開発しながらプレイする運動会
ハッカソンとは、主にIT業界で催されている開発イベントのこと。参加者は制限時間内に新しいサービスを開発し、プレゼンを行う。今回はその運動会版ということらしい。つまり「新しいスポーツをみんなでつくって遊びましょう」という試みだ。なお、“開発しつつプレイする人”の意で参加者のことは「デベロップレイヤー」と呼ぶ。おお! かっこいい。
大学構内の体育館が会場
手づくり感あふれる会場
会場は神奈川県厚木市の神奈川工科大学「KAITアリーナ」。スタート時刻の11時を前に、すでに多くの参加者、ギャラリーが集まっていた。学生以外も見学、参加できるとのことで、親子連れやカップルの姿も目立つ。
虎視眈眈と開会を待つデベロップレイヤーたち
しかし運動会といいつつ、運動会ならではの胃がきりきりするような緊張感はない。参加者はストレッチに励むでもなく、パソコンやスマホをいじっている。
いったい何が始まるのか?
ほどなく開会式がスタートした
発起人のひとり、犬飼博士氏の挨拶
まずは本大会の発起人・ゲームクリエイターの犬飼博士氏から趣旨説明が行われる。
続いて主催者あいさつ。「ニコニコ学会β」委員長の江渡浩一郎氏
「スポーツマン精神とハッカー精神にのっとって楽しくスポーツをハックしましょう」
江渡氏による素晴らしい宣言に続き、代表デベロップレイヤーによる選手宣誓が行われる。
堂々たる宣誓。さすが代表
カンペ見てたけど
持ち寄った競技をみんなでおもしろくしよう
さて、新たなスポーツをつくるといってもまったくのゼロベースから生み出すのはさすがに困難ということで、今回は各参加者が持ちこんだ原型となる競技がいくつか用意されている。それらの競技に新たなルールや仕組みを採り入れ、より良いものにしていこうというわけだ。
原型となる競技は7種目
各競技のリーダーから、種目についての説明がなされる
ちなみに持ちこまれた競技は、スマホなどの電子デバイスを駆使したものが多く、未来っぽい。それでスマホいじってる人が多かったのか、なるほど。
考案した競技のアイデアをプレゼンする
未来の鬼ごっこ、革命的ドッジボール
たとえば明治大学の学生チームが考案した「Twinkrun」は、スマホを使った“新しい鬼ごっこ”。頭に装着したスマホの色でプレイヤーの強さが決まり、強い色のプレイヤーは弱い色のプレイヤーに接近することで相手のポイントを吸収できるという。
色は3秒おきに変わる
使用する色は3種類。「緑<黒<赤」の順に強くなる
プレイ中、自分の色を見ることはできないが、それがこのゲームのおもしろさだ。相手が自分から離れていくようなら「あ、おれいま赤なんだ。追いかけろ!」となるし、近づいてきたら「緑か、逃げろ!」となる。だが、時には「黒」にイチかバチか突っ込むパワープレイを仕掛けられるケースもあるので油断できない。鬼ごっこに心理戦の妙がプラスされているのだ。すごい、頭いい!
