特集 2014年3月21日

存在しない街の犯罪物語~空想地図がおもしろい~

実在しない架空の街を舞台にみなさんの「物語力」が解放された!
実在しない架空の街を舞台にみなさんの「物語力」が解放された!
このたび、地図は物語なのだということがわかったのでそれについてお伝えしたい。

「地図は物語」なんて、なんか気どった言い方だけど、白地図をわたすと、みんな驚くほどおもしろいストーリーを考えちゃうんですよほんとに。
もっぱら工場とか団地とかジャンクションを愛でています。著書に「工場萌え」「団地の見究」「ジャンクション」など。(動画インタビュー

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犯罪現場と逃走経路を描き込んで!というお題

例によってカルチャーカルチャーでイベントを行ったのです(写真は @yamamayu さん撮影)
例によってカルチャーカルチャーでイベントを行ったのです(写真は @yamamayu さん撮影)
冒頭の書き込みのある地図は何かというと、先日カルチャーカルチャーでやった「空想地図」イベント(詳しくは後述)で、来場してくれたみなさんに配り、回収した白地図のうちのひとつだ。

まずはとりあえずこれを読んでいるみなさんにも同じようにやってもらおう。
配ったのはこの白地図。
配ったのはこの白地図。
上の地図をじっと見て欲しい。どこの街かわからないですよね。この道路と鉄道と河川だけ示されて、あとは何の手がかりもない状態で、以下のお題に対するみなさんなりの回答をこれに描き込んで欲しい。
  1. この街に自宅があるとしたらどこ?
  2. 偏差値の低そうな高校はどこにありそう?
  3. なんらかの犯罪現場と、犯人の逃走経路
なんだそれ、とお思いでしょう。いま冷静になってみるとぼくもそう思う。このお題はイベント中に思いついたものなので、気分が盛りあがってつい素っ頓狂な出題になってしまったのだ。偏差値て。

ともあれ、道の形などだけから、どこに住んでみたいか、どこで事件が起きそうか、などを想像できるだろうか、という遊びだ。あなたならどこに描き込む?

高校は河原に

どうですか。想像できましたか。

イベントには100名近いお客さんが来てくれて、みなさん思い思いの回答を見せてくれた。すごーくおもしろかった。

まずは以下にみなさんの示した「自宅の場所」をまとめたものを。
思ったよりばらばらだ。
思ったよりばらばらだ。
回答のひとつ:河原にある
回答のひとつ:河原にある
この方も河原に
この方も河原に
やっぱり川の近く
やっぱり川の近く
なんで出題を「偏差値の低そうな高校」にしたのか自分でも分からないが、結果としてはとても興味深いものになった。なんか川の近くに誘致する人が多かったのだ。

集計してみると、こんな。
自宅と比べると偏りがある。川の周辺多い。なんでだ。
自宅と比べると偏りがある。川の周辺多い。なんでだ。
もちろん学校となればそれなりの面積が必要になる(と、みなさんきわめて現実的に考えてくれたみたい)。畢竟、置ける場所は限られてくるのだが、それにしても特定の場所に集中しがちではないだろうか。特に川の近く。

でも、なんとなく、わかる。ぼくも同じような場所に置いたよ。なんでしょう、低偏差値ならではのやんちゃさに似合うのが河原の広い空間って感じかな。

あ、でも今気がついたけどぼくの高校、江戸川のほとりにあったぞ!あれー?偏差値結構高かったんだけど。勉強できるのだけがとりえだったんだけど。

そして犯罪現場は?

そして3つめのお題「犯罪現場と逃走経路」だ。これにも河原がよく登場した。河原大人気。
橋のたもとで露出狂が出現。河原伝いに逃走の模様。
橋のたもとで露出狂が出現。河原伝いに逃走の模様。
なんと河原で殺人事件!犯人は電車に乗って逃走か。
なんと河原で殺人事件!犯人は電車に乗って逃走か。
再び殺人。そして「決闘罪」も!高架をくぐった先で捕まったとのこと。決闘かー。
再び殺人。そして「決闘罪」も!高架をくぐった先で捕まったとのこと。決闘かー。
おもしろい。とてもおもしろい。決闘とは。そしてよく見ると、この方が設置した高校も川のそば。

イベントでは描いてもらった方にマイクをまわし、事件についての解説をお願いした。この決闘罪の方のコメントは以下だ。

生徒が河原で喧嘩しているのをどうにか取り締まりたい所轄署が、旧い法律を引っ張りだして逮捕した( @nishinerima さんのコメント)

決闘なんてファンタジック!って思ったらきわめて現実的かつ想像力豊かな物語だった。

この通り、みなさん「物語力(りょく)」がすごい。それにびっくりした。

例えば下のケースも。
こちらは川を泳いで逃走しようと!
こちらは川を泳いで逃走しようと!
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物語力(りょく)!

