特集 2014年3月19日

「生徒心得」をこねくり回す

高度なネット会議システムのむだづかい
高度なネット会議システムのむだづかい
中学校や高校で制定されている「生徒心得」。服装はこれこれだとか、生活態度がどうしたとか、学生当時は煙たく思いがちなあれだ。
大人になって学校という組織から解放された今、改めて生徒心得を見つめてみたい。そして自分たちの手で、理想の生徒心得を作ってみたい。

とりあえず真面目そうなことを書いたが、案の定検討結果はひどいものになった。
1973年東京生まれ。今は埼玉県暮らし。写真は勝手にキャベツ太郎になったときのもので、こういう髪型というわけではなく、脳がむき出しになってるわけでもありません。→「俺がキャベツ太郎だ!」

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自由な学園を目指して

理想の生徒心得を作るという今回の試み。当サイトの編集部とライターから、検討参加メンバーを組織した。
ライター伊藤<br />(校長) ライター伊藤
(校長)
編集部石川<br />(PTA会長) 編集部石川
(PTA会長)
ライター小野<br />(生活指導教員) ライター小野
(生活指導教員)
編集部藤原<br />(学生代表) 編集部藤原
(学生代表)
それぞれ学生時代に、生徒心得や学生生活全般に対して葛藤を抱えていた気配のするメンバーだ。きっといいものができるに違いない。

上の写真は、のちほど出てくる会議ログでのアイコンに合わせたもの。藤原さんだけグレー人間なのは、写真の設定が間に合わなかったからだ。それ以上の意味はない。
本物の藤原さんにはちゃんと実体があります
本物の藤原さんにはちゃんと実体があります
また、カッコ内は検討に当たって設定した「立場」である。勝手なことを言い出して議論が破綻するのを防ぐためにも、それぞれの立場からの視点をもって検討に臨むこととした。

しかし、メンバーはそれぞれハードな自分のビジネスを抱えるおっさんたち。どこかに集まって会議するのは困難なほど多忙なのだ。
まじめでもふざけでも使えるシステム
まじめでもふざけでも使えるシステム
そこで今回利用するのが「co-meeting」というオンライン会議システム(こちら)。これを使えば東京や埼玉に散らばるメンバーが、自宅からだらしない格好で議論できる。

今回はよくありそうな生徒心得を元版として用意し、それを「関東国際大学附属高等学校」という架空の学校の生徒心得へと変更していくということにした。元版の「前文」はこんな感じだ。
-関東国際大学付属高等学校「生徒心得」-

本校の生徒は常に規則正しく秩序を守った行動をとるよう努めなければならない。
その指針とし、基本的な事項につき以下のとおり心得を定める。
早速ここから議論して変更していこう。
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学校の風紀を守るべきはずの生活指導担当(小野)が、もうぬるいことを言い出した。
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校長(伊藤)や学生(藤原)がそれぞれの立場からの意見を述べて、前文は以下のように改訂することとなった。
-関東国際大学付属高等学校「改訂版生徒心得」-

本校の生徒は生徒主体でほどよく規則正しく秩序を守った行動をとるようがんばろう。
その指針とし、基本的な事項につき以下のとおり心得を定める。
冒頭から「これってあんまり守らなくてもいいやつだな」と思わせるゆるさ。我々は自由な校風の学園を標榜しているのだ。この調子で以降の項目も改訂していこう。
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そして立場が崩壊する

前文に続いての項目は「通学」。「co-meeting」はそれぞれの発言が表示される部分に加え、画面の右側に「共有ノート」という欄がある。そこにあるテキストは、複数の者が同時に編集できるようになっているのだ。

「通学」の項から先は、まずそれぞれが元版に変更案を書き加えたあと、具体的な検討に入る流れとしよう。
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「共有ノート」はこのように表示され、誰がどこをどんな風に編集しているのかリアルタイムにわかる。見ているとチャカチャカと次々に変わっていくのが面白い。

