特集 2014年3月25日

巨大明太子を作った

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白米を愛する日本人は、ごはんを引き立てるおかずたちにも愛情を注ぐ。塩サバ、お新香、塩辛…ひいきのおかずは人それぞれだが、特に多くの人々から支持を集めているのはピリッと唐辛子の効いた明太子だろう。もちろん僕も大好きだ。

今回はそれを自作する。しかもとびきりでかいやつを。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

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明太子はスケトウダラの子。だけど…。

確かに辛子明太子はおいしいのだがなかなか高級品であるし、一本がせいぜい十数センチほどしかない。もっと安くてもっと大きければ、いくらでもガツガツ食べられたのに…という食いしん坊かつ貧乏くさい妄想から本記事はスタートした。

まず、ご存じのとおり辛子明太子とは、わかりやすく言うとタラコを唐辛子ベースの漬け汁に漬け込んだ食品である。
九州のお土産屋さんで撮影させてもらった明太子。結構いい値段だ。
九州のお土産屋さんで撮影させてもらった明太子。結構いい値段だ。
タラコというからにはタラの卵(卵巣)なのだが、一口にタラと言ってもいろいろと種類がある。僕らがふだん食べている、あの淡いピンク色の塩タラコや辛子明太子は基本的にスケトウダラという種のものである。
これがスケトウダラ
これがスケトウダラ
このスケトウダラの中国名が「明太」あるいは「明太魚」である。明太子というのはまさに「スケトウダラの卵」という意味なのである。タラの仲間にしてはやや細身で、体重は1キロもあればかなり大きな方である。

なるほど、これでは明太子がいまひとつ物足りないサイズ(僕にとっては)であるのも納得がいく。親が小さいのではなあ。むしろ、この小ささで200グラム近い卵を抱えるのだからたいしたものだと言えるのかも。

一方、鍋の具や白子で親しまれているマダラ(真鱈)は大きくなるとその体重が10キロを超える。
こんなタラのお腹に入っているタラコはいったいどれほど巨大なのか。
こんなタラのお腹に入っているタラコはいったいどれほど巨大なのか。
となると当然、卵巣もスケトウダラよりはるかに大きくなることは容易に想像できる。
そう。マダラの卵巣で明太子を作ればいいのだ!

いや、先ほど「明太子とはスケトウダラの卵という意味」だと説明したばかりだが、細かいことはいいではないか。ファンタグレープにもブドウ果汁は入っていないんだし、細かいことはいいではないか。

釣り船が出ない!

マダラ、スケトウダラをはじめとするタラの仲間はみな一様に寒い海に生息している。暖かい地方で育った僕には全く馴染みのない魚だ。

北の魚に詳しい友人に尋ねると、マダラの産卵期は概ね晩秋から冬らしい(海域によってかなりずれる)。つまり、冬のマダラのお腹にはたっぷり卵が詰まっているわけだ。なお、マダラの卵巣は「真子」と呼ばれて食用になっているらしい。この呼び名はスケソウダラのタラコと区別するためについたものだろうか。

また、釣り船に乗って自分で竿を出せば、なかなか市場でも姿を見られないような10キロを超える特大サイズのマダラをゲットできる可能性もあるとか。そんな巨大なタラのお腹にはどれほど大きな卵巣が詰まっていることか!
マダラは普段、深海に生息している。そのため、釣り道具も大がかり。(イメージ写真)
マダラは普段、深海に生息している。そのため、釣り道具も大がかり。(イメージ写真)
そんなことを考えるともう止まらない。ウキウキしながらオモリや電動リールを20キロ分カバンに詰め込み、巨大タラコを求めて僕は東北へと飛んだ。

が、到着してみると北の海は連日大荒れで、一向に船が出ない。2泊の予定を延長して4日間滞在したが、結局海が落ち着くことはなかった。残念だ。
絶望のあまり道端に倒れ込んだ。わけではなく川で小魚を採って気を紛らわせているところ。
絶望のあまり道端に倒れ込んだ。わけではなく川で小魚を採って気を紛らわせているところ。
いや、残念では済まない。このままでは取材失敗、企画断念だ。なんとか真子だけでも手に入れなくては。

地元の人の話によると真子は一般的なスーパーマーケットや市場に売られているらしい。

しかし、目的の明太子を完成させるためには「巨大」で「形が整っていて」かつ「生食できる」という3つの要素を満たしていなければならないのだ。これが難しかった。
まずはスーパーマーケットの鮮魚コーナーへ
まずはスーパーマーケットの鮮魚コーナーへ

