特集 2014年3月26日

大回り乗車途中下車の旅

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初乗り運賃で長距離を旅できる方法がある。大回り乗車と呼ばれるもので大阪近郊なら120円で500キロくらいの移動をすることが出来る方法だ。

だが、様々なルールがあり、その中でも一番大きいのが途中下車が出来ないということだ。途中下車せず長距離移動して楽しいのか!?降りたい。せっかく遠くに行くんだったら降りてみたい。

ということで大回り乗車をしながら途中下車する旅に行ってみた。
1983年三重県生まれ、大阪在住の司法書士。
手土産を持参する際は消費期限当日の赤福で受け取る側に過度のプレッシャーを与える。

前の記事:ラピュタのような島の辺り一帯がなんか妙

> 個人サイト owariyoshiaki.com

大回り乗車とはなにか

大回り乗車とは、簡単に言うと「環状になっているJRの路線がある地域で遠回りしても短い距離の運賃を適用しよう」という制度である。
黄色のルートを通っても、赤のルートを通っても同じ料金。
黄色のルートを通っても、赤のルートを通っても同じ料金。
上記の写真の赤いルート、黄色いルートを通って移動した場合どちらも通る改札は「京橋」と「鶴橋」の二箇所である。どこを通ってきたかは鉄道会社はわからない(またはチェックするのが大変)。

なので、上手くグルーッと大回りすれば初乗り料金120円で数百キロの鉄道旅をすることが出来るのだ。(色々とルールがあるようなので実行される際は自ら調べて自己責任でお願いします)

でも、せっかく遠く行くなら降りたい

120円ですごく遠くまで。なんとも魅力的な話だが大変に残念なこともある。降りたい。大回り乗車では駅から出られないのだ。遠くに行っても、車窓から見るだけ。それなら世界の車窓からを見ていたほうがいい気もする。
降りよう。
降りよう。
格安大回りの旅はやってみたい。でも降りたい。ずっとそう考えていて思いついた。青春18きっぷを使えばいいのではないか。青春18きっぷとは期間限定で発売されるJRの普通電車乗り放題券である。

大回り乗車ならば120円で回れる経路を一日あたり2300円の券を使ってぶらり途中下車の旅をしたら楽しいのではないか(やっと前置き説明終了)。と思ったのでやってみた。

やっと出発

今回のルートは大回りルールを守っている(と思う)ので同じルートで途中下車をしなければ120円でめぐることも出来る。やってみて、途中下車しなくても楽しければ120円でもう一回やろうと思う。
JR西日本京橋駅からスタート。
JR西日本京橋駅からスタート。
実行しようと最寄りの駅へ。南の出身だからかもしれないが旅といえば、まずは北へ向かうものだという思いがある。回る電車の北方向へ乗る。

より大きな地図で 京橋駅から大阪駅 を表示
JR京橋駅から大阪駅へ。(運賃160円)出発駅を赤いピン、目的駅を青いピンで目印つけている。
京橋から数分で大阪駅に到着。乗り換えのため一旦下車。乗り換え予定の次の電車は数分後とのこと。

目的のない旅なのでゆったりするのが良いであろうが貧乏性なのでせっかく改札を出られるならと無駄に出る。第一の乗車からすでに大回り乗車との差異を出した。
今川焼き(大判焼き)の美味しいお店で、神戸の人は今川焼きを御座候って呼ぶ。
今川焼き(大判焼き)の美味しいお店で、神戸の人は今川焼きを御座候って呼ぶ。
が、しかし長距離を見越しての早起きが仇となってどこもお店が開いていない。全くの無駄足であったが定刻は迫り、急いでホームへ駆け上がる。遅れてもどうということはない電車に乗れた時の達成感が少し嬉しい。

楽しい電車旅

息を弾ませながら景色を楽しむ。途中下車をすると言っても折角なので長距離を移動してみたい。
基本的に車窓メイン
基本的に車窓メイン
この度のメインコンテンツは景色と、座ってるとお尻だけが異様に暖かくなる座席暖房だ。この日は非常に寒く、座れない事は死に近づくことであった。

座れない場合、体力、暖房、景色とかけがえのないものすべてを失うこととなるので座席の確保だけを第一に行動する。
あっ、あれは!
あっ、あれは!
そんなことを考えながらしばらくしていると待ちわびたものが見えてきた。
おっきいチョコレート!
おっきいチョコレート!
大阪から京都までのJR沿線に現れる超巨大な板チョコ。明治のチョコレート工場らしいが、いつ見てもワクワクする。

