特集 2014年6月6日

ダムの放流に1200人が集まった

いまや放流はこれだけ動員できるエンターテインメントだ!
いまや放流はこれだけ動員できるエンターテインメントだ!
ダムの放流はスペクタクルだと思う。

でも、見ようと思ってすぐ見られるほどダムは放流していない。そもそもダムは近くにない。

そんななか、とあるダムが放流の予告をしたら大勢の人が集まって、いままで見たことないほどのお祭り騒ぎとなった。

やっぱりダムの放流はスペクタクルなのだ。
1974年東京生まれ。最近、史上初と思う「ダムライター」を名乗りはじめましたが特になにも変化はありません。著書に写真集「ダム」「車両基地」など。
(動画インタビュー)

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予告される放流「試験放流」!

今回、放流が行われたのは、関東地方を縦断する利根川の上流にある矢木沢ダムと奈良俣ダム。
関東地方ダム界の大ボス、矢木沢ダム
関東地方ダム界の大ボス、矢木沢ダム
矢木沢ダムをすぐ隣で支える姐御、奈良俣ダム
矢木沢ダムをすぐ隣で支える姐御、奈良俣ダム
ふつう、ダムは大雨が降ったときに川の水量を調節するために放流する。逆に雨が少ないときは、下流の川が枯れないようにだったり、飲み水や農業用水や工業用水が不足しそうなときだったり、発電をするために放流することもある。だけどそれはダムの下の方にある、あまり目立たない場所から流される。そういう所の方が水量を細かくコントロールできるのだ。だからこう、ダムのてっぺんの、いかにもここを水が流れますよ!という場所が使われることは滅多にない。

ダムの放流って意外と見られないんだ、という事実はダム好きになって最初に訪れる挫折かも知れない。
たとえば矢木沢ダムは水門を開けるとこの水路を流れて行き...
たとえば矢木沢ダムは水門を開けるとこの水路を流れて行き...
水路の終点のこのジャンプ台からダム下流の川に放たれる
水路の終点のこのジャンプ台からダム下流の川に放たれる
奈良俣ダムは毎年春になると雪融け水を放流する
奈良俣ダムは毎年春になると雪融け水を放流する
でも真ん中の水門が開くところはなかなかお目にかかれない
でも真ん中の水門が開くところはなかなかお目にかかれない
でも、年に1度くらい、開かずの水門が開くことがある。たぶんどのダムでも行われていると思うけど、いざというときに水門がきちんと動くかどうか、実際に動かしてみる試験が行われるのだ。

水門を開けると水が流れ出てしまうから、放流が見られる。これを試験放流と言っている。ただ、放流を行うとなると、下流の川沿いに通知を出したり見回ったりしなければならないし、見物客が来ることも想定しなければならない。もし放流したあと水不足になったりしたら大変だから(ダムの貯水量から考えれば試験放流自体は大した量じゃないけど)確実に水に余裕があるときしかできない。

なので、多くのダムでは水門の動作試験は平日の午前中とかにこっそり行われるか、貯水池の水位が低くて、水門を開けても水が流れ出ない時期に行われている、と思う。つまり、試験放流を行うダムは、肝が据わっていたり、サービス精神が旺盛な所長さんがいるということなのだ(個人の見解です)。

今回試験放流が行われた矢木沢ダムと奈良俣ダムは毎年計画されているけど、特に矢木沢ダムは地震があったり電気や水不足だったりで4年ぶり。日本中のダム好きが待ち望んでいたと言っていい。3週間くらい前に実施のプレスリリースが出たとき、ダム好き界隈では有給申請や車の相乗り相談が飛び交うなど、軽く沸騰した。
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というわけで試験放流当日!

ダム好きの朝は早い。
早朝4時です
早朝4時です
矢木沢ダムの試験放流は10時からの1時間。遅くとも1時間前には着いておきたいし、途中で同行の友人を拾う時間や渋滞なども考えて、4時すぎに出発した。我ながらこんなに気合いが入っているのはひさびさである。

道中はスムーズに進み、8時半頃には到着した。

しかし、その時点で既にいつもの矢木沢ダムとはまったく雰囲気が違った。5年前の試験放流のときとも違った。
既にダムまで200mくらい駐車の列が続いている
既にダムまで200mくらい駐車の列が続いている
先頭のあたりは6時台に着いていたそうだ
先頭のあたりは6時台に着いていたそうだ
矢木沢ダムの手前5kmくらいからは一般道ではなくダムの管理用道路で、試験放流のときはダムに近いところから順に見物人が路駐していくことになっている。僕が初めてここの試験放流を見た2005年(もう9年も前だ)頃は、気合いを入れすぎて2時間前に着いたら誰もいなかったけど、その後は年を追うごとに見物人は増え、今年は1時間半前でもう200m以上車が並んでいた。

