特集 2015年1月9日

下を向いて駅のすり減り鑑賞

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気温が低くなると、背中を丸めて歩きがちだ。となると必然的にうつむくことになり、当然、視線は下の方にばかりいく。

どうせ春になって気温が上がればうつむくことも減るのだし、この機会に下向きでしか見つけられない、足元の風景を楽しんでみたい。
ということで、今回は基本的に足元の写真ばかりである。

(※基本的に下を向いたまま歩くのは危険です。下の風景を楽しむ際は前方にも注意してください)
1973年京都生まれ。色物文具愛好家、文具ライター。小学生の頃、勉強も運動も見た目も普通の人間がクラスでちやほやされるにはどうすれば良いかを考え抜いた結果「面白い文具を自慢する」という結論に辿り着き、そのまま今に至る。(動画インタビュー)

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下向き風景の醍醐味、駅のすり減り

さて、では下向きの風景として面白いものとはなんだろう。

僕が提唱したいのは、駅の中にあるこれである。
もはや「PA」しか文字が判読できないまでにすり減った表示。
もはや「PA」しか文字が判読できないまでにすり減った表示。
九段下駅、都営新宿線改札の前後に、おそらく「PASMO専用改札(SUICAも使えます)」と表示してあったと思しき、見事にすり減った足元表示である。

九段下駅は乗り換え路線が入り組み、乗降客数の多い駅である(都営線だけでも一日平均8万人以上)。
その8万人が集中的に踏みしめ、何年もかけて靴底ですり減らしていったであろう足元表示。

さながら、庭園の石が雨垂れによって少しずつ穴を穿たれていく数百年を超早回しで見るようで、とても味わい深い。
カドが取れてすっかり丸くなった矢印。
カドが取れてすっかり丸くなった矢印。
進路表示の矢印も、長年踏みつけられている間にきれいにカドを削られている。

これも、川の上流にあった岩が流されていくうちに丸くすべすべした石へと変わってしまうのに似ていないか。似てないかもしれない。
まだきれいな床下表示も、よく見ると…
まだきれいな床下表示も、よく見ると…
別の改札の床に貼ってある足元表示は、現時点ではきれいに思える。
しかし、これも足元に視線を近付けていくと、崩壊の始まりをはっきりと観察できる。
すでにカドから「すり減り」の浸食が始まっている。
すでにカドから「すり減り」の浸食が始まっている。
いずれこの足元表示も、先のPASMOと同様にすり減り、やがて消えていくのだろう。
この世の全ては、一瞬たりとも同じ形質を保てず流動変化していく。まさに諸行無常とはこのことである。
階段の滑り止めもこの削られっぷり。
階段の滑り止めもこの削られっぷり。
これも九段下駅都営新宿線へのホームに降りる階段だが、黒い帯状の滑り止めが見事にすり減っている。

おそらくこの上から下へと削られた部分が、乗降客の動線が集中するルート。獣道ならぬ乗客道なのだろう。
別の階段にも細いながら乗客道が見て取れる。
別の階段にも細いながら乗客道が見て取れる。
さらに、別の階段にもはっきりと乗客道が見えた。

細い削れが並行についているが、これが都営新宿線を利用する乗客の平均的な足の幅ということなのかもしれない。
すり減り同士の間、約17センチ。これが都営新宿線乗客の左右足の幅だ。
すり減り同士の間、約17センチ。これが都営新宿線乗客の左右足の幅だ。
また、階段の踊り場からホームへの矢印(上りと下りの方向表示)も良い感じに削られていた。
左右から削られている、踊り場の矢印。
左右から削られている、踊り場の矢印。
階段からホームに下りた直後の矢印はより磨り減って下地が見えている。
階段からホームに下りた直後の矢印はより磨り減って下地が見えている。
踊り場よりは、ホームのほうがより乗客の踏みつけが集中するのだろう。
すり減り具合にあきらかな差があった。
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ホームにもすり減り物件

ホームでは、あまり見たことのない「すり減った点字ブロック」も発見できた。
なるほど、点字ブロックはより足裏の荷重がかかる凸部の先からすり減っていくのか。
ホームでは点字ブロックも磨り減っている。
ホームでは点字ブロックも磨り減っている。
凸部分の先端から磨り減って、下地が露出。
凸部分の先端から磨り減って、下地が露出。
ところで、すり減ったブロックとすり減っていないブロックでは、材質や凸の形状が違って見える。
すり減っている方は、凸のある黒いベースに黄色いシートを圧着しているようだ。

なぜ一部だけ摩耗するブロックを使用しているのかは不明。なにか理由があるのだろうか。
整列乗車を指示するプレートも…
整列乗車を指示するプレートも…
摩耗と言うよりは、もはや崩壊。
摩耗と言うよりは、もはや崩壊。

新宿駅に見るすり減り

さて、では九段下駅以上に乗降客数の多い駅、新宿はどう磨り減っているのだろう。
一日の乗降客数320万人以上と世界一の乗降数を誇る駅であれば、さぞあちこちすり減っていることだろう…と思っていたのだが、これが意外と見つからない。