板チョコだから奥行きはないのか?四方が板チョコなのかな?じゃあ、上は?などと考えが尽きない。実際に近づいちゃうと現実が見えてしまう気がするので常に電車の窓からのみ見ていたいスポットである。

意外と見られる観光スポット


より大きな地図で 大阪駅から京都駅 を表示
京都駅に到着。(運賃540円)通過した駅を黄色いピン、出発駅を赤いピン、目的駅を青いピンで目印つけている。
車窓を楽しんでいたらあっという間に京都駅。乗り換えに十数分あったので外に出てみる。なんならここでしばらく時間を取って朝ごはんにするのもいいかもしれない。
駅前にいきなり京都タワー。
駅前にいきなり京都タワー。
何か飲食店はないかと外に出てみると京都タワー。近づいてみても飲食店は見当たらず、京都タワー地下にあるという銭湯だけが営業していた。行ってみたいが、今ではない。
大階段は有名だけど、その上には何があるか全く知らない。
大階段は有名だけど、その上には何があるか全く知らない。
外は諦めて中に戻ると京都駅の大階段。ちょっと改札から出るだけで有名観光スポットをいくつも見られる。ちょっとだけでも出られると出られないでは大きく違うかもしれない。

と、思いながら結局食べ物は見つけられずパンを買って電車に戻った。
一気に別世界
一気に別世界
パンを食べながら、次は琵琶湖だ!っと思っていたら意外にも、トンネルを抜けるとそこは雪国だった。
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鉄道旅が予想以上に別世界


より大きな地図で 京都から近江今津 を表示
京都駅から近江今津駅に移動(運賃950円)通過した駅を黄色いピン、出発駅を赤いピン、目的駅を青いピンで目印つけている。
京都駅から更に北を目指して、琵琶湖が見えてくるぞ!と楽しみにしていたら琵琶湖よりも辺り一面を包み込んだ雪景色に感動する。
琵琶湖はでっかいどう
琵琶湖はでっかいどう
朝日を受けた湖面と光をほのかに放つような新雪で辺り一面がホワーッと輝くように明るく、電車の音が聞こえないくらい静かな空間に来た様に思えた。

少し電車にのるだけでこんなにも世界が変わるものなのか。関西一円の方は120円でこれを見ることが出来たのだと思うと大回り乗車の凄さを感じる。

別世界の現実

本来なら琵琶湖北端まで一本で行くが、乗る電車間違えてここで乗り換え。
本来なら琵琶湖北端まで一本で行くが、乗る電車間違えてここで乗り換え。
乗り換え待ち時間の間、別世界の中を散歩してみよう。白くて静かな世界の散歩はさも心穏やかなものであろう。
白くて、静か…?
白くて、静か…?
穏やかな気持ちで外に出て、いざ外を見てみると「げっ」って言った。自然と出た。
ケータイ落としたらこんなにめり込んだ。
ケータイ落としたらこんなにめり込んだ。
移動しようとすると足首まで埋まる雪の上か、食べきれなかったかき氷みたいなやつの上を歩くかしかない。窓から見ていた幻想的な景色の現実はかくも面倒なものだった。
琵琶湖の横まで行ってみた。雪かきしてる人初めて見たかもしれない。
琵琶湖の横まで行ってみた。雪かきしてる人初めて見たかもしれない。
綺麗ではあるが、それはひとごとだから思える感想で実際この時は靴に水が染みてきて冷たいしか考えられなかった。これなら車窓から見てるだけの大回り乗車の方が楽しいかもしれない。
完全に雪国
完全に雪国
大回り乗車最北端の駅、近江塩津に到着。出発時の青空が信じられないような光景が広がっている。遠くに来るというのはそれだけで普段とは違う体験ができる可能性が上がって良いものだ。

