『大手町温泉』湧出のニュース
温泉が湧く。
なんてロマン溢れる響きだろうか。温泉は「日本人が掘り当てたいものトップ3」に入ってくると僕は考える。あとの2つは石油と徳川埋蔵金だろう。
そんな「3大掘り当てたいもの」の1つ、温泉が大手町で涌いたというのだ。
まず、7月15日に発表された「大手町に『大手町温泉』湧出」の情報を確認するため、ニュースソースである三菱地所株式会社に電話で確認を取ってみた。広報部の方から丁寧に対応していただき、温泉湧出のニュースは確かなものであることが分かった。
メールで送っていただいたプレスリリースには、温泉湧出時の写真も添付されている。
温泉揚湯試験の様子(2014年6月6日・三菱地所株式会社提供)
確かに温泉らしきものが湧き出ている。
ニュースソースの本体から直々に写真をもらい、グッと現実味が増してきた。
この掘削工事は、千代田区大手町で三菱地所が進める「大手町連鎖型都市再生プロジェクト第3次事業」という大きなプロジェクトの敷地内で行われたという。
大手町は今、街のあらゆる場所で再開発が進められている。実は、大手町再開発という大きなプロジェクトにおいて、僕も仕事で少しだけ関わっていたりする。東京メトロさんが実施している大手町駅の改装工事において、その工事内容などを利用客の皆さんにお知らせする映像を作っているのだ。
先日、メトロで移動していたら、その仕事に関する広告を車内に見つけた。
この仕事に関わっています。
この広告にあるように、大手町駅の一角に改装工事の進捗などをお知らせするブースがあり、そこで僕が作った映像が流れているのだ。
しかし、この広告を良くみると、
映像が再生されていない
映像モニターに写っているのはDVDのメニュー画面で、僕が作った映像は全く映っていない。少し残念だった。
話が逸れてしまった。話を大手町温泉に戻そう。
三菱地所の広報の方にお願いして、温泉掘削工事の現場を見せていただけることになった。
温泉にふさわしい格好で、現場にうかがうことにする。
浴衣でオフィス街をいく
温泉地といえば、やはり浴衣に下駄だろう。
と考えて、浴衣姿で大手町にやって来た。
温泉が湧いたんだって
どれどれ
浴衣と下駄は地元の西友で調達した。浴衣、帯、下駄の三点セットで4500円である。
温泉スタイルで
西友のおばちゃんにサイズを見繕ってもらったのだが、袖を通してみるとかなり大きいことが分かった。浴衣に着られてる感が強いのは否めないが、温温泉宿でサイズがピッタリだったことがないから、そのあたりも含めて温泉気分が(僕の中で)盛り上がっている。
しかし、ここはビジネスの中心地・大手町である。しかも時間はお昼過ぎ。クールビズなビジネスマンの姿が目立ち、僕のような浴衣姿の中年男性は1人もいない。
下駄はサイズ感ピッタリ
ケロリンの洗面器は東急ハンズで調達しました
ケロリンの洗面器も今回の為に調達したのだが、よく考えたらケロリンの洗面器は温泉地というより銭湯だったかもしれない。大手町に着いてから気づいた。
まぁ、細かいことを気にするのはやめて、三菱地所の方から指定された掘削工事現場を目指そう。
このあたりかな?
あ、あそこだ!
