特集 2015年3月10日

ベトナム家庭の大晦日で文化の違いにいちいちビックリ

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子供の頃、「突撃!隣の晩ごはん」という番組コーナーをよく目にしていた。知っている人も多いはず、落語家のヨネスケさんがアポなしで家庭の食卓にお邪魔するというものだ。

ベトナムの食卓を外国人(日本人)が本当に突撃すると警察を呼ばれ兼ねないが、純粋に食卓にお邪魔したい。そもそも私は、「親しい人は食卓に誘う」というこのベトナム文化において、いまだにベトナム人の友人の食卓に招かれたことがあんまりないのだ。コノヤロー。
1984年大阪生まれ。2011~2019年までベトナムでダチョウに乗ったりドリアンを装備してました。今は沖永良部島という島にひきこもってます。(動画インタビュー

前の記事:ベトナムで500円のメコン川クルーズもどきを堪能する

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招かれる前に招かせる…と思ったらピンポイントで大晦日

という訳で、静岡に10年間住んでいた、ベトナム人の友人・アンちゃんに連絡してみる。
彼女はホーチミン市に実家があったはずだ(なるべく近距離で済ます)。


ネルソン 「晩ごはんに行ってもいい?」
アンちゃん「えー、この時期に?」
ネルソン 「この時期?」
アンちゃん「テトだよ!」
ネルソン 「あちゃー!」

そーでしたー!テトでしたーー!!


テトとは、ベトナムでの正月のこと。

ベトナムでは日本と違って新暦ではなく旧暦を祝います。
この元旦に当たる日が毎年、1月下旬~2月中旬の時期になるのです。

奇しくも調整をお願いした日程(18日)は大晦日、あーそりゃ無理だ。テト明けを待つしかない…。


アンちゃん「まぁ、いいけど
ネルソン 「あ、いいんかい
アンちゃん「でも、昼に来てね。その方が準備風景が見られるから」
ネルソン 「わかりました」


晩ごはんが昼ごはんになってしまったが、まー食卓には違いない。むしろ配慮だ。
アンちゃんの家へ向かいます。
街中の電柱や街灯には国旗が括り付けられ、年末らしくテトを祝う看板で溢れている。
街中の電柱や街灯には国旗が括り付けられ、年末らしくテトを祝う看板で溢れている。
国旗の盛り合わせ、何に使うの?おめでたい時に振り回すの?
国旗の盛り合わせ、何に使うの?おめでたい時に振り回すの?
到着!アンちゃんの家。
到着!アンちゃんの家。
ちなみに、ホーチミン市内中心地に持ち家がある人は珍しい。

東京と同じく、ホーチミン市は地方出身者で成り立っている。
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何が飛び出すかベトナム民家、正月料理と英才教育

まずは中庭にバイクを停めます。
まずは中庭にバイクを停めます。
ベトナムの民家には駐輪中のバイクが盗まれないための空間が必ずあり、ほとんどは中庭。
その中庭もないと、住人がテレビを観ている横をバイクのまま通り過ぎ、屋内に停める場合もあります。その感覚たるや、まるで他人のタンスを勝手に開けるドラクエのごとし。
居間のテーブルには器と香草が準備されていた。
居間のテーブルには器と香草が準備されていた。
ネルソン 「大晦日は家族だけで食べるの?」
アンちゃん「家族と親戚だよー、ここには私の家族とお母さんの妹の家族が住んでるの」


なるほど、それじゃ正月だからといって、いつもの顔ぶれと違いはないってことか。

なお、ベトナムの元旦は家族親族以外の人間に会うと運気が落ちるとされるらしい。
元旦から日が経つにつれて、家族、親戚、友人、他人、という順序で人間関係を広げていく。