たぶん地図があると、物語りやすくなるのだと思う。何もない状態で「犯罪のストーリー考えてください」ってお願いしてもこうはいかないはずだ。

ぼくは地図好きだが、こういう効用があるとは今まで気づかなかった。すごいぞ、地図。
この事件は、駅の近くで酔っ払い、終バスを逃しむしゃくしゃしたので河原のホームレスに暴行を!というもの。
この事件は、駅の近くで酔っ払い、終バスを逃しむしゃくしゃしたので河原のホームレスに暴行を!というもの。
上の回答は、冒頭のものなのだが、このクライムストーリーはどうだ。よく見ると中州に自宅を設定しているのだが、そのコメントがまた物語力を発揮している!

川の近くが好きだけど、災害時は地盤が弱そうなので将来は別の場所に定住するだろう。

ここ2年ほどで地震の影響から、中州は地価が下がっている。


定住場所を描かずに仮住まい位置を設定したっていうのがいい。地価にまで言及。ほんとみんなよく考えるなー。
こちらは地図南東にある競馬場(とみなさん判断したようだ)そばでの事件。暴力団の若頭が抗争相手の鉄砲玉に刺されたらしい。若頭、うかつだ。
こちらは地図南東にある競馬場(とみなさん判断したようだ)そばでの事件。暴力団の若頭が抗争相手の鉄砲玉に刺されたらしい。若頭、うかつだ。
地図の端から端まで使った逃走劇。「中華料理店2階の居住スペースで~」って細かすぎる!すばらしい!(字が小さくなっちゃったので加筆)
地図の端から端まで使った逃走劇。「中華料理店2階の居住スペースで~」って細かすぎる!すばらしい!(字が小さくなっちゃったので加筆)
これもすごい。青春です。
これもすごい。青春です。
上の犯罪ストーリーもすばらしい。この方にもコメントいただいた。次のような物語だ。
  1. バイクで事故。動揺して逃走してしまい、ひき逃げに
  2. 川の手前でバイクに乗ってたらばれる!と気づき乗り捨て。なんと線路に侵入して徒歩で川を渡る。渡った先でその後に備えてコンビニでパンと午後ティーを買う
  3. 河原に捨てられていた船に乗り、再び対岸へ。近くの低偏差値校(セオリー通り川の近くにある)のそばで、中学時代の友人に「おまえせっかくいい学校行ったんだから、人生無駄にすんなよな!」と説得される
  4. 通っていた小学校へ。純真だった子供時代を思い出して改心する
  5. 駅前の交番に出頭
マイク渡して質問すると、みんなよどみなくこたえてくれるのだ。まるで見てきたかのように。これが地図の力か!

ここは「中村市」という実在しない都市

実はこれが白地図ではない、元の地図。これはどこの地図かというと、実在しない街のものなのだ!(「空想都市へ行こう!」より)
イベント壇上にて
イベント壇上にて
さて、この白地図、いったいどこの地図かというと、どこの地図でもないのだ。これは "地理人" の名で知られる今和泉隆行さんが作った架空の「中村市」という都市の地図なのだ。

そう、上の地図は今和泉さんがゼロから作ったものなのだ。すごくない?信じられないよね?

