特集 2014年5月19日

ポピーがやばい

春らしいその姿に潜むポピーのやばさ
春らしいその姿に潜むポピーのやばさ
様々な花が咲き誇る春。色とりどりの姿はどれも可愛らしいが、中にはそれだけでは済まない花もある。
たとえばそれはポピー。ダントツでやばい。

代表的な春の花で、もちろん綺麗で可憐でもあるのだが、それはポピーの一側面でしかない。心をざわつかせるポピーを、逃げることなく見つめてみたい。
1973年東京生まれ。今は埼玉県暮らし。写真は勝手にキャベツ太郎になったときのもので、こういう髪型というわけではなく、脳がむき出しになってるわけでもありません。→「俺がキャベツ太郎だ!」

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夢みたいでやばい

個人的には日常生活の中で「やばい」という言葉を使うことはほとんどない。意味にも語感にも、つい使ってしまいたくなる負の魅力がある分、無意識に多用を避けているのだと思う。
全くやばいところのないチューリップ
全くやばいところのないチューリップ
そんな私が満を持してやばいと思う花がポピー。上のチューリップは風に揺れる様子が純粋にかわいいだけだが、ポピーの場合そうはいかない。
ザ・お花畑
ザ・お花畑
やってきたのは埼玉県の国営武蔵丘陵森林公園。訪れた4月下旬、広場にはたくさんのポピーが咲いていた。

まさしく「お花畑」。その字面からして、なんとなく能天気でパッパラパーな雰囲気が漂ってくる。

いい年こいたおっさんである私もその光景を見て、「わぁ、きれいだねー」などと、頭スカスカな感想を抱いてしまう。
紙細工のような花びらが特徴
紙細工のような花びらが特徴
一輪一輪は別にやばくない
一輪一輪は別にやばくない
お花畑を前に頭スカスカ、それでいいと思う。ポカポカ陽気の中、たくさんの花を見てそんな風になれるのはこの季節の魅力。そういう開放感は春ならではだからだ。

しかし、ポピー畑をじっと見ていると、それだけではない何かにいざなわれそうになる。
バックがぼけてくるとやばい
バックがぼけてくるとやばい
奥行きを意識して、ポピーだけが視界に入るように見つめていると、なんだか夢見心地になってくるのだ。
焦点のコントラストがあぶない
焦点のコントラストがあぶない
それもただの夢ではない気がする。もうすぐ死んじゃう人が意識不明の中で見る夢だ。あちらとこちらをさまよう時にアハハウフフと駆ける景色なのだ。

ポピーを前にフワーッとなったあと、我に返ったようにハッとなる。大丈夫、自分はまだ生きている。

死にかけたこともないのに既視感があるのは、映画やドラマの演出の影響なのだろう。チューリップや菜の花ではなく、ポピーが一番しっくり来ると思う。

うつむき具合がやばい

ここまで、まずはポピーのフワフワした感じを考えてみたが、続いては別の面からやばさの輪郭をはっきりさせていこう。
花以外にも注目
花以外にも注目
この写真、相変わらずホンワカとおめでたいが、それだけではない。手前左寄り、花ではない部分に注目してほしい。
可憐な花の下でうつむく者たち
可憐な花の下でうつむく者たち
それはつぼみだ。ポピーという花のつぼみは、なぜだかぐったりと下を向いているのだ。

そのうつむき加減から既に花が散ったようにも見えるが、それは違う。これから花が開くのに、なんだかもう終わった感を漂わせる矛盾。
こんな森に迷い込んだら泣く
こんな森に迷い込んだら泣く
視線を低くして花が視界に入らないようにすると、独特の雰囲気はさらに強調される。知らない星のジャングルに迷い込んだようでもある。絶対にちびる。
元気出しなよという言葉も虚しく通り過ぎそう
元気出しなよという言葉も虚しく通り過ぎそう
咲き誇る花が広がる様子は天国的なやばさだったが、つぼみに焦点を当てると正反対の雰囲気が前に出てくる。どんな励ましも響きそうにない。

つぼみ一つ一つに「すみません」「もうしません」とセリフを当てると、より陰を帯びてくる。

「弁解の余地もございません」「私の不徳の致すところです」と、謝罪を加速させてもいい。集団でうなだれているので、部全体で何かやらかしたようにも見える。
最終的には下を向いてしまうせつなさ
最終的には下を向いてしまうせつなさ
なんとか横から上に伸びたのに、結局は下に行ってしまうポピーのつぼみもいた。

一般的に、つぼみという言葉は未来を感じさせるイメージがあるだろう。実際これから咲くのだからそうではあるのだが、それをわかっていても心に影を落としてくるたたずまいがやばい。
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毛がやばい

ここまでの写真である程度伝わっていると思うが、続いては毛に焦点を当ててみたい。
うなだれの先にある毛の固まり
うなだれの先にある毛の固まり
つぼみをよく見ると、一面毛で覆われていることに気付く。モジャモジャともフサフサとも違う、簡単な言葉では表しがたい長さと密度だ。