それぞれがひとしきり書き終わったところで、検討に入ろう。ここで進行役を務める石川さんから情報が入った。
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これまでぐちゃぐちゃに書いてきたが、返信機能を使えば話題別の場所で検討することができて議論がすっきりするのだ。それが今さらながらであっても、便利さに感動できる心は素晴らしい。
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ただ、機能があることとそれを効果的に使えるかは別物。言ってる内容もめちゃくちゃだし、参加者はシステム初体験ということもあって、話題は分散気味のまま。

しかし、別の話題がいくつかの場所で同時進行するのについていこうとするのは、頭が普段と違った使い方に追い込まれて新鮮。ものすごく活性化している気がするのだ。

特に熱の入ったやりとりをいくつか紹介しよう。
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メンバーが現役学生時代に背負っていた陰がにじむやりとり。大人になったり結婚したりしても、あの頃の気持ちを忘れたりはしない。

石川・小野が異性との下校を禁じることで一致しかけたところで、藤原が一人下校以外禁止発言。さらに尖った陰が議論に突き刺さる。

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クリスマスとバレンタインデーという苦虫イベントは「尾行」という手段で監視。学生時代の屈折が今になって花開く。

しかし、それでまとまりかけたところで、藤原が「両方とも禁止」を提案。またしても藤原ダークネスが発動だ。

こうした議論を重ね、「通学」の部分についての案がまとまっていく。
1.通学

(1)制服は設定せず、服も設定せず、つまりは全裸とする。校章は本校のピーアール・志望者獲得の為、学校指定のポシェットに常に40個常備し、近隣に撒く事。生徒パンツは任意の部分を隠すために用い、校章をつけること。

(2)異性または2親等以上離れた同性と一緒に帰らないこと。ただしと一緒に帰らないこと。ただし愛があればよい。2親等以内の同性はよいが、一人で帰るのが一番かっこいい。
くどい。おっさんたちがみんな言いたいことを言って引っ込めないのでこういうことになる。英知の結集ってこういうことでいいんだろうか。
(3)交通ルール、交通道徳をマジで遵守し、車に轢かれないこと。ハイブリッドカーを購入できるアッパーミドル層の友人を作り、本校を紹介すること。

(4)飲み歩き、食べ歩きは禁止だが、ちくわとブリトーのみ許可する。パンくずを落として小動物に与える目的の場合はパンもよい。パンがなければ、ケーキを食べること。

(5)まずは登校すること。登校といっても校舎の外壁は登らないこと。登校したら下校すること。

(6)放課後は下校時刻までに下校すること。部活動等の都合により下校時間を延長する場合には、延長料金を支払い許可を得るか、または先生にバレないようにすること。親に文句を言わせない対策をとること。

(7)クリスマスとバレンタインデーはスルーすることとするが、やむをえない事情がある場合は当校指定の尾行をうけたうえで実施すること。

議論ではメンバーごとに設定した立場もぐだぐだになっていて、おもしろ発言合戦のようになっていった。その成果物がこれだ。
(8)徒歩、公共交通機関を用いることを原則とし、エンジンの付いた乗り物を運転しての通学は禁止とする。ただし口で「バリバリバリバリ」等と言うのは可。車通学が発覚した場合はただちに召し上げてガリバー直行、本校の予算に加える。自転車の値段は12000円までとする。病時等は家族による車での送迎を認める。ましてや盗んだバイクで走り出さないこと。
くどさ極まる通学の最終項。よく読むと途中で「病時等は家族による車での送迎を認める」と、真っ当なのが混ざったままになっているのも妙な味がある。そこだけ浮いている。

まだやっと「1.通学」が終わったところだぞ。このペースで最後までたどり着けるのだろうか。
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豆知識の嵐の中で

続いての項目は「2.服装」。ここではまず、根本的な確認が行われた。
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先の項目で服装は全裸となった。ゆえに服装規定はなくなると思われたのだが、今になって思い出した。この学校は共学という設定だったのだ。さすがに全裸はまずい。
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大人たちは全裸であることを優先し、ここに来て男子校化。そもそもの前提となる学校の根幹すら、議論の中でどんどん歪めていく。

