大人用のランドセルとは
日本の小学生のアイコンである「ランドセル」。それを大人が背負うと、どんな感じなるのだろうか?
こんな感じになります
出迎えてくれたのは、水谷研吾さん。「大人のランドセル」の製作者である。
これが大人のランドセルです
「大人のランドセル」なんていったって、どうせランドセル風のおしゃれカバンなんじゃないの? じつはそんな疑いもあったのだが、これは思った以上にランドセルだ。スタッズ(鋲)で描かれた模様が気品を漂わせている。
ランドセルといえばこの錠前
ペンギンを思わせるボディ
脱・ゆとり教育に対応する時間割
うん、ランドセルである。そのもっさりとしたフォルムが郷愁を誘う。
正面から見ると違和感なし。でも、ランドセルなんだよな
──しかし、なんでまたランドセルなんでしょう?
「ぼく昔ハーレーに乗っていたんですけど、ハーレー乗りのおじさんって、子供が昔使っていた古いランドセルをバイクのサイドバッグとして使っている人がけっこういるんです。確かにランドセルって丈夫だし、雨にぬれても平気だし、改めて考えると鞄として優れているなと思って。それが興味をもったきっかけですね。コロンとしたフォルムはカバンとしてかわいらしいですし、スタッズ等を使って味付けを少し変えてやれば大人も使えるものになるんじゃないかと」
ハーレーとランドセル。意外な接点が明らかに
平日はグラフィックデザイナーとして会社勤めをしている水谷さんだが、週末は「悪G堂(あくじどう)」というブランドを運営。東京都台東区の工房兼ショップで、自ら考案・製作したプロダクトを販売している。
大人のランドセルも、悪G堂のオリジナルプロダクトのひとつだ。完全受注生産で販売もしている。
「悪G堂」以外に「W CYAN(ダブル・シアン)」というブランドも展開。スタッズを駆使した革製品を製造・販売している
老舗ランドセルメーカーに直談判
サイフやベルトなどのプロダクトは革を縫うところからつくるというが、さすがにランドセルとなるとそうはいかない。製品化にあたっては、専門のランドセルメーカーの協力が必須だった。
そこで、まずはネットで落札した中古のランドセルを改造して試作品を作り、メーカーを尋ねまわったそうだ。
これがその試作品
「でも、最初の3社には門前払いされました。昔からある産業なんで、やはり保守的なところもあるし、商売柄、保護者から睨まれたらまずいですからね。でも、4社目に尋ねたメーカーはその道50年の老舗だったんですが、社長さんが僕と同い年くらいの若い方で、『おもしろそうですね、やってみましょう』ということになりました」
これを背負って下校、もとい、帰宅することもあるという水谷さん。「かみさんには呆れられます」とのこと
かくして、完成した「大人のランドセル」。単なるおふざけ模倣品ではなく、老舗メーカーの技術とこだわりが詰まった、本格派のランドセルなのだ。
1日最大6教科分の教科書とノートをおさめる収納力
フロントポケットにYKKの高級ファスナーを使用するなど、上質な素材をふんだんに用いている
ロシアからの注文
──どんな人が買うんですかね?
「正直ぼくもよく分かりませんが、純粋にファッションアイテムとして買う人もいれば、コスプレ用に、という人もいるんじゃないでしょうか。そういえば、この前ロシアから注文が来たのは驚きました。いま、ロシアの子どもたちの間でランドセルが流行っているらしいんですよ。それで、同じランドセルでもより個性的なものを探していたという親御さんからメールをもらったんです」
こちらは一面にスタッズを敷き詰めた別デザイン
重さは1kgくらい
海外セレブもランドセルを愛用
また、最近では映画『(500)日のサマー』などで知られる女優のズーイ・デシャネルが、プライベートでランドセルを使用していることが判明。日本のネット界を騒然とさせたという。
半信半疑で検索してみたら、確かに赤いランドセルを背負うハリウッドセレブがそこにいた(
こちら)。ズーイ・デシャネルといえば、アメリカにおいて「大人ガーリー」のファッションを確立させた第一人者(らしい。よく知らないけど)。
そんな彼女がガーリーなアクセントをプラスするワンポイントアイテムとして赤いランドセルをとりいれているのだ。小学生用という先入観のない外国人の目から見れば、普通にクールなバッグなのかもしれない。
ハリウッドも注目
どう見られたいかより、どうありたいか
そんなランドセルをかっこよく背負う、コーディネートのコツはあるのだろうか? 水谷さんに聞くと「コーディネート云々ではなく、気持ちの問題ではないでしょうか? 他人の目を気にせず堂々としていればサマになりますよ」
「僕は似合いますよ」と自信満々にランドセルを背負いこなす水谷さん
せっかくなので僕も背負わせてもらった。「似合いますよ」と水谷さんは言ってくれたが、どちらかというと成金の小学生みたいな似合い方
なお、「悪G堂」では他にも、懐かしいアイテムをリメイクしたプロダクトを展開。こちらは上履きにデニム素材などを組み合わせた「上履き(改)」
とはいえ、水谷さんも本気でランドセルが大人に流行るとはあまり思っていない。じっさい、そんなに売れてない。「ただ、大人が周囲の目を気にせずにランドセルを背負える世の中って楽しいですよね」と、企画の根底にはそんな思いがあるという。
なるほど、確かに楽しいかもしれない。ただ、ランドセル姿で出勤するサラリーマンが増えたら、それはそれで不安であるけれども。
ほんとに流行るかもしれない
改めて考えると、ランドセルは凄い。収納力、耐久性、防水性に優れ、ハリウッドセレブをも魅了するデザイン性を備えている。
ランドセルが大人のファッションアイテムとして台頭する日もそう遠くないのかもしれない。
【取材協力】
「悪G堂」
http://akujidou.com/
こちらはブリキのバケツをモチーフにした「リアルバケツトート」