とりあえず見つけたが…

スーパーマーケットの鮮魚コーナーへ向かうと、いきなりマダラの姿が目に入る。
マダラだ!でも小さい…。
マダラだ!でも小さい…。
しかも、小ぶりではあるが大量に並んでいる。これなら真子も手に入るのではないか。
タラってこんな顔。意外と歯が鋭くて男前。生きている姿を見たかった。
タラってこんな顔。意外と歯が鋭くて男前。生きている姿を見たかった。
白子も売られている
白子も売られている
ふと冷蔵ケースの中を見ると、見慣れぬ謎の物体が。
ナマコ?レバー?なんだこれ…?
ナマコ?レバー?なんだこれ…?
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真っ黒だったり、茶色だったり、斑だったり…
真っ黒だったり、茶色だったり、斑だったり…
商品名は「生タラコ 真だら」とある。これだ。これが真子だ。

一つ一つが200~300グラム程ある。シルエットも手のひらからはみ出すほどだ。期待していたサイズよりは小ぶりだが、それでも一般的な明太子と比較するとかなり大きい。

しかし、もっとも驚くべきはその色。黒い。もしくは茶色い。少なくともタラコと聞いてイメージする、あの食欲をそそる淡い色合いではない。でもまあ、これはこれで面白い。

だが残念だ。値札には「加熱用」の文字。さらに、ところどころ皮が破れて卵の粒がどろっと流れ出ている。これでは明太子にはできない。急いで他をあたろう。
真子は甘辛く煮つけ、おかずとして食べるのが一般的だそうだ。
真子は甘辛く煮つけ、おかずとして食べるのが一般的だそうだ。
と思ったが、加熱用は加熱用で買い上げて味見をしてみることにした。

お店の人に聞いた通りシンプルな煮つけにしたが、これがおいしい。ご飯が進む。

明太子にしてもきっと期待を裏切らない仕上がりになるはずだ。何としても新鮮な真子を手に入れなければ。
真子の隣には「タラホッペ」すなわちタラのほほ肉。これも煮つけと刺身にしてみたが、白身魚と貝柱の中間といった食感でなかなかおいしかった。
真子の隣には「タラホッペ」すなわちタラのほほ肉。これも煮つけと刺身にしてみたが、白身魚と貝柱の中間といった食感でなかなかおいしかった。
案外、すでに巨大明太子は商品化されているのではないかしらんと魚卵コーナーも一応確認。普通の明太子と塩タラコが平和に並んでおりました。
案外、すでに巨大明太子は商品化されているのではないかしらんと魚卵コーナーも一応確認。普通の明太子と塩タラコが平和に並んでおりました。

市場へ!

その後もスーパーを数軒回ってみたが、使えそうな真子は入手できなかった。ここはやはり鮮魚の専門店を頼るほかないと、仙台市中心部の市場へと出向いた。

しかし、この時点で僕はかなり焦っていた。生食用の真子が手に入らない気がしていたのだ。そもそも、タラの刺身というものすら関東以南ではあまり聞かないではないか。
活気あふれる市場へ。
活気あふれる市場へ。
普通の魚は漁獲後すぐ冷蔵すれば体内の代謝抑えられるので、生で食べられる程度には傷みを遅らせることができる。一方、タラやホッケのような北国に住む魚は、極寒の海中で生命活動を維持するために低温下でも機能する酵素を持っている。そのため、冷蔵していても輸送時や保管時に着実に傷んでいく。この特性のせいでタラの身は生食用としては流通しにくいのである。って本で読んだ。
カスベ(ガンギエイ)や生ニシンなど、北国らしい海産物が並ぶ。
カスベ(ガンギエイ)や生ニシンなど、北国らしい海産物が並ぶ。
タラコといえば卵巣、卵巣といえば内臓である。身肉よりも傷みが早くても不思議ではない。そもそも、真子を生で食べる文化自体があるかどうかも怪しい。生食用として店頭に並ぶ可能性すら無いかもしれないのだ。
マダラそのものはあちこちの店頭にたくさん並んでいる。そして安い。いい魚だ。
マダラそのものはあちこちの店頭にたくさん並んでいる。そして安い。いい魚だ。
とはいえ、こうなったらもう信じて探すしかない。市場を亡者のような顔で練り歩く。

安くておいしい旬のマダラは北国の食卓には欠かせない存在のようで、鮮魚店を覗くと丸のままはもちろん。各部位の切り身や白子、各種加工品が大量に並んでいる。

感心しながら徘徊していると、こんなものを見つけた。
ポン酢でどうぞ!
ポン酢でどうぞ!
生食用の白子だ。もちろんマダラの。刺身で食べられるほど新鮮な白子が並んでいるなら、同等の真子があってもおかしくない!
あ。あったけど…。
あ。あったけど…。
まさにその直後に訪ねたお店の店頭でついに見つけた。見るからに新鮮な真子だ。残念ながらすでに切り分けられた状態だったが、その切れ目からも卵が流れ出していない。先ほどスーパーで見かけた加熱用の商品のように自重で潰れたりもしておらず、「モノが違いますよ」というオーラがビシビシ伝わってくる。

しかも、でかい。ひと腹分揃っていれば1キロくらいはあったんじゃないか。ぜひ丸ごとほしい!!
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ついに確保!しかも特大!