ならば服装の項目は不要かと思われたが、ここでダークネスから指摘が入った。
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確かに真冬に全裸は厳しい。コートの着用を認めるという生徒のことを考えた指摘。しかし、全裸ゆえにそれは体温の確保を意味するだけでなく、変態度の高まりという副作用を発生させる。
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髪型についても硬軟取り混ぜた大人ならではの議論が進展。自由と束縛とは、常に絶妙なバランスの上に成り立っているものなのだ。

こうした議論の末、服装の項目は以下のようにまとまった。
2.服装

(1)コートを着用の際は全裸の上に学校指定のトレンチコートを着用すること。その際はコートの中と上に生徒パンツを着用し、クリップで留めること。異装は認めない。

(2)頭髪は前髪は眉毛の上2cmで、失礼のない程度のマッシュルームカットとする。肩まで髪が伸びた場合は結婚を基本とするが、最終的には汝にまかせる。認めない、異装は。

言ってる内容はめちゃくちゃだが、「1.通学」にあったくどさは影を潜め、文面としてはスッキリとした仕上がりになった。おっさんたちも「俺が俺が」は疲れることを学習したのだ。

続いては「3.所持品」。まず、この項の1つ目の決定案を載せることとしよう。
3.所持品

(1)所持品には苗字にかかわらず、全員が「勅使河原」と記名し、所持品が自分のものかどうか確認すること。貴重品は常に携行し、金銭を貸借する場合の上限金利は20%とする。

この部分の冒頭は私が提案したもの。実は、書きながらちょっとした葛藤があったのだが、それを目撃している人がいた。
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そう、始め私は共有ノートに「佐藤」と書いたのだが、少し考えて直して「勅使河原」にしたのだ。変換の癖なども含めてリアルタイムで表示されるので、そういう部分を観察しあうのも興味深い。
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迷ったときは仲間が意見をくれて、戸惑う背中を押してくれる。ここは自信を持って勅使河原でゴーだ。

所持品の他の部分はこんな風にまとまった。
(2)生存に必要なもの以外を学内へ持ち込まないこと。危険物を飛行機に持ち込むことは禁止されています。秩父鉄道では持ち込み禁止物の看板に「死体」と記載されている。

(3)君たちの携帯電話は我々の監視下にあることを忘れるな。かってポケベル付き携帯電話というものが存在したがすぐに消えた。自らの長い牙を持て余したサーベルタイガーのように。

(4) 学校生活にふさわしくない物品については担任預かりとするが、ふさわしいかふさわしくないかは神のみぞ知る。担任預かりの物品は所定の申請をもって返却するが、ただし2,980円以上の品物はその限りではない。

これをまとまったと言っていいのだろうか。

(2)や(3)にある豆知識的な部分は伊藤さんの発案によるもの。
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おっさん同士が小突き合うようなやりとり。イラッとすることわかっててやってるところに、年を重ねてきた深みがある。

続いては最後の「4.校内での生活態度」。ラストスパートと思いきや、思わぬ脇道や混乱に私たちは直面することとなる。
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美しき流れ解散

最終章は「4.校内での生活態度」。決定案を順番に載せていこう。
4.校内での生活態度

(1)整理整頓を心がけること。心がけるだけでいいヨ。

(2)備品等にはニックネームをつけて気軽に呼び、一生奴隷として扱う。諸君はその奴隷を大切に扱うこと。
優しさと厳しさとが絡み合う学園。備品にはニックネームをつけてフランクに付き合いつつ奴隷扱いというのはダークネス藤原の発案。彼の心にある陰影がこんなところにも投影されている。
(3)事故等の際は滞りなく職員へ連絡すること。逆を言えば、事故のない限り職員に連絡をしてはならない。また事業者は、労働災害等により労働者が死亡又は休業した場合には、遅滞なく、労働者死傷病報告等を労働基準監督署長に提出すること。
後半部分の漢字の多いところは、急にドカッと編集された。
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法律を調べるにもいろいろな目的があっていい。そういう自由を、私たちは生徒心得の内容のみならず、作成過程においても大切にしているのだ。
(4)生徒は正当な理由無く遅刻、早退、欠席をしないこと。やむを得ない場合も滞りなく学級担任へ連絡のこと。また、毎週同じ曜日を休み続けるとその曜日の単位が危ないぞ。これ不登校豆知識な。
元版のままである前半部。そこに加えられた豆知識はダークネスによるもの。
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巧みに学生生活を泳いできた経験が生かされている。生徒思いのコネタが散りばめられた生徒心得、実にあたたかい学園になりそうだ。

