特集 2014年8月8日

接写してみて分かったこと

いろいろなものを接写していくうちに面白いことに気がつきました
いろいろなものを接写していくうちに面白いことに気がつきました
いちおう写真を撮ることを生業にしているが、接写というものはやったことがなかった。小さいものやものの表面を拡大して撮ることだ。団地や工場の写真で手一杯だったし、接写ってすごくたいへんだと聞いていたから、手を出さなかったのだ。

しかしなんでも経験だ。やってみよう。

で、やってみたら、面白いことに気がついたよ。
もっぱら工場とか団地とかジャンクションを愛でています。著書に「工場萌え」「団地の見究」「ジャンクション」など。(動画インタビュー

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これらをなんてことなく食べてるかと思うと不思議な気分

なんで接写なんてやってみる気になったか、自分でもわからなかったが、今この文章書いてて思ったのは、昨年あたりからいよいよぼくも老眼が始まったので、近くのものをちゃんと見てみたくなった、ということなのかもしれない。悲しい。

ともあれ、以下はすごく不勉強なままてきとうなやり方で試行錯誤している顛末なので、接写に詳しい方が読んだら「ったくなにやってんだよ」と舌打ちのひとつもしたくなるような内容だと思います。たぶんイライラするだけだと思うので接写のプロの方は読まないほうがいいです。

と、言い訳をしておこう。

いやー、なんせ天体と接写はもともとうるさがたの多い写真界の中でも輪をかけて職人気質の分野なので怖いんだよね。それも今までぼくが手を出さなかった理由だ。おそるおそるやってみる。

まずどんな感じのものが撮れるのかを見て頂こう。
千円札の野口英世さんの目。マンガ「NARUTO」の登場人物のような渦巻きの瞳。
千円札の野口英世さんの目。マンガ「NARUTO」の登場人物のような渦巻きの瞳。
「接写」で検索するとお札の写真いっぱい出てくる。接写しがいがあり、かつ撮りやすい対象だからなんだな、と今回自分でやってみてよく分かった。どういうことかは後述。

それにしてもこんな目をしていたのね、英世。
ちなみにどれぐらいの倍率かというと、この定規の目盛りを撮ってみると…
ちなみにどれぐらいの倍率かというと、この定規の目盛りを撮ってみると…
こんなふうに写る。5mm強が36mmのセンサーいっぱいに写るので、このレンズはだいたい7倍ということだ。いまこの記事をiPhoneで見ている方は、画像の横幅が42mmぐらいなので、8.4倍の大きさで見ていることになる。
こんなふうに写る。5mm強が36mmのセンサーいっぱいに写るので、このレンズはだいたい7倍ということだ。いまこの記事をiPhoneで見ている方は、画像の横幅が42mmぐらいなので、8.4倍の大きさで見ていることになる。
さて、これは何でしょうか。(倍率は上と同じ。以下同様)
さて、これは何でしょうか。(倍率は上と同じ。以下同様)
プチトマトの断面です。
プチトマトの断面です。
あと接写写真の作例では野菜や果物もよく登場する。これもやってみると撮り甲斐があるんだよなー。なるほどなー。
こちらも食べ物です。
こちらも食べ物です。
しめじ。かさの際のところを撮ると、上のように。
しめじ。かさの際のところを撮ると、上のように。
これも食べ物だけど、この部分は食べない。
これも食べ物だけど、この部分は食べない。
ハマグリでした。いい模様してるよねえ、こうやってみると。
ハマグリでした。いい模様してるよねえ、こうやってみると。
おもしろい。こんなディテールをもったものをしれっと食べてるかと思うと不思議な気分だ。

あと思ったのは、人間の秘部を接写して公開したらどうなるのか、ということ。皮膚の拡大にしか見えないので、解説入れなければ何の写真か分からないだろう。7倍という倍率は法律の解像度を越えるのだ。たぶん。

ともあれでもまあ、こういう画像ってもうあんまり珍しくはないので(秘部はおいといて)、とくに驚きはないと思う。撮るのたいへんだったんだけどなー。

せっかくなので、どうやって撮ったかを見て頂こう。

レンズって逆にしていいんだ!