4年のあいだ、ダム好きたちが溜めに溜めた放流欲は爆発寸前だったのだ。
普段はダムの上の管理所で配布してるダムカードも臨時配布所が!
普段はダムの上の管理所で配布してるダムカードも臨時配布所が!
特等席には既に三脚が並んでいた
特等席には既に三脚が並んでいた
その後も後ろの方に車を停めた人々がぞくぞくと歩いて到着し、いつもは静かな山の中は異様な興奮と緊張に包まれた。

これはすごい。ウッドストックってこういう感じかも知れない。

放流開始まであと30分くらいになり、駐車の列がどこまで延びているか気になったので最後尾まで行ってみた。いや、正確には行けなかった。15分くらい小走りで、たぶん1.5kmくらい先まで行ってみたけど車の列は先の方までまったく途切れることなく続いていたのだ。

あとで訊いたら、いちばん遠い人はダムまで4km歩いたらしい。終わったらまた4km歩いて車まで戻るのだ。気の毒すぎる。来年はシャトルバスが必要かも知れない。
これでも3分の1くらい
ぞくぞくと人がやってくる
ぞくぞくと人がやってくる
テレビカメラも何台か来ていた
テレビカメラも何台か来ていた
ダムの上では地元の商工会が屋台を出店。完全にイベント化した!
ダムの上では地元の商工会が屋台を出店。完全にイベント化した!

いよいよ放流開始!

やがて、まもなく放流開始を合図するサイレンが鳴り響いた。

ダム好きとしてはよく聞くサイレンなのだけど、これは何度聞いても興奮と緊張が高まる。

時間になり、それまでざわざわしていた見物人たちも静まり返った。思い思いの場所で、みんなが水が流れてくるジャンプ台のてっぺんを凝視している。
橋の上からも
橋の上からも
ジャンプ台のすぐ下でも
ジャンプ台のすぐ下でも
川の対岸でも
川の対岸でも
みんな固唾を呑んでジャンプ台を見つめる
みんな固唾を呑んでジャンプ台を見つめる
予定の時間は過ぎたけど、まだ何も起こらない。

ここは水門から500mくらい離れているので、水門が開き、流れ出た水がいままさに水路を流れくだっているのだろう。

次の瞬間、みんなが一斉に「おおー!」という声を上げた。
きたー!!
きたー!!
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4年ぶりの放流!

水門を出て流れてきた水はジャンプ台から空中に放たれ、一瞬の沈黙のあと地面に叩きつけられて、轟音を立てながら粉々に砕け散った。

水路には4年分のゴミが溜まっているので、初めは水が真っ黒だった。
水路の4年分の垢を落とし中
水路の4年分の垢を落とし中
ずっと鳴ってるシャッター音は隣で微速度動画を撮っているため
ちなみに今回の試験放流は、毎秒6立方メートルの放流量で開始し、10分ごとに6立方メートルずつ増やされる。最大流量は40分後の毎秒30立方メートルだ。
水はすぐきれいになった
水はすぐきれいになった
やっぱりジャンプ台の真下が一番人気スポット
やっぱりジャンプ台の真下が一番人気スポット
しかしこの場所はあとで大変なことに
しかしこの場所はあとで大変なことに
ここから放流終了までの1時間は、みんな遠くから眺めたりジャンプ台の真下に行ってみたり、思い思いに動き回っていた。僕もあちこち動き回って写真を撮った。
対岸は比較的年齢層が高い
対岸は比較的年齢層が高い
ジャンプ台の下は相変わらず人がぎっしり
ジャンプ台の下は相変わらず人がぎっしり
さっきより放流量が増えてる!
さっきより放流量が増えてる!
ふたたびジャンプ台の下に行くと、さっきより明らかに流量が増えていた。この時点で放流量は毎秒およそ18立方メートル。そしてもうすぐ10時半を過ぎる、つまり放流量がさらに毎秒6立方メートル増えて、毎秒24立方メートルになる頃だ。
たぶんこのときがいちばん人が多かった
たぶんこのときがいちばん人が多かった
あ、さらに水の量増えた...
あ、さらに水の量増えた...
ジャンプ台を飛び越える水の流れを見ていたら、あきらかにガツンと流量が増えたのが分かった。