このすごい地図の成り立ちから、作ろうと思った動機、そこから派生するいろいろなおもしろいことを今和泉さんに聞いてみよう!というのが今回のこのイベントの趣旨。

ぼくと今和泉さんのほかに、地図を使った遊びといえばこの方、GPS地上絵の石川初さんも登壇した充実の一夜だった。
白地図でこのように遊んでみる、というのはそのうちのワンコーナーだった。

とにかくこの「空想地図」がどんなにすばらしいクオリティかは今和泉さんの「空想都市へ行こう!」を見て実感して欲しい。びっくり。
こんなだよ!銀行や飲食店のロゴも作ってるし!(「空想都市へ行こう!」より)
こんなだよ!銀行や飲食店のロゴも作ってるし!(「空想都市へ行こう!」より)
こんなだよ!銀行や飲食店のロゴも作ってるし!(「空想都市へ行こう!」より)
こんなだよ!銀行や飲食店のロゴも作ってるし!(「空想都市へ行こう!」より)
この架空の「中村市」製作の秘密が書かれた本も出しています。
この架空の「中村市」製作の秘密が書かれた本も出しています。
今和泉さんのこの地図はここのところ「タモリ倶楽部」をはじめメディアで話題になっているので、ご存じだった方も多いと思う。そしてこの「空想地図」がどのようにしてできたのかを、ご自身の生い立ちから語った『みんなの空想地図』という本も出版されている。

で、ぼくが今和泉さんの地図の作り方を知って衝撃を受けたのが「"現地"に行ってフィールドワークした結果を地図にしている」という点だ。

実在しない都市をフィールドワークとはどういうことか?
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知らない街は描けない

今和泉さんは「中村市は理想都市じゃない」とおっしゃる。理想的にはしたくない、と。街にはままならないことがたくさんいってきれいに計画通りには行かない。それが街のリアルさだ、と。

本を読むと、今和泉さんたら日本中の街に「そこの住民になった気持ちで」滞在してきた様子が分かる。その蓄積から、中村市を"散歩して"、その結果を地図に描く、というプロセスなのだ。むむむ。

「なるほど」と思ったが、当然実感は出来なかった。頭では分かったが、腑には落ちてない感じ。それが、今回のイベント準備で少し分かった。それがこれだ。
今回イベントで配布した地図のうちのひとつ。実はこれ、ぼくが描いた。
今回イベントで配布した地図のうちのひとつ。実はこれ、ぼくが描いた。
イベントでは計6枚の白地図を配ったのだが(配りすぎた)、そのうち5枚は中村市のものだったが、ひとつはぼくが用意したものだった。

もちろん、ぼくに空想地図をつくることはできない。これだけは実在の街。わが故郷西船橋だ。
ご覧の通り西船橋です。それにしても総武線を境に南北の地割りのコントラストがすごい。(大きな地図で見る
地図を見ながら線を引いたのが、やってみてひとつ分かったことがある。それは「知らない街は描けないのではないか」ということだ。

上の地図内にはぼくの実家と通っていた幼稚園と中学校が含まれている。道を一本一本、どんな風景だったか思い出しながら描いた。すごく楽しかった。

たぶん、そういう思い出がなければ、描くのがただの作業になってつらかったと思う。そこで気がついたのだ、ああ、今和泉さんが言う「中村市を"訪れて"それを地図に落としている」っていうのはこういうことか、と。

ただの図形として地図は描けない。なんらかの記憶が必要になる。だから中村市をいちど"訪れる"必要がある。その記憶の準備のために彼は日本中をめぐっているのだ、と。中村市にはおそらく今和泉さんの日本中の思い出が詰まっているのだ。だからリアルなのだ。

思い出のようなものが用意できるのなら、描く街が架空かどうかはもはや問題ではないのではないだろうかとも思った。

西船橋パラレルワールド

たぶんこの「知らない街の地図は描けない」ということと「地図が物語を喚起しちゃう」ということは同じことなんだと思う。地図が読める人、っていうのはもしかしたら地図のなかに効率よく物語を見出して理解を早めることが出来る人のことをいうのかもしれない。

なに言ってるか分からないかもしれませんが、ぼくは大いに感動したのです。

さて、イベントではこの地図が実在する西船橋のものだということはお知らせせずに、空想地図と同じようにお題を描き込んでもらったのですが、これが別のおもしろさがあった。
ぼくの実家のそばでなんとさくらんぼ泥棒が!
ぼくの実家のそばでなんとさくらんぼ泥棒が!
ご覧の通り、このあたりは鉄道を境に南北で地割りが全く異なるのだが、予想されるとおり、南側の大きなグリッドは最近まで田んぼだったエリアだ。
いまはすっかり建物だらけですが(大きな地図で表示
1974年。ぼくがここに住み始めた当初はこんなだった。(国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス</a>」より
1974年。ぼくがここに住み始めた当初はこんなだった。(国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」より
夜になるとウシガエルが泣いていて怖かった。小学校の校歌には「白鷺の飛び交う」という歌詞があった。それぐらい田んぼだった。