接写撮影の方法にはいくつか種類がある。いちばん簡単なのは接写専用のデジカメを使うことだ。1万円ちょっとで買える。いい時代になった。

だけど、ちゃんとしたクオリティで撮りたいとなるとかなりやっかいになってくる。顕微鏡に一眼のカメラを取り付けるとか。

ぼくの場合は何百倍もの倍率で見たいわけではないし、そんなにお金かけたくないので、そこそこの接写方法をとった。

なんとレンズを逆に付けるのだ!
20mm以下の短焦点(広角)のレンズを使います。
20mm以下の短焦点(広角)のレンズを使います。
「リバース・アダプター」などと呼ばれるこういうものがありまして(今回初めて買った)。
「リバース・アダプター」などと呼ばれるこういうものがありまして(今回初めて買った)。
これをレンズの対物側につけると…
これをレンズの対物側につけると…
なんと逆向きに付けることができるのだ!
なんと逆向きに付けることができるのだ!
なんか内臓がむき出しになっているようなやばい感じ。
なんか内臓がむき出しになっているようなやばい感じ。
広角のレンズを逆向きに付けると超接写ができるのだ。なぜそうなるのかの説明はややこしいので割愛。

ぼくがおもしろいなあと思うのは、そのためのアダプターを公式にカメラメーカーがつくっているという点。邪道なやり方だと思ったらそうじゃないってことなんだね。
向かい合わせでカメラつないだらおもしろいかも、と思ったけどなんか壊しそうなのでやめた。
向かい合わせでカメラつないだらおもしろいかも、と思ったけどなんか壊しそうなのでやめた。
さあ、これで接写ができるぞ、と意気込むわけですが、ここから先がたいへんなのだ。
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なにもかも手動

まずなにがたいへんって「オート」が使えなくなる。
レンズのピントや絞りを自動的にコントロールするための接点が、当然カメラと切り離されちゃうわけだ。逆だから。
レンズのピントや絞りを自動的にコントロールするための接点が、当然カメラと切り離されちゃうわけだ。逆だから。
カメラも困ってる(古いマニュアル用のレンズを付けた時と同じ表示)。
カメラも困ってる(古いマニュアル用のレンズを付けた時と同じ表示)。
ピントも当然手で(というか、後述するように、接写の場合そもそもレンズでピントを合わせることができない)。
ピントも当然手で(というか、後述するように、接写の場合そもそもレンズでピントを合わせることができない)。
子どもの頃、父親がもっていた全て手動の本格的だけど古いカメラを手にした時の困惑を思い出した。なにもかもマニュアルで、ってひさしぶりだ。

ピント合わないー!

ためしにまず手近なもの、百円玉で練習してみよう。って、やってみたら、これが噂以上にピントが合わない。
ほんとピント合わなくて、すげーいらいらした。
ほんとピント合わなくて、すげーいらいらした。
ピントが合わない原因は2つある。

ひとつは、前述のようにレンズのピントが使えない点。接写においては、ピント合わせるためにためには、なんとカメラ自体(あるいは被写体自体)を前後に動かさなきゃならないのだ。

つまり、もうピントが合う距離っていうのが決まってて、レンズでそれを操作することができないのだ。
なので、カメラの位置をスムーズかつ微調整できるスライダーを買った。
なので、カメラの位置をスムーズかつ微調整できるスライダーを買った。
「こういうものも必要なのか…」ってやっていくうちにどんどん買うものが増えるのも接写の醍醐味である。
ほかにもいろいろ必要になって買い増ししていったらレンズにこれだけのものを装着することに。
ほかにもいろいろ必要になって買い増ししていったらレンズにこれだけのものを装着することに。
最終的にこんなふうに!なんだこれ。
最終的にこんなふうに!なんだこれ。
いや、醍醐味じゃないよう。なるべくお金かけたくなかったのにー。

ともあれさて、ピントが合わない2つめの理由は、ピントが合う範囲がものすごーーーーく狭いという点。
百円玉がちょっと斜めになっただけで、もうピントが合わない。
百円玉がちょっと斜めになっただけで、もうピントが合わない。
専門的な用語でいうといわゆる「被写界深度が浅い」ということだ。接写じゃなければピントが合う範囲にはある程度余裕がある。おおざっぱに言うと、ふつうは例えば10m先のものにピントを合わせれば、11mの位置にあるものもちゃんと写る。

ところがこれぐらい接写になると0.1mmずれたらもう合わない。しかも「絞りを絞ってピントが合う範囲を広げる」という手法も使えないのだ。シビア!(専門的に言うと「回折」という現象が起こっちゃって、絞ると解像度が落ちちゃうのだ)

