特集 2014年10月8日

猿だけじゃなくて猫も好き?キウイのミニチュア「サルナシ」を探せ

本当にキウイそっくり!大きさ以外。
本当にキウイそっくり!大きさ以外。
「サルナシ」をご存じだろうか。「猿が好んで食べる梨っぽい果実」をつけるためにこの名が付いたとされる植物だ。

だが、その果実は現代日本人の眼には梨というよりむしろ、同じくマタタビ科に属す「キウイフルーツのミニチュア」のように映るのだという。近頃はフルーツの専門店やコストコなんかで「ベビーキウイ」とか「ミニキウイ」の名で販売されることもあるとか。

それは面白い。ぜひ食べてみたい。できれば自分で採ったものをね。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

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> 個人サイト 平坂寛のフィールドノート

本州で探すが見つからず。狙い目は「シマサルナシ」!

というわけで、ネットと図鑑の情報を頼りにサルナシ探しの冒険に出発だ。

しかし、いきなりひとつ問題が。サルナシは高地性の植物で、かなり標高ある山地にしか自生しないのだとか。あっ、それキツいぞ。
単身かつラフな格好で挑める範囲に絞って捜索するが、そんな半端な覚悟では当然見つからない。
単身かつラフな格好で挑める範囲に絞って捜索するが、そんな半端な覚悟では当然見つからない。
一応、何度か筑波山や岐阜などで捜索を試みてはみたが、手掛かりもつかめないうちに挫折してしまった。完敗である。

敗因としては情報や装備の不足も挙げられるが、何といっても一人でチャレンジしようとした点がその最たるものだろう。一人きりで野の味覚狩りに出るのは寂しいし、何より危ない。やってられない。やってはいけない。
サルナシはつる植物。まずは樹木に絡む蔓を探し、葉っぱの形や実を確認していく。つる植物は意外と種類が豊富なので空振りも多い。
サルナシはつる植物。まずは樹木に絡む蔓を探し、葉っぱの形や実を確認していく。つる植物は意外と種類が豊富なので空振りも多い。
このままではいかんとサルナシについて勉強しなおすと、サルナシに近縁な別種「シマサルナシ」はやはりキウイに似た実をつけるが、うんと標高の低い場所にも自生することが分かった。なんなら海岸線や、年中温暖な南西諸島にも分布するのだとか。

うわー、知ってりゃ最初からこっち狙ったのに!

というわけで意気揚々と地元の九州でピクニック感覚の捜索に乗り出したが、やっぱり見つからなかった。情報がゼロの状態から一人で探すのはやはりちょっと大変かも。

舞台はまさかの沖縄へ

と、ここまでが2011~2013年あたりの話である。今年2014年もサルナシシーズンを迎えた9月下旬、僕は用あって沖縄を訪れていた。
9月が終わるというのに沖縄は暑い。秋の味覚であるシマサルナシがこんな気候で実るのか?
9月が終わるというのに沖縄は暑い。秋の味覚であるシマサルナシがこんな気候で実るのか?
用事を終えた後、現地の友人らと山へキャンプに行くことになった。そこで、せっかく野外に出るなら何か目標を定めようという話になり、各自が案を出し合っている時にある友人が意外なことを口にした。シマサルナシを探してみようというのだ。
林道を車で走りながら探す。
林道を車で走りながら探す。
もはやサルナシのことなど完全に意識の外であったので、僕はとても驚いた。そもそも、僕はその友人にサルナシを探していることなど一言も話していなかったのだ。偶然に目標が一致していたことになる。

なんでも、彼は最近奥さんから手作りジャムの材料としてサルナシを要求されるようになったのだとか。うーん、レアケース。

ともあれこれで目標が決まった。サルナシ狩りキャンプへレッツゴー。

おばあさんではなくおにいさんが川で洗濯ではなく洗顔をしていると大きな桃ではなく小さなサルナシが…

奇跡の出会いは洗面所(渓流)で起きた。
奇跡の出会いは洗面所(渓流)で起きた。
だが、僕は学生時代沖縄に住んでいたし、その後も何度も訪れては山に出向いているのにシマサルナシを見た記憶は一切無い。友人らもしかりであるという。

今回は人数こそ増えたが、やはり具体的な情報は無いままである。「意識しながら車で林道流してれば見つかるだろう」という雑すぎるプランでの挑戦なのだ。

こんなことで本当に見つかるんだろうかとキャンプ地の沢で顔を洗っていたその時である。
ん?これは?
ん?これは?
足元に木の実が沈んでいるのを見つけた。大きさはウズラの卵くらいか。

