自信満々の社長さんに話をきく
訪れた先は新潟県新潟市の明電光。社長の中村さんに話をうかがった。「これね、確実に売上が上がるんです」と自信たっぷりにかたる。おもしろグッズじゃなかったのか。
新潟の住宅街に。おもしろの聖地といってもいいだろう
ちゃんと売上が上がるのか
――これちゃんと効果あるんですね
「特にね、フードコートの中、あと飲食店街。それと観光地。親子連れなんかできていると、子供が先に見つけ止まるんですよ。
それとこれが動いているといっぱい店があってもラーメン屋だってわかりますね。
あとは待ち合わせ場所にもなります。展示会なんかだと『これ見た見た!』って。上野で見たとかセンター街で見たとか覚えてるんですよ。
売上が上がるのと店を覚えられるのはまちがいないですね」
おもしろの社会的効果。子供は飛びつき待ち合わせ場所になるという。このサイトもおもしろ系なので少しホッとする。
明電光代表の中村さん。元々は自動販売機会社の営業で独立したという
発端は九州の看板屋さんが考えた
――そもそもこれ中村さんが考えたんですか?
「一番最初は九州の方の看板屋さんが作ったんですよ。おもしろいなと思ってうちの会社でも取り扱ってて。うちはもともといろんなもの売ってたんですね。LEDの表示器だとかもっと前はゲーム機。駄菓子屋の前に置いてあるようなストリートファイターとかその時代ですよね。
でももともとあったものは基本的には看板屋さんなんで、一つ一つムラがあるわけです。故障なんかした日には売って損するような状況が出てくる。200台くらい売ったけどやめたんですよ」
これって動くからおもしろいと同時に、動くから故障するのだ。 看板屋さんが故障に対応するってあんまりなさそうだし。
デザインはオーダーメイドのため、世の中にさまざまな動く麺看板が存在する
大手電機メーカー級の技術で再スタート
「そのあと新潟県の燕三条でうちに作らせてくれっていう人が来たんですよ。景気が悪い時期で、電機メーカー大手の製造ラインなんかを作るところ。そこで製造して販売したのが3、4年前かな。
もう電気関係とかはものすごく詳しいわけですよ。どれくらい負荷がかかってと最初から計算して作ってる」
今ある麺看板は実用にたえられるよう改良されたものらしい。こういうものでもちゃんとした会社が作っているのだ。
――どれくらいの重さなんですか?
「麺の部分が1.8kgくらいですね。それを2秒に1回こうやってんですよ。一日十時間で一万八千回ですか、一年間で600万回超えるわけですよ。それをこわれないようにしなくちゃいけない。一年以内に壊れたりしたらトラブルになりますから。
今はモーターは重さに対して三倍くらいの力をつけたりスライド方式っていって直接モーターに負荷がかからなくなってる。でもお客さんはそんな中のこと関係ないからね(笑)」
優雅に見える白鳥の水面下の話がおもしろでも行われていた。私達が笑うのは一瞬のために600万回の運動とそれを支える技術がある。なんて感動的なんだろう。実際に感動するかはまた別の話であるが。
この棒が上下に動くだけなんだがそれでも技術がないと製品にはならない
日本のものづくりの技術が支えていた
――こんなおもしろ看板にも燕三条のものづくりの技術があるんですね
「組み立てて作るものはねへんなところで作ると寸法あわなくなるんですよね。その点燕三条はきちっとしてるんですよ。
あそこに任せると金属加工にしたって何にしたって簡単にできるんですよ。看板なんてすぐボロボロになるけど、これ焼付けでできてるからほとんど錆びません。
物自体の仕組みは簡単ですよ。ただモーターの回転運動をギアボックスでクランクしてスライドにやってるから直接モーターに負荷がかからなくなってる。もうイタズラが多いからこれは」
イタズラ…たしかにありそうだ。
シャーッ
とにかくイタズラがすごい
おもしろの社会的負の効果、それはイタズラを呼び寄せることだろう。
――イタズラ多いですか
「酔っ払ったやつがけっぱったとかね、抱きついてひっくり返したとか『なんでお前動いてるんだ』っていちゃもんつけたとかね。
前のやつはね押さえつけるとモーター加熱するんですよ。それで今のやつは温度が上がると電源がパチーンと落ちるようになってますから。あ、こわれた!って思うらしいんですが、壊れてはいないんです。止めてるんです」
街のおもしろの敵は酔っぱらいだった。しかしメーカーもわかったもので、ちゃんと対策を施してあるのだ。
「もうこりたから、もう。イタズラすごいんですよ。バカなガキは麺をチョキチョキ切りやがるし…最初はね格子をつけてたんですよ。ところが子供がそこをつかんで上がろうとするんです。
ほっといて故障はないんですけどイタズラでやられるんですね。押さえるだけだといいんですけど上からガンガンガンガンこうやってこわしにかかる。アホがいるんですよ、世の中には(笑)」