店員さんに切り分けていないものは残っていないかと尋ねるも、申し訳なさそうに首を横に振られる。残念だ。

しかし僕の未練がましい顔を見かねてか、「あっちの店ならまだあるかも…」と別の鮮魚店を紹介してくれた。いい人だ。その好意を無駄にはすまいと、教えてもらったお店へ急いで向かう。
「タラコ丸ごと買うの?多いよ?本当にバラさなくていいの?」いいんです!
「タラコ丸ごと買うの?多いよ?本当にバラさなくていいの?」いいんです!
店先にはやはり切り分けられた真子が並んでいる。「これ、まだ切ってないやつを丸ごとほしいんですけど…。」と訪ねると、「ちょうどこれから切るはずだったやつがまだあるよ」という素敵な返事が。

ぜひください!一番でかいやつください!!
本当にでかいな!そして黒いな!100グラム当たり90円と価格も手頃。
本当にでかいな!そして黒いな!100グラム当たり90円と価格も手頃。
店の奥からトレーに乗せられて出てきたのは特大サイズの真子!威圧感すら覚える。ちなみに北海道産だとか。

秤に乗せると重さは1590グラムを示した。国産ながら、もはやアメリカの大衆料理的なスケール感。日本よ、これがタラコだ。

しかも、「日によってはもっともっと大きいのも入荷するんだけどね…。」とのこと。恐ろしい。

寄生虫対策に3日、仕込みに11日

ようやく入手した巨大タラコはすぐに冷凍便で自宅へ送る。材料は何とかなった。あとはいよいよ巨大明太子を仕込むだけ!…だがその前に大事をとってもうひと手間。

マダラにはアニサキスという有害な寄生虫が付きやすい。卵巣に潜んでいる場合もあるらしいので、確実に死滅するまで冷凍してやるのだ。家庭用冷凍庫なら、-20℃以下の設定で48時間以上が目安だとか。
ようやく明太子づくり開始!
ようやく明太子づくり開始!
というわけでこの工程で3日を費やす。

これに塩を振って水気をきり、酒で洗って下漬けした後、唐辛子をたっぷり使って本漬けを行う。これでいよいよ明太子と呼べるものが出来上がる。手順は少ないので簡単そうだが、普通の明太子でも下漬けに半日、本漬けに1週間はかかるという。スローフードだ。

レシピは通常の明太子作りに準じたが、今回はサイズがそのままの意味で桁違いなので、下漬けを24時間、本漬けを10日間と長めに漬け込んでみた。冷凍期間と併せるとちょうど2週間かかってしまう計算だ。 それでも足りないかもしれないが…。
使用する唐辛子の量も凄まじい。
使用する唐辛子の量も凄まじい。
巨大タラコをこの血の池地獄のような…いや、それより恐ろしい液体に漬け込むのだ。
巨大タラコをこの血の池地獄のような…いや、それより恐ろしい液体に漬け込むのだ。
特大サイズのジップロックに無理やり押し込み、チルドルームへ。
特大サイズのジップロックに無理やり押し込み、チルドルームへ。
冷蔵庫のチルドルームを内で、大量の唐辛子と日本酒を使った調味液に漬け込む。毎日朝と晩に容器の表裏をひっくり返して調味液を馴染ませてやるのだが、この作業が家庭菜園の水やりのようでだんだん楽しくなってくる。おいしく育てよ。

完成!

