特集 2014年7月30日

モンブランの山頂でモンブランを食べてる場合じゃなかった

さぁ出発だ

また、ガイドの行動がいちいち素早い。速攻で朝食(パンとコーヒー)を食べたと思ったら、もう外で準備をしていた。僕らも日本では行動が早い方だと思っていたのだけど、ヨーロッパのガイドはレベルが違った(そりゃそうか)。

水をたっぷり飲んで寝たが、若干頭が重い。わずかに高度障害である。行動に支障が出るほどではなかったので、ガイドには「サヴァ(元気)」と答えておいた。
この緑のウェアを着てるのが僕らのガイド。彼に命を託す。ちなみにガイド料は1人800ユーロでした。
この緑のウェアを着てるのが僕らのガイド。彼に命を託す。ちなみにガイド料は1人800ユーロでした。
2時。ヘルメット、ハーネス、防寒具、ヘッドランプを装備して出発。天気は問題無し。雲一つ無い絶好の登山日和である。風も比較的穏やかだった。
泊まっていた人がみんな出発していく。出来るだけ早く登って早く降りる戦略である。まずはドーム・デュ・グーテを目指す。
泊まっていた人がみんな出発していく。出来るだけ早く登って早く降りる戦略である。まずはドーム・デュ・グーテを目指す。
天気は問題無いが、問題は空気の薄さだ。平地の6割未満、半分ちょいしか空気がない。ちょっと登れば息が切れ、吸っても吐いても空気を吸ってる感じがしない。写真を撮るために呼吸が乱れると、しばらく息切れが治まらない。
東の空が明るくなってきました。
東の空が明るくなってきました。

寒くて恐い

安定した天気とは言え、稜線に出ると当然のように風が吹いている。体感温度は風速1mにつき1℃下がる。気温が0℃で風速10mなら体感温度は-10℃である。実際の風速がどのくらいかは判らないが、とにかく寒かった。
こうして見ると大したことなく見えて悔しい。
こうして見ると大したことなく見えて悔しい。
スケールがデカイのだが、空気が澄んでいるのでいまいち距離感が出ない。下の写真は、前に見える黒い小さい点が人間で、そのサイズと比べて巨大な雪庇(というかセラック(雪の塊)?)と、刃物のようなナイフリッジである。

※雪庇… 雪のひさしで、普通は稜線の風下に出来る。酷い場合は10m以上に育ち、気付いたら空中を歩いてたなんて事もある。踏み抜いたら当然落ちる。

ナイフリッジの部分、幅は50cmほどで、その細い道を踏み外せば1,000m以上の奈落である(一応、落ちる前にガイドが止めてくれる事になっているが)。
こういう感じ、日本の山の一般ルートではなかなか無い。
こういう感じ、日本の山の一般ルートではなかなか無い。

多分凍傷になりかけてた

風が出てきて、手の指先が強烈に冷えた。手袋の選択をミスって、薄めの手袋2枚重ねにしたが保温性が足らなかったのだ。

最初、冷えて痛かった右手中指の感覚が無くなった。他の指で確認すると硬い。揉んでも血流が回復しない。このまま放置したら凍傷になってしまうだろう。
ヨーロッパアルプスのご来光です。
ヨーロッパアルプスのご来光です。
指を失うのは困るので、手袋から指を抜き、手袋の手の平部分で手をグーに握って指先を温めた。ちょっと不便だが背に腹は替えられない。

20分くらいで痛みが戻ってきた。指先は強烈に痛いけど、痛いってことは生きてるって事だ。
張り気味のロープが風で流れ、そして凍っている。
張り気味のロープが風で流れ、そして凍っている。
またしても本当に恐かった部分の写真はあまり残っていない。カメラなんか構えて写真を撮っている余裕が無かった。

強いて言えば、この写真だろうか。細い道の両側は結構な角度の凍った斜面で、遙か彼方の地面は遠すぎて見えない。
ナイフリッジを歩く人々。みんな頭がどうかしてる。
ナイフリッジを歩く人々。みんな頭がどうかしてる。
イラストで描くとこんな具合である。写真より斜度がある様に描いたが、これが僕の目に見えていた角度なのだ。
マジで恐かった。
マジで恐かった。
5時44分。高度障害、凍傷なりかけ、恐怖のナイフリッジを乗り越え、ついに山頂が見えてきた。登頂した人が溜まっているあたり、あそこがモンブランの山頂である。
ついに登頂率20%を乗り越えて、山頂に着く。
ついに登頂率20%を乗り越えて、山頂に着く。
ここまで先導してくれたガイドが「先に行け」と先を譲ってくれた。

誘ってくれたMさんや一緒に登った仲間、ガイド、山、行かせてくれた妻への感謝で涙が流れ出した。

モンブランは『技術的には難しくない、問題は天気だ』と評される山だ。天気が良ければ登頂率はグッと上がる。それでも、ここまでの苦労を思うと涙を堪えることが出来なかった。

