子どもたちが運転するという感慨
小学校のときから、ほぼ毎年秋川に通ってきた。もうこれは別荘と呼んでも過言ではないだろう。
デイリーポータル上でも過去に2回、記事にしたことがある。
あのとき幼かった子どもたちは今や成人し、運転手をかってでるほどだ。
2人でのんびり過ごす川辺もわるくはないが、大人数はやっぱりたのしい。今回は2台で川をめざした。
わたしが運転を代わってしばらくすると、「頼むから運転させてください」と敬語で頭を下げてきた友人伊藤さんの長男。それほどわたしの運転には定評がある。(わるいイミで)
けもの道のようなを道を歩いて河原におりる
到着後すぐにやることは変わらない。飛び込みと川下りだ。 ザッバーン!
あれ……。ああああーーーっ! アレがない! アレが!
そうです。ゴムボートです。
食料以外は真剣に相談することもなく、基本人まかせなのでだれもボートを持ってきていなかったのだ。
これでは第2のメインイベントである川下りができない。んー
一大事件に、友人伊藤さんが「あなたたち何おっしゃってるの?」という顔で、にべもなくこう言い放った。
「ボートがなければいかだを作ればいいじゃないの」
「ここが無人島だってことにしましょうよ!」
文明の利器はつかってはいけないルールになっていた
よく考えてみれば、流木はたくさんある。なんとかなりそうだ。デイリーポータル的にももしかしてなんとかなりそうだ。わたしは軽い考えですぐに快諾。2~3人は乗れるいかだを想像していた。
よーし。やったるでー。の前の腹ごしらえ。
ミッション1 みんなで流木をあつめよう
まずは流木あつめから。各自方々にちらばって、落ちている木や川底に沈んでいる木を拾ってくる。(この時点でなにかがまちがっていた)
あきれながらも手伝うひと
ものすごくはりきってるひと
ビキニ女子だって拾います
ご近所にいたアークくんも手伝ってくれました
ミッション2 長さ、大きさをそろえよう
え。1時間かけて、たったこれだけ……。
そうなのだ。長さも太さもそろえるどころか木が短くしかも足りない。こうなったら一人乗りのいかだに変更するしかない。いつだって無人島は思いがけないハプニングの連続なのだ。
ミッション3 とにかく木を縛っちゃおう
木の皮を剥いで、縛るヒモの元にする。これがなんともクサい。
強度を増すためにねじったり編み込んでみたり……。
ココロモトなかった
川の水にさらされてきた木の皮は、どんなに手をつくしてもどうにも弱々しく、途中で切れてしまう。
もうこうなったら、持参しているビニール袋で代用しようかな。でもそれって文明だよな……。いやまて、無人島といえども、そこにあるものを使うのは反則ではないのではないか? と逡巡としていたころ……。
たくましい伊藤さんは、次男とともに山から下りてきた
ホレ、これを使いなさいよ、これを。
竹をもってきた。たしかに竹はなんだか強いイメージがある。地震にも強いと聞くじゃないか。そうだ。それを交互に編みこんでいけば、切れることもないんじゃないか?
ミッション4 竹で編んでみよう
いいっ! すごくいいコレ!
なんだかソレっぽいのができてきた
なんだかいろいろ不安になってきた。
なんだかいろいろヤケッパチになってきた。
旧知の仲の伊藤さんですが、こんなさびしいうしろ姿を見たことはありません
けしてあきらめない
ところが、すっかりあきらめきったと思っていた伊藤さんだがそうではなかった。
自分が乗ると(重量オーバーで)沈没してしまうことを想定し、悲しみにくれているだけであった。
だがその前に、このいかだで川下りができるのか、そもそも乗れるのか? という考えには及ばなかったのであろうか。
あのうしろ姿は決意の背中だったのだ。そして我々は、伊藤さんの指令により、最終ミッションに突入することとなった。マジか。
あきらめない親の姿
そろそろみなさん、思いつきで、しかも愚者たちがそろっていかだを作るとはどういうことかおわかりいただけたと思う。
しかし、長年この川で夏を過ごしてきたわたしたち親にとって、「あきらめる」という姿を子どもたちに見せてはならないということをあろうことか伊藤さんから学んだ。
ボーイスカウトでもアウトドア派でもないけれど、いや、だからこそあきらめません、下るまでは。
最終ミッション 川を下ろう(下れるものなら)
重いからではなく、崩れるのをおそれての3人がかり
もう必死でなにがなんだかわからない。
即撃沈
成功しました (親として)
たしかに乗ってすぐに沈没はしたものの、しっかりと手を離さなかったわたしは、数メートルいかだとともに川を下った(水中で)。あきらめないその姿を、子らに見せつけたのである。
映画キャスト・アウェイでトム・ハンクス演じるチャックのように、大波にも競り勝ついかだは作れなかったけれども、これはもう立派な成功と言えるのではないだろうか。親としての威厳を保てたとは言えまいか。いかだに負けて、親として勝った。というか言いたい。言わせてください。
即座に逃げる元ダンナ。親の風上にも置けない。
伊藤さん、ウケすぎだろ……。
無人島になにかひとつ持っていくとしたら?
うろ覚えだが、かつて、作家の森瑤子が、「無人島になにかひとつ持っていくとしたら?」と訊かれて「ビューラー(マツ毛をクルンとあげるグッズ)」と即答したと聞いたことがある。
わたしにはマネできないが、その美意識はかっこいいと思っていた。今なら紛うことなく答えることができる。
「ヒモ」
即答したいので、だれかわたしに訊ねてほしい。
成功と失敗のはざまで
なにやらおとなしいなあ……と思っていたら、伊藤さんがこんなものをわたしに突き出してきた。「ほら、アソビも作りなさいよ」
「ああ伊藤さん、本当はいかだに乗りたかったんだろうなあ……」という確信に満ちながら、わたしは彼女の歌声をしずかに聞いていた。
ほんとのところはわからない
賢明な読者でもざんねんながらそうでなくてもご承知のとおり、今回の発作性いかだ事件が成功だとは思ってもいません。
そして、ほんとうのところは、親として成功したかどうかだってよくわかっていません。
ただ、更年期を迎えようが、子どもたちが成人しようが、昔と変わらずめいいっぱい遊んで笑える場所、それがわたしたちにとっての秋川ということだけはたしかです。親たちが笑ってる姿を見せることだって、こどもにとって悪いことじゃないのもたしかじゃないかなあ~。
(下)正々堂々とお着替え中。笑わせるつもりなのかそうでないのか、この方に限っては一生ナゾのままだと思います。演歌歌手?