色が薄い方が濃淡を付けやすい
うまい棒に仏像を掘る人、名前は河地貢士さん。いわゆる、現代美術作家だ。都内のお住まいを訪ねると、犬と一緒に出迎えてくれた。
チワワのロイ君(12歳)と
彼は、うまい棒を円空仏風に彫ったものを「うまい仏」と称し、各所で展覧会やワークショップを行っているという。
「彫り始めたのは7年ぐらい前ですかね。これまでに600~700本は彫っていると思います」
1年前(左)と2年前(右)の作品。意外と風化しない
「味でいえば、たこ焼きが好きなんですが、彫刻のしやすさという点ではチーズやコンポタなんですよ。色が薄い方が陰影がわかりやすいので」
2008年の作品(HPより)
河地さんはそれまでデザインなどの仕事をしていたが、「うまい仏」の“発見”により、本格的に現代美術作家としての道を歩み始める。他には、漫画雑誌を苗床にして野菜を栽培する「まんが農業」 なども世界で注目を集めた。
「江戸時代の厨子(※仏像を安置する仏具)と『うまい仏』の組み合わせです」と言って、スマホの画像も見せてくれた。
驚くほど違和感がない
「円空が彫った仏様って、当時は祀られるというよりは路傍で子供たちに遊ばれているというかんじだったみたいです。そんなところも、うまい棒のカジュアルさとリンクするような木がして」
圧巻だったのは別室に置かれていた「百七体旨仏像」だ。幅が30cm、高さが40cmある。
祝祭と信仰の狭間で揺れ動くココロ
「これを後ろに置いて108体目を彫るというストーリーの作品です。2013年には新宿タカシマヤの入り口に飾られました」
「エジプト秘宝展」という言葉が似合う(HPより)
さて、「うまい仏」のありがたみはよくわかった。わかったがゆえに、先生、実際に彫ってみたいです。
心頭滅却態勢に入る先生
向かったのは、高円寺の「BJ Bar」。もちろん、先生も一緒である。
パル商店街の脇に一本入った場所
タモリ倶楽部「空耳アワー」の再現VTRに出てくるお笑い芸人、ありたメンがオーナーということでも有名な店だ。
今日の店番はカズヒロさん
なぜ、ここに来たのか。それは、チャージ500円で駄菓子食べ放題の店だからだ。
うまい棒もたっぷり揃っています
心頭滅却態勢に入る先生
目指すはこちら、先生の作品(HPより)
速く彫らないと湿気るというマメ知識
彫るのには下の「リューター」という電動切削工具を使う。
小型のものなら数千円で買える
まずは、どれを彫るかだ。緊張しているせいか、「色が薄い方が明暗が出て彫りやすい」という先生の弁をすっかり忘れて、めんたい味を選んでしまった。
これで、いきます
「彫る面を見つける、つまり顔を探す工程も大事。仏師は『そこにある仏を彫り出す』と言いますから」
仏の顔が見えてきた
こうして、彫り始めたわけだが想像以上に難しい。表面がもろいうえに、深く彫りすぎると穴が開いてしまう。また、速く彫らないと湿気るというマメ知識も得た。
半笑いではダメだ
仏の顔は心眼で見てほしい
先生の感想は「どこが何か、ちょっとよくわからないですね」というものだった。最後に「いただきます」と拝んで食べる。ここまでが、「うまい仏」アートだ。
めんたい味の仏をいただく
写経経由の「うまい仏」も完成
会場には、もう一人「うまい仏を彫りたい」という女性が来ていた。長谷寺で写経をした帰りに寄ってみたという、本気度の高い人物だ。
コーンを選んだ生徒に、「あ、それは彫りやすいですよ」と先生。
緊迫した空気が流れる
どうかしら?
写真ではわかりづらいが、先生も納得の作品
「一番好き」だというチキンカレー味をセレクト
完成品はこちら
先の女性よりはいまいちで、僕よりは断然上手い。先生も「素朴でいい顔をしている」と褒める、そんな作品だった。
「干しイモはネチャネチャしてて、かなり彫りにくい」
「上手に彫ろうとしなくていいんですよ。ただ彫ることが重要なので」。たしかに、彫った後に食べるうまい棒はほんの少しだけ美味しくなった気がした。
先生に好きな食べ物を聞くと「干しイモ」だという。「あれはネチャネチャしてて、かなり彫りにくい」。線引きがなかなか難しいのであった。