次の瞬間、現場は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
突然ものすごい豪雨が降ってきた
突然ものすごい豪雨が降ってきた
みんな右往左往で現場は大混乱
みんな右往左往で現場は大混乱
ずぶ濡れなのになぜかみんな笑顔
ずぶ濡れなのになぜかみんな笑顔
流量が増えた部分がジャンプ台から河原に叩きつけられた瞬間、ものすごい勢いで水しぶきが舞い上がり、それがもう一度空から降ってきた。一瞬にして全身ずぶ濡れ。

これが、矢木沢ダム放流の醍醐味である。ある一点を過ぎると途端に大量の水しぶきが襲いかかってくるのだ。過去の経験上、これを知っている人は雨合羽を着ている。

実際、この水しぶきがどのくらいすごいか動画を撮っていた。
しつこく何度も往復していたら雨合羽の意味ないくらい濡れた
というわけで、ジャンプ台下にいた人たちはみなずぶ濡れになってしまったのだけど、なぜかみな笑顔だった。

思わず笑ってしまうくらい、放流のエネルギーが強烈だったということなのだろう。

その後、試験放流は無事に終了。午後2時からの奈良俣ダムの試験放流に向けて、みなぞろぞろと移動を始めた。
ではまた午後~
ではまた午後~
あんなに停まっていた車がなくなった
あんなに停まっていた車がなくなった
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こちらは穏やかな放流

お昼ごはんを食べて、矢木沢ダムと山を挟んだ隣の川にある奈良俣ダムにやってきた。
関東でもっとも美しいダム、という意見もある
関東でもっとも美しいダム、という意見もある
こちらは、毎年春の風物詩である雪融け水の放流が行われていた。今日はこれに試験放流が加わるのだ。長年、奈良俣ダムを見てきたけど、そんなダブル放流は初めての体験である。

奈良俣ダムも、通常の駐車スペースではぜんぜん足りず、臨時駐車場がオープンしていた。
奈良俣ダムにこんな人が来ているの初めて見た
奈良俣ダムにこんな人が来ているの初めて見た
ここでちょうど顔見知りのダム職員さんに会ったので、矢木沢ダムの来場者数を訊いてみたところ、なんと車400台で1200人も来ていたのことだった。すごい、ダムの放流で1200人も集まる時代になったのだ。ちなみにその中にはこんな人もいる。
去年テレビ番組で一緒にダムめぐりしたなだぎ武さん
去年テレビ番組で一緒にダムめぐりしたなだぎ武さん
これはもう、ダムめぐりやダム放流見物が完全にメジャーな趣味になったと言えるんじゃないか。

そう言えば、ダムの上で地元の商工会が販売していた、おにぎりとすいとんセットも完売したそうだ。街おこしイベントとしても十分成立するのだ。
奈良俣ダムの試験放流も予定通り行われた
奈良俣ダムの試験放流も予定通り行われた
というわけで、一大スペクタクルな矢木沢ダム、奈良俣ダム試験放流は無事に終了した。もともとは単なる水門の動作チェックである。それを、水が多い時期の週末に予定して、1ヶ月前から告知を出し、地元の商工会が後押しをしたところこれだけの民族大移動が起こったのだ。きっとそれなりの経済効果もあったと思う。

何が言いたいかと言うと、つまりそれぞれのダムと地元地域はもっと手を取り合って、街おこしの一環としての試験放流をどんどんしたらいいと思うのだ。
最後に戯れで作ったミニチュア風動画を見てください

メインカルチャー来た

4年ぶりということもあって、今年の矢木沢ダム試験放流は盛り上がるぞ、と思っていたけど完全に予想以上だった。

昔は...なんて話はしたくないけど、僕が初めて観た頃は人もまばらで、知る人ぞ知る、というアングラ感が漂っていたので、今年の盛り上がりっぷりを見て、正直泣きそうになった。ダム好きはもう完全にメインカルチャーと言っていいと思う。

この流れが群馬から全国に広がったらいいな、と願っています。
なだれ注意
なだれ注意

そこであなたもダムにハマってみませんか

というわけでこれ以上ない流れでイベントの告知です。

7月13日(日)、お台場の東京カルチャーカルチャーでひさびさにダムのトークイベントを開催します。

今回は、ダムに興味があるけど難しそう、好きになったばかりでよく分からない、といったダム初心者の方に、基礎知識から楽しみ方までを全力で伝えます。

夏休み前に、きっと役に立つダム話をぜひ聞きにきてください。

まだ告知ページができてないので(ごめんなさい)、とりあえずスケジュール帳にメモを!

ダムナイト6
2014年7月13日(日)
17:30開場/18:30開演/21:30終演(予定)
出演:萩原雅紀/宮島咲/琉/星野夕陽
会場/東京カルチャーカルチャー
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