私の目から見た「竹の湯」
銭湯マニアの方の話を聞く前に、まずは自分なりに馴染みの銭湯の見所を見つけてみたい。
子供の頃友達や家族とたまにいった「竹の湯」。改めて、この銭湯の見所はいったいどこなんだろうか? 何千回と前を通り目にしてきた銭湯だが初めて考えることである。
待ち合わせ前に犬の散歩しながら無理やりひねり出した。
その1:駅から3分くらいの好立地にある
「そんな情報いらねえよ!」と思われていないかドキドキしながらマニアの方を案内する
その2:竹の湯なだけあって竹色だ
見たまま、色情報
その3:露天風呂がある
とても狭いけど、露天風呂がある
その4:建物がかっこいいかな、とおもう
他の銭湯と比べたことがあまりないので自信持っていえないけど、自分としてはかっこいいなとおもっていた
その5:銭湯の前に必ず猫がいる
のら猫を何匹も見かけることができる。風呂に関係ないけど
その6:四つ木のシンボルだ
少し離れたところからのビューポイントを伝えたが、ノーコメント。それより別方向に見えた銭湯の煙突が気になったようだ
伝えられるのは外観と昔の思い出くらい
いくつか特徴をひねり出してみたものの、意識したことなかったのでほとんど外観周りのことしか紹介できなかった。
中については他の銭湯をよく知らないだけにココがいい!と違いがうまく言えないのだ。昔は番台だったが今は脱衣所に入る前に受付があるし、お風呂もオーソドックスのように感じるから自信を持っては言えない。
ちなみにコインランドリーは併設タイプ、ちょっと離れてるとこにあるタイプ、そして脱衣所の中にあるタイプの3つあるらしい
ほかは、銭湯の前に置かれている椅子は犬の散歩の休憩に使うことがあるとか、昔は風呂上がりのホームランバーアイスが楽しみだったなあ、などという思い出しかでてこない。まあでも、近所の銭湯について語れることって普通はそんなものだろう。
さてその一方で、マニアの方はいったい銭湯のどんな所に注目するのだろうか。竹の湯が開くまで時間があったのでお話を聞かせてもらった。
「1010(せんとう)」の数字にも反応する銭湯マニア、高山洋介さん
とにかく周りまくるマニアたち
今回つきあってもらったのは、400軒もの銭湯を周ったという高山さん。
子供の頃から銭湯好きだったが、会社員になり多忙になったとき銭湯が唯一の癒しとなった。そんなときにスタンプラリーの存在を知ったのがきっかけで徐々にのめりこんだそうだ。
フリーランスとなり時間に融通のきく今は、多いときは一日に3軒周ることもあるのだとか。銭湯は15時位から0時までのところが多いことを考えると、すごい熱意だ。でもさらなるツワモノは一日20軒周る人もいるそう。信じられない!
裏手に回りお湯の沸かし方をチェックする高山さん。そういえばずっと前ここに薪が積まれてたの思い出した。今はボイラーのようす
銭湯マニアは一体なぜそんなにストイックに周るのか、は次ページに続く。
全国だと毎日、東京だと週一ペースで減ってる銭湯
銭湯が純粋に好きだから、だけでも銭湯を周る理由にはなるが、それだけ貪欲に周るのは銭湯の減るペースの早さも関係があるようだ。東京の場合、約50年前のピーク時2687軒から675軒(取材時)まで減少している。
確かにそういった事情を知ると、今のうちにたくさん周っておきたくなる気持ちが分かる。
廃業情報はツイッターで
廃業届けが出されると理事の人がツイッターで広めてくれるため、銭湯の最後はマニアたちでいっとき賑わうそうだ。
東京協会がおこなっているスタンプラリーを見せてもらった。こういうの集めだすとはまるかもなあ
台紙は協会が出している「お遍路マップ」という本についてきて、1冊88箇所をうめて送ると賞状と記念品がもらえる。これは「ゆ」のロゴが入った記念バッヂ
こちらは江戸川区の協会がおこなったスタンプラリーを制覇した人がもらえる賞状。ちゃんと式典があり、みんなでコーヒー牛乳で乾杯したそうだ。そんな世界があったとは。。
これは高山さんの実家がある三重県の銭湯35軒すべてを制覇し手に入れた木札たち。銭湯のためなら三重にまで通うこのエネルギーに脱帽だ。半年かけて集めたそうだ
スタンプラリーを何周もする人も
しかし高山さんは、自分なんてまだまだ…とちょっと謙遜ぎみ。こういったスタンプラリーに参加する人は多く、親子で制覇したり同じスタンプラリーを3周する人なんかもいる。
それに、周った数で言えば、町田忍さんという銭湯界のカリスマが3000箇所も周っている。銭湯が減っている現状を考えると実質もうその数を超えることはできないジレンマがあるとも言っていた。
そんな銭湯界の頂点に立つ町田忍さんの本と、監修をつとめる銭湯検定。検定まであるってもうマイナーな趣味でもないかもしれない
普通の人でも理解できる銭湯の見所とは?