毛の生え具合はつぼみによって違いがあるのだが、つい凝視してしまうのは上の写真のようなタイプ。花には失礼な話だが、なんとなく小汚いのだ。

ここから花が開くのか。あんまりそんな気がしない。
毛が集中線のように見えてくると爆発の予感も感じさせる
毛が集中線のように見えてくると爆発の予感も感じさせる
毛はつぼみだけでなく茎にも生えている。毛並みは揃っておらず、やや不規則。茎からほぼ垂直に生えているのも、いかんともしがたい。

花が開いたら可憐な女性を思わせるはずのポピー。しかし、その足にはすね毛がいっぱい生えているのだ。
シンクロしてうなだれるつぼみ
シンクロしてうなだれるつぼみ
人目はばからず絡み合うつぼみ
人目はばからず絡み合うつぼみ
うぶ毛と言うには密度が高い。花畑全体を楽しむような遠目では気付かない分、近寄ってウワッ…と意表を突かれたように気にもなる。

オリエンタルポピーがやばい

続いてやってきたのは鴻巣市の荒川河川敷にある「ポピー・ハッピースクエア」なる場所。ポピーが約1000万本、栽培面積日本一が認定されているらしい。
思いっきり緑
思いっきり緑
とは言え、訪れた4月下旬はこの様子。一面の緑だ。

森林公園で咲いていたのはアイスランドポピーという種類だが、こちらはカリフォルニアポピーとシャーレーポピーがメイン。開花時期が異なるらしい。

ちなみにこの記事の公開は5月19日。ちょうど今頃、たくさんの花が咲いているはずだ。これからでもポピーと向き合うことはできる。
それでも咲いてるポピーもいた
それでも咲いてるポピーもいた
ほぼ緑が占める中、ところどころ小さく固まって咲いているポピーがあった。オリエンタルポピーという種類の花だ。
だんだん鬼にも見えてきた
だんだん鬼にも見えてきた
森林公園のアイスランドポピーが可憐なイメージだったのに対して、こちらは存在感がくっきりしている。花自体も大きめだし、色も強い。

和名はオニゲシ。わかるような気がする。
のぞき込むとやばい
のぞき込むとやばい
漢字で書くと「鬼芥子」。ますます強面。

花の姿が凛々しいだけではなく、花弁の奥に視線を落とし込むと、迫力さえ感じられてくる。独特の色合いや造形に、こちらを睨まれている気がしてくるのだ。

安定してやばい

花の迫力に打たれるオリエンタルポピー。同じポピーだけあって、森林公園のアイスランドポピー同様のやばさも当然兼ね備えている。
高密度でうつむくつぼみたち
高密度でうつむくつぼみたち
黒っぽいツブツブ模様のものも
黒っぽいツブツブ模様のものも
アイスランドポピーと比べると毛の密度は低いが、その分一本ずつはやや剛毛。つぼみでその毛が立っているのは、この花の観察で重要なポイントのひとつだ。

と言うのは、オニゲシに見た目がそっくりで、毛が寝ているタイプの「ハカマオニゲシ」という花もあるからだ。こちらは含まれる成分ゆえ、法律で原則的に栽培が禁止されている。
どこかに誘われているようでやばい
どこかに誘われているようでやばい
そういう本格的なやばさも持つケシ属の花。成分的にセーフなオニゲシも、花とつぼみが入り乱れる様子は夢に出てきそうだ。

開きかけがやばい

ポピーの注目ポイントであるつぼみだが、つぼみゆえにいつかはそれは花開く。その瞬間がまたやばいことになっている。
筆舌にしがたくなってきた
筆舌にしがたくなってきた
どういう言葉で言っていいかわからなくなってきたが、やばいということは伝わるのではないか。

じって見ているうちに自分の感覚が心配になってきたので、妻にこの写真を見せて「なんかやばい感じする?」と聞いたら、「ああ、やばいわ…」と即答だった。

しかし、そこから会話が続かない。人を沈黙させるやばさなのだ。
なんとなく、手を合わせたくなる
なんとなく、手を合わせたくなる
さらに2人を黙らせたのはこのつぼみ。息を呑むことしかできない。

口を開いたら、大切な何かに触れてしまいそうなやばさ。沈黙に耐えきれず、私がなんとか「さっきのとは割れ方がちょっと違うみたいだね」と言ったところで、言葉は空を切って虚しく消えていくだけだ。
一旦普通の花を見て落ち着こう
一旦普通の花を見て落ち着こう
そして色違いもあります
そして色違いもあります
美しい花の姿で見る者を楽しませるだけでなく、時には沈黙という試練も与えてくるポピー。

かわいい花が並ぶ春のお花畑はデートスポットでもあるだろう。ただ、ポピーと下手に向き合い過ぎると、付き合い始めのカップルには気まずさも漂うかもしれない。

言いたいことは言い切った

「ポピーがやばい」と題したこの記事。もう少し気の利いたことを言いたかったのだが、さまざまな角度からやばさを放つポピーに、そうとしか言えなかった。

明るい美しさとともに、心に陰影を投げかけるポピー。まだまだ開花シーズン中なので、新しい視点を秘めてぜひ向き合ってみてほしい。
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