ただし、外国人の訪問は珍しいので縁起が良いとされているそうです。


ネルソン 「じゃあ、知らない外国人の元旦訪問はどう捉える訳?」
アンちゃん「ウチはそういうの信じてないし
ネルソン 「身も蓋も無いことをおっしゃる
テーブルにはちまきのようなものが置いてあった、おーこれは…あれだ!
テーブルにはちまきのようなものが置いてあった、おーこれは…あれだ!
ネルソン 「バインチュンでしょ!」
アンちゃん「そうそう!」


バインチュンは、もち米に緑豆の餡と豚肉を詰めてバナナの葉で巻いて茹でた正月料理。
正月料理といいながら、年がら年中屋台で売っている。でも正月料理。


ネルソン 「手前の丸いものもバインチュン?」
アンちゃん「これはバインダイ」


このバインチュンとバインダイ、中身は同じ。
バインチュンとバインダイのおもしろい逸話があるというので教えてもらった。


アンちゃん「フンヴォンは知ってる?」
ネルソン 「初代国王でしょ」
アンちゃん「そう、バインチュンもバインダイもフンヴォンの末の息子がつくった料理なの」
ネルソン 「へぇ」
アンちゃん「フォンヴォンが王位の継承を掛けて、全員の息子に料理をつくらせたんだって」
ネルソン 「へぇへぇ」
アンちゃん「一番質素な料理だったんだけど、庶民でもつくれる材料だったから、庶民のことを考えればーって、その末の息子が次の王に選ばれたの」
ネルソン 「ちょっと待って、フンヴォンの時代って紀元前…6世紀だよね?」
アンちゃん「そうだよ」
ネルソン 「27世紀前ですが…」


仮に形を変えたとして現在まで続くものか疑問ですが、とにかくそういうこと。
そもそも、フンヴォンが治めた文郎国って半ば神話の位置付けだしなぁ。
皿には5つの果物が載っていた。
皿には5つの果物が載っていた。
ネルソン 「これは?」
アンちゃん「縁起の良い果物だよ」
ネルソン 「それぞれに意味があったりするの?」
アンちゃん「する。カスタードアップルは希望、ココナッツは丁度、パパイヤは十分、マンゴーは消費、イチジクは補充」
ネルソン 「なんとなく被ってね?」
アンちゃん「翻訳が難しいんだよ!」
ネルソン 「すみません!」
アンちゃん「ちなみに全て揃えなくても、ミカンやドラゴンフルーツで代用可だよ」
ネルソン 「純正品と互換品みたいだね」
テトはとにかくめでたいので、贈答品もよく出回る。 ワイン、お菓子、コーヒー、日本のお中元のラインナップと大して違いはないかも。
テトはとにかくめでたいので、贈答品もよく出回る。 ワイン、お菓子、コーヒー、日本のお中元のラインナップと大して違いはないかも。
ネルソン 「ん!」
子供の写真が。
子供の写真が。
ネルソン 「この赤ちゃんは誰?」
アンちゃん「これはいとこの子供だよー」
ネルソン 「あ、じゃあ…あの写真もか」
アンちゃん「もちろん」
実はさっきから気になっていた、アンちゃんのいとこの息子、ベト君(13)の写真。
実はさっきから気になっていた、アンちゃんのいとこの息子、ベト君(13)の写真。
しかし、ベトナムの肖像写真って、こう背景がモヤッとしていることが多い。
次元の狭間にでもいるのだろうか、ベト君は。


ポロロン!パロン!
俺はここだ!と言わんばかりに弾いてきた。
俺はここだ!と言わんばかりに弾いてきた。
と思ったらベト君がすぐそばでピアノを弾いてきた。

アンちゃん「ベトはねー、ピアノも弾けるのよ」
ネルソン 「知ってる、今見てる」

という訳で真剣に弾いてもらいました。
奏でる旋律がヨレヨレのシャツで弾くレベルじゃねぇ。
奏でる旋律がヨレヨレのシャツで弾くレベルじゃねぇ。
ネルソン 「めっちゃうめーじゃねーか!」
アンちゃん「でしょ?」
ネルソン 「将来はピアニストでも目指してるの?」
アンちゃん「いや、本人はパイロットになりたいみたい」
ネルソン 「ほう」
アンちゃん「将来困らないように習い事をさせているだけ、そういう家庭は結構多いよ」


