特集 2014年8月1日

「もりみず」それはふれあいの言葉

もっと多くの人に知ってほしいイベント
もっと多くの人に知ってほしいイベント
山奥にあって、ちょっと寂しくて、なんだかお固いイメージのあるダム。

そんなダムだけど、年に1度、7月の最後の週は日本中のダムがいっせいにイベントを開催する。「森と湖に親しむ旬間」と言って、国土交通省と林野庁が主体となって森林やダムの役割や重要さをPRする期間なのだ。

時期を見ても分かるように、主に夏休みに入った小学生などを対象としたイベントだけど、ふだん見られないダムがイベントを行っていたり、われわれダムファンにとってもお祭り期間。「今年のもりみずどこ行く?」という会話がこの時期のお約束だ。

そんな「もりみず」イベントを1日体験してきた。
1974年東京生まれ。最近、史上初と思う「ダムライター」を名乗りはじめましたが特になにも変化はありません。著書に写真集「ダム」「車両基地」など。
(動画インタビュー)

前の記事:気合いで信号を変える選手権

> 個人サイト ダムサイト

鬼怒川でもりみずを体験!

「森と湖に親しむ旬間」のイベントが行われるダムは、国土交通省のホームページ内に一覧表のリンクがある。

それを凝視しながら日程と内容を吟味して、僕が今回「もりみず」イベントを体験するために向かったのは栃木県日光市。鬼怒川の流域に作られた4つの大きなダムをめぐった。

1年間でたった1日だけ、4ダムが同時に見学会などのイベントを開催しているのだ。
関東地方を代表する巨大ダム密集地帯である
というわけでまずやってきたのは、1956年にこのエリアの巨大ダムの中で最初に作られた五十里ダム。

高さ112mは当時一瞬だけ日本一に輝いたこともある(数ヶ月後にもっと高いダムができた)立派な重力式コンクリートダムだ。
江戸から五十里(約200km)の距離なのでこの名になった
江戸から五十里(約200km)の距離なのでこの名になった
ダムの上にヘルメットをかぶった集団が見えた
ダムの上にヘルメットをかぶった集団が見えた
朝に自宅を出発して、五十里ダムに到着したのは10時くらい。駐車場からダムの方を見ると、早くもヘルメットをかぶった集団がダムの上を歩いているのが見えた。今日は9時から見学会が行われているのだ。

さっそくダムの方に行ってみよう。
駐車場の電光掲示板でもアピール
駐車場の電光掲示板でもアピール
大きな看板でウエルカムモード
大きな看板でウエルカムモード
ダムの管理所前には受付ができていた。ここで名前などを記入(万が一の傷害保険のためとのこと)すると、ダムカードとオリジナルのカードホルダーがもらえた。

このカードホルダー、今日めぐる4ダム分が1枚に収められていていい感じ!
次々と人がやってきていた
次々と人がやってきていた
すごく手が込んでるカードホルダー
すごく手が込んでるカードホルダー
いつもは静かなダムも、この日は大勢の職員さんがスタンバっていて、受付した人が何人か集まるごとに見学に出発していた。
では僕のグループも出発!
では僕のグループも出発!
内容は、ダムの上を歩きながら役割の説明、放流する設備の説明、そしてダムの中を通るエレベーターで下に降りて内部の見学、といった感じ。
歩きながら説明を受ける
歩きながら説明を受ける
ちょうど放流中だった
ちょうど放流中だった
こんな場所にエレベーターが
こんな場所にエレベーターが
ダムの中に降りてきた
ダムの中に降りてきた
中はこんな雰囲気のある点検用通路が通っている
中はこんな雰囲気のある点検用通路が通っている
貯水池の水に冷やされて、ダムの中は年間を通して10度前後なのでこの時期は涼しい(逆に冬は暖かく感じるという)。

そして50年以上経った人工のトンネルはダンジョン感はんぱない。引率の職員さんについていくと、放流する水門の駆動部が現れた。

これも巨大で、ダムという施設のスケールの大きさを体感することができる。
ダムの中にある水門を動かす巨大なシリンダー、ものすごい非日常感
ダムの中にある水門を動かす巨大なシリンダー、ものすごい非日常感
とまあこんな感じでダムの上に戻って、全体でおよそ1時間弱の見学会は終わり。希望者には、ダムに流れ着いた流木で作った木炭がお土産に配られた。

各地のダムに見学に行っているマニアからするとやや物足りない気もするけど、ほかのダムでも行われている見学会をめぐることを考えるとちょうどいいのかも。それに無料だし、何より予約しないでふらっと行って見学できる気軽さがいい。

なんて偉そうなことを思いながら次のダムに向かった。
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最新のダムを見上げる!