アホをよびこむこと、これもおもしろの負の側面である。しかし”麺をチョキチョキ切る”というのはそんな正面から来るアホもありなのかというか、身も蓋もない感じでしびれる。
さわるなと書いてあることが多い
同業者がこわしにきた
「ある店で何回も壊されるなんておかしいおかしいって。調べてみたら同業者がやってたって。こういうのつけられると近くのとこはおもしろくないらしいですよ。
だから夜は麺と棒抜いてしまってるんですよ」
自転車のタイヤを外しておくようなものだろうか。おもしろが憎悪の矛先になるとは。
――そんなの予想外ですよね
「こういうものってやってみないとわからないことが起きてくるんですよ。風が強いところに置くと麺がどっちかに流れて、あたる部分が削れてくるとか。それも対策してます」
風で、風でラーメンの麺が流れる…一体だれがそんな状況を考えつくのだろうか。おもしろグッズのトラブル例は何やってもユーモラスだ。
「外国人にめちゃくちゃ人気あるんですよ、外国のテレビにも紹介されましたから」たしかに。上野でも写真に撮ってた
子供は登ろうとする
――でもその分子供喜びそうですよね
「高速道路のサービスエリアに多いですよ。奥の方にラーメン屋作ったけどお客がそこまでいかない。これつけたらお客がうわーって。つけてるところこの間見たんですよ、そしたらまあ群がってますね、子供が。
女の子はジーっと見てるんだけど、男の子はひっつかんで登ろうとやってる(笑)」
――そうか、さわりたいですよね、こんなの
「さわりたいんですよ、みんな。ぼーっと子供見てますからね。なんで動いてるんだろうって。
家族連れが多いところはほんと有効ですよ。子供がわーわー寄ってくるじゃないですか。オヤジにしてみたら探すのめんどくさいし、子供がいいっていうんだからじゃあここにしようって」
高さ211㎝とでかい。「そうしないと見えないですからね」 おもしろグッズにもこういう図があるのだ
動くものはリアリティだ
――でもこんな単純な機械がおもしろいってすごいですよね。
「箸が空中に浮いてるんですよ。だからリアリティがある。透明人間が持ってるんじゃないかって。どこかに出すでしょ、必ず看板の上見る人がいるから」
――……いますか?
「いますね。動くものっていうのはねリアリティがないとね、ふーんで終わっちゃうんですよ。
麺もいかにもラーメン屋の麺みたいにさわさわさわさわしてるじゃないですか。
展示会なんかで見てるとね『これは本物みたいに見えるな』と言う人が買うんです。ただ動くだけだとダメなんです」
たしかにそうだ。リアリティがあるからこの麺看板はなんかおもしろいのだ。動くものはリアリティ。工作系にも使えそうな言葉だが、おもしろ以外にあてはまるかはわからない。
そばにもリアリティがあるからこそおもしろい
幻のキャバクラバージョン
――麺類はぜんぶいけるんですか?
「あるのはうどん、ラーメン、そば。あと変形ものですね。七輪のせて焼き肉とかね、鉄鍋みたいにやってしゃぶしゃぶ下げてくれとか。いっぺんビールのやつも作ったんですよ。ジョッキが上がったり下がったり。
変わったのは『このどんぶりとって人形つけてスカートがめくれるようにしてくれ』ってキャバクラのオヤジが(笑) さすがに作らなかった。おもしろいけど、だれだこんなふざけたもの作ってるのはって言われたらね」
そのままでもけっこうふざけているが、ふざけたものにはふざけたものの志があるようだ。
ビールジョッキver.が存在した
「なめてるのかってなるから」
――麺類でもどこが多いってありますか?
「そば屋っていうのはあんまり置いてくれないですね。うちは江戸時代からやってるんだというようなところは置かないですね。
パスタもだめです。しょってるから。要するにかっこつけてるから。高級感をただよわせるような店には合わない。『なめてんのか』ってなるから(笑)」
――なめてるつもりはないんですけどね(笑)
「うどんはセルフのやつとか新しいのがあるしラーメン屋は自由だから置いてくれますね。ただラーメン屋でもバンダナなんか巻いてるようなのは買わないです。うちは味で勝負してるんだ、これふざけてるなっていう」
――ふざけてないんですけどね(笑)
「とにかくだめなやつはだめなんです。かっこつけてるところは買わない。スパゲティだとかそばとか」
パスタも試作品で存在した
値段はする
――価格が数十万円なんですよね…しますね
「しますします。でもね、そう思う人は買わないんですよ。これおもしろいうちのところの客寄せになるなと思った人が買うんです。買う人と買わない人がはっきり分かれるんです。買うところは前向き。で、気に入ってるんですよ、買う人たちは」
――これってずっと外に置いといてボロボロになってきませんか?