なるほどなぁ、経済的に余裕のある家はどの国でもそうかもしれない。


アンちゃん「ベトは今、日本語を学びたいんだって」
ネルソン 「教えてあげればいいやん」
アンちゃん「うーん、でも、忙しいの」
ネルソン 「アンちゃんが?」
アンちゃん「ベトが!普通の学校と、英語と音楽で、学校を三つ掛け持ちしてるから」
ネルソン 「ゲッ!」
ドアに貼ってあったベト君の週間スケジュール、読めないけど忙しそうですね…。
ドアに貼ってあったベト君の週間スケジュール、読めないけど忙しそうですね…。
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台所では、慌ただしく正月料理の準備をしていた

昼ごはん支度中の台所へ。
おばちゃん達が着ている服は「アオババ」。 ベトナムのおばちゃんの8割はこれを着ている、と言えるくらい着ている。
おばちゃん達が着ている服は「アオババ」。 ベトナムのおばちゃんの8割はこれを着ている、と言えるくらい着ている。
ネルソン 「ところでさっきから気になってるんだけど」
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ネルソン 「なにこのラーメンは?」
アンちゃん「え、私のお土産かなぁ」


あとで調べてみたところ、この金ちゃんヌードルは徳島で生産されているもので、何故か静岡・愛知・沖縄で人気らしい。冒頭で書いた通りアンちゃんは静岡に10年間住んでいて、毎年帰省していたそうなので、これはお土産に紛れていたのだろうとのこと。
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アンちゃん「これなんて味の素入れにいいみたいよ」
ネルソン 「メイド・イン・ジャパンは思わぬ形で優秀だね」

アンちゃん「あ、そうだ、コーヒー飲む?」
ネルソン 「飲む」
アルミ製フィルターを使った、ベトナムコーヒーの伝統的な淹れ方です。
アルミ製フィルターを使った、ベトナムコーヒーの伝統的な淹れ方です。
アンちゃん「ちょっと待ってね~」


ベン!ベン!バキ!ボキ!


ネルソン 「!?」
いきなり鉄の棒で布袋をしばきだすアンちゃん。
いきなり鉄の棒で布袋をしばきだすアンちゃん。
ネルソン 「え、何!どうしたの!?」
アンちゃん「何って…」
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アンちゃん「アイスつくってんじゃ~ん」
ネルソン 「え、あぁ、クラッシュアイスね…」
他人の家で飲むカフェスダー(アイスミルクコーヒー)は美味い。
他人の家で飲むカフェスダー(アイスミルクコーヒー)は美味い。
習慣を知らないと、あらゆることにいちいちビックリしてしまう。

そういえば以前、ヤギ肉のレストランで食事しているとお店の裏でヤギの断末魔が響いたことがある。平常時にいきなりオーバーな食育を投げ込まれて、今の5倍はビックリした。
そのほかにも、ベランダに置いてあったお祖父ちゃん愛用のソファには…。
そのほかにも、ベランダに置いてあったお祖父ちゃん愛用のソファには…。
カバー代わりに古いTシャツが被せられ、昭和の親父の厚い胸板みたいになっていた。
カバー代わりに古いTシャツが被せられ、昭和の親父の厚い胸板みたいになっていた。
アンちゃん「あ、ご飯できたみたい」
ネルソン 「おうよー」
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いよいよ、ベトナムの食卓を囲む

