特集 2015年3月2日

セーターをまるごと羊毛フェルト化する

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ここ1週間くらいで、じょじょに春めいてきたと思いませんか。

冬の間、気に入ってよく着ていたセーターがあったのだけど、そろそろ出番も終わりが近づいてきた。いつもであれば、来年また、といって冬物の衣装ケースにしまうところであるが、実はところどころ痛んできており今シーズンでお別れの予定なのだ。寂しい。

これをもっと薄い、たとえばロンTに作りかえるテクノロジーがあったら、このまま6月くらいまで着られるのではないだろうか。お気に入りのセーターを延命する方法を考えてみます。
インターネットユーザー。電子工作でオリジナルの処刑器具を作ったり、辺境の国の変な音楽を集めたりしています。「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者。1980年岐阜県生まれ。(動画インタビュー)

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> 個人サイト nomoonwalk

薄くすればロンTになる

手芸に羊毛フェルティングというジャンルがある。ふわふわした羊毛を専用の針で刺して圧縮し、固いフェルトにするのだ。
ふわふわした毛を固める。上の作例はそれを立体造形に使っているが、やっていることは要は圧縮だ。セーターにやれば毛糸の生地が薄くなって、薄手のロンTができるのではないだろうか。

封印されし針

フェルティングといえば以前に一度挑戦したことがあって、そのときはすごくみじめな生き物ができた。
ウサギ
ウサギ
一瞬にして「才能ないんだな」と悟りそれ以来フェルティングには手を出していなかった。これ以上いたずらに、こんなみじめな生き物を生み出すわけにはいかないのだ。

しかし今回は長い年月をともに過ごした友の延命のためである。引き出しの奥に封印した久しぶりに針を引っ張り出してきた。
もう4年くらい着てるセーター
もう4年くらい着てるセーター
気に入ってるのだが首周りが伸びてビロビロになってきた
気に入ってるのだが首周りが伸びてビロビロになってきた
写真ではそれほどでもなく見えるビロビロも、実際に見てみると体の動きに合わせてグニャグニャ動くので、写真以上に気になる。これが引退の最大の理由である。この伸びた部分も、ニードルでうまく圧縮して何とかしよう。(ニードル1本で何でもできる気になっている)

意外に楽しい

作業開始。ひたすら無心にチクチクチクチク刺していく
作業開始。ひたすら無心にチクチクチクチク刺していく
針先に返しがついていて、ここで引っ掛けて羊毛同士を絡ませて、フェルト化するらしい。
針先に返しがついていて、ここで引っ掛けて羊毛同士を絡ませて、フェルト化するらしい。
広大なセーターに、細い針1本で挑むサムライスタイル。刺して刺して刺して……。と延々続く作業は完全な苦行かと思いきや、思いのほか目に見えて成果が出て楽しい。
刺したところがへこんでるのがわかるだろうか
刺したところがへこんでるのがわかるだろうか
刺すごとにこの範囲が広がっていく。梱包材のプチプチつぶしと同系統の、やりがいのある作業だった。

そういうわけで精神の消耗戦は避けられたが、敵は他にいた。
同じ筋肉を使っての繰り返し作業、腕がめちゃくちゃ疲れる
同じ筋肉を使っての繰り返し作業、腕がめちゃくちゃ疲れる
30分かけて作業済み箇所、まだ4センチ四方である
30分かけて作業済み箇所、まだ4センチ四方である

新兵器大量投入

サムライスタイルは早々に挫折、機関銃に持ちかえる
サムライスタイルは早々に挫折、機関銃に持ちかえる
手芸店に行って、一刺しで5倍させる秘密兵器を買ってきた。しかもそれだけではない。
より早く固めたいときのためのスピード針
より早く固めたいときのためのスピード針
5本針で使う場合、スピード針は1本までにしろと書いてある
5本針で使う場合、スピード針は1本までにしろと書いてある
もちろん3本全部入れる。暴発寸前の違法改造である。
結果、めちゃくちゃ速い
結果、めちゃくちゃ速い
サッ、サッ、と軽快だった刺すときの音が、ザクッと濁った音に変わる。5本針ニードルには手を刺さないためのガードがついており、針を抜く時にそれが相槌のようにカッ、と音を立てる。

ザクカッ、ザクカッ、とリズミカルな音とともに、果たしてTシャツはロンTへと華麗な転身を遂げるのか?

結果

できる限りの追加武装をしたうえで、そのあと約4時間、延々刺し続けた。これ以上変化もなさそうだし、そろそろ作業終了でいいだろう。

のちの比較のために、セーターの右半分だけを刺し、左半分は生の(?)セーターを残してある。それぞれ写真で比較してみよう。
フェルト化前
フェルト化前
フェルト化後
フェルト化後
変化、無(む)!!!!

