描いてきました。
へそ。すなわち体の「まんなか」。
そんなおへそに、「我こそは○○(土地の名前)のまんなかだ!」という主張をかけ、おへそまわりに顔面の絵を描いて踊り歩くお祭りが、夏まっさかりの日本の各地で催されています。
「北海道のまんなか」富良野の「北海へそ祭り」。「広島県のまんなか」豊栄町の「どまんなか豊栄へそ祭り」。「東京都板橋区のまんなか」中板橋の「なかいたへそ祭り」。
そして、「日本のまんなか」群馬県渋川市の「渋川へそ祭り」。
と、日本地図をがっしりと脳裏に刻まれている方などからは、「え、群馬って……『日本のまんなか』?」っていうご指摘もちらほら聞こえてきそうな気もしますが。
「お腹に絵を描くってどんなかんじなんだろう?」
見ているだけじゃ物足りないので、実際に絵を描かせていただきつつ、渋川へそ祭りに参加をしてみました。
どうやら、雨に縁のあるお祭りらしいという話
「我こそは日本の中心だ!」そう名乗りをあげている市町村は数多くあります。
そんな中のひとつ・群馬県渋川市。
昭和58年に市のキャッチフレーズを「日本のまんなか緑の渋川」と制定したことを契機に、翌年からは「渋川へそ祭り」開始。以来毎年、声高らかにまんなかアピールを繰り返しています。
肝心なその根拠については、こんな一説を発見しました。
北海道から九州。 …きゅ、きゅうしゅう……?
ちょ、ちょっと待ってください。
沖縄の存在が、除外をされているような………
うん、完全に除外されていますね。(っていうか、ほかの島もいろいろ抜けてる)
なんて。がっかりした風をよそおってしまいましたが、いやいやこれは想定の範囲です。むしろそのマイウェイな感じ、わたしは好きかもしれない。
そう。それよりも衝撃的だったのは、観光課のおにいさんのこの台詞です。
と、畳み掛けられること3回。(さいごはメールで)
き、気を取り直させてください……。
自然の摂理にはあらがえないけど、せめて神頼みはしとこう。
前日の夜は、ホテルから夜空に向かって熱烈に晴れを乞いました。
雨、降るんじゃねえぞ。
ちなみに。ついなんとなく「夜空」って書いてみてしまいましたが、厳密に言うと、ホテル前のぼろくて高層な謎の建物に遮られ、夜空はほとんど見えていません。
見えていたのは大胆に割れたホテルの壁。ひどい。
使うのは手だけじゃなかった
そんな崩壊した壁との一夜を経て、お祭り当日。
とりあえず、いまのとこの天気は晴れ。よかった!
お腹に絵を描かせていただくため、受付テントへと向かいます。
そして。おお、スタッフTシャツがもらえました。
はじめての場所(へそ祭り)での、はじめての作業(お腹に絵を描く)。
ああ、なんだか。
もう忘れかけていた、アルバイト初日の心持ちのようなものが蘇ってきます。
お道具たち。灰皿の山は絵の具皿に利用をします。
こちらは、お腹に塗るおしろい。
水で溶かしていきます。なんだろう、子供の頃に母親のドレッサーで嗅いだような においがする。
と。準備をすすめるうちの踊り手の方も続々いらっしゃいました。そして
おしろいが上半身一体に塗られてゆきます。
そして、乾かすためにうちわをひたすら振る。
振る!!
この状況を見て「え、こんな状態で絵を描くんだ!」そう思った方はいらっしゃいますでしょうか。わたしは思いました。ええ、かなり思いました。
なんというか、まな板と魚と板前の関係に酷似しすぎている気がします。
さて、わたしも描きます。
ぬ、塗ります……
あ、まゆげが脇に垂れてしまった!
