそう無いと思う。
脂肪は少なくさっぱりとしていて、刺身でもフライでも、鍋の具にしても美味かった。これはぜひ肝油をフィーチャーした料理にも仕立ててみたいところだ。
柔らかい身はフライのほか、鍋にも合う。
柔らかい身はフライのほか、鍋にも合う。
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ご家庭でできる深海鮫肝油の採り方

さて、いよいよ肝油を抽出していく。
抽出なんて書くと、さも科学的なメソッドを用いそうな感じだが決してそんなことはない。かなり原始的というか家庭的な方法である。そもそも、実践してる僕が一般人で、そんなハイテクな設備も素養も持ち合わせていないのだから。

ここではパッと思いついた二通りの方法を紹介しておく。
肝油を採るには細かく刻んで湯煎すると手っ取り早い。
肝油を採るには細かく刻んで湯煎すると手っ取り早い。
一つ目は湯煎するやり方。
細かく刻んだ肝臓をじわじわ湯煎してやると、内部から肝油が滲み出してくる。あとは一緒に出た肉汁や肝臓の破片と分離してやればよい。
一滴も無駄なく絞りたいなら、ただ刻むのではなくミキサーにかけてペースト状にしてやるのもいいだろう。
ボールの上にザルをかませて冷凍庫に放り込んでもいいだろう。湯煎に比べて時間は掛かるが、こちらの方が不純物が混ざりにくい…ような気もする。なんとなく。
ボールの上にザルをかませて冷凍庫に放り込んでもいいだろう。湯煎に比べて時間は掛かるが、こちらの方が不純物が混ざりにくい…ような気もする。なんとなく。
また、先ほども触れたように肝臓内の油脂分はちょっとやそっとの低温下でも凍らない。この性質を利用し、刻んだ肝臓を冷凍庫に置いておけば凍らなかった肝油だけを分離できる。
こちらの方法だと肉汁などの水分や肝臓片は凍ってしまい、ほとんど油に混じることがないのでかえって手間が省けるかもしれない。
実際、肝臓を触っていると露骨に手がスベスベに。
実際、肝臓を触っていると露骨に手がスベスベに。
ところで、こうして肝臓をいじっていると、驚くほど手がスベスベになっていくのがわかる。さすがスクワランオイルの素。
深海鮫の肝を扱う漁師さんの手はお年を召してもとても綺麗だと聞いたことがあるが、本当かもしれないなと思えてくる。
抽出した肝油はクッキングシートで漉してできる限り不純物を取り除いておく。
抽出した肝油はクッキングシートで漉してできる限り不純物を取り除いておく。
ほぼ無色透明の肝油が採れた。味やにおいもあまり無い。
ほぼ無色透明の肝油が採れた。味やにおいもあまり無い。
クッキングシートで何度か漉すと、無色透明の肝油が採れた。
色合いについては使用する鮫の種類や鮮度によっても異なるようだ。

スプーンで少し掬って舐めてみると、意外と生臭さはほとんど無い。これも迅速な処理が功を奏したのだと自画自賛したいところだ。また、味もほぼ無い。ほんのりとわずかに動物性油脂特有の甘みを感じられる程度だ。

深海鮫の肝油で深海鮫の肉を煮る

さて、深海鮫の肝油と言えば化粧品とかハンドクリームとか美容目的の製品に使われがちである。しかし、残念ながら現時点の僕には採れたての素肝油をそっち方面に転用するスキルはまだ無い。

そういう使い方はまたあらためて検討することにして、ここは人類共通の一次的なテーマ、「食えるのか?美味いのか?」に着目して食用油としての使用を試みようと思う。
ここで肉に登場願う。
ここで肉に登場願う。
まず、再び冷蔵庫からモミジザメの肉を引っ張り出す。
肝油で肉を閉じ込めるようにジップロックへ密封。
肝油で肉を閉じ込めるようにジップロックへ密封。
次にジッパー付きの密閉容器に肉を入れ、全体が浸るまで肝油を注ぎ込む。
さらに内部の空気を抜き取って密封すれば準備完了。
勘のいい人なら何を作ろうとしているか分かるだろう。勘のよくない人も記事のタイトルで丸わかりだろう。そう、肉の油煮、コンフィをつくるのだ。肝油で。
60℃の湯に浸し、炊飯器の保温モードで二時間放置。
60℃の湯に浸し、炊飯器の保温モードで二時間放置。
コンフィというと長時間つきっきりで温度管理しないといけないイメージだが、近頃は炊飯器の保温機能を使ってとても楽に作れるレシピが流行っている。
今回はもちろんそのズボラメソッドを活用する。
深海鮫肝油で作った深海鮫肉のコンフィ。
深海鮫肝油で作った深海鮫肉のコンフィ。
およそ二時間、仮眠を取っている間に炊飯器の中ではコンフィが仕上がっていた。世界広しと言えど、深海鮫の肉と肝油を同時に保温した炊飯器もそうそうあるまい。

皿に盛り付けるとなかなか美味そうな照りを見せつけてくれる。透明で主張の無い油も上品。なかなか美味そうじゃないか。さあ、食べてみよう。
いただきます!
いただきます!
ああ、美味いよ。でもオリーブオイルとか使えばもっと美味かったろうね。
ああ、美味いよ。でもオリーブオイルとか使えばもっと美味かったろうね。
…淡白だったあのサメ肉が、別物のようにしっとりしている。これが保湿力に優れた深海鮫肝油の効果…!ってわけでもないよね。たぶん油の種類関係なくこうなるよね。

味の方はというと、ねっとりと舌にに絡みつくコクがあってなかなか悪くない。また、ほのかにゆで卵っぽい風味があるような気もしたが、スパイスを掛けてしまうとわからなくなった。おいしいかマズいかで言えば、まあおいしい。だが、「素直にオリーブオイルでも使っとけばもっと美味しくなっただろうな…」というのが正直な感想である。

まあ、勝算もないのに思いつきで作った冒険創作料理にしては上出来だったと言えるか。

深海鮫肝油、料理には向かないかも

というわけで、研究者でも漁師でもない一般人だって深海鮫を釣り上げてご家庭で肝油を抽出できるということは証明できた。が、その有用な使い道についてはハッキリしないままである。とりあえず食用油としては「無理に使うものではない」ことが分かった。
となると、やはりハンドクリームの自作に挑戦するか?それとも潤滑油として使ってみるか?おお、用途を考える楽しみができたぞ。…ちょっとだけ怖い気もするが。
ちなみにこの深海鮫はオスでした。臀鰭の内側にある一対の突起が「クラスパー」と呼ばれるオス鮫の生殖器。
ちなみにこの深海鮫はオスでした。臀鰭の内側にある一対の突起が「クラスパー」と呼ばれるオス鮫の生殖器。
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