「屋外だとだんだん色があせてきますから麺は凖消耗品と考えてください。
東京だと環七とかだともうディーゼルがね。見えてなくても油脂分がついてそこにゴミがつくから」
――あ、環七沿いはすべての看板が黒くなってますよね
「ええ、うどんがそばになってました」
もう一つの商品、氷器製造機。こっちのほうが会社的にはいいらしい
おもしろグッズの地域性
――関西とか強いですか?
「やっぱり関西強いし西日本強いですね。九州ずいぶんありますよ。少ないのは東北ですかね。新しいものにとびつかない県民性もあるんじゃないですか。新潟もダメですね」
――大阪強そうですよね
「大阪は随分ありますよ。大阪のテレビに何回も紹介されてますしね。でもミナミあたりつけないほうがいいですね。宗右衛門町につけたところなんか朝起きたらなかったって。結局道頓堀にあったらしく。ボコボコにされますもん。
船場っていうんですか。繁華街じゃないのにあそこもボコボコにされましたね」
修羅の国、大阪。船場というのはおしゃれエリアでもあるのだがやはりボコボコである。
「あと海外もありますね。輸出してるんです。フランスとかで出てるんですよ、ラーメン屋さん。
外国なんかもっていくと大変らしいですよ、ものすごいイタズラで。フランスの店が最初に出したときみんなわーわーなんかやってて、そしたら持って逃げようとしたやつがいたらしく、店の中に入れたそうです。おもしろいもんだな~」
それもうイタズラじゃない。窃盗だ。
氷器製造機。手でガンガンやって氷を成形する
必要のない商品はまだある
――動く麺看板のほかに何があるんですか?
「もう一つは氷器製造機ですね。お刺身なんかを盛る氷の器をお店で作っちゃう。
四角の氷があるじゃないですか。あれをセットして手でガシャンガシャンってやってできる。
店がこれを買って中で作るか、業務用食材屋さんとかあとはでっかいホテルさんとかはこういうの持ってるんですよ。
もう10何年やってるけどこれが出るんですよ、不思議と。 でも地震でいっぺんバーンと。売上ガーンとオチました。うちの商品は必要不可欠なものじゃないからひどかったですよ」
こういう氷器ができるので刺し身などを盛る。冷えたままになるし合理的でもある。
いらないものだから大手がこない
――こういうの他にやってるところはないんですか?
「ないですね。うちみたいな零細がまだもってるのはよそがやってない商品をやってるから。
オーブンだとかフライヤーだとか必要なものあるじゃないですか、ああいうものは大手がすぐやるんです。必要ないものは大手がやらない。どれだけ売れるかわからないから。
麺看板にしたって氷器にしたって、なくても店困らないわけじゃないですか。そうすると大手でもうちから買えばいいやってなるわけですよ。
うちは人がやってないから生きてるようなものですわ。誰かマネして訴えて金もらったらやめたろかと思ってるんですけど(笑)」
あ、やめるのか。ふざけたものの志よ、どこへ。
そしておもしろはつづく
動く麺看板。冗談としてよくできてるのだ。こんなにユーモラスな動きをするものはないし、じっと見つめていると全身の筋肉が弛緩していく感覚がある。
そんなおもしろグッズが街にあるとどういうことになるのか。アホがよってくる。ボコボコにされる。しかしそれは効果の裏返しにほかならないし、そんな失敗談もすべて笑い話にきこえてくる。他人事だからかもしれないが、平和な時間が流れている。
おもしろサイトに書いてる身としては先輩を見るような感覚だった。誰もやってないことをやらないと生きていけない。マネされたら訴えたらやめる……あ、やめちゃうのか。
――次の麺看板、なんかあるんですか?
「ポンプで常に水を吸い出しておいて機械でバーンといかないかな。ししおどしの機械版、そういうもの。それでジョッキとかとっくりから水がドーッと出る」
――またいたずらされそうですね
「絶対やる(笑)」
「マネされたら訴えてやめようと思ってるんですけど」ものすごくドライ※ここは社長の写真を使おうとしましたが本人が1回で勘弁してくれと言ってましたので旧新潟税関庁舎の写真を掲載しています