おかげで若干呼吸困難になった。死ぬかと思った。
ここがヨーロッパアルプスの最高地点、モンブランの山頂です。
ここがヨーロッパアルプスの最高地点、モンブランの山頂です。
西を見ると影モンブラン。
西を見ると影モンブラン。
振り返ると、今までの山では見た事ない高度感。空を歩いているようだ。
振り返ると、今までの山では見た事ない高度感。空を歩いているようだ。
で、本題のモンブランだ。
で、モンブランですよ。
で、モンブランですよ。
ここまで苦労して持って来たモンブランをザックから取り出して、急いで撮影するのだ。
ラップに包んでプチプチで梱包、ボール紙で固定して持って来た。これは下山後の写真だけど。
ラップに包んでプチプチで梱包、ボール紙で固定して持って来た。これは下山後の写真だけど。
と、いう様な苦労の末に撮ったのがこの写真である。命がけで登ってきたあと、こんなふざけた写真撮ってていいのかなーと疑問に思わなくもなかった。

なお、モンブランはガチガチに凍ってました。当たり前か。
このダジャレを撮るためにここまで来たのだ。
このダジャレを撮るためにここまで来たのだ。
山頂には5分といられない。登ってる間は自分の発熱があるんだけど、止まった途端に冷えるのだ。体は冷え、回復してきた指先も冷えてくる。

写真をざっと撮り、景色を目に焼き付けたらさっさと下山に移る。出来るだけ早い時間にクーロアールを通過しないとならないからだ(午後は落石と雪崩が起りやすいため)。
下山は下山でまた恐いんだよ!
下山は下山でまた恐いんだよ!
下山はサクサクである。高度が下がると空気が濃くなる。一歩一歩楽になっていく感覚だ。
ミニチュアみたいに見える他の山も標高2000mくらいある。
ミニチュアみたいに見える他の山も標高2000mくらいある。
降りながら振り返る。ここを登ったんだなぁ。
降りながら振り返る。ここを登ったんだなぁ。
アイゼントレーニングで行ったコスミックルート(コスミック稜)が見えた。あと、この2日後に登ったミディの南壁も見えた。小さいな!高さ200mあるんですけど。
アイゼントレーニングで行ったコスミックルート(コスミック稜)が見えた。あと、この2日後に登ったミディの南壁も見えた。小さいな!高さ200mあるんですけど。
避難小屋とヘリコプターとセラック。もう、すべてのスケールがでかい。
避難小屋とヘリコプターとセラック。もう、すべてのスケールがでかい。
下りはクライアントが先行、ガイドが後ろに付きます。こけそうなクライアントをガイドが止めるため。
下りはクライアントが先行、ガイドが後ろに付きます。こけそうなクライアントをガイドが止めるため。
が、長い。1日半掛けて登った標高差を一気に下るのだ。4800メートルから2400メートルへ、2400mの標高差を6時間ほどで下った。
ビルのようなスケールのセラック。すべてがが大きすぎて恐い。
ビルのようなスケールのセラック。すべてが大きすぎて恐い。
砂丘みたいですが雪原です。多分ドーム・デュ・グーテのちょっと下。
砂丘みたいですが雪原です。多分ドーム・デュ・グーテのちょっと下。
標高差と距離が堪えて、前日に攣った足が痛み出したり、両膝に痛みが出てきたり、体力は限界だし足はダルイし、全体的にギリギリでニ・デーグル駅に着いた。無事に下山できてホッと一息。よかった、死ななくて。
無事降りてきたので、山頂で食べられなかったモンブランを食べます。下山後のスイーツは最高です。
無事降りてきたので、山頂で食べられなかったモンブランを食べます。下山後のスイーツは最高です。
なお、後日仲間が他のスイーツ屋さんで別のモンブランを見つけてきました。これは日本のモンブランに似た形です。色は全然違って茶色いけど。
これも美味しかった。フランスに行ったらパンよりケーキを食べるべきです。
これも美味しかった。フランスに行ったらパンよりケーキを食べるべきです。
モンブランの山頂でモンブランを食べている場合じゃなかった、ホントにその通り。あー、でも楽しかった!

山は良いよにゃ

山登りを始めて9年、日本の山もろくに登ってないのにうっかりモンブランに登れてしまいました。穂高も剣岳も登ったことないんですが。

今回は主に天気が良く、運が良かったんだと思います。体力的にはギリギリでした。今後も、謙虚に山に登らせていただこうかと思います。とか、しおらしい事を書いておく。

拙作のGPSアプリ、DIY GPSのテストもしてきました。モンブランの山頂でもちゃんと使えました。ログも綺麗に記録できました。

DIY GPS公式サイト
http://diygps.net/
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