泣く子も黙るMaker Faire
ことの発端は、大垣で行われたMini Maker Faireというイベントである。ご存知の方も多いだろうが、電子工作好きが集まるイベントだ。
イベントに誘ってもらったのはいいものの、僕は電子工作なんてできない。でもなんとかロボットっぽいものを作りたい。
いちばん少ない労力でロボを作るためにはどうしたらいいだろうか…。
…あ、シャベルカーだ! シャベルカーの先端に頭をつければロボットに見えるはずだ!
シャベルカーは現実に存在する最もSFチックなマシンだと思う。キャタピラがついているし、腕もついてるし、アタッチメントで先端変えられるし、左右非対称だし。
嘘みたいな設定だ。前々から欲しかったのだ、シャベルカーのラジコン。
というわけで届きました。
でかいです。
これでほぼ完成と言っていい。後は頭を作るだけだ。
頭は紙粘土で作ることにした。
骨格として最適!
紙粘土を貼付ける芯材は、USJのおみやげでもらったターミネーターの頭部の入れ物がよさそうである。
…と思ったら、重過ぎて全然シャベルカーが動かない。
困った。想像以上にシャベルカーのアームに力がない。
頭の重量をかなり軽くしないといけないようだ。
プラ板を切って作った箱を骨組みとします。
できるだけうすーく紙粘土をはりつけていく。どうせ作るならリアルな方がいいだろう。
そういえば皺の多い老人のほうが、質感でごまかせるから上手に見えるというのを思い出した。
そうだ、祖父をモデルにしよう。
学生の時に祖父の絵を描いたことがある。時間をかけて描いたから、今もなんとなく形を覚えている。
労力をかけず、ひとの顔を作るなら祖父の顔がいちばん合理的である。
そんなわけで粘土をはりあわせて、色を塗っていく。
あれ?
正直に告白しますと、ここらへんでおかしいぞと思い始めました。
軽量化のための四角い頭、祖父の顔。全て合理的な選択をしてきたはずなのに。なんでこうなるのか。
もう少しリアルになれば状況が変わるかと思い、つまようじを使って、紙粘土の表面をひっかいて肌感を出す。
続いて色づけをしてゆきます。
あれれ?
あれれれ?
疑惑が確信に変わる。
面白いというより、気持ち悪い。
どうしよう。イベント、明日だ。交通費と宿代出してもらうのに、怒られるんじゃないだろうか。
えーい、もう行っちゃえ。
Maker Faireに突撃!
しれっと展示物のなかに並べる。
泣く子も出てしまった。
「これ、なんなんですか?」と聞かれたので「首が動くんです」と答えると「それだけ?」と言われた。悲しい。
ソフトバンクのロボだって、ちょっと動いてるだけじゃん。ロボットは動いてるだけでほめられる時代に生きてるじゃん僕ら。
何度も聞かれるので、話しかけないでオーラを出す。
くそう。このままではダメだ。イベントはもう1日ある。明日のために何らかの改良をしなければ。
といっても、ここは大垣。持っている道具も時間も限られている。
悩んだ末、ホームセンターで水槽用のエアポンプ用のチューブと、シャンプーとコンディショナーを買った。これで必要なものは揃った。
顔の裏側に穴をあける。
鼻をほじってるみたいだ。
チューブをホットボンドで鼻と固定し、シャンプーのノズルとも連結する。
ポンピングすればチューブを通じてシャンプーが鼻へ送られるといった仕掛けである。
THE 原始的な仕組み
つまり、こうなります。
右の鼻穴からはシャンプー。左の鼻穴からはコンディショナーがでる。
奮発して自分では買わないTSUBAKIを買った。
ひとが通り過ぎるたびにシャンプーを放出する。
当たりに漂うフローラルな香り。飛び散るTSUBAKIエキス。
心なしか、昨日よりもお客さんの笑顔が増えたような気がする。
口からシャンプーをダラっと垂らして「ツバ」キというのも考えたが、人としてどうなのかなと思ったのでやめた。
どういうわけか絵の具の「赤」だけが溶け出してきた。
少しずつ血まみれになっていくシャベルカー。
エイリアン2のアンドロイド、ビショップがこんな感じの状態になっていた気がする。血まみれになりながら、展示も終盤を迎えた。すると…。
嘘でしょう。
ふと目を話した瞬間、シャベルカーの頭の上にゴミが置かれていた。どういうことだろうか。
駅前に置いた自転車のカゴじゃあるまいし、そんなこと許されるのだろうか。ゴミ箱と間違えたんだろうか。それはそれで問題である。
ゴミ箱かゴミ並みという意思表示をされて、僕のMaker Faireは終わった。
そして、最終形態へ
シャベルカー、なにがダメだったんだろう。
機能的じゃなかったからだろうか。シャンプーをする時に、便利な道具として改良すればいいのかもしれない。
第3ラウンドの鐘が鳴る。アイアンマンだってMark3で、機能をひと通り備えたのだ。勝負はここからである。
シャベルカーから頭を取り外す。
「お面」として、自ら身に付ける。
「俺がアイアンマンだ」状態発動。
これにより、シャンプーとコンディショナーが出る機能はそのままに、シャベルカーのラジコンとは比べ物にならない機動性を手に入れた。
計画はこうだ。
タライと水を用意して、洗髪する。ここまでは普通の洗髪と同じである。
洗う人が特殊なのだ。鼻からシャンプーとコンディショナーが出る。
両手が塞がっている状態でも、これならスムーズに洗髪が可能だ。
何て合理的なのだろう。
髪の毛を洗わせてもらえる人を探す。
なんと見つかった。お祭りのイベントに便乗したのがよかったのかもしれない。夏という蒸し暑い気候も味方にしてくれている。
ゴッシゴシ洗う。
このお面、ひとつ弱点がある。
覗き穴をあけていないので、目の前で何が起きているのか全くわからないのである。
どうだろうか。合理的な機能をそなえつつ、まわりの人々に笑顔が溢れている。
「夏場だから、さっぱりして気持ちいいよ!」という感想ももらえた。
この表情もお面越しでは見られませんでした。
女の子から「私もやってほしい!」と言われたが、いろんな要素で忍びないのでそそくさとお祭りをあとにした。
何だろう、この満足感は。
もし次に改良をするなら、目に覗き穴をあけるのはもちろん、口から水を出して、すすぎあらいも合理化したい。
なんだかよくわからないが、なにかをやり遂げたという確信がある。
そしてこの記事のアクセス数が伸びないことにも確信がある。