特集 2014年4月14日

「肉丼」を喰らう

微妙な異彩を放つ丼物、それが「肉丼」
微妙な異彩を放つ丼物、それが「肉丼」
「丼物」と聞いてまず思い浮かぶメニューは何だろう。上の写真にもあるカツ丼・玉子丼・親子丼・中華丼あたりは誰でもすぐに出てくるだろう。
そういった中、やや謎めいた雰囲気をもっているのが写真まん中にある「肉丼」。

定番と言えるほど、どこの店にあるわけでもない。牛丼や豚丼が何の肉を使っているかはっきりしているのに対して、「肉」止まりであるところも気になる。

実体を知るべく、いろいろな肉丼を食べてみよう。
1973年東京生まれ。今は埼玉県暮らし。写真は勝手にキャベツ太郎になったときのもので、こういう髪型というわけではなく、脳がむき出しになってるわけでもありません。→「俺がキャベツ太郎だ!」

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野菜というヴェールをまとう肉丼たち

丼物の中でも独特のポジションに位置する「肉丼」。肉の丼物であるのはわかるが、そこから先が見えてこないところにミステリアスなムードを感じる。
すでにうまそうな雰囲気漂う
すでにうまそうな雰囲気漂う
なじみのメニューに混ざる「肉丼」
なじみのメニューに混ざる「肉丼」
まずやってきたのは、埼玉県草加市にある「陣太鼓」というお店。商店街になじんでいて、古くからありそうな中華食堂といった雰囲気だ。

海老チャーハンとマーボー丼に挟まれてメニューにたたずむ「肉丼」の文字。他のどれも名前から様子が想像できるのに、肉丼だけははっきり見えてこない。

その実体はこれだ。
野菜を従えて登場した肉丼
野菜を従えて登場した肉丼
なるほど、こういう肉丼もあっていいよね、という肉丼。「肉丼」と名付けておいて、野菜もふんだんに使ってくるスタイルだ。タマネギのはみ出しも肉丼らしいワイルドではないか。
みそ汁・漬物に加えて卵も標準装備
みそ汁・漬物に加えて卵も標準装備
卵投入でワイルドからマイルドに
卵投入でワイルドからマイルドに
「今日のごはんはお肉よ~」と子供をおびき寄せておいて、ばっちり野菜も仕込むお母さんのスタンスだ。

子供ならチェッと思うかも知れないが、今は私も大人。野菜も大事だねと言い聞かせて肉丼を食べる。野菜の受容精神も広くなっているので、おいしく食べられる。

肉丼はこうしたごく普通の中華料理店のメニューにひっそりとたたずんでいることが多いようだ。埼玉県蕨市の「池田家食堂」もそうだ。
外観からは店名がわからないのもすごい
外観からは店名がわからないのもすごい
丼物3番目というポジションの肉丼
丼物3番目というポジションの肉丼
玉子丼と親子丼という関連の高い丼物の間に割って入る「肉丼」。「いつも定番だけじゃつまんなくない?」と、お店が提案してきているようにも見える。

この店にはもう1つ、気になるメニューがある。
肉丼以上に謎めくスープ
肉丼以上に謎めくスープ
「肉スープ」である。

肉丼はまだ聞いたことある感じもするのだが、肉スープは新鮮。「肉」も「スープ」も全く普通なのに、合体して「肉スープ」になると独特の響きが出てくる。こちらも注文してみよう。
注文間違いにも思えるビジュアル
注文間違いにも思えるビジュアル
底からどんどん出てくる肉たち
底からどんどん出てくる肉たち
やってきたのは、ほとんど野菜しか見えない「肉スープ」であるはずのスープ。謎が深まるようにも見える。

心配しながらかき回すと、下の方からはずかしがり屋の肉が続々と出てきて一安心。「俺こそが肉だ」と主張しがちの肉だが、今回ばかりは奥ゆかしい。
肉丼という満月にかかる野菜という雲
肉丼という満月にかかる野菜という雲
肉スープほどではないにせよ、続いて登場した肉丼も主人公であるはずの肉はやや控えめ。存在を示しつつも、野菜たちに身を隠す。お肉のチラリズムだ。