皮の表面には小さなブツブツがあり梨のよう。形や色はキウイフルーツに似ている。

あれ?これってもしや…。
お?ウソ?これ?
お?ウソ?これ?
震える手でその果実をナイフで割ってみると…。
キウイだー!じゃなくてサルナシだー!正確にはシマサルナシだー!!(サルナシは熟すと果肉が黄色くなるが、シマサルナシはこの写真のように緑色のまま。)
キウイだー!じゃなくてサルナシだー!正確にはシマサルナシだー!!(サルナシは熟すと果肉が黄色くなるが、シマサルナシはこの写真のように緑色のまま。)
その断面は色といい種の配置といい、まさしくキウイ!いや、大きさだけはずいぶん違う。そうだ。これこそサルナシだ。シマサルナシだ。

まさかこんな形で出会えるとは。実はまだろくに探し始めてすらいなかったのに。ドラマチックなようでいて、かなり拍子抜けする展開である。

まあ過程はともかく、せっかくサルナシが手に入ったのだからとりあえずは味見をしてみようじゃないか。
いただきます!
いただきます!
すっぱい!でも確かにキウイっぽい味!
すっぱい!でも確かにキウイっぽい味!
指でつまんでみたところ、このシマサルナシはかなり熟しているようだ。半分に切った実を口に運び、果肉を舌の上へ押し出すと、まずピリピリとした酸味を感じる。熟しきっていないキウイフルーツにそっくりなすっぱさ!

続いて、やはりキウイによく似た香りが鼻腔へ抜ける。果肉はトロトロに熟れているのに、甘さは控えめである。さっぱりした、野生的なキウイといった印象である。酸味が前面に出てくるので人を選びそうな気もするが、なかなか悪くない。

というか、キウイのあの味はいかにもトロピカルな異国情緒あふれる味だと勝手に思い込んでいたので、国産の植物がこの味わいを実らせることに感心してしまい、おいしいかまずいかなんて些細なことはもうどうでもよくなってしまった。
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おばあちゃんの導きで大量確保(みかんも)!

とりあえず一粒ゲットし、低限の味見はできた。しかし、どうせならもうちょっとだけ収穫して帰りたいところだ。だってほら、友人の奥さんはジャム作りたいらしいし。

実を拾った場所から沢沿いに少し登りながらシマサルナシを探すが、それらしい蔓は見当たらない。川底や岸辺の地面にも目を凝らすが、実が落ちている気配はない。あるエリアにまとまった数の株が生えている植物ではないのかもしれない。

これはやはり広範囲を車で流しながら探した方がよさそうだ。
道中でミカン農家のおばあちゃんと仲良くなり、ミカンをいただく。「ごめんねー。うちの孫と勘違いしちゃった。」だそうだ。
道中でミカン農家のおばあちゃんと仲良くなり、ミカンをいただく。「ごめんねー。うちの孫と勘違いしちゃった。」だそうだ。
先ほどの川にほど近い林道をゆっくりと走りながら、樹木に絡む蔓を探して回る。この間、運転手はひたすら運転に集中、助手席と後部座席の者は眼をひん剥いて左右に広がる林をギョロギョロとなめまわすように物色する。

一時間ほど走った頃だろうか。一台の見知らぬ軽トラックがこちらに合図を送ってきた。何だろうと窓から顔を出すと、ほっかむりを被ったおばあちゃんがなにやら恥ずかしそうに笑っている。

どうやら僕たちを遠目に見てお孫さんたちだと勘違いして合図をしてしまったらしい。
おばあちゃんの言うことは本当だった!
おばあちゃんの言うことは本当だった!
こちらはまったく構わないのだが、ごめんなさいねと照れ笑いしながら何度も謝るおばあちゃん。どうやらミカンの収穫を終えてきたところだったらしく、もぎたてのミカンを10個以上もいただいてしまった。沖縄の人たちのこういうところっていいよね。

そして、仲良くなったついでにサルナシを探している旨を伝えると、なんとおばあちゃんの口から「サルナシならこの道沿いを進んでいけば生えてますよ」という言葉が!!