あくまでも推測だが、乗降数が多い分だけ予算を使ってすり減りを補修できている、ということなのかもしれない。

しかし、探しているうちになかなか味わい深いすり減りを発見できた。
奥から手前にかけて徐々にすり減ってる矢印。
奥から手前にかけて徐々にすり減ってる矢印。
見事な段階的すり減りである。

これはいったいどういうことかと言うと…
窓口へ向かうすり減り矢印。
窓口へ向かうすり減り矢印。
これは、直進した後に90°曲がって案内窓口へ、と人の列を誘導する矢印なのだ。

窓口直前の矢印は、もはや矢印としての体をなしていないほどにすり減っている。
常に人が行列して待つような窓口ではないので、窓口前から離れるほどに踏みつけられる割合が減るということか。
一見、複数の配色がなされたように見えるタイル。
一見、複数の配色がなされたように見えるタイル。
ここは新宿アルタ地下から丸ノ内線新宿駅へ向かう地下道。
地上の信号をパスして移動できるので、わりと通行量の多い通路である。

こちらの床タイルも、よく見ると実はけっこうすり減っていた。
人工大理石の表面がうっすら残る、すり減りタイル。
人工大理石の表面がうっすら残る、すり減りタイル。
人工大理石タイルの表面がガリガリに靴底で削られすり減っている。
変な配色だなーとよく見たら、要するに露出した地色だったのだ。
ここ、わりとよく通る通路なのだが、こうやってうつむいて見るまで普通に「こういう配色なんだな」と思っていて、すり減りに気づいてなかった。

すり減りを意識することでようやく見えてくるすり減り物件。
すり減りの気づき体験である。
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分割型すり減り

タイルと言えば、新宿ではもうひとつタイル関連のすり減りを発見した。
タイル状に分割された足元表示。
タイル状に分割された足元表示。
京王新線新宿駅の改札を入ってすぐ正面の足元表示である。

タイルの上にシールを貼ったものだろうが、踏みつけられて表面がすり減るうちに、タイルの分割に沿って割れてしまったのだ。
撮影中にもガンガン踏まれていく表示。
撮影中にもガンガン踏まれていく表示。
ちなみに、完全に分割されてしまった「線」の文字は、下のタイルもグラグラになっており、踏むと少し動く。
これで余計に分割が進んでしまったのだろう。
こちらはまだすり減ってない表示。
こちらはまだすり減ってない表示。
ちなみに、このすり減り表示のすぐ隣には、うっすらタイルの筋は見えているもののまだ健在な表示もあった。

ほんの数メートルの距離だが、乗降客の踏みつけの頻度が違うのだろう。
わずかな距離が分けた、すり減るものとすり減らざるもの。
これもまた感慨深い。

マイベストすり減りは四ッ谷駅

さて、最後に今回見て回った中でのマイベストすり減りをご覧いただきたい。
丸ノ内線四ッ谷駅のホームから改札へ向かう階段の方向指示矢印である。
うっとりするほどのグラデーション。これはいいすり減りだ。
うっとりするほどのグラデーション。これはいいすり減りだ。
どうだろう。この見事な100%から0%へのグラデーションすり減り。
書道の力強い「とめ」から、スーッと消えていく「はらい」の流れにも似ている。
書道の力強い「とめ」から、スーッと消えていく「はらい」の流れにも似ている。
赤い部分は踏まれてすり減り、黒い部分は踏まれない。
赤い部分は踏まれてすり減り、黒い部分は踏まれない。
階段の始点部分は踏まれることがないので、矢印の頭の部分だけがこのようにくっきりと残ったのだろう。
床に残されたすり減りから、ここを通る乗客の足運びが目に浮かぶようである。

丸ノ内線四ッ谷駅は地下鉄なのに地上に露出している駅なので、他にもホームの足元表示の劣化が多く見られた。
すり減り的に見所の多い駅なのだ。
おそらく矢印だったと思われるすり減り。
おそらく矢印だったと思われるすり減り。
別のすり減り矢印の隣に補填された新たな矢印。こいつもいつかすり減るのだろう。
別のすり減り矢印の隣に補填された新たな矢印。こいつもいつかすり減るのだろう。
もはやどうにも判読不能なすり減り表示。
もはやどうにも判読不能なすり減り表示。
ここまですり減ると、もはや遺跡の風格である。

いや、これらのすり減りがどれぐらいの年月をかけて作られるものなのかはわからないが、せいぜい数年のスパンだろう。
勢いづいて「遺跡」とか言ってみたが、まぁお手軽な遺跡である。

すり減り物件、今回は駅に場所を限ってみたが、少し探せば歩道でも屋内でも簡単に見つけられるものだ。
冬場、うつむいて歩いている機会に鑑賞してみて欲しい。

実は今回の記事、最初の時点では「うつむいて歩く人のための、足元だけ写したストリートビュー」を作ろうと予定していた。

実際にいくつかサンプル動画を撮っていたのだが、どれを見ても地面と僕の足が映っているだけのよくわからない動画になってしまった。
あと、下だけ見てる動画は、長時間見続けていると車酔いっぽく気持ち悪くなるのも分かった。

うつむくなら、ゆっくり足を止めて床を鑑賞するのがベストだと思う。
うつむきストリートビュー、サンプル
うつむきストリートビュー、サンプル
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