「なし」というより「無」と表現するのがふさわしい完全ゼロっぷり。さっき「これ以上変化もなさそうだし」と書いたが、実を言うと4時間かけるまでもなく、最初から特に変化はなかったのだ。むしろこの状況で延々手ごたえのない作業を続けた僕の精神力を褒めてほしいレベルである。
フェルト化前
フェルト化前
フェルト化後
フェルト化後
ちなみに序盤、刺したところがへこんで「これは手ごたえがあるぞー」とか言って喜んでいたが、あれは刺した部分が下敷きのスポンジに食い込んでいただけだった。はがしたら元に戻った。ほんとのほんとの序盤で終わったぬか喜びである。
もはやどっちがフェルト化前の写真で
もはやどっちがフェルト化前の写真で
どっちが後でも差し支えのない変わってなさ
どっちが後でも差し支えのない変わってなさ
一応、先に出したのがフェルト化後である。さっきまでと見せる順序を入れ替えてみたが、特に意外性もないだろう。写真がほぼ同じだから。

ただ、完全に変化がないかというとそうでもなくて、さわった感じの質感は明らかに違う。
持ち上げるとフェルト化してない左半分は手の形に合わせて変形するけど、右半分は柔軟性がないのでちょっと抵抗してくる
持ち上げるとフェルト化してない左半分は手の形に合わせて変形するけど、右半分は柔軟性がないのでちょっと抵抗してくる
そう、ちょっと固くなってはいるんですよ、確かに!

信じられない人のために数字を出します、数字を。
フェルト化前、7.3mm
フェルト化前、7.3mm
フェルト化後、4.2mm
フェルト化後、4.2mm
二つ折りにしてノギスでそっと挟んでみたところ。この数字は生地2枚分の厚さだと思ってもらっていい。

どうだ、数字の持つ圧倒的な説得力を前に、ぐうの音も出まい。ただ柔らかいセーターに対してノギスをどこまで強く挟むかは僕のさじ加減ひとつなので、願望の反映された数字である可能性も否めないが…。

あと、袖口のあたりにも違いがでた。
刺してないほうはゆるめだけど
刺してないほうはゆるめだけど
刺したほうがタイトになってるのわかる?
刺したほうがタイトになってるのわかる?
なんにしろ全体的にはまったく違和感なし(繰り返しますが右半分だけ刺してあります)
なんにしろ全体的にはまったく違和感なし(繰り返しますが右半分だけ刺してあります)
そうだ、質感が変わったとか袖口がタイトになったとか、ディテールの変化で一喜一憂している場合ではない。当初の目的は、セーターを薄くフェルト化して「ロンTにする」だったのである。

そんな目的もすっかり忘れてしまうほどの、みごとな失敗ぶりであった。

洗濯してみる

実は、ネットで「セーター フェルト」で検索してみると、どっさり引っかかる。セーターを何度も洗濯機にかけると生地がフェルト化するのだという。いちいち針で刺す必要はなかったのだ。効率的!しかもこれがニューヨーカーの間で流行っているのだという。眉唾!

この記事もこれで終わるのはあんまりなので、おまけとして、ニューヨーカーの知恵にならって洗濯してみることにした。
わわわ!
わわわ!
ものすごく縮んだ。右は洗濯していない同サイズのセーターである。2/3くらいの大きさになった感じ。
手順としては一度手でよくもみ洗いして乾燥機にかけたあと、洗濯機の「パワフル」と書いてあるモードで洗濯、再度乾燥機にかけた。
これが<真の>フェルトか…
これが<真の>フェルトか…
生地の表面を見てみると、毛糸の編み目がまったくない。完全な、模様つき一枚布になっている。
スゲー
スゲー
厚みは均一ではないが、さっきと同様の測り方で11.2mの数字が出た。(フェルト化前7.3mm)。1.5倍くらい厚くなっている。

この厚みのフカフカ感といい、そして縮んでコンパクトになった柄といい。物体としてのかわいさがものすごく高い。これはニューヨーカーの間で流行るのもうなずける。(本当かどうか知らないけど)
無理やり着てみようかとも思ったがそもそも袖が通らなかった
無理やり着てみようかとも思ったがそもそも袖が通らなかった
やはり洗濯で作ったフェルトはサイズが縮むため服としては使えず、用途としては主に手芸の材料に転用するのだそうだ。アイデアはいいが、ハハァン、それがニューヨーカーの限界だね、という感じもする。こういうやり方があることは作業を始める前の時点で気づいていたのだが、大きな欠点があるため採用を見送っていたのだ。
いっぽうで、手刺しでフェルティングすればサイズを縮めることはない。厚みだけ薄くできて、そのままロンTとして着ることもできる!!!!

……と思ってのこの実験だったのだが、結果はみなさんご存知のとおりである。

英語のことわざみたいな

「セーターをロンTに変えることはできない」。
改めて口にしてみると、なんだか英語のことわざみたいなフレーズではないか。

用例)
「後から後悔したって、セーターをロンTに変えることはできないんだよ」

だめだ、楽天で間違えて注文したものを無理やり返品交換させてようとしていさめられているシチュエーションしか浮かばない。

ともあれここはことわざではなく、実践的なノウハウとして皆さんの心に刻んでおいてほしい。セーターはロンTにはならないのである。
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