一方、電気通信大学の院生が考案した「ライトドッジ」
ライトドッジは、ドッジボールに「HP(ヒットポイント)」や「アタックポイント」といったデジタルゲームの概念を組みこんだ革命的スポーツだという。なにそれ楽しそう!(仕組みは後述します)
ゲーム的要素を採り入れることで、弱者が強者に勝つジャイアントキリングを起こすことも可能になるという
このままでも十分楽しそうな遊びばかりだが、体験者の意見をフィードバックし、さらに競技としての最適解を探っていきたいと考案者は語る。向上心がすごい。サッカーとか野球もこうやって進化してきたのかもしれない。
未知の競技だらけのプログラム
競技スタート
では、各競技の様子を見ていこう。まずはでっかいヘンな球が転がっているこちらの会場。
ビニール製の巨大なボール
これは「バブルサッカー」という、ノルウェー発祥の競技で使われるアイテム。これを頭からすっぽりかぶってサッカーするんだそう。今年日本に上陸し、けっこう流行っているらしい。
今回はハッカソンということで、このバブルを使ったサッカー以外の新競技を生み出そうという試みのようだ。
とはいえバブルをかぶるだけでも楽しいらしい。ボヨンボヨンぶつかったり
逆さになって瞑想したり、自分なりのプレイを楽しむバブラーたち
みんなバブルの虜になっていて、なかなか競技に発展する気配はない。こちらは少し時間がかかりそうなので別のコートに目を移すと、例の「Twinkrun」が始まっていた。
暗闇のなか、光が交錯する
3秒ごとに色が変わりプレイヤーの強弱が変化するため、今追いかけていた相手に、次の瞬間には追いかけられる。激しく攻守が交代する、かなりハードなスポーツだ。
それにしても、顔から赤い光を放つ男に追いかけまわされるのはけっこうな恐怖体験に違いない。
暗闇から赤い男が追いかけてくるゲーム。夢に出てきそう
プレイ時間は1回30秒。終わったらみんなで集まってポイントを確認
最終スコアはアプリが自動計算する
奪って奪われて、最終的に1000ポイントを獲得
仕組みはハイテクだし、プレイしている姿もなかなかクールだ。でも最後にみんなで集まってポイントを確認し合うのが微笑ましい。
緊張感みなぎるスピーディーな攻防から
最後にみんなでポイント確認。「勝った―」「負けた―」と、やいのやいの楽しそう
どんどん競技が進化していく
一方、また別のコートでは、こちらもスマホを使った新競技「鏡鬼(かがみおに)」が始まろうとしていた。
色を表示したスマホを背中に装着したプレイヤー同士が対峙。フェイントをかけつつなんとか背中を盗み見て、相手の色を言い当てるゲームだ。ようは背中を見られなければいいわけなので簡単そうに思えるが、このゲームの気が抜けない点は背後にも敵がいることだ。
サブプレイヤーが背後から忍びより、手鏡で味方に色を知らせようとしてくる
つまりプレイヤーは前と後ろ、両方を気にしながら動かなければならない。シンプルなルールに手鏡というスパイスを加えることで、スリリングな展開を生み出している。これもおもしろい。
背中の色を言い当てられたら負け
手で隠すのは反則
攻撃しつつ守り、守りつつ攻撃
「9番、青!」 言い当てられたら退場
そのうちイナバウアーで背中を死守する者が現れたり
華麗なフットワークで裏をとったり
アクロバティックな動きが出たりと、次々と新しいプレイが生まれていく
新しい遊びなので、まだルールも荒削りだし、決まったプレイというものもない。とりあえずやってみて、「ああしたほうがいい」「こうしたほうがいい」と意見を出し合いながら試行錯誤している感じだ。いま僕は、新たなスポーツ競技が形を成していく歴史的瞬間に立ち会っているのかもしれない。
たぶんサッカーとかだって、こんなふうにルールが決まっていったんだろうなと思う。あのゴール前で待ち伏せするやつズルいから反則にしようぜ、とか。きっと、そんな感じだろう。
ものすごい勢いで競技が進化していく
新しいバブル競技の誕生
さて、再びバブルコートに行ってみると、ちょっと目を離したスキに新しい競技ができていた。
「バブル大玉ころがし」。バブルに入った我が子を親がころがすというワイルドな競技
逆立ちの状態から起き上がる早さを競う「起き上がりバブル」
バブル上でくつろぐ姿も堂に入ったもの
ゴザで観戦。運動会っぽい風景
しかし、バックヤードはアプリの調整をするプログラマーという運動会っぽくない風景
ライトドッジも開戦
そんななか、Bコートでは個人的に一番楽しみにしていた「ライトドッジ」が始まろうとしていた。
果たして、ゲーム要素を採り入れたドッジボールとはいかなるものなのか?