より大きな地図で 近江今津から近江塩津 を表示
(運賃400円)通過した駅を黄色いピン、出発駅を赤いピン、目的駅を青いピンで目印つけている。

そろそろ降りメリットを活かしたい


より大きな地図で 近江塩津から彦根 を表示
さて最北端から今度は南下。(運賃650円)通過した駅を黄色いピン、出発駅を赤いピン、目的駅を青いピンで目印つけている。
始めるまでは「乗り換えの待ち時間に降りて観光出来るだろう」と考えていたのだがJRの時刻表がとても上手く出来すぎていて、降りて隣のホームに行くと電車が到着、それを逃すと1時間待ち。みたいな状況。
ひこにゃん見たい。
ひこにゃん見たい。
近江ちゃんぽんとな。それ食べよう。
近江ちゃんぽんとな。それ食べよう。
なので、それを打ち破るべく特に降りる必要は無い彦根駅に自らの意志で降り、何か観光をしようと目論んだ。お昼時でもあるので名物でも食べてこよう。
雪ではしゃぐ人々がかわいい。
雪ではしゃぐ人々がかわいい。
近江ちゃんぽんを出す店に向かう。彦根も雪ではしゃぐ子供がいたり女子高生が雪だるまを作っていたり、ほのぼのとした光景が広がっている。

良い。完全に降りてよかった。こういうのだ、こういうことだ。景色としてではなく空気として感じる遠くに来た感。これだけで青春18きっぷを使った甲斐がある。
ちゃんぽん 大 780円
ちゃんぽん 大 780円
そして、その土地の食べ物を食べる。名物というから頼んだものの、どんなものなのかな?から始まる食事体験の尊さよ。
横に居た人が酢をかけていたので真似した。酢の味になった。
横に居た人が酢をかけていたので真似した。酢の味になった。
近江ちゃんぽんは和風だしでたっぷりの野菜が煮込まれていて体の芯から温まる優しい味。煮込むという点と麺の太さなどは長崎ちゃんぽんと似ているが味は全く違い、やっぱり関西は出汁文化だなと実感する。

満足したので再度大回りに戻る。
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電車の旅って面白いですね

どこまでも続きそうな線路にどこまでも行きたくなる。
どこまでも続きそうな線路にどこまでも行きたくなる。
彦根を出て更に南下する。滋賀県を離れた辺りから全く雪がなくなってさっきまでが嘘みたいな景色が広がる。のどか感この上ない。

より大きな地図で 彦根から奈良 を表示
彦根から奈良へ。(運賃1890円)通過した駅を黄色いピン、出発駅を赤いピン、目的駅を青いピンで目印つけている。
伊賀とか甲賀辺りに走っていた忍者電車。忍者はわかるが、その位置の猫はなんだ。
伊賀とか甲賀辺りに走っていた忍者電車。忍者はわかるが、その位置の猫はなんだ。
大回りの旅開始数時間、大阪京都滋賀三重を経て奈良に向かう。ずっと電車で暇だろうと文庫本を持ってきていたが、意外と飽きずに景色だけを見てぼーっとしていられる。

見たこと無い景色が少しずつ移り変わって全く違うものに変わっていく様子と乗ってくる人の空気が違うのが面白い。これが電車旅のよさなんですかね。

人生で一番うまい餅

せんとくんさん、もう完全に定着したよね。
せんとくんさん、もう完全に定着したよね。
奈良も乗換駅では無いのだが、折角通るなら鹿が見たいと思って降りた。鹿、見たい。
こだわり茶って書いたパチンコ屋さん。奈良ではパチンコ屋さんですらお茶にこだわっているのか。
こだわり茶って書いたパチンコ屋さん。奈良ではパチンコ屋さんですらお茶にこだわっているのか。
駅を出て鹿のいそうな方向に向かう。冬の鹿はちゃんといるのか?探していると鹿ではなく人の群れを見つけた。
すごい人だかり。
すごい人だかり。
スムーズに流れる商店街の流れを一点せき止めるお店がある。何かと見るとお餅屋さん。あとから調べたら超高速餅つきで有名なお店だった(帰ってからテレビに出てて、あっ!ってなった)。
何の変哲もないよもぎ餅。
何の変哲もないよもぎ餅。
つきたてのお餅をその場で食べられるそうなので一つ買ってみた。つきたてのお餅は美味い。そんな当たり前の一般論としてではなく、もう異常に美味かった。

お餅とは思えない柔らかさ。しかして煮込んだ時のようなだれた感じではなくプリッとハリがあるのに柔らかくて弾力がある。
洒落にならんくらい伸びる。
洒落にならんくらい伸びる。
体験したことのない食感に、本当に餅なのか疑わしくなる。あまりの感動に帰り際にもう一個買ったらついてからちょっとだけ経ったものだったみたいで、魔法が解けたように全く普通のお餅でびっくりした。

