後楽園ホールは東京ドームシティ『青いビル』の5階にあります。
東京に数あるプロレス会場の中でも、一度は訪れたい『聖地』としてプロレスファンの羨望を集める存在・後楽園ホール。
ボクシングの試合会場、日本テレビ系長寿番組『笑点』の収録場所としても有名です。
後楽園ホールは、JRや都営地下鉄の水道橋駅、東京メトロの後楽園駅などからほど近い東京ドームシティ内、日本最大級ドームとして名高い東京ドームと昼間からワンカップ片手のおっさんたちが集まる場外馬券場に挟まれるような形で存在する『青いビル』の5階にあります。
東京ドーム脇にある『青いビル』。
5階へ続く階段。
壁を埋め尽くす落書きの数々。
パターン1、イラスト系グラフィティ
まずは、心を和ませるイラストからご紹介したいと思います。
女子プロで「えりかちゃん」といえばこの人。
千葉ロッテのルーキー・井上晴哉選手に似ていることでおなじみ、アジャ・コングです。
『アジアのキングコング』が由来というリングネームも納得の100kgを超える巨体から繰り出されるパワフルな攻撃が持ち味のアジャ選手、その本名は「宍戸江利花」というかわいらしい名前です。
昔のバラエティ番組では、芸人への罰ゲームのビンタとかキックをする役どころとして「えりかちゃんというかわいい女の子に登場してもらいます!」と紹介されてアジャ選手が登場する、というパターンがよくあったのでご存じの方も多いかもしれません。
そんな「えりかちゃん」の思い出がよみがえるかわいいイラストですね。
馬場さんありがとう。
言わずと知れた日本プロレス界のレジェンド・ジャイアント馬場さんです。
粗いタッチながら、面長の顔に鼻やあごなどの特徴もとらえていますね。馬場さんが好んで吸っていたという葉巻をくわえているのもポイント高いです。
どうやら馬場さんが亡くなった時に描かれたもののようです。
かのポップスター、マイケル・ジャクソンのお墓にファンがマイケルへのメッセージと思われる落書きをしたということで問題になっていましたが、やはりカリスマが亡くなると何かひとこと書きたくなるんでしょうね。いえ、別にここ馬場さんのお墓じゃないのでちょっと違いますけど。
帽子に『ウィー』って書いてるS.ハンセン。
アメリカ・テキサス州出身のプロレスラー、スタン・ハンセン。
カウボーイ的な出で立ちとリングイン時の「ウィー」という掛け声のキャッチ―さ、「不沈艦」「ブレーキの壊れたダンプカー」と言われたパワフルなファイトで人気を博したハンセンが、こんなかわいらしいイラストになりました。
テンガロンハットに書かれた「ウィー」と指の形が、これがスタン・ハンセンだと過剰にアピールしています。正直なところ似てるかどうか判断できません。
かわいいからまぁいいや。
ほっこり癒されたい方には、イラスト系がお勧めです。
パターン2、要望系グラフィティ。
インターネット、SNSと言ったツールが当たり前のようになった現代人は、レスラーへの要望、不満や悪口、ポジティブなものもネガティブなものもブログやTwitter、Facebookなどに書き込むと思います。
なので、これから紹介するものは、そういった文明の利器がまだ社会に根付いていなかった素朴な時代の名残りです。
馬場さんへ、スティーブ・ウィリアムスの待遇改善を要求。
スティーブ・ウィリアムスは1986年に新日本プロレスに登場し、その後も全日本プロレスや本国アメリカのWWFで活動したプロレスラーで、2009年咽頭がんにより49歳の若さで亡くなりました。
「次期三冠候補にS.ウィリアムスを!」とありますが、1994年に全日本プロレス春の祭典、チャンピオン・カーニバルで準優勝し、その勢いで夏に三沢光晴を破って三冠チャンピオンになったはずなので、これは1994年以前のものでしょう。
全日および週プロへの批判、そして全日ファンの反論。
一時は取材拒否を受けるほど険悪な仲だった全日本プロレスの社長ジャイアント馬場さんと当時の週刊プロレス名物編集長・ターザン山本氏が和解した1986年頃、それまで新日本を持ち上げ全日本をディスるという誌面作りだったものが急に全日本を称賛する内容に変わった、という話を聞いたことがあります。
おそらく、その頃の書き込みでしょうね。
審判に反則をとってほしい、という要望だと解釈。
首を絞めて相手が失神するのを狙う技を一般に『スリーパー』と言いますが、通常のスリーパーは頸動脈を狙うのに対してチョークの場合は喉の気管を絞めつけます。
喉の気管を絞めるとダイレクトに呼吸を妨げ大変危険なため、総合格闘ではフィニッシュ技として使われますがプロレスでは禁止となっています。
プロレスの反則なんてあって無きがもの、と気にしていませんでしたが、まあ言われてみれば確かにそうだ。
こういう素朴な疑問で、プロレスを知ったつもりになって汚れていた自分の心に気付かされますね。書かれたのは、猪木が現役で試合をしていた1998年以前でしょうか。
こんな感じで、要望系は時代背景を考えて勝手にプロファイリングして楽しむことができるので、推理好き・妄想好きの方々にお勧めです。
パターン3、選手へのメッセージグラフィティ。
多分選手はこんなところ見てないと思うよ!というのは、巨大掲示板・2ちゃんねるに通じるものがありますが、悪口はともかく応援メッセージの場合は「見ていないだろうけど、見ていてほしい」と思わせる手書きならではの温かみがあります。
お前はもっと強いはずだ!