ちょっと前に流行った、中心部以外をぼかしてミニチュアのように見せる「ミニチュアライズ」という手法があるが、わざわざぼかさなくてもミニチュアライズになっちゃってるわけだ。なんせほんとにミニチュアだから。

あのミニチュアライズがおもしろいのは「ピントが合っている範囲が少ない写真は小さいものを撮ったものだ」というリテラシーがみんなのなかにあらかじめあったという点だよね。

ミニチュアライズの逆をやる

このピントが合う範囲が極端に狭いという問題を、接写のプロたちはどう解決してきたか。なんとピントを少しずつずらして撮って合成する、ということをしてきたのだ。すごい。
例えばこのコーヒー豆を撮ってみよう。
例えばこのコーヒー豆を撮ってみよう。
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コーヒー豆ったら丸いのでごく一部にしかピントが合わない。
コーヒー豆ったら丸いのでごく一部にしかピントが合わない。
百円玉ならまだいいほうで、コーヒー豆ぐらい奥行きがあると上のようにほとんどの部分にピントが合わなくてなんだかよくわからない写真になってしまう。

それにしてもコーヒー豆に奥行きを感じる日が来るとは思わなかった。「奥行きのある豆」ってなんだかコーヒーのコマーシャルでありそうな表現だが、こちとら物理的な奥行きの話だ。
慎重にピントをずらしながら同じ構図で撮る。
慎重にピントをずらしながら同じ構図で撮る。
それぞれピントが合っているところ以外消す。
それぞれピントが合っているところ以外消す。
もうなにがなんだか。
もうなにがなんだか。
全部合わせると、こんなふうになる!最初のと比べてみてください。
全部合わせると、こんなふうになる!最初のと比べてみてください。
つまりこれは「ミニチュアライズ」の逆だ。

よく見るとピントを合わせ損なってる部分があるが、もうぼくにはこれが限界だ。ミニチュアライズよりはるかにたいへんだ。
もう使わないんだけど何となくとっておいちゃうもの代表・メモリ。高かったし、っていって捨てられないんだよね。使わないのに。
もう使わないんだけど何となくとっておいちゃうもの代表・メモリ。高かったし、っていって捨てられないんだよね。使わないのに。
これも手前から置くに向けて4段階でピントをずらして撮ってみた。おそらくこの部分の高さ0.4mmぐらい。
これも手前から置くに向けて4段階でピントをずらして撮ってみた。おそらくこの部分の高さ0.4mmぐらい。
合成すると、こんな。
合成すると、こんな。
おどろくのは、昆虫や鉱物結晶の写真の方々はこの作業をフィルムでやっていたということだ。合成のたいへんさもさることながらちゃんと撮れてるかどうか確認すらできなかったのだ。まったく恐れ入る。

「たいへんたいへん」って弱音を吐いちゃってるけど、デジタルになってかなり楽になったのだよなあ。
接写だと当然一部だけになっちゃうので、百円玉は横に撮ったものをつなげてみよう。
接写だと当然一部だけになっちゃうので、百円玉は横に撮ったものをつなげてみよう。
これがつないだもの(大きな画像はこちら)
これがつないだもの(大きな画像はこちら

なに撮ってもおもしろい

さて、ここからが本題。この接写カメラをもって、外に出てみよう。
すごく暑い日でした。
すごく暑い日でした。
工場やジャンクションなどを撮ってきた人間なので、どうも部屋の中で撮影が性に合わない。やっぱり外だよな!と思って出たものの、何を撮ればよいものやら。
通行人にすごく怪訝な顔で見られました。そりゃそうだ。
通行人にすごく怪訝な顔で見られました。そりゃそうだ。
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これが電柱の接写の結果。すごいごつごつ!
これが電柱の接写の結果。すごいごつごつ!
「何を撮ればよいものやら」と書いたが、何を撮っても面白い。なんせ肉眼で見ている風景を全く違うのだから、被写体選びに迷ってもしょうがないのだ。