さて、2週間かけてついに巨大明太子の完成である。それがこちら!!
普通の明太子と並べると改めてその大きさがわかる。あと黒さも。すべてが異様だ。
普通の明太子と並べると改めてその大きさがわかる。あと黒さも。すべてが異様だ。
わかりきっていたことだが大きすぎる…。スケトウダラの明太子と並べると、さながら美女と野獣といった印象を受ける。
顔よりでかい!
顔よりでかい!
おいしそう!…とはあまり思えないんだけど大丈夫かこれ。
おいしそう!…とはあまり思えないんだけど大丈夫かこれ。
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食欲をそそられるかそそられないか?と問われれば正直そそられないと答えたい見た目だ。

しかし、そのまがまがしいビジュアルとは裏腹に、漂う香りは完全に食べなれた明太子のそれだ。これはどういうことか。切り分けてその黒い皮の内側を見てみよう。
とりあえず切ってみよう。
とりあえず切ってみよう。
あれっ、中身は普通の明太子だ!
あれっ、中身は普通の明太子だ!
意外や意外、中から現れたのはほんのりピンク色のおいしそうな卵たち。

これはまぎれもなくタラコだ。明太子だ。
箸で掬い取ると、誰がどう見ても普通の明太子もしくは塩タラコ。おいしそう。
箸で掬い取ると、誰がどう見ても普通の明太子もしくは塩タラコ。おいしそう。
中身はパッと見、普通の明太子も巨大明太子も同じように見える。しかし、よくよく見比べるとマダラの方がほんの少しだけ粒が大きいことがわかる。そしてこれまたほんの少しだけ色が濃い。後者は調味液の配合や熟成期間の差なのかもしれないが。

また、箸で突くとノーマル明太子がぱらっとほどけるのに対して、マダラ明太子は粒同士のまとまりが良く、パテのような感触だ。やはり別物ということか。
どっちが巨大明太子でしょう?正解は左側。右側は普通の明太子。意外だけど、ほぐせばほとんど変わらない。
どっちが巨大明太子でしょう?正解は左側。右側は普通の明太子。意外だけど、ほぐせばほとんど変わらない。
見た目について言及すべき点はこんなところだろうか。続いては味を確かめたい。熱々の白いご飯と一緒に食べてみる。
明太子ごはんと巨大明太子ごはん
明太子ごはんと巨大明太子ごはん
いただきます!
いただきます!
あれ?明太子だ!ちゃんと明太子の味と食感だ!
あれ?明太子だ!ちゃんと明太子の味と食感だ!
味には意外にも、そして当然ながらスケトウダラの明太子に非常に近いものだった。やや辛みと塩味が薄くマイルドな味わいだが、これは単純に味付けの加減と漬け込む期間の長さの問題だと思われる。

その他の違いとしては先ほども書いた粒のまとまりの強さゆえ、舌触りやくちどけがねっとりとしている点が挙げられる。

見た目に反して、などと言うとマダラに失礼かもしれないが、これは確かにおいしい。自信を持って言える。かなり実験的な料理なので不安だったが、これは成功の部類に入るだろう。

強いて欠点を上げるなら、外側の膜が厚くて食べられないというところだろうが。
明太子スパゲティにしてもブォーノ。
明太子スパゲティにしてもブォーノ。
そして、食べても食べてもなかなか減らない。なんせ1.5キロもあるのだ。ご飯のお供としてだけでなく、いろいろな料理に惜しみなく使える。

たぶん、当分の間は明太子を買わずに済むだろう。白米の食べ過ぎで太らないよう気を付けなければ。

真子が明太子にされない理由は見た目と手間の問題?

聞くところによると、新鮮な真子が手に入るマダラの産地では生の真子をほぐし、酒やしょうゆ、ダシなどで味を調えて、それこそ明太子や塩タラコのようにご飯にのせて食べるのだという。市場で購入した生食用の真子は本来そうやって食べられるはずだったのだろう。

加熱しなくても食べられるものだし、実際明太子にしてみれば結構おいしい。では、なぜ明太子や塩タラコに加工されていないのか。市場と鮮魚店で聞いて回ったところ、「大きすぎて味が染みにくく、仕込みに時間がかかりすぎるからではないか」、「スケトウダラのタラコに比べて見た目が良くないからではないか」、「スケトウダラの卵巣より流通量が少ないからではないか」、「真子はボリュームがあって、手軽な煮つけでも十分おいしく、食べ甲斐があるからではないか」などといった意見を得られた。どれも一理あるなと思える。一言で言うと、「わざわざ明太子にしなくてもいいじゃん…」ということなのだろう。

ちなみに、「辛子明太子」という名称はスケトウダラの卵巣の唐辛子漬け製品にしか使用できないという決まりがあるそうだ。マダラで巨大明太子を作って儲けようとか思っている人たちは注意しよう。
真子の煮つけをほぐして、タラの刺身にまぶす「子つけ」という食べ方を教わった。とても簡単でおいしいので、食べたことのない方はぜひ一度お試しを。
真子の煮つけをほぐして、タラの刺身にまぶす「子つけ」という食べ方を教わった。とても簡単でおいしいので、食べたことのない方はぜひ一度お試しを。
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