ラジオ電波を迎えにいこう
今年4月、IPサイマルラジオ「radiko.jp」が、配信エリアの枠を超えて番組を聴取できる有料サービス「radiko.jpプレミアム」をスタートさせた。開始後3カ月で、会員数は10万人を突破したらしい。ラジオブームの再燃を予感させるニュースである。
もちろん「radiko.jpプレミアム」に加入すれば、いつでもどこでもエリア外のラジオが聴けるわけだが、月額350円の利用料はちょっと惜しい。
そもそも、そこまで聴きたい番組があるなら自分からそのラジオ局のエリアまで足を運べばいいんじゃないか。待ってるだけじゃ幸せはやってこないのだ。
というわけで、地方ラジオ局の電波をつかまえにいくことにした。
ターゲットは「茨城放送」
茨城放送は1963年開局のAM放送局だ。茨城県内全域、千葉県北西部、埼玉県東部、栃木県東部などでも聴取可能だという。
茨城放送の送信所は土浦市と水戸市にあるということで、東京-茨城間を結ぶ常磐線で近づいてけばそのうち受信できるはずである。
上野駅から常磐線で水戸方面へ
ラジコのほうが安い
ちなみに上野から土浦までは片道1144円、水戸までは片道2268円かかる。懸命な読者の皆様はすでにお気づきのことと思うが「radiko.jpプレミアム」に加入したほうが得である。
だが、名物は現地で食べるからおいしいのであって、ラジオも現地で聴いてこそよりライブ感が味わえるものだと思う。そう自分に言い聞かせ常磐線に乗りこむ。
水戸行きは本数が少ない。時間つぶしに寄ったホームの立ち食いそばがうまかった
せっかくなのでグリーン車で行くことにした
さっそく周波数を茨城放送に合わせる
茨城放送の周波数は土浦局が1458kHz、水戸局が1197kHz。まずは東京に近い土浦局の周波数に合わせてみる。だが、この時点では「ザー」っというノイズ、通称砂嵐が聞こえるのみである。
砂嵐が聞こえる
電波の受信地点はgoogleマップでチェック
周囲の迷惑にならないようイヤホンをしたが、そのおかげで脳内をつんざくような砂嵐地獄にしばらく苦しむことになった。
早く人の声が聞きたい。と、切に願いつつ耳を澄ませること約30分。柏駅にさしかかったあたりでノイズの中に人の会話が混じるようになってきた。
千葉県北西部に位置する柏市にて最初の電波をキャッチ
うっすらとだが、会話らしきものが聴こえる
聴こえてきたのはバロン山﨑さんと金井優子さんがパーソナリティを務める「サタデイキングダム」。茨城の旬なニュースから国内外のおもしろニュースまで取り上げる土曜午後の人気番組だ。電車が土浦に近づくにつれ、バロンさんの渋い低音ボイスと、金井さんのキュートな声がクリアに聴き取れるようになってきた。
江戸川を超えて取手に入ると、かなり鮮明に聴き取れる
情報が深い
番組では、県内のお祭りの話題や、近頃LPレコード人気が高まっていることについてとりあげていた。最近パフュームが新譜をLPレコードでも発売するなど、再びブームのきざしが見られるという。日本レコード協会のコメントを紹介するなどきちんと取材していて情報が深い。明日まで開催されている地元のお祭りで野菜をタダで配っているという有益な情報も得ることができた。時間があったら行ってみよう。
美しい田園風景を眺めながら
茨城のローカル情報に耳を澄ませる
電波の境界線
電車はやがて土浦を越え、神立という有難い名前の駅を通過する。神立を越えると少しずつ会話が聴き取りづらくなり、高浜という駅近辺で完全に途絶えた。ここからは水戸局のカバーエリアになるようだ。ということで今度は周波数を1197kHzに合わせてみる。程なく、再び渋いバロンボイスが聴こえてきた。
なお、それぞれの電波の境界線を地図で示すとだいたい以下のようになる。
石岡駅の少し手前から水戸局(1197kHz)の電波にスイッチ。線引きは感覚的なものですが、だいたい合ってると思います
そうこうするうちに水戸駅に着いた
茨城放送の電波は石岡駅と高浜駅の間で区切られているという、有意義だがなかなか使いどころのない情報を得つつ電車は水戸駅に到着した。
せっかくなので降りて周囲を散策してみよう。
もうすぐ開幕する総合文化祭で盛りあがっていた
近代的でオシャレな駅
茨城の中心部だけあって水戸はかなりの人で賑わっていた。駅ビルも新しく、カッコいい。駅の観光案内所には黄門さまではなく、烈公こと常陸水戸藩第9代藩主・徳川斉昭公の等身大パネルが置かれていた。イケメンだった。
イケメン烈公
案内所で教えてもらった居酒屋で納豆料理のフルコースと
これまた茨城名物のアン肝を食した。うまかった
街並みはキレイだし食べ物もうまい。水戸はいい街だった。もっとゆっくり巡りたかったが、この日は嵐が来ていてぐずぐずしていると電車が止まりそうだったので早めに東京へ戻ることにした。今度は斉昭公が整備させたという偕楽園にも足を延ばしてみよう。
さよなら水戸
帰路も旅のBGMはもちろん茨城放送だ。水戸局に周波数を合わせるとまだバロンさんがしゃべっていた。長時間におよぶ番組なので心なしかお疲れモードだ。バロンさんリアクションが薄いことにプンプンする金井さんが可愛かった。
金井さんは恋人を束縛してしまうタイプらしい。束縛されたい
ところで、土浦局の電波は東京側にどこまで届いているのだろうか? 最後にそれを調べてみることにした。
最初に会話をとらえた柏駅周辺で、電波の限界点を探る
雨が超ふってますけどね
さっそく柏駅に降り立ち、土浦局に周波数を合わせるも砂嵐。ここから茨城方面に徒歩で北上し、電波をとらえた地点が東京側から茨城放送を受信できる限界点ということになる。
「ザー」っという音と物理的な嵐。状況的には合致する
電波よーい
右手に傘、左手にラジオを抱え駅周辺をうろつくもラジオはなかなか電波を受信しない。諦めて帰ろうかと思ったその時、イヤホンからかすかに聞き覚えのある歌が流れてきた。
「き~み~が~あ~よ~は~」。君が代だ!
突然の国家斉唱に面食らう
一瞬、国の重大な何かを傍受してしまったかと思ったが、それは茨城放送が中継しているプロ野球オールスターゲームの国家斉唱だった。ついに茨城放送の電波をとらえることに成功した。
というわけで、東京側から茨城放送を聞ける限界点はここです。だからなんだという話かもしれませんが
ラジオは旅の楽しみを深くする
ネットにはあらゆる情報が溢れているが、その土地の旬な情報をリアルタイムで伝えるという点ではラジオに軍配が上がるのではないだろうか。
ラジオをもって旅をすれば、ネットではなかなか拾えない細かいネタや、ガイドブックには載っていないローカルな観光情報も拾える。
目に見えない電波にこそ、珠玉の情報が隠されているのかもしれない。