なのでアスファルトを撮ってみよう。
しまった。地面を接写できるような三脚じゃない!
しまった。地面を接写できるような三脚じゃない!
接写の難しさをあらためて痛感。
接写の難しさをあらためて痛感。
結局塀に押しつける、という荒っぽい解決策。
結局塀に押しつける、という荒っぽい解決策。
すごい!峡谷だ!アスファルトには豊かな地形が隠れていたのだ。
すごい!峡谷だ!アスファルトには豊かな地形が隠れていたのだ。
いわゆる菱形金網を撮ってみる
いわゆる菱形金網を撮ってみる
暑い。腰が痛い(三脚の脚伸ばせばいいだけなんだけど、気づくとなぜか中腰)
暑い。腰が痛い(三脚の脚伸ばせばいいだけなんだけど、気づくとなぜか中腰)
つるつるに見える金網の表面も拡大するとこんな。
つるつるに見える金網の表面も拡大するとこんな。
と、何を撮っても発見があって面白いのだが、外で接写には強敵がいた。風だ。
ほんのちょっとの揺れが致命的。
ほんのちょっとの揺れが致命的。
猛暑の中、本来はありがたいはずの風がうらめしい。

接写なのでほんのちょっとの揺れが致命的なのだ。室内ですら苦労したぐらいだ。
どのぐらい敏感かというと、このぐらい。ちょっと触っただけでぶれる。
シャッターを押すだけでぶれる(なんならカメラの「かしゃっ!」っていうミラーのアクションでぶれる)ので、レリーズは必須。
シャッターを押すだけでぶれる(なんならカメラの「かしゃっ!」っていうミラーのアクションでぶれる)ので、レリーズは必須。
まさか望遠レンズの対極でぶれに悩まされるとは思わなかった。
まさか望遠レンズの対極でぶれに悩まされるとは思わなかった。
ピントは合わないわ、すぐぶれるわ。接写ってほんとたいへん!

外はざらざら、中はつるつる

で、ふつうあまりやらないであろう「外で接写」をやってみて気がついたことがある。それは「外はざらざら、中はつるつる」ってことだ。
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「外はざらざら、中はつるつる」。何のことかというと、前ページの電柱やアスファルトを見ると分かるように、屋外にあるものの表面はすごく粗い。

一方、屋内にあるものはすごくつるつるだ。
たとえば炊飯器。
たとえば炊飯器。
アスファルトなんかと比べると驚くほど肉眼で見た時との違いがない。
アスファルトなんかと比べると驚くほど肉眼で見た時との違いがない。
家電や食器、スイッチや家具など、人の手が触れるものってすごくきめ細かくできているということを実感。
文庫本。文字の印刷ってこうやって見るとほんと精密だよなー!
文庫本。文字の印刷ってこうやって見るとほんと精密だよなー!
こんな使い捨てのものでも、
こんな使い捨てのものでも、
表面つるつるだ。
表面つるつるだ。
これが100倍ぐらいになると別の世界が見えてくるんだろうけど、10倍前後だと室内のものって肉眼で見るのと変わらない。皮膚が接触するプロダクトのキメの細かさにはそれぐらいの解像度が必要だということだ。

それが屋外になって、皮膚から遠くなるとがくっと解像度が下がる。アスファルトに自ら接近してみて、そういえば大人になってから地面に触ることってないな、と思った。ぼくらは知らず知らずのうちに屋内と屋外で、環境物に対する接触距離のモードを一桁ぐらい変えているということだ。

例外は自動車だ。あれは外にあるくせに家電レベルのなめらかさをもっている。

あと、樹木が「屋外と屋内の2レベルを併せ持つもの」だというのも発見だった。
樹を接写してみたらおもしろかった。
樹を接写してみたらおもしろかった。
幹はアスファルトや電柱と同じように、ごつごつしているが
幹はアスファルトや電柱と同じように、ごつごつしているが
葉っぱは家電に近いきめの細かさ!
葉っぱは家電に近いきめの細かさ!
と、接写してみたらちょっとおもしろい発見がありました、って話でした。

同じ屋内・屋外でも例えば駅構内のものとか昔の家具とかプールとか、用途・機能が違うときっとそれもまた解像度が異なるんだろうな、と思う。撮りたいけどこのカメラもって駅とかプールとか無理。

引き続き撮っていきたいと思います

ディスプレイもつるつるだけど、同時に別の世界が見える。
ディスプレイもつるつるだけど、同時に別の世界が見える。

【告知:2014年8月15日コミケに工場・ジャンクション写真集出します!】

2014年8月15日コミケに工場・ジャンクション写真集出します!【西あ-64b「工場萌え」】

ここのところアートフェアで「作品」として売っている工場写真とジャンクション写真の「作品集」。タイトルは「ままならなさへのまなざし」。いままでと違って工場好きのための記録写真というより「作品感」あります。(詳しくこちら
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