各プレイヤーには、残りライフを示すHP(ヒットポイント)と、1回のヒットで受けるダメージを表すDP(ダメージポイント)が振り分けられる。それぞれデフォルトの値はHP10、DP2。つまり5回当てられるとゲームオーバーなのだが、ライトドッジにはこのDPを操作するこんなシステムがある。
内野のプレイヤーは腰に端末を装着
その端末めがけて外野からライトを照射。すると照らされた人のダメージポイントがUP! その間にボールを当てると大ダメージを与えられるという仕組みになっている
なお、ライトは調光ができ、より強い光を当てればそれだけダメージポイントも上がる。外野と内野がうまく連携すれば一撃必殺、一発逆転も可能になるのだ。
まさに必殺シュート
ダメージポイントマックスで攻撃を受けると致命傷。ごっそりHPが減る
ちなみにボールが当たった場合は自己申告。スコア係がDPの分だけHPを減らす
気づくと二刀流のライトで攻めるプレイヤーが登場したり
「自己申告だと分かりにくい」ということで、途中から判定員が立ったり、進化していくライトドッジ
そして振り返り
試合の度にプレイヤーから意見を集め、問題があれば改善して即実行。PDCAサイクルを高速で回し、凄いスピードでブラッシュアップされていくライトドッジ。あと1時間くらいしたらオリンピック競技になるんじゃないかこれ。
隅っこで振り返り
かと思えば、もう片方の隅っこでは弾き語りをやってたりと、なんかいろいろ自由!
続々生まれる謎競技
一方で、なかには謎の競技を生み出す人もいる。
飛行するAR.Droneの動きに合わせてフラフープを通すという謎競技
交互に通す。どうやら対戦してるっぽいのだが、ルールが分からない
どうやら大技が決まったようだ。ぜんぜん分からないけど
「今のは芸術点高いね!」
飛び交う謎会話。芸術点? これ、そういうやつだったのか? 採点系のやつだったの?
たぶん団体戦
なんなんだこれは。この数時間だけで新しい遊びが30個くらいできてるぞ。
特にバブルスポーツの多様化っぷりが凄い
「バブル騎馬戦」、楽しそう
なんとバブルチームは最終的に19もの新競技を生み出していた。しかも、そのどれもが楽しそうなのだ。バブルのポテンシャルすごい。
なかでも一番の盛り上がりを見せたのが「バブル騎馬戦」。各チームのオフェンス1名が、相手バブルの帽子を奪いに行くというもので、早く奪った方の勝ち。
しかし、バブルの壁に阻まれなかなか奪えない
バブルの分厚いボディにバインバイン弾かれるオフェンス陣。スコアレスドローかと思われた次の瞬間、一人のプレイヤーが覚醒する。
蝶のように舞い
華麗に帽子を奪う。かっこいいぞ
たぶん、いまのところ日本一この競技がうまいのは彼だ。競技人口6人くらいだけど。
その後も獅子奮迅
生まれたての競技だが、フィールド上のプレイヤーが放つ熱気は隣のコートでやっているバスケットボールの試合にも負けてない。ただ、こっちは爆笑混じりだけど。
バブルがボヨンボヨン転がってるだけで、とにかく笑えるのだ
さらに競技と競技を合体させるという画期的な試みも見られた。バブルとTwinkrunのコラボ「バブルTwinkrun」である。
スマホを装着することで未来感が増すバブル。このまま空に飛んでいきそう
バブルで動きは鈍くなるが、接触プレイの醍醐味が生まれた
そうこうしているうちに「鏡鬼」もどんどん進化。新しく「外野」という概念が生まれるなど、ぜんぜん別の競技になってた
こちらは「ライトドッジ」。「ボールが見えにくい」という問題を即改善
一方、弾き語りの周囲にはファンができてた
閉会式。主催者による振り返り
三本締めで終了。近く第二回を開催するそうです
遊びをつくる天才たちの集い
子供の頃を振り返れば、誰もが遊びの天才だった。時間と場所だけを決めて集まり、その場で次々と新しい遊びを発明したものだ。ここには、そんな5歳児みたいな心をもつ大人たちが集まっていた。
それは、少しの工夫によって日常の些細な出来事ことをおもしろがるデイリーポータルZの精神にも通じるところがあるなあと思った次第です。