賞味期限5分、本当にここでしか食べられないすごい餅。

奈良無料で楽しめる

何か丸い。
何か丸い。
餅を食べて歩いていると鹿が現れた。動物園などのふれあいコーナーのように仕切りがあるわけでなく、いきなり現れるのが良い。
何らかの国宝。
何らかの国宝。
また、奈良はブラブラと歩いているとポコポコと国宝とかがあって、無料で外観とか見られて歩いているだけで楽しい。
ふなっしーさんはやっぱり子供にも大人気。
ふなっしーさんはやっぱり子供にも大人気。
そしてなんと偶然にも今人気絶頂のふなっしーにも会うことが出来た。奈良にもいるんだな、ふなっしー。でもイラスト等では見たことがあったが、実物は結構印象と違うもんなんだなと思った。

電車旅は明るいうちに


より大きな地図で 奈良から和歌山 を表示
奈良から和歌山(運賃1530円)通過した駅を黄色いピン、出発駅を赤いピン、目的駅を青いピンで目印つけている。
奈良を満喫して和歌山へ向かう。大回りの旅も終盤。実際電車に乗っていると移動している感覚が薄れてくるが、googleマップで移動ログを起こしてみると大移動していて驚く。こんなに移動してたのか、これが120円でも可能なのか。
外の景色の写真が撮れない。
外の景色の写真が撮れない。
奈良から出た辺りで日が暮れた。それ以降は外の景色があまり見えず、少し退屈する。途中下車しなければこのルートで明るいうちに回り切ることが出来るので景色を楽しみたい場合はそのほうがいいかも。
ひこにゃん見たい。なんか変な駅あった。
ひこにゃん見たい。なんか変な駅あった。
ググったら、ナニコレ珍百景にも出ていた駅らしい。
ググったら、ナニコレ珍百景にも出ていた駅らしい。
それでもたまに車窓には面白いものが飛び込んでくる。電車の窓から一瞬しか見られない光景は一期一会感があって貴重に思える。絶対地元じゃ有名だよなこの駅。
ここまで来たかという思い(疲れてきた)。
ここまで来たかという思い(疲れてきた)。
奈良から和歌山まで2時間以上揺られてやっと到着。最後の途中下車ポイントとして和歌山を選択。
和歌山ラーメンで締め。
和歌山ラーメンで締め。
最後は駅直結のラーメン屋さんで和歌山ラーメンで締める。昼とラーメンでかぶってしまったが逆にその対比で個性が際立つ。
テーブルの上にあるゆでたまごは勝手に食べて、会計時に何個食べたか伝える自己申告制。そういう妙な文化に会うと嬉しい。
テーブルの上にあるゆでたまごは勝手に食べて、会計時に何個食べたか伝える自己申告制。そういう妙な文化に会うと嬉しい。
臭みのない豚骨醤油のこってり感にちょっと柔らか目の麺が濃さを引き立てる。食べてる!という実感の強い一杯に、わざわざ降りて食べてよかったと思う。

ゴール


より大きな地図で 和歌山から京橋 を表示
すごい移動距離になったな。(運賃1050円)通過した駅を黄色いピン、出発駅を赤いピン、目的駅を青いピンで目印つけている。
和歌山から京橋に帰ってゴール。が、本来の大回り乗車は同一駅に戻ってしまうと大回り特例の適用が無くなってしまうので大回り乗車の場合は手前の駅で降りなければ大変なことになるのでご注意を。
暗くなった。
暗くなった。

ということで大回り途中下車の旅。約500キロ弱をおよそ14時間かけて行ってきた。正規の運賃であれば7170円必要だったところを青春18きっぷで2300円。途中下車しなければ120円で可能な旅だ。

途中下車してみて思ったのは超長距離の移動と観光を両立させようとすると非常にタイトなスケジュールになって大変疲れるということだ。

下車しなけりゃその土地に行ったとはいえない!とか思っていたが、観光したいなら長距離移動中じゃなくてちゃんとその土地を目当てとして行ったほうが楽しいだろうなと普通の事を思った。

降りなくても車窓の景色ですごく楽しめた大回り乗車。予想よりも楽しかったので今度はもう少し短めのルートでまたやってみようかなと思っている。
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