今はマンションなどが建ち並んでいるのだが、知らずに白地図で見るとみなさん農地を思い浮かべるようだ。つまり、道路の走り方に風景が保存されているのだ。
30年ぐらい前は確かに暗かった。地割りが30年前を暗示するのだなあ。そして実際、近くにラブホテルがあった。
30年ぐらい前は確かに暗かった。地割りが30年前を暗示するのだなあ。そして実際、近くにラブホテルがあった。
このようなラブホテルがすぐ近くに実際あった(「ラブホテルを鑑賞する</a>」より)。
このようなラブホテルがすぐ近くに実際あった(「ラブホテルを鑑賞する」より)。
上の写真のうち、左のホテルはなくなってしまったが、右の問題作「ホテル・クイーン・エリザベス」はまだ現役。性の大海原を航行中だ。子供の頃よくここら辺で遊んだものだ(大きな地図で見る
みなさんの回答を見ていると、「もうひとつの西船橋」とでもいうべきものを体験した感じがしてとてもエキサイティングだった。西船橋パラレルワールドだ。
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エッジで物語が発生する

さて。西船橋パラレルワールドでの犯罪発生現場まとめを見て思ったことがあった。
西船橋パラレルワールドでは実家のそばで犯罪多発。
西船橋パラレルワールドでは実家のそばで犯罪多発。
なんとなく、特徴的なものがあるそば、あるいは街のパターンが変化する境目で事件が起こるようなのだ。カーブする鉄道が道路と交わる近く(つまり高架のそば)、インターチェンジのそば、駅のそば、などだ。

そう思ってあらためてほかの回答を見てみると、同じようなことが起こっている。
空想地図「中村市」の別の街の例。競馬場のそばで無銭飲食事件発生。
空想地図「中村市」の別の街の例。競馬場のそばで無銭飲食事件発生。
公園のそばで放火事件。犯人は公園高台にのぼり、火の手をながめようとしたとのこと。
公園のそばで放火事件。犯人は公園高台にのぼり、火の手をながめようとしたとのこと。
特徴を捉えづらいこの地図では、鉄道トンネル出入口付近での犯罪発生が目立った。
特徴を捉えづらいこの地図では、鉄道トンネル出入口付近での犯罪発生が目立った。
これもやっぱりトンネル出入口。ホテルでの心中事件。
これもやっぱりトンネル出入口。ホテルでの心中事件。
そしてクイーン・エリザベスがあるインターチェンジ脇では、殺人と傷害が多発!
そしてクイーン・エリザベスがあるインターチェンジ脇では、殺人と傷害が多発!
まあ、トンネルとかインターチェンジなど一般的には景観としてあまり好まれないものたちなので(ぼくは大好物ですが)、ことが起こりやすいのかもしれない。たとえばこれが犯罪現場ではなく「初恋・初めての告白の場所」とかだったら当然もっと違うものになっただろう。うん、このお題はいいな、次回またイベントやるとしたらこれにしよう。

ただ、実際に歩いているときには局所的な個別の風景の積み重ねによってその街のイメージができるものだけど、地図という視点になったときには、大きなパターンの変化に目が行く。だから土木構造物的な大きな施設の周辺で物語力が発揮されちゃうのだと思う。

地図上の物語は、エッジで起こる。なんおことやら、とお思いかもしれないが、ぼくにとっては大発見だったので、すごく満足です。回答をくれたみなさん、ありがとうございました。

すごく興味深かったのでまたやりたい

なんかぼくがひとりで感動しているだけな感じもしますが。どうだろう。地図好きはなにかしら思うことがあったのではないかと思います。そうだったらうれしいな。

またやりたいです。次回のお題は何にしよう。
ライター仲間三土さんの空想。コメントお願いしたら「実家のすぐそばが高校で、中学生の頃はそこの生徒がいやで遠回りして駅に行ってました」って一瞬ほんとの体験談かと思っちゃうぐらいすらすらと物語力を発揮されてました。さすがだ。
ライター仲間三土さんの空想。コメントお願いしたら「実家のすぐそばが高校で、中学生の頃はそこの生徒がいやで遠回りして駅に行ってました」って一瞬ほんとの体験談かと思っちゃうぐらいすらすらと物語力を発揮されてました。さすがだ。
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