特集 2014年8月25日

隙あらばマジを入れ込む

メッセージの切実さを加速させたい
メッセージの切実さを加速させたい
「まじ」という言葉がある。「マジ」とカタカナで書いた方がしっくり来るかもしれない。

ネットの辞書で調べたところ、意味は「本気であるさま、本当であるさま」とあった。言葉の成り立ちとして「『まじめ』の略」ともある。

にも関わらず、マジはまじめな感じがしない。マジが入ることで、変わる空気を検証したい。
1973年東京生まれ。今は埼玉県暮らし。写真は勝手にキャベツ太郎になったときのもので、こういう髪型というわけではなく、脳がむき出しになってるわけでもありません。→「俺がキャベツ太郎だ!」

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マジの破壊力と柔軟性

マジの語源は「まじめ」なのに、マジと言われるとなぜかまじめな感じがしない。意味とイメージが矛盾しているのだ。例えば、日本国憲法前文の最後の一文に入れ込んでみる。
真剣な盛り上がりを最後でぶちこわす
真剣な盛り上がりを最後でぶちこわす
ここまでかんばって築いてきた格調が一気に吹き飛ぶ。意味的にはまじめに誓ってるはずなのに、むしろ台無しになっている。

たった2文字の破壊力。マジを1つ挿すだけで、一気に全体の雰囲気をもっていくのだ。

この威力を、ビジネスシーンで活用することはできないだろうか。例えばこうした挨拶文。
特に意味を感じさせない定型文
特に意味を感じさせない定型文
しばしば目にするこの手の文。ここにマジが入る余地はないだろうか。

現在では「マジすげえ!」といった風に、マジという言葉はまじめという語源を少し離れて、単に強調として使われることもあるようだ。ならば先の文にもマジは入り込んでいける。
 ビジネスが距離を詰めてやってきた
ビジネスが距離を詰めてやってきた
こんなに短い文なのに、3回もマジが入れる。強調という意味があるのに加えて、インパクトもある。ただし、信頼がなくなる。

そして元々の文の空虚さが照らし出されたようにも見える。マジにしたところで意味そのものは変わっていないからだ。

こうしたいかにも現代的なビジネス文書にもマジが入る隙を見つけられたが、反対に古典だとどうだろうか。
この完璧に入り込めるか
この完璧に入り込めるか
有名な松尾芭蕉の俳句だ。言語芸術として完成されていて、一見マジの入る隙はないように見える。

ただ、現代ではほとんど感嘆詞としても使われているマジ。この句もそうだが、俳句は結局のところ感嘆ばかりしているわけだから、とりあえずマジをねじ込んでみてもいいだろう。
そこにマジがあることへの許容
そこにマジがあることへの許容
「岩にしみ入る」を「マジ」と替えてみた。字面上の意味は全く違うのに、意外としっくりマジが溶け込んでいるではないか。

句としての言いたいことは大体伝わってくる気がする。俳句の趣きとマジの語感とがせめぎあって、新しい種類の余韻がにじみ出るのが不思議だ。マジの場所を変えてもいけるか試してみよう。
意味はわかるがポエムが減った
意味はわかるがポエムが減った
うーん、意味は通じるけど、俳句らしい味わいが急に損なわれてしまった気がする。やんちゃ感が強まってしまうのだ。マジの場所によってこれほど印象が変わるとは。
何も言えなくて、マジ
何も言えなくて、マジ
岩にしみ入るのが何なのかわからないまま終わる句。それゆえに、何が岩にしみ入るのかを読み手に想像させる余韻が残る。

これ以上言葉を継げなくなって思わず最後に入れた「マジ…」。知性を超えた詩情がそこにある。

雰囲気は変わるものの、五・七・五のどれにも入ることができたマジ。ならば、こういうこともできるのではないか。
マジと芭蕉が拮抗
マジと芭蕉が拮抗
芭蕉作とも思われていた「松島や ああ松島や 松島や」をさらに進化させ、全ての無駄を削ぎ落としてマジに結晶化させた一句だ。