次にやってきたのは、五十里ダムからほんの数キロ上流に2012年にできたばかりの湯西川ダム。高さは119mで五十里ダムと同じくらいの大きさの重力式コンクリートダムだ。

打ちたてのまだ真っ白なコンクリートがとても美しい。
風雨に晒されて徐々に黒ずんでしまうので真っ白い姿を見られるのは今のうちだけ
風雨に晒されて徐々に黒ずんでしまうので真っ白い姿を見られるのは今のうちだけ
ここは、引率の職員さんがつかない代わりに、ダムの上と下をエレベーターで自由に行き来することができるようになっていた。

つまり時間を気にせず真下から好きなだけ眺めていられるのだ。
新しいので広くてキレイ
新しいので広くてキレイ
完成してまだ2回目の「もりみず」
完成してまだ2回目の「もりみず」
通行可能な場所は自由に観てまわれる
通行可能な場所は自由に観てまわれる
僕は巨大なダムを真下から見上げるのが何よりも好きなので、さっそくエレベーターに乗ってダムの下に降りてみた。
ダムのエレベーターっててっぺんが1階でダムの下は地下なのが面白い
ダムのエレベーターっててっぺんが1階でダムの下は地下なのが面白い
内部の通路には説明パネルがズラリ
内部の通路には説明パネルがズラリ
およそ100mくらいエレベーターで下りてダムの外に出る。振り返ると、そこには超巨大なコンクリートの壁がそびえ立っていた。

この景色がたまらないのだ。これが見たくて僕はダムをめぐっているようなものである。
本体のコンクリートをぺたぺた触ったりもできる
本体のコンクリートをぺたぺた触ったりもできる
寄りかかってぼーっとしたい
寄りかかってぼーっとしたい
ダムの下はちょっとした広場になっていて、自由に歩き回れるようになっている。

そこには高所作業車が止まっていて、なんと体験乗車ができるというので子供たちに交じって並んだ。
僕もあそこからダムを見たい!
僕もあそこからダムを見たい!
安全帯をつけて乗り込む
安全帯をつけて乗り込む
上昇してるのに気づかないくらい乗り心地が良かった
上昇してるのに気づかないくらい乗り心地が良かった
大迫力すぎてカメラにはぜんぜん納まらない!
大迫力すぎてカメラにはぜんぜん納まらない!
安全帯をつけて乗り込むふと下を見たらリアルな高さで腰が引けた
安全帯をつけて乗り込むふと下を見たらリアルな高さで腰が引けた
でもこの位置から見ないと分からない小さなジャンプ台を発見!
でもこの位置から見ないと分からない小さなジャンプ台を発見!
やっぱり下から眺められるダムはいい。なんて満喫していたけどもうお昼を過ぎてしまった。見学会は3時までなので、次のダムに急いだ。
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キャットウォークを歩く!

次にやってきたのはこの鬼怒川4ダムの中でもっとも奥地にある川俣ダム。

1966年に完成したアーチダムで、高さは117m。ものすごく谷の狭い場所に造られている。
日本のダムの中では比率的に縦長に見える川俣ダム
日本のダムの中では比率的に縦長に見える川俣ダム
かなり山奥なので、いつ行っても割と閑散としているダムだけど、この日は駐車場が満車だった。こんなに混んでいるのを初めて見た。

受付に行くと、キャットウォーク見れますよ!とのこと。

キャットウォークとはアーチダムの外側の壁につけられた点検用の細い通路のことで、高所恐怖症の人はまず歩けない場所だ。

それにしてもそれほど一般的でない用語がポンと出てくるあたり、ダムの中の人もアーチダムの見どころはキャットウォークなんだ、と思って嬉しさととまどいを感じる。
ダムの外側についた細い通路がキャットウォーク
ダムの外側についた細い通路がキャットウォーク
受付を済ませるとヘルメットを手渡され、さっそくエレベーターで下に降りる。

ダムの真ん中よりやや下についているキャットウォークのところでエレベーターを降り、職員さんの案内を聞きながら細い通路を進む。

キャットウォークはダムが薄くて中に通路が作れないアーチダムのための通路なので、目視でダムを点検したり、通路沿いにはダムに異常がないか調べるセンサーや計測機器が並んでいて、それらの詳しい説明をしてもらった。