雲がかかった満月のようでもある。しかし「肉丼」という言葉の響きからすると、もう少し主張してもよいのではないか。
この向きからだと立派に肉丼
この向きからだと立派に肉丼
牛の楊枝入れの味わい
牛の楊枝入れの味わい
丼物は見る角度によって表情を次々と変えることがある。この店も肉丼もまさにそうで、上の写真からだと肉が主役になっていることがよくわかる。

北島三郎座長公演も、脇を固める役者がいてこそサブちゃんが映える。そういう肉丼だと思う。
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主役に躍り出ようとする肉丼

続いてやってきたのは、東京都文京区にある「札幌軒」という店。店を外から見てすぐ、これまでとは違うことがわかる。
のぼりは特注なのだろうか
のぼりは特注なのだろうか
茗荷谷名物としての肉丼
茗荷谷名物としての肉丼
茗荷谷の駅を出てすぐのこの店、肉丼が強烈にアピールされている。肉丼のぼりまで作ってしまう勢い。そんなものがこの世に存在するとは思ってもいなかった。

これまでの店ではひっそりとメニューに佇んでいた肉丼だが、この店では違う。前に出ようとする肉丼だ。
野菜が影を潜め始めた
野菜が影を潜め始めた
メニューでも一押しの肉丼は、ビジュアルとしても肉が前面に出てきている。野菜が入ってはいるものの、アクセントとして加えられている程度に見える。
ゴマが肉の独壇場に待ったをかける
ゴマが肉の独壇場に待ったをかける
肉シリーズが充実
肉シリーズが充実
肉丼であることを加速させる肉丼。しかし振りかけられたゴマの香りは肉に負けておらず、甘辛い味付けの肉と拮抗する。小さいながらも一矢報いるバランス感覚だ。

メニューには他にも肉シリーズが揃い、この店の肉に対する入れ込みが読み取れる。「男の肉丼」はニンニクが入っているとのことで、さらなるスタミナ感だ。

続いては栃木県まで足を伸ばそう。大田原市にある「阿Q」という店だ。
魯迅『阿Q正伝』から取ったという店名
魯迅『阿Q正伝』から取ったという店名
スープとみそ汁の使い分けも心憎い
スープとみそ汁の使い分けも心憎い
メニューにはお店の人のコメントが書かれているタイプ。個人的にこれを読むのが好きなのだが、肉丼には単なる説明以上の感情が込められていることがわかる。

真逆の存在とも思える「豆腐丼」も並んでいて気になるところだが、今回はあくまで肉丼を攻めたい。やってきたのはこれだ。
「肉丼」と言うよりは「肉ドーン!」
「肉丼」と言うよりは「肉ドーン!」
材料の内容構成よりも、まずはその盛り上がりに心を掴まれる肉丼。この写真でも十分インパクトがあるだろうが、横から見て高さを確認しよう。
独立峰としての肉丼
独立峰としての肉丼
逆方向に見本と違う
逆方向に見本と違う
運んできた店員さんに「これって普通盛りですよね?」と確認してしまった盛りつけ具合。メニューには肉丼の写真が載っているのだが、話が違う。

もちろんボリュームアップの方向だから、個人的にはウェルカム。茗荷谷の店と同じく甘辛い味つけ。ゴマも共通点で、暴走しようとする肉へのアクセントとして役割を果たす。

肉丼の兄弟分も登場

ここまで4つの肉丼を紹介してきたが、ここでひとつスペシャルゲストを紹介しよう。肉丼ではなく「肉めし」である。
丼ではなく「めし」
丼ではなく「めし」
肉めし専門という本気
肉めし専門という本気
東京都港区、新橋駅のすぐそばにある「岡むら屋」という店が出す「肉めし」。肉丼は探せばまだちらほら見つかるが、肉めしはレアリティが高い。

