特集 2014年7月4日

イチゴ味のかき氷は本当にイチゴの味なのか

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かき氷の季節がやって来る。そして、かき氷といったら赤、緑、黄色の3色が基本だと思う。赤がイチゴで緑がメロンで黄色がレモン。特に赤いイチゴ味のかき氷は、かき氷界のセンターを張るメニューと言ってもいいだろう。しかし、僕には疑問がある。イチゴ味のかき氷は本当にイチゴの味なのだろうか。

ずっと気になっていたので検証してみた。
1970年神奈川県生まれ。デザイン、執筆、映像制作など各種コンテンツ制作に携わる。「どうしたら毎日をご機嫌に過ごせるか」を日々検討中。


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イチゴ味ってどんな味だと思いますか?

そもそもイチゴの味に対して、人はどんなイメージを持っているのか。身近な人たちに緊急アンケートをとってみた。

質問:「イチゴ味ってどんな味だと思いますか?」

・甘酸っぱい、つぶつぶしている(40代・女性)
・甘くて酸っぱい(60代・女性)
・甘い(30代・男性)
・口の中が赤くなりそうな味(50代・男性)
・外側に甘酸っぱさが集中している(30代・女性)
・甘くて恋みたいな味かな(12才・女性)
・初恋に破れた時のような味(44才・男性)
それぞれにイチゴに対してのイメージがあるようであるが、概ね「甘い・酸っぱい」といった印象を持っていることが分かる。

ちなみに最後の答えは僕が抱くイチゴ味の見解で、やはり「甘酸っぱい」という印象からきている。その1つ上の12才女性は僕の娘だ。親子でイチゴから恋を連想しているあたりが別の意味で甘酸っぱい。

いずれにしても、「イチゴ=甘酸っぱい」。これが一般的なイチゴ味の印象なのだろう。その味の印象がかき氷のイチゴ味には感じられないのだ。僕はそう思う。

本物のイチゴとかき氷のイチゴ味を食べ比べて、味の違いを確かめてみることにした。

しかしイチゴがない

近所のスーパーを3軒まわったが、どこにもイチゴが売っていない。千疋屋、新宿高野といった高級果物店に問い合わせてもやはり置いてない。

今は7月。イチゴの旬はとっくに過ぎているのだ。

これは困ったぞ。食べ比べるにも本物のイチゴがなくては話にならないじゃないか。この文明社会において、手に入らない物はないと高をくくっていた。旬の時期を過ぎたイチゴはそう簡単には手に入らない。40代半ばにして、僕はまた一つ大切なことを知った。

早速、暗礁に乗り上げる今回のプロジェクト。ダメもとで築地市場にある仲卸業者に電話をかけてみた。仲卸は卸売業者と小売業者を仲介する業者さんだ。

「イチゴ売ってますか?」

何軒か問い合わせてみたが、どこも取り扱いがない。諦めかけた時、「遠重」という仲卸業者さんから思わぬ答えが返ってきた。

「国産とアメリカ産、どちらがいいですか?」

あるんですか、イチゴ?

「国産の方がお高くなっていますが」

それは本当にイチゴですか?

「国産の方が小粒ですけど」

国産の話ばかりされるが、とにかくそこにイチゴがあるのだろう。僕は築地市場に急行した。
築地市場の仲卸「遠重」さん
築地市場の仲卸「遠重」さん
果物が沢山置いてある
果物が沢山置いてある
「遠重」さんに着くと、そこには本当にイチゴがあった。電話で聞いていた通り、国産とアメリカ産の2種類置いてある。
国産の夏イチゴ
国産の夏イチゴ
アメリカ産のイチゴ
アメリカ産のイチゴ
あれだけ探しても見つからなかったイチゴが、ここでは国産とアメリカ産で選べるという贅沢な状態なのだ。

国産は宮城蔵王の「すずあかね」という夏イチゴで小粒でかわいらしい。それに比べてアメリカ産は大粒で色も濃い。スタッフの方にオススメを聞いてみた。
私は国産をオススメします、と「遠重」の落合さん
私は国産をオススメします、と「遠重」の落合さん
「遠重」のオススメは国産の方だったので、素直にそちらを購入することにした。1パック24粒入りで1200円。アメリカ産はそれの半額だ。