やった!王手だ!モチベーション上がる!
あの蔓にぶら下がってるの、サルナシの実じゃない?
あの蔓にぶら下がってるの、サルナシの実じゃない?
この先に間違いなくサルナシがあるという確証があっての上で探すのと、あてもなく林道をダラダラ走るのとでは気合も集中力もまったく違ってくる。

怪しい蔓を見つけるたびに逐一チェックしていくと、背の高い木に初めて見るタイプの蔓が絡んでいるのを発見。葉っぱの形が図鑑で見たシマサルナシのそれに似ている。そして遥か頭上に目を凝らすと…!
生ってるぅーー!サルナシぃーー!
生ってるぅーー!サルナシぃーー!
大量のサルナシが実っている!その数100個はくだらないだろう。おばあちゃんの言うとおりだった。友人らと共に叫び声に近い歓声を上げて喜ぶ。

しかし、すぐにある重大な問題に気付く。実の位置めっちゃ高い…。高枝切りバサミでも無いと絶対届かん…。
よく、高いところに吊るされたバナナを猿が道具を駆使して手に入れる様子をテレビで見るが、人間が同じシチュエーションで野生サイドから試されるシーンは初めて見る。
よく、高いところに吊るされたバナナを猿が道具を駆使して手に入れる様子をテレビで見るが、人間が同じシチュエーションで野生サイドから試されるシーンは初めて見る。
実はこの日、収穫用の道具は何一つ持ってきていない。自分たちでもびっくりするほどの用意の悪さ。高枝切りバサミなんて夢のまた夢だ。

だが、ここまで来たら何とかして少しでも採って帰りたい。そこでまず思いつくのは蔓を引っ張って実を引き摺り下ろして摘み採る方法である。
最年少としての責任を感じたか、学生のMくんが蔓に飛びついた。
最年少としての責任を感じたか、学生のMくんが蔓に飛びついた。
各自、グイグイと両手で蔓を引っ張るも、樹上で複雑に絡んだ蔓はちょっとやそっと力を込めても何の変化も見せない。

業を煮やしたのか、最年少メンバーのMくんが一本の蔓にぶら下がりはじめた。危ないMくん!そんなことをしたら蔓がちぎれてキミもシマサルナシも痛い目を見るぞ!
細い蔓一本で成人男性の体重を余裕で支える。シマサルナシ恐るべし。
細い蔓一本で成人男性の体重を余裕で支える。シマサルナシ恐るべし。
…と思ったらびくともしないでやんの。まったく千切れる気配なし。丈夫すぎるだろ。

なんでも、サルナシの蔓はその異常なほどの強さに加えて、腐りにくい性質も持っており、吊り橋の材料にされるほどなのだとか。

また、サルナシ類は猿や熊などの獣に果実を食わせることで種子を広く散布させるよう進化したという。このことから、この蔓の頑丈さはそうした大型の獣をも難なくよじ登らせ、高所に実った果実食べてもらうべく獲得された特徴なのではないかなという気もする。
結局、車の屋根に上って摘み取るという知的かつ文明的なゴリ押しメソッドでゲット。
結局、車の屋根に上って摘み取るという知的かつ文明的なゴリ押しメソッドでゲット。
シマサルナシの蔓に対してシンプルな力技は通じないと判断した我々は、試行錯誤の末に現代人らしい極めて合理的かつ理知的、そしてこの上なく文明的な力技を編み出した。

蔓の真下に車(ランドクルーザー)を横付けし、一番背の高いやつがその屋根の上に立って精一杯腕を伸ばし、手が届く範囲の実を摘み採れるだけ摘み採るのだ。
ミニチュアのキウイにしか見えん。でもよく見るとキウイと違って毛が生えてないんだね。
ミニチュアのキウイにしか見えん。でもよく見るとキウイと違って毛が生えてないんだね。
この雑な作戦が意外なほど功を奏し、なんとか三十数個のシマサルナシの実を獲得することができた。これで友人の奥さんもジャム作りを楽しめるに違いない。
摘みたてのものは皮が張っていてよりキウイフルーツっぽい。でもまだちょっと硬いしすっぱすぎる。
摘みたてのものは皮が張っていてよりキウイフルーツっぽい。でもまだちょっと硬いしすっぱすぎる。
摘んだ後でもキウイのように追熟できる。この過程は密封保管することで時短出来るかも。
摘んだ後でもキウイのように追熟できる。この過程は密封保管することで時短出来るかも。
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サルナシジャムを作ってみよう

ところで、摘んだサルナシを僕もいくつか分けてもらうことができた。

数個はまたそのままで味見をさせてもらったが、せっかくなので生以外の料理も試してみたい。たとえば…今頃あの友人も味わっているであろうジャムなんかどうだ。
比較のため、キウイフルーツと並べてみる。そっくりだなあ…。
比較のため、キウイフルーツと並べてみる。そっくりだなあ…。
サルナシのジャムは割とメジャーなメニューらしく、検索するとネット上にいくつもレシピが見つかる。
スプーンで果肉をくり抜き、集める。
スプーンで果肉をくり抜き、集める。
それらのレシピに従うと、砂糖は仕上がりが綺麗になるグラニュー糖を使用すべきだったのだが、今回は上白糖で代用した。そのせいか、煮詰めるほどにシマサルナシらしい鮮やかな緑色は失われ、やや暗い色合いに仕上がった。
サルナシのジャム。見た目はいまいちだが、味は爽やかでおいしい。
サルナシのジャム。見た目はいまいちだが、味は爽やかでおいしい。
見た目がちょっとアレなのでちょっと心配だったが、実際クラッカーに乗せて味見をしてみると、すっきりした味わいでとてもおいしい。