続きはこんな風になった。
(5)挨拶は欧米式で行うこと。授業時間における終始の礼、また校長室、職員室等への出入りの際の礼、職員や来客へのハグは徹底すること。ただし、気軽に兄弟盃をかわさないこと。

(6)課外活動においては責任者を定め許可を受け行うこと。やむを得ず責任者を定めない場合は、署名を円状に並べその旨を明示すること。

(7) 火気の扱いは禁ずる。やむを得ない場合は必ず学級担任に許可を得ること。ひとえに風の前の塵に同じ。
グローバル化を見据えた欧米式の挨拶を取り入れつつ、日本の古典教養も織り交ぜた。国際人としてバランスの取れた人材を育てたいという思いを読み取ってほしい。

さあ、これで本編は完成した。あとは末尾のまとめ的な部分だけだ。
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進行役の石川さんが気合いを入れる。

しかし、そんな言葉も虚しく、参加者が夢中になり始めたのは別のことだ。
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コメントに返信をすると発言欄が少し狭くなる。それを繰り返すとどうなるのか、実験を始めたのだ。

俺が頂点取るんだ!と、むきになるメンバー。発言は意味のないまま、ピラミッドのように積み重なっていく。
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まずいことに、進行役の石川さんまでピラミッド登頂を始めてしまった。誰も止める人がいなくなってしまうではないか。

そして上の画像内の発言を最後に、石川さんの音信が途絶える。

(数分後)

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突然不在になった石川さんに戸惑うメンバーたち。狐につままれたようで、これまでの石川さんの存在まで疑い始めた。

あとから確認すると、自宅からネット会議に参加していた石川さんだが、急に機械の調子が悪くなって接続が途絶えてしまったらしい。なんて悪いタイミングなんだ。インターネットの万能感は「機械が壊れる」という単純なアクシデントで打ち砕かれる。

これまでの発言内で、生徒心得末尾の部分については面白い意見が出されていた。
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石川さんが仮の案として共有ノートにコピーしてくれていたので、あとはこれをまとめて体裁を整えればいい。しかし、進行役が不在となり、抜け殻になった残された者たちにはそれができない。しようとしない。
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そういうわけで、生徒心得の末尾部分はこうなった。
規律または礼儀についてはこの限りではないことを理解し高校生らしい生活を送るよう期待する。

案:なんだかんだ言ったけど、先生たちはみんなのことが大好きだよ 的なので終わるとダサくていい気もします。
案:リピします、異性にモテモテ
案:全裸だから世間の厳しい目にさらされてしなやかで強い人間性を育むことができました(17歳高校生)、スタイルの維持も重要なのでダイエットも成功しちゃいました☆(16歳高校生)

これを守らないとまじでうだつがあがらない人生をおくることになる

ここにおっさん4人眠る

- 完 -
生徒心得で「リピします」って、「留年します」ってことだろうか。どれだけいい学校なんだ。

ピラミッドパワーで不在となった石川さん
ピラミッドパワーで不在となった石川さん
この会議を通して私たちが学んだことは、進行役の大切さだ。好き勝手な者たちを制御するまとめ役が不在になると、散り散りに路頭に迷うということがよくわかった。

なくして初めてわかる貴重な存在。そんな形でしか理解できないなんて、人間はいつも愚かだ。

(改訂版「生徒心得」のPDF版はこちら)
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