「時期外れだから高いんですけど」と言われたが、値段よりもイチゴが手に入ることの方が大きい。それに、僕は旬の時期のイチゴの値段も知らないから、こんなものだろうと思えなくもない。

ついでに今の時期一番おいしいと薦められてメキシコマンゴーも購入した。
今が一番おいしいというメキシコマンゴー
今が一番おいしいというメキシコマンゴー
こちらは1個800円だった。今回の検証にマンゴーは関係ないので、これは少し高いなと感じた。

本物のイチゴとかき氷のイチゴ味を食べ比べてみる

本物のイチゴが手に入ったので、いよいよかき氷のイチゴ味と食べ比べてみる。都合がいいことに、築地市場の場外に屋台のかき氷屋さんがあった。もちろん、イチゴ味も取り揃えている。
屋台のかき氷屋さん
屋台のかき氷屋さん
イチゴ味 300円
イチゴ味 300円
屋台のおじさんにイチゴ味のかき氷を注文した。おじさんは小さいお弁当箱くらいの四角い氷を手に取ってかき氷マシンに乗せる。スイッチを押すとガリガリと氷が砕ける音がする。
職人の手作りでかき氷が出来上がっていく
職人の手作りでかき氷が出来上がっていく
コップの半分まで氷がきたら一旦シロップをかける
コップの半分まで氷がきたら一旦シロップをかける
それ! そのシロップは本当にイチゴの味がするのか?

それをこれから確かめるのだ。
かき氷のイチゴ味
かき氷のイチゴ味
本物のイチゴ
本物のイチゴ
味に神経を集中させるため、目を瞑ってかき氷と本物のイチゴを交互に食べることにする。ただ、そんなことをしていたら、道行く人々から「あの人、大丈夫かしら」と思われてしまう恐れがある。そんな時は、以前僕が開発した「寝てませんシール」を使えばいいのだ。眠っていても相手に気づかれないためのシールである。
寝てませんシールを使って味を検証する
寝てませんシールを使って味を検証する
まずはかき氷のイチゴ味から味わってみよう。
かき氷の味から(目を瞑っています)
かき氷の味から(目を瞑っています)
口の中におなじみのイチゴ味が広がっていく。典型的なかき氷イチゴ味である。甘くて冷たくて優しい。

この味をしっかりと記憶して、今度は本物のイチゴを食べる。
夏イチゴを試食(目を瞑っています)
夏イチゴを試食(目を瞑っています)
わっ! もう全然味が違う。甘くて酸っぱくて少し青い感じがある。これがイチゴだよ。だったら、さっきのイチゴ味は何だったんだ?

もう1回かき氷を食べてみる。
再びかき氷の味を確認(目を瞑っています)
再びかき氷の味を確認(目を瞑っています)
そして本物のイチゴの味を確認(目を瞑っています)
そして本物のイチゴの味を確認(目を瞑っています)
やっぱり全然違う。

どちらもそれぞれに美味しいことは確かだが、その味はお世辞にも似てるとは言えない。

例えばここに高嶋政宏さんと高嶋政伸さんがいたとする。並べて見ると2人の顔は違う。違うけどやっぱり兄弟だからどことなくそれぞれにそれぞれの面影を感じることができる。

それくらいの共通点はあるのかもしれないと思っていた。しかし、こうして食べ比べてみると、かき氷のイチゴ味と本物のイチゴは全く味が違う。両者は高嶋兄弟じゃない。赤の他人だ。

食べ比べてそう確信した。
なぜこれがイチゴ味なのか?

だがこれは、あくまでも個人の感想である。もっと客観的に両者の味を比べることは出来ないだろうか。

ネットを検索して調べると「味博士」なる人物がいることが分かった。早速連絡を取って、かき氷のイチゴ味と本物のイチゴの味について相談に乗って欲しいとお願いをしてみた。

教えて、味博士!
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味博士に相談

味博士とアポを取り、相談場所として慶応義塾大学の三田キャンパスを指定された。

味博士はAISSY株式会社という会社の代表でありながら、慶応義塾大学で味を研究する研究員でもあるのだ。
慶応義塾大学三田キャンパスにて味博士に相談
慶応義塾大学三田キャンパスにて味博士に相談
キャパス内のラウンジで味博士と落ち合い、早速イチゴの味について質問してみた。
味博士こと鈴木隆一さん
味博士こと鈴木隆一さん
――まずは味博士というお立場から、イチゴ味ってどんな味だと思いますか?