コジコジとは、新日本プロレスの小島聡選手。
昔はレスリングの日本代表や柔道の有名選手といった実績ある選手が鳴り物入りでプロレス団体に入門することが多々ありましたが、小島選手はそういったバックボーンのない選手で、団体からもさほど期待されていなかった若手時代はなかなか思うような活躍ができませんでした。
多分、そういった時代の小島選手への応援ですね。
私も結構小島選手は好きなので、親近感がわきました。
京子選手への祝福メッセージ。
プロレスで『京子』といえば、井上京子選手。
スピード、パワー、テクニックを兼ね備えた実力者でヒールながら人気の高かった京子選手はいくつものベルトを巻いてきましたが、『100代王者』ということは、井上貴子選手と組んだ『W井上』で戴冠したWWWA世界タッグ王座ですかね。
もともとはW井上で99代王者になったのに、記念すべき100代王者となるために王座を一度返上し、後に王座決定戦を行ってみごと100代王者に返り咲いたという異色の経緯です。
ちなみに、私はこの100代王座決定戦で決勝を争った豊田真奈美・ブリザードYuki組が好きでした。ていうか、豊田真奈美が好きでした。
ひとりになっても応援するぜ。
『関節技の鬼』こと藤原喜明選手のイラスト入り応援メッセージです。
自身が立ち上げた団体『藤原組』のレスラーたちがフロントとの対立から続々と離脱して最終的にひとりになってしまったり胃がんで胃の半分を切除したりしつつ、今なお現役レスラーとしてリングに上がる生きたレジェンドです。
そんな藤原組長の生きざまを思うと、『ひとりになっても応援するぜ』という言葉がいっそう心に染みますね。
「私もその選手好き!」といった共感を求める方々には、このメッセージ系がお勧めです。
パターン4、よくわからないけど心に残るグラフィティ
言ってる意味はよく分からないけど、何か心に残る言葉ってありますよね。
例えばこちら。
オレが死ぬときは前田のキックをくらったときだけだ。
「前田」は多分前田日明だと思いますが、確かに前田のキックを食らったら私も死ぬと思います。
よく分かんないけど何かかっこいい響きなので、私もいつかどこかで使ってみたいフレーズです。
2階踊り場の壁一面に『モーニング娘。』
死ねだのハゲだの悪口満載の踊り場の壁に、すべてを覆い尽くすように大きく書かれた『モーニング娘。』の文字。
これは、お互いに悪口を言い合うようなことは止めて、皆でモーニング娘。でも聞いて平和な気持ちを取り戻そうよ!というつんくさんからのメッセージなのではないかと想像しています。
汚してすみません!がかわいい。
「2000年はオレたちの時代の幕明けだ!」とかっこよく宣言したと思った直後の、「汚してすみません!」という謝罪。
きっとこれを書いた人は真面目な人なのでしょうが、すまないと思うのに何故わざわざ書いたのかという疑問は残ります。
このように、いろいろな楽しみ方がある後楽園ホールの階段のアートたち。
後楽園ホールにお出かけの際には、足腰が弱かったり膝に水がたまっていたりして階段による移動が厳しい方以外は、是非一度階段を使って実物をご覧ください。
プロレス友達と話をしたような充実感があります。
壁一面にぎっしり詰まったメッセージの数々は、感心したり共感したり時には反論したくなったり、友達とお互いのプロレス観について語り合ったような満足感を与えてくれます。
おれの芸術も描き加えてやるぜ!というアーティスト志向の方には別のところで活動してもらうとして、こちらでは今あるものを楽しむにとどめてくださると幸いです。
北斗にやられちゃえ←神取にやられちまえ、という下らないやりとり。いかにもプロレスファンっぽい。