が、どうにか完成しました。
ちなみに、写真だとわかりづらいのですが。このときのわたしの筋肉組織一団は、慣れない体勢に四苦八苦して、終始ぷるぷると小刻みに震えています。
こちらは描くのふたりがかり。多分全員が、自分の筋肉と戦ってます。
これはもう、相当量の全身運動です。昨日の夜の大盛りスパゲティも、朝方食べた食パンも、その後食べた舞茸のてんぷら+水沢うどんも。全部が全部、消費されていく予感しかしません。
「ああ、いっぱい食べといてよかった。」
思わず、自分の食べ過ぎの履歴を全肯定してしまいました。
仕上がりと同時にはじまる、新しい世界
それにしても、今温度計は何度をさしているのでしょうか。いや、わざわざ見なくても頬をしたたる汗の量で、なんとなく理解はできます。
暑い。ものすごく暑い。
そして。周囲の腹絵は決戦の時を前にすでに崩壊をはじめ、かつてのわたしたちの筆致は、自然の驚異であらぬ方向へと向かっていきます。
ポスターカラーと汗とが織りなすハーモニー。
わたし作・ビタワンのイヌみたいな輩も……
したたる、したたる。
おお、彼らいったい、これからどうなっていくのでしょう。
おお、彼らいったい、これからどうなっていくのでしょう。
さて、ついにパレードが幕を切りました。
オリジナルの音頭に合わせて、みなさん軽快にステップを踏んでます。
♪「へそ出せヨイヨイ」「へそ出せヨイヨイ」 叫んでます。
いつのまにか、人も仰山あつまり……
そして、わたしのお仲間っぽい人も、ちらほらと。
こちらはだいぶキャラ色の強いお腹の団体さん。右側の人は顔も白い!
女性は、Tシャツで参戦してます。
と、「ちょっと待って。このパレード、いつまで続くんだろうか。」
見ていて20~30分ほど経った頃、なんとなく脳裏によぎる思い。
踊りも音楽もひたすらにリピートをされ、踊り手の人たちは巡回巡回。
観る側は全然飽きないんですが、踊っている側はそろそろやばいのでは?
♪「へそ出せヨイヨイ」「へそ出せヨイヨイ」 ……
♪「へそ出せヨイヨイ」「へそ出せヨイヨイ」 ………… (い、いつまで続くの?)
「ここで、5分間の休憩にはいります」(場内アナウンス)
ああ、よかったー。休憩キタ!
どうやら、しばらく踊って5分の休憩・しばらく踊って5分の休憩…という流れのようです。
休憩時間には、陽気なへそソングが流れ、疲弊した踊り手さん達のテンションをあげようともくろんでいるようにも感じます。
そうか。これ、パレードのお面をかぶった持久走……
持久走なのかも、しれないな。
ビールの泡も自然に溢れ出しました。
お、おおお……。
!!! あの時のカエルが……。
そして、ビタワンもどきもこんな展開をむかえていました。
圧巻です。自分の意図しない方向に、絵がどんどん進化(これ、退化ではないとおもう!)していく醍醐味は、机の上で作業している(わたしはふだん、机の上で絵を描いています)時にはけっして味わえなかったこと。
ああ、すごいな。すごいぞ。
雨は降らなかった
ところで。このパレード、腹踊りだけではないのです。その傍らで地域のダンスサークルのおばちゃんたちも、生き生きと踊りを繰り広げているのです。
エネルギッシュ!!
おもわず見惚れてしまいました。
「わたしも、いつかジャズダンス同好会に入ろう」ひそやかに今、そうおもっています。
そうそう。こんなおじさんもいましたよ。へそを出さない派。
2時間にわたるパレードも、無事にフィナーレを迎えました。
おお、そういえば。雨は最後まで降りませんでしたね。
まさかまさか、昨夜のてるてる坊主作戦が功を奏したのでしょうか。
おお、それなら本望。本望すぎます。
だって実は。やりすぎかなーとおもいつつ、当日の移動のさなかも、リュックにてるてる坊主をくくりつけていたもんで……。
お祭りのおかげで熱い夏になりそう
ところで。地元の若者が「へそ祭り」を「へそま」って略して呼んでいることに衝撃を受けました。「へそま」。おお、なんだか「つけま(つけまつげ)」みたいじゃないの。
そんな訳で、地元の若者風に言うときっとこんなかんじです。「へそま、チョーサイコーだった!」
(それにしても。双方とも5文字中2文字しか略していないのだけど、やはり略称って必要なんですかね?いや、それを考え始めると「つけま」文化にまで浸食をしてしまう、やめよう。)
びしょびしょのスタッフTシャツを脱いだのち、かっこんだビールは格別の味だ。
お祭りは、観客でいるだけじゃもったいない。汗にまみれてみたほうが数倍楽しめると感じています。新参者のわたしを快く受け入れてくれた渋川市の皆さま、ありがとうございます!