よし、走るぞ
いそげや
いそげ
などと小芝居を打っている間に、掘削工事現場に着いてしまった。駅からあっという間の近さである。
ここで温泉が湧いた
1500メートルの地下からくみ上げられた温泉
工事現場の入り口で、三菱地所広報部の笹田さんと落ち合った。
三菱地所広報部の笹田さん(写真右)
笹田さんからヘルメットを受け取って現場に入る。この現場では温泉の掘削工事だけを行っている訳ではない。他の施設を建設する工事も同時進行しているのだ。現場内は危険なため、ヘルメット着用が必要なのだ。
そして、僕の服装が普通になっていることに気づかれたかもしれない。
事前にお電話で浴衣姿でうかがっても大丈夫かどうか確認したら、
「まじめな事業として取り組んでいる工事なので…」
とやんわりNGを伝えられたので、笹田さんとお会いする前に服を着替えた。
温泉が湧いてお祭り騒ぎのようになっている現場、と勝手に想像していたが、実際は違うらしい。今はまだ温泉が湧いたばかりの状態なのだ。もちろん入浴施設も出来ていない。そんな現場に浴衣姿でお邪魔することは失礼なのだ。お祭り騒ぎにはまだ早いのである。
工事の概要を説明する笹田さん
今回の掘削工事は今年の4月から始まっていた。6月6日にくみ上げサンプルの採取に成功し、それを専門機関で分析、7月14日に温泉と認定されたのだという。
6月6日のくみ上げの様子が動画で記録されている。
サンプル採取の為に掘った距離は1500メートル。これは温泉掘削として東京都が許している距離の限界なのだとか。1500メートルを1メートルでもオーバーしたら、その温泉は認可が下りないのだ。
「少しくらい深く掘っても分からないのでは?」
と僕が聞くと、
「都の人がワイヤーを落として距離を測るんです」
と答えが返ってきた。1メートルでも深く掘ったら許されない、シビアな世界なのだ。
そんな限界ギリギリの地下から採取した温泉がポリタンクの中に残っていた。
これが大手町に涌いた温泉
持ち手に「大手町温泉」の文字
許可を得てポリタンクを開けると
1500メートルの地下から涌いた温泉!
ポリタンクの中の匂いを嗅ぐと、確かに硫黄の香りがする。本当に温泉だ。
そこからさらに工事現場の奥に入り、実際に温泉がくみ上げられた場所に案内された。
たまたま出たのか、計画的なのか
工事現場の奥で温泉をくみ上げるための装置がそびえ立っているが見える。
温泉掘削工事のマシーン
このマシーンが、1500メートルの地下から温泉をくみ上げたのだ。現在、温泉の穴には蓋がされていて、温泉のくみ上げは止められていた。
今は蓋がされている
ここに来るまで、ずっと疑問だったことがある。
今回温泉が出たのはたまたまなのか、それとも計画的だったのか。
笹田さんに聞いてみた。
――他の掘削工事をしていてたまたま温泉が湧いたのでしょうか?
笹田さん「いえ、地質調査の結果からこの辺りから温泉が出ることを確認してから、温泉の掘削工事として始めました」
計画的な温泉掘削だったのだ。
笹田さんは更に続ける。
笹田さん「そもそも、今回の開発工事の目的の一つに3.11があります。今後、都心で大災害が起きたとしても、それに対応出来る街作りがテーマにあります。災害時に温泉施設を開放出来れば、復旧の助けになると考えます」
笹田さん「また、2020年の東京オリンピックに向けて海外からのお客さんに東京らしいおもてなしが出来るように、という目的もあります」
そうだったのか。
温泉が湧いた、ヒャッホー! ということではなかったのだ。
浴衣姿でここに来ないで本当に良かった。
私服でよかった
温泉が湧いた敷地内では、これから2年後を目指して31階建てのオフィス棟と18階建ての宿泊施設の建設が進められているのだという。それらが完成した時、オフィス棟と宿泊施設で今回の大手町温泉に入れるようになるのだ。
その時こそ、浴衣姿で下駄を鳴らし、再びこの場所にやって来たいと思っている。
大手町温泉
療養泉、泉質「含よう素 - ナトリウム - 塩化物強塩温泉(高張性・中性・温泉)」
効能:筋肉又は関節の慢性的な痛み又はこわばり(関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、神経痛、五十肩、打撲、捻挫などの慢性期)、運動麻痺における筋肉のこわばり、胃腸機能の低下など。
オフィス棟 外観予想パース(三菱地所株式会社提供)