メインメニューは肉めしだけのこの店。丼との違いにはっきりした定義があるわけではないだろうが、どんなものだろうか。
これまでのどれとも違う「肉めし」
これまでのどれとも違う「肉めし」
肉がゴロゴロと転がる肉めし。スライスではなくカットされた肉。今回、ここ以外の店は全て豚肉を使っているのだが、この店だけは牛肉であるのもポイントだ。
器に占める面積で負けてない豆腐
器に占める面積で負けてない豆腐
柔と剛のコンビネーション
柔と剛のコンビネーション
この店で肉とともに布陣を張るのは野菜ではなく豆腐。角度を変えるとわかるが、かなりの大きさで存在感がある。こちらも畑のお肉とも言われる大豆出身だ。

見た目通りに、肉にも豆腐にもよく味がしみている。そして肉を食べていくうちに高ぶった気持ちを豆腐が和らげる。うまく言葉にしづらいが「丼」ではなく「めし」という語感が似合う食べ物だと思う。
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純度を高めていく肉丼

再び肉丼の話に戻ろう。続いてやってきたのは、東京都新宿区にある「ライフ」というお店。
日本語訳すると「生命」
日本語訳すると「生命」
イラスト入りで豚肉アピール
イラスト入りで豚肉アピール
メニューに肉丼を潜ませるのではなく、名物として押し出してくるのは茗荷谷と同じスタンス。早稲田大学すぐそばの店なので、学生相手にボリュームのあるメニューを手頃な価格で出すタイプの店であるようだ。

カレーもただのカレーではなく「肉カレー」。接頭語として肉を冠すると、独特の響きが輝き始める。
肉丼という言葉が純粋になりつつある
肉丼という言葉が純粋になりつつある
肉丼はいわゆる牛丼の豚肉版といった感じ。店内の表示にも「当店はブタ肉でーす」とあってわかりやすい。

肉以外の要素としてタマネギが入っているが、肉と同じ色に染まっていて存在感がない。これまでの肉丼でちらついていた野菜は、ほとんど目立たない。
すごい量を予感させる表示
すごい量を予感させる表示
大きさを伝えづらくて恐縮です
大きさを伝えづらくて恐縮です
1200円する大盛までメニューにはあるが、今回頼んだのは並盛。お店の人も「うちの並は他の店だったら大盛だからね~」と話していたように、十分なボリューム感。

しかし、私が丼を手にすると今ひとつ量感が伝わらない。顔デカがこんなところで災いして申し訳ない。

こちらの肉丼は標準状態でいわゆる「つゆだく」。煮込まれた肉のうまみが丼全体を覆い尽くす。

最後に紹介する肉丼は、栃木県足利市の「やまとや」という店のものだ。
歴史を感じさせる店構え
歴史を感じさせる店構え
他の丼物よりワンランク上の価格
他の丼物よりワンランク上の価格
やっているのかどうか少々戸惑うたたずまいなのだが、ドアのところには「OPEN」の札がかかっていて営業中だとわかる。実際、店内に入るとほぼ満席だった。

丼物メニューは種類が多めで、肉丼は最下段。価格からしてもそうだが、相撲の番付と逆で一番下に大物が控えるスタイルだ。
付け入る隙のない肉丼
付け入る隙のない肉丼
やってきたのはまさに「肉+ごはん」だけ。「肉丼」という字面に最も忠実な一品だ。

肉以外の存在を一切禁じ、結晶化した肉丼。肉の一切れ一切れが大振りで厚いのも、肉の存在感を強調する。
惚れ惚れするような風格
惚れ惚れするような風格
ご飯の盛りつけ線がアラート
ご飯の盛りつけ線がアラート
注文したのは普通盛りなのだが、器の上限までご飯が盛りつけられているのは独特だろうか。これによって肉の立体感が高まる。肉が飛び出して見える肉丼なのだ。

醤油ベースのタレが必要十分に絡まるのも、肉丼として過不足がない。誰がどう見ても肉丼としか言いようがない肉丼だと思う。

解釈に余地を残す肉丼

他のメジャー丼と比べて、これというスタイルが確立していない肉丼。それゆえメニューで発見すると、どんなものが出てくるのか確かめたくなる。

まだまだ日本にはいろいろな表情の肉丼があると思う。謎めいた響きの実体と向き合うため、今後も肉丼を見つけたら他のが食べたくてもつい頼んでしまいそうな気がする。
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