「そうですね、酸味の加わった甘み。それがイチゴ味じゃないでしょうか」

さすがに味の表現がスマートである。決して色恋と関連づけたりはしない。

続いてかき氷のイチゴ味と本物のイチゴの味の違いについて聞いてみる。僕の検証結果によれば、両者は全く違う味であったが…。

――このイチゴシロップと本物のイチゴ、僕には全く違う味に感じられましたが

「まず、『甘くて赤い』ものがイチゴ味だという概念が人にはあります。それがあった上で、赤いシロップのかかったかき氷をイチゴ味として食べる。『これはイチゴ味なんだ』と思っているところにイチゴっぽい味(シロップの場合は甘みがメインだと思いますが)がやってくる訳です。そうすると、本物のイチゴを食べた時の記憶と今食べたシロップの味が紐づけられて、『やっぱりこれはイチゴ味だ』となります。その時、『赤い』という視覚の情報にも左右されている訳で、イチゴシロップにはこういった錯覚の効果があるのではないでしょうか」

――極端な話、赤い砂糖水でもイチゴ味として認識され得ると?

「そうですね。『赤い』という視覚的な影響がある中で『甘み』も加わる訳ですから」

なんと言うことだ。人間の味覚、そしてそれを感じる脳はそんなに単純なシステムになっているというのか。
イチゴシロップの成分を注意深く見る味博士
イチゴシロップの成分を注意深く見る味博士
――シロップの成分を見て、何か分かることはありますか?

「このシロップの成分を見ると、果糖葡萄糖、ステビアといった甘み成分の他に酸味料も入ってますから、『甘みと酸味』というイチゴの味に似たものにはなっていると思います」

――僕の感想では「甘み」しか感じられませんでした。

「氷の上にかけるという性質上、甘みを強くしないと美味しく感じられないということがあると思います。その結果、住さんには『甘み』だけが強く伝わったのでしょう」

――でもやっぱり僕にはこのシロップがイチゴ味だとは思えないんです。

「シロップとイチゴ、それぞれの味を『見える化』することは可能ですよ。甘み、塩味、うまみ、酸味、苦み、という5つの基本味の数値をそれぞれ出すのです」

それだ!

その「見える化」こそ客観的な比較となり得る。イチゴ味のシロップと本物のイチゴの味が味博士の分析によって数値化されるのだ。

この場で分析することは出来ないので、イチゴシロップとイチゴを味博士に託した。味博士が日吉の研究所でこの2つの味を分析してくれるのだ。
味博士が両者の違いを分析します
味博士が両者の違いを分析します

見える化された、イチゴ味シロップとイチゴの味

後日、味博士から分析結果が届いた。
味を分析する味博士
味を分析する味博士
果たして、イチゴ味のシロップとイチゴの味はどのように数値化されたのか。

その結果は以下のように出た。
基本味5要素の違い
基本味5要素の違い
甘みと酸味の違い
甘みと酸味の違い
詳細データ
詳細データ
結果を見て明らかなように、イチゴ味のシロップは本物のイチゴに比べて甘みが強く酸味が弱い。

味博士によると、

「2つの味は実は全く異なると言えるかと思います。酸味が全然違いますし、甘味の値も相当異なりますからね」

とのことだった。


昭和40年代、電気冷蔵庫が一般家庭に普及したことにより、全国的に「かき氷ブーム」が起こったという。その頃から、赤いシロップはイチゴ味として広く認知されていった。

それから約半世紀、僕たちは本当はイチゴの味とは異なるものをイチゴ味として受け入れてきたことになる。今回、それが数値によって証明されてしまった。

今回の結果を受けて僕は思う。

何故僕は目くじらを立ててそんなことを検証したのだろう。かき氷に赤いシロップがかかっていたらそれはイチゴ味。つまり記号化されたイチゴ味だった訳で、それはそれで良かったのだ。

違うけどイチゴ。不思議だけどそういう物が存在しててもいいじゃないか。

自分で検証しておいてアレですけど。
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