居間へ行こうとすると、急にコーラを手渡された。
居間へ行こうとすると、急にコーラを手渡された。
アンちゃん「はい」
ネルソン 「えっ、正月料理!?」

アンちゃん「違うよ、食べてみて」
ネルソン 「??」
ジャキッ、ジャキ、ジャキ!
ジャキッ、ジャキ、ジャキ!
ジャクッ、ジャク、ジャク!
ジャクッ、ジャク、ジャク!
炊いた豚肉をゆで汁ごと冷やし固めたもの、らしい。コーラの缶を使うかどうかは各家庭による。
炊いた豚肉をゆで汁ごと冷やし固めたもの、らしい。コーラの缶を使うかどうかは各家庭による。
そ、それじゃ…。
そ、それじゃ…。
あ、おいしいー!
あ、おいしいー!
食べて気付いたけど、これは完全に煮こごりだ!
そして、そんなお客の反応に全く興味がない後ろの三人に笑ってしまう。


そして、やっとこさ昼ごはんの時間に。
あら、豪華~!!
あら、豪華~!!
これがテト、正確には大晦日の昼ごはん。
アンちゃんが言うには、「普段の食卓よりちょっと贅沢」程度らしい。
全体的に緑色が目立つ点は、やはり香草や野菜を多く食べる国だからだろう。
そしてやはり、
そしてやはり、
カラオケは標準装備。
カラオケは標準装備。
ネルソン 「カラオケ、するんだよね?」
アンちゃん「ウチはしないよー、音楽を流すだけ」
ネルソン 「あらそうなん、カラオケ機器も置いてないの?」
アンちゃん「置いてあるけども」
ネルソン 「置いてあるのかよ」


実際、ベトナムはどの家庭にもカラオケ機器は置いてあります(もちろん例外はある)。カラオケが日本の言葉だと知らないんじゃないかというくらいに溶け込んでいて、休日になると朝から夜まで屋外で歌っていることもしばしば(騒音の概念はないに等しい)。葬式、結婚式、式がつくものなら、悲しかろうが嬉しかろうがとにかく歌って過ごします。


さて、昼ごはんのメニューは…。
鶏肉のお粥、
鶏肉のお粥、
豚肉の角煮と煮玉子、
豚肉の角煮と煮玉子、
ゴーヤの肉詰めスープ、
ゴーヤの肉詰めスープ、
輪切りにしたバインダイ、
輪切りにしたバインダイ、
鶏肉とキャベツとザボンのサラダ、
鶏肉とキャベツとザボンのサラダ、
レタスや香草やお肉などをライスペーパーで包んで食べる手巻き生春巻き。
レタスや香草やお肉などをライスペーパーで包んで食べる手巻き生春巻き。
といった内容です。

味付けは濃くも薄くもなく丁度いい、日本人の舌にも合いそう。南部は甘い、中部は辛い、北部は塩辛い、と地域によって違いがあります。きっと家庭の味も変わるのだろう。


ネルソン 「正月料理はさ、アンちゃんにとって嬉しいものなの?」
アンちゃん「んー、正直嫌いかなぁ」
ネルソン 「正直嫌いだったんか…」
アンちゃん「まぁ、でも、この雰囲気は楽しいよね!」


考えてみると自分も正月料理、お雑煮やおせちはあんまり好きじゃない。ただ、正月の雰囲気は好き。よく分かる。個人の趣味趣向で考えると、そういうものなのかもしれないなぁ。
ベト君、カメラ目線はやめなさい。
ベト君、カメラ目線はやめなさい。
それでは皆さん、チュックムンナンムイ!あけましておめでとうございます!

宗教も関係していると思うのですが、ベトナムの多くの家庭では仏壇があり(日本のように金箔を使ったりするほど豪華ではない)、元旦から三日間に渡って線香を焚き続けるそうです。それは、家に帰ってきたご先祖様を迎えて共に食事をするという意味があり、ひょっとすると日本の正月よりもお盆に近いものなのかもしれません。

また、このテトに合わせて都市部で働く多くの単身者が地方に帰るのですが、「家族と離れたくない!」と言ってそのまま仕事を辞めてしまうこともしばしば。経営者にとっては、社員を休ませる長期休暇でありつつも、辞められないか戦々恐々とする期間でもあるそうです。
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