砂糖を加えて煮詰めてあるので、いくらか酸味が抑えられる代わりに甘味が効いて食べやすくなった。生食よりもこちらの方が万人向けかもしれない。来年もまたサルナシ狩りに行けたら、今度はもっとたくさん作ってみよう。

おまけ:猫はシマサルナシでも酔っぱらうか

さて、冒頭でも述べたようにサルナシ類はキウイ同様マタタビ科に属す植物である。
マタタビと言えば、その含有成分に猫が狂喜乱舞することで有名である。本サイトでは過去にキウイフルーツの枝にも同様の効果があることを検証している
ということは、もしかすると今回試食したシマサルナシでも猫をメロメロにすることができるのでは…?
この実験のため、枝を乾燥保存していた。
この実験のため、枝を乾燥保存していた。
調べてみると、やはりサルナシにも猫を幻惑する成分は含まれているらしい。ならばきっと近縁のシマサルナシにも期待できるだろう。実を摘む際に採取した枝を持って、猫が多いことで有名な近所の神社へと向かった。
境内に入るなり猫に遭遇。
境内に入るなり猫に遭遇。
まずは神社の社務所へお邪魔し、実験の説明をして了承を得る。すると、そのそばから猫が足元をうろつき始めているではないか。これはあれか?シマサルナシの臭いに誘われてきたか?

よしよし、さっそく与えてみよう。
おお、好反応!
おお、好反応!
が、すぐ飽きる。
が、すぐ飽きる。
枝を差し出すと、興味深そうに臭いを嗅いだり、前脚でじゃれたりしている。なんとなく普通の木の枝よりは強く関心を寄せているように見える。

…が、マタタビやキウイのように陶酔状態に陥ることは無く、わりとすぐに飽きて放り出してしまう。

おや、おかしいな。
こっちの子はどうだ。
こっちの子はどうだ。
おっ、興味津々だ!
おっ、興味津々だ!
と思ったら飽きるの早えー。
と思ったら飽きるの早えー。
「構ってほしけりゃそんな木の枝じゃなくて食い物もってこいや。」みたいな態度をとりはじめる始末。
「構ってほしけりゃそんな木の枝じゃなくて食い物もってこいや。」みたいな態度をとりはじめる始末。
何してんだよおまえ。
何してんだよおまえ。
罰当たりなやつめ!シマサルナシを喰らうがいい!
罰当たりなやつめ!シマサルナシを喰らうがいい!
一瞬興味を示してくれたが…。
一瞬興味を示してくれたが…。
そんな「は?」みたいな顔しないでよ…。
そんな「は?」みたいな顔しないでよ…。
ああっ、どこへ!
ああっ、どこへ!
他のネコとの喧嘩の方が大事みたい。
他のネコとの喧嘩の方が大事みたい。
マタタビの効果は雄により強く働くほか、かなり個体差も大きいと聞いていたので雌雄合せて5頭の猫に協力してもらったが、皆それなりにシマサルナシへ興味は示すものの、あからさまに酔っぱらうことは無かった。

これはシマサルナシ自体に猫を幻惑する成分があまり含まれていないのか、はたまた時季的なものなのか。それとも単に僕の保管の仕方が悪かったせいで成分が変質してしまったのか、原因は定かではない。

半端は締めくくりになってしまい申し訳ないが、これは今一度フレッシュな枝を持参するなど条件を整えて実験し直す必要がありそうだ。

秋の味覚狩りは楽しい

苦労して手に入れたサルナシは確かにおいしかった。しかし、すべて終わってみると、その味よりも四苦八苦しながらの探索行のほうが良い思い出になっていた。鈴なりに実ったサルナシを発見した時の喜びは予想していたよりも遥かに大きく、いい年をして皆ではしゃいでしまったくらいだ。

おいしいものが食べたければスーパーでいつでも何でも手に入るこの時代にも、わざわざ山へ分け入って山菜やキノコを採る人たちが絶えないのも納得である。次はあけびでも探すかな。
道中でいただいたミカンもサルナシに負けないくらいおいしかった。おばあちゃん、ありがとうね!
道中でいただいたミカンもサルナシに負けないくらいおいしかった。おばあちゃん、ありがとうね!
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