自然や季節と向き合う中で、ついに言葉を失いマジしか言えなくなった芭蕉。

冷静になると、言ってることはマジマジマジ。そのあとに「芭蕉」と入ってるだけで「あれ、これってもしかして俳句?」と思わせる力のある芭蕉もすごい。

世界の全てにマジを届けたい

ここまで、マジをいくつかのタイプの文に入れ込んでみた。感嘆全般を請け負うことができるマジの柔軟性が確認できたと思う。

さらに目に見える形で、現実世界にマジを入れ込んでいこう。
世界をマジ化させる装置
世界をマジ化させる装置
作ってみたのはマジステッカー。厚手の紙にマジを印刷して、裏に両面テープを貼ったものだ。これさえあれば、世の中のどこにでもマジを入れ込むことができる。
おつかれさまですと言いたくなる
おつかれさまですと言いたくなる
24時間営業のスーパーの看板に貼ってみた。赤い地に黄色と黒のマジがよく映える。言ってる内容とそもそものテンションにマジがよくマッチして、24時間張り切って営業しているように見える。
信頼していいのか
信頼していいのか
相反する雰囲気
相反する雰囲気
ただし、同じく商業的な看板でも、もともとの雰囲気とマジがそぐわないものもある。「マジいい部屋ネット」は本当にいい部屋を紹介してくれるのか不安になる。

「マジ香りがくれる、くつろぎ。」はあんまりくつろげない予感がする。
路駐でいろいろあった雰囲気がにじむ
路駐でいろいろあった雰囲気がにじむ
マジが入って怒りがちらつき始める
マジが入って怒りがちらつき始める
お願い系は切実さ高める意味で、マジが入っていきやすい。「マジご協力をお願い致します」はマジでくだけておきつつ、そこから先はやけに丁寧で振れ幅が大きい。

犬のふんについての「マジお願い」は「ほんと頼むわ」という感じが出て、効果が上がるのではないだろうか。
はい、わかりました
はい、わかりました
ペンキがたれているこの手の表記は、それだけで得も言われぬ迫力があるが、そこにマジが加わることで訴求力アップ。「ここにゴミ捨てて見つかると、やばいことになるぞ」という予感がにじむ。
しっかり消火してくれそう
しっかり消火してくれそう
貼れないところはかざすだけでも
貼れないところはかざすだけでも
お願い系ではなくても、マジを添えることでメッセージ性が強くなるものもあった。消火器はマジがついていると、火をグイグイ消してくれそうにも見える。

「マジ左右確認」は実際に事故の多い交差点でこういう表記にしたら、事故が減るんじゃないだろうか。

こうして撮影していて、気付いたことがあった。電話が鳴ったので、手にしていたマジステッカーをとりあえず近くの柱に貼り付けたときだ。
超然とそこにあるマジ
超然とそこにあるマジ
周囲の文脈と関係なくマジ。ただそこに、いきなりマジがある。

マジしか言っていないのに、何かメッセージがあるような気がしてくる。何がマジなのかと想像させられて、不安や不気味さがやってくるのだ。
何かがマジ
何かがマジ
もうわかんないけどマジ
もうわかんないけどマジ
見る者に「わかんないけど、マジなんだな」と思わせるマジ。何がマジなのか不明なまま、ただマジであることはストレートに伝わってくる。2014年、マジの独立だ。

シーサーの表情とマッチするマジ
シーサーの表情とマッチするマジ
どんなところにも入っていき、空気を一変させるマジのエネルギー。最終的にはマジ単体でも謎のメッセージを放ち始めた。

感嘆の「ああ」もマジに当たるだろうから、女工を描いたノンフィクションは「マジ野麦峠」。「レ・ミゼラブル」は「マジ無情」だ。
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