次に聞いたのは、マニアでなくとも楽しめられる見所。わかりやすさでいえば下記のようなジャンルで分けられる。
・「こんなところになぜ?」という立地的に面白いところ(銀座「金春湯」や表参道の「清水湯」)
・スーパー銭湯顔負けの種類が豊富な銭湯(江戸川区の「あけぼの湯」や板橋区「アクアセゾン」)
・マジシャンが受付していたり(中野区「昭和浴場」)、金魚が泳いでいる(北区「滝野川浴場」)ような変わった銭湯
そしてなんといっても
・外観がレトロでかっこいい銭湯
だろう
カリスマ町田さんに「キングオブ銭湯」と名づけられている北千住にある大黒湯。もはや寺だ!
高山さんが作ってる同人誌「東京銭湯」からも見た目がかっこいい所をチョイスしてもらおう
こちらも素敵な外観。芸術的だ。色もたくさんあるんだなあ
ちなみに寺院みたいな建築様式は関東大震災後に客を呼び込むために宮大工に建て直させたものが多く、東京ならでは。
マニアックな人の銭湯の見所
さらにすすんで、高山さんのように同人誌を作っちゃうくらい好きな人はどこを見るかというと、ペンキ絵のタッチの違い、下足箱やロッカーの鍵の形、カラン(蛇口)の数、ケロリン桶の割合チェックなど多岐にわたる。
「1010」というフリーペーパーでは銭湯の体重計の針を比べていた。いままで一度も気にしたことないわー
高山さんがお風呂から出たあとに書くメモ。設備など細かく書かれている。この記憶力・・・もし銭湯で殺人事件があったら解決しちゃいそう
レイアウト比較が面白い!
体重計の針の違いとかまでいくと正直なかなか理解できないが、高山さんがつけてるこのレイアウトは比べてみるとなかなか面白い。
一番複雑なレイアウトだったという2階建の銭湯。間取りだけでなく、カランの数まで詳細に記憶しておく。マニアはゆったりとお風呂でくつろいではいられないのだ。
逆に設備がミニマムな銭湯。これはこれで行ってみたくなる。上の複雑な銭湯ともに江戸川区なのでハシゴも面白いかも
比べると分かってくる、銭湯の面白み。次ページに続く
貴重なペンキ絵を楽しむ
いま、銭湯の壁に絵をかくペンキ絵師は日本にたった3人しかいない。
丸山清人さんと中島盛夫さんという大御所と、中島さんに「ペンキ絵で食っていくのは難しい」と断られたのに弟子入りを志願した田中みずきさんという若い女性。この3人の絵のタッチの違いを楽しむのもまた面白いそうだ。
ちなみに銭湯といったら富士山などのペンキ絵、というイメージがついているが、ペンキ絵は傷みがはやいため塗り替えも必要、そして昔は広告代理店がオマケで描いてくれたものだったが今は出費がかかる、というのもあって東京以外は広まってないようだ。
毎年10月10日に行われる銭湯イベントのオークションで落札した丸山さんによる富士の絵。色々聞いたあとだと私も欲しくなる
そんなに貴重とは知らなかった。今度からはしっかり見るようにしよう。
素敵な銭湯グッズが多いなあ。こちらは「小杉湯(杉並区)」のオリジナルTシャツ
スタンプラリーに、レイアウトに、ペンキ絵か。私でも楽しめそうなところが見つかったぞ。
いざ竹の湯へ
というわけでいよいよ入ります
注目ポイントと聞いていた下足箱。よくあるタイプらしい
傘入れの棚。今まで目に入らなかったので個人的には珍しく感じたがこれもよくある
色々聞いたあとなのでキョロキョロと注意深く観察するようになった。なにか高山さんを驚かせるようなものはないだろうか、と竹の湯に期待してしまう自分がいる。
マニアに竹の湯を褒めて欲しいのだ。
高山さんは都内共通回数券を持参していた(40円お得)
受付に期間限定のスタンプラリーの台紙があったので私も押してもらった。日に何人か求められるらしい。