けどもう目の前の景色がすごすぎてほとんど耳に入ってこない!
割と現実的な高さで足がすくむ
割と現実的な高さで足がすくむ
そして足元はスカスカ...
そして足元はスカスカ...
上を見ても圧倒される
上を見ても圧倒される
分かってるけど行ってみたいよね
分かってるけど行ってみたいよね
キャットウォーク見学できるダムがあったらぜひ行ってください
キャットウォーク見学できるダムがあったらぜひ行ってください
アーチダムの見学に行ったらキャットウォークはぜひ歩いてみたいけど、経験上流動的で、設備が古かったり、危険だからとキャットウォークを歩かせてもらえないダムもある。

また、偉い人の判断で変わる場合もあって、去年まで大丈夫だったのに管理所長さんが変わって不可になったり、もちろんその逆もある。

特別に見せてもらっているので、こればかりは仕方ないのだ。
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キャットウォーク2連発!

最後に向かったダムはこのエリアでいちばん大きい、高さ140mのアーチダム、川治ダムだ。このエリアだけでなく、アーチダムとしては関東地方でも最大である。
本物は写真と比較にならないくらいでかいです
本物は写真と比較にならないくらいでかいです
川俣ダムから急いで戻ってきたのだけど、時間が終了ギリギリになってしまった。でもそのおかげか、一緒に見学するグループは僕のほかに偶然通りかかって来てみた、という老夫婦1組だけだった。

ここも主な見学内容はキャットウォークである。ただしエレベーターが岩盤の中を通っているので、キャットウォークに出るまでにトンネルの中を歩く。これまでのダム見学のいいとこ取りな感じだ。
アーチダムが刺さっている岩盤の中を通るトンネル
アーチダムが刺さっている岩盤の中を通るトンネル
ダムの中に小さなダムがあった(岩盤から染み出る地下水の量を計測している)
ダムの中に小さなダムがあった(岩盤から染み出る地下水の量を計測している)
一緒に見学した老夫婦は偶然車で通りかかって「見学会開催中」という看板を見て何だろうとやってきたらしい。

ダムを見たかったわけでもなく、何気なく寄ったらこんなところに来ることになって「まあすごいわねー」を連呼していた。
案内の職員さんも、お客さんついてますよー、今日しか見れないですからねーと言っていた。僕もそう思う
案内の職員さんも、お客さんついてますよー、今日しか見れないですからねーと言っていた。僕もそう思う
心の準備なくこの状況ってどんな感じなんだろう
心の準備なくこの状況ってどんな感じなんだろう
ここも足元はスカスカである。下からの高さは60mくらい
ここも足元はスカスカである。下からの高さは60mくらい
とまあこんな感じで、1日で4ヶ所のダムの見学ができた。本当は各ダムの見学内容はもう少し細かい部分もあるんだけど、ここではダイジェストとして紹介した。

どのダムも大勢の人が訪れて、ダム見学を楽しんでいた。僕はダムで知り合った何人かの人とここで偶然会ったりもした。

また、「もりみず」のイベントとしてもこれは一例で、各地のダムでさまざまな趣向を凝らしたイベントが行われているので、ぜひ気になったイベントを調べてほしい。今年はほとんど終わってしまっているけど、一部8月にも行われるイベントもある。

というわけで、ダムやダムの中の人、そしてダム友とふれあえる「もりみず」はもっとメジャーになって盛り上がってほしいな、と思う。お近くのダムに気軽に出かけてみてください。
見学終わって上がってきたらちょうど撤収しているところだった。あぶなかった
見学終わって上がってきたらちょうど撤収しているところだった。あぶなかった

ダム側もがんばってください

いち見学者として楽しかったのだけど、見学させてくれるダム側にも少し注文があって、たとえば説明の人が割と専門用語をそのまま使うので(僕らダム好きは分かるけど)一般の人向けには難しいなあ、と思ったり、見学ルートが小学校の社会科見学でも行っているようなオーソドックスなコースなので、もう少し特別なルートを企画してほしいなあ、などと思った。

あと9時開始はいいけど3時終了はお昼食べる余裕がなくて、やっぱり少し早いと思った。あと1、2時間あればどこか地元のお店でお昼を食べられたのだ。

それから「もりみず」は国交省が主催なので国交省系のダムだけが対象なのだけど、ぜひ発電や農業用のダムも参加してほしい。ということは経産省と農水省か、さすがに難しいですかね。
ではまた来年!
ではまた来年!
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