20分後に待ち合わせと決め、先ほど聞いたチェックポイントを気にしながら中に入る。
なんてことないと思い込んでいた浴場や脱衣所にある設備をあらためてよく見てみる。情報を得ようとして見る銭湯の光景は、以前とまったく違く見えた。
真似してカランの数やレイアウトを記憶してみる。不審者みたいだし全然くつろげなかった!(後日許可をとって撮影)
さっき聞いたペンキ職人のひとり、中島さんのサインを発見! 嬉しい
お風呂を出ると、ロビーですでにメモをとっていた高山さん。さっそく竹の湯の感想を聞こう。なんと言われるかドキドキする。
高山さんの評価はいかに
そのとき書いてたメモ。私は覚えてられない、と脱衣所で急いで書いてた
マニア目線で見た竹の湯
出てくる出てくる竹の湯のいいところ。馴染みの銭湯が褒められるって、とても嬉しい。
その1:中島さんによる赤富士の絵
赤富士は縁起がよくて珍しいそうだ。女性側からはちょっとだけしか見えなったけど
後日撮影させてもらうさい主人にきいたところ、竹の湯は3年に一回くらいのペースで休みの日に1日で絵を仕上げてもらうそう。ちなみに塗り替えるのではなく上から塗りつぶすらしい。絵は毎回変わるそうなので、それもまた楽しみになるな。
その2:天井が高い
その3:大きいテレビがある
天井が高いのは昔からずっとある証拠。そして男女両方から、とても見やすい位置にあるTV
テレビが浴場に置かれているのは言われてみれば珍しいかもしれない。お客さんにも好評で、相撲の時間になると皆TVに注目するのだそうだ(主人談)
それと、竹の湯は関東大震災前からある老舗であった。
その4:露天風呂は広めで屋根がなく開放感がある
私が最初に狭いと強調していたため高評価に。男性側の方が2倍くらい広かったけど
公園の緑が見える
露天といっても2人でいっぱいになってしまう所や、視界が遮られるところが多いそう。
竹の湯は周りに建物がないおかげで、屋根をつけなくて済み、星も綺麗にみえるのだそうだ。(主人談)
その5:庭がある
むかしは滝とか池まであったそうだ
男性側だけだが、庭がある。やはり開放感があってよさそうだ。いいなあ。
その6:サウナ無料
別料金をとるところが多いと初めて知った!
マニアは気遣いに気づく
ほかにもウォーターサーバーがあったことや、露天風呂の所に腰掛用のセノビ―(台)が置かれている所など、とても細かい褒めポイントもあった。
他を見てきた人にしか気づけないポイントだ。
言われて気づく、竹の湯の優しさ
ほか、ほめてるのかどうかよくわからない点もあったが…
マニアと行くと近所の銭湯が好きになる
こんな感じで、マニアと行くことで竹の湯には見所がたくさんあったことを知る事ができた。いや、なんとなくいい銭湯だなとは思っていたけれど、それがしっかり裏付けされたというか。知ったあとでは銭湯の楽しみがぜんぜん違う。
大げさだけど、自分が恵まれていることにようやく気付かされた箱入り娘のような気分だ。この取材がきっかけで男性側にある赤富士もしっかり見られたし、いよいよ竹の湯が好きになった。
今度はまた相撲の時間にでもゆったりと来たい。
高山さんの褒めポイントを伝えたら、ちょっと主人が誇らしげだった
なんだかんだ、一番好きな銭湯は「近所の銭湯」
「色々行ったなかでどこの銭湯が一番好きですか?」と高山さんに月並みな質問をした。
すると 「よく聞かれるんですが、いつもその時住んでいた場所の銭湯を答えていました。銭湯はどんなにボロくても設備が整ってなくても、その人の家の最寄りの銭湯が一番だと思うのです。銭湯のここが好き!というよりも、情、というか、愛着ですよね・・・。」
とても説得力のある答えだった。竹の湯、長く長く続いてほしい。