名刺交換よければすべてよし
ビジネススキルに不安をかかえる僕に、新入社員を応援するJAバンクとのコラボの話が舞い込んだ(詳しくはこちら→「
知られざるビジネスのオキテ」)。誰でもビシッと名刺交換ができるようになれる「新入社員養成ギプス」を作る記事である。
名刺交換と言えばビジネスコミュニケーションにおける基礎中の基礎。名刺交換と共にビジネスはヨーイ、ドンとスタートするのだ。
まずは新入社員養成ギプスを装着する前の、ありのままの僕の名刺交換の様子を見てみよう。
ふにゃふにゃしている。この時点でビジネス終了なのは明らかであろう
肘も曲がっていて、弱々しい。
カツアゲされているようでもある。もっと堂々と差し出せ!
全然だめだ。
一番初歩のコミュニケーションがちゃんとしていないということは、その後のコミュニケーションがちゃんとしていないと同義である。
「始めよければ終わりよし」という言葉があるように、名刺交換の良し悪しは後にビジネスの良し悪しにも関わってくるのだ。
ビジネスは戦場だ。失敗すれば一巻の終わり。
新入社員養成ギプス、登場
初歩のビジネスコミュニケーションもままならないまま老いさらばえていく……。そんなのは嫌だ! という僕の要望に答えて登場するのが「新入社員養成ギプス」だ。
テクノ手芸部の一人、よしだともふみさんが快く制作に名乗りを上げてくださった。
今回、養成ギプスの制作を依頼した、テクノ手芸部のよしだともふみさん
制作の様子は後回しにして、まずは出来上がった新入社員養成ギプスをご覧頂こう。
革とバネを基本としている
革とバネを使って体に良い姿勢を叩き込む。基本のコンセプトはアニメ「巨人の星」の「大リーグボール養成ギプス」と似ている。
だが、こちらには姿勢がきちんと維持できているかチェックしてくれるギミックまである。(ランプがそれ。)至れり尽くせりだ。
これが新入社員養成ギプスの効果だ!
新入社員養成ギプスを使うとどうなるか、その効果と実力を早速見てみよう。
4本の太いバネが抵抗となって、名刺交換に必要な筋肉を強化する。
結果がこちら。明らかにシャキーン!としている。
肘はまっすぐと伸び、名刺を「どうぞ受け取ってください」という気概に満ち溢れている。これが新入社員養成ギプスの効果だ。
さてその新入社員養成ギプスだが、一体どのようにして作られたのか? また、本当に鍛えられているのか? その辺りの模様は次ページ以降で明らかになる。
自分がいない間にみんなががんばっている
新入社員養成ギプス、見ての通りバネが肝となる。バネと体のフィット感が重要なのだ。
「養成ギプス」といえば「巨人の星」の「大リーグボール養成ギプス」がある。星一徹もに大リーグボール養成ギプスを作るとき、こっそり息子・飛雄馬の体を採寸したのだろうか。
バネが緩むと効果がまったくなくなる。
フィット感が重要、と言いながら見ての通り、この採寸の場にはギプスを装着する当の僕がいない。この時風邪でダウンしていたからだ。
僕がいない間に大人が二人頑張っている……。頭の下がる思いである。
採寸をし終えた様子。かなりシンプルだ。
かなりシンプルな採寸結果。本当にこれでできるのかと思ったのだが実際に出来上がっているのだから凄い。
マッドサイエンティストの研究室みたいなところで作ったらしい
改めてフィッテング
数日(僕が風邪を治すまでの間)に、ギプスはほぼ完成したのだが、体に合わせるために最後の調整を行う。
デイリーポータルZ編集部の安藤さんに装着を手伝ってもらう
あまり体に馴染んでおらず、ゆるい感じがする。やはりまだ調整が必要なようだ
かといってバネをきつくしすぎると始祖鳥のようになる
きつくしたり、またゆるめたりして、一番体にフィットするサイズを探す。なんとも面倒くさい作業である。
僕が名刺交換をしたことがないばかりに、なんと他人に労力を使わせてしまっていることだろう。しかも僕は特に苦労をしていない。
感謝と申し訳無さが胸に去来しながら、こうして僕専用の新入社員養成ギプスは完成したのである。
僕があまり何もしていないうちに完成した
気持ちのいいフィット感
こうして出来上がった新入社員養成ギプスを装着する。夢にまで見た社会人としての能力が遂に身につくのである……!
今度は正式にスーツを着た状態で装着する
改めて装着してみると格段にフィット感が増していた。前日に「じゃあ、調整やっときますんで!」と言った編集部・安藤さんの仕事っぷりが光る。これでバッチリだ。
安藤さんの細かなチューニングによりフィット感が上がっている
ランプが光る!
このギプス、見た目だけでなくギミックにも凝っている。説明しよう。
手の甲にセンサーが付いており、きちんとした姿勢で名刺交換ができているか、審査してくれるのだ。さっきからちょくちょく写り込んでいたランプはこのためにあった。
手の甲につけられたセンサーが傾きを検知
ランプは正しい姿勢を一定時間保つとピカピカと光る仕様だ。
10秒間この姿勢を保つと、赤いランプが点灯する
4本もバネがついているものだから、集中していないと名刺を持つ手がプルプルと震えてしまう。
ある人はビジネスは心だと言う。またある人はテクニックだ、と言うかもしれない。 だが、これはどう考えても体を鍛える道具である。 ビジネスとは身体能力だったのだ!
何度か練習をする
手触りはいい、しかし効果はない
果たして本当にこんなスポーツ器具みたいなもので名刺交換のスキルが付くのか、という疑問を持たれる人もいらっしゃるだろう。言ってしまおう。付くはずがない。
そもそもの話になるが、僕にビジネス経験がないからといっても27歳で新入社員役はどうかと思うのだ。 坂本龍馬ならあと3年で暗殺される頃だ。腕にバネをくっつけている場合じゃないのではないか。
どこでどう間違ったライフプランニング(バネを食い込ませながら思う)
がんばって作ってもらった器具だけにやたら気持ちいいフィット感はあるが、ビジネススキルをアップさせる効果はあまりなさそうだ。ちょっと怪しい雲行きになってきた。さて、どうするか。
これが新入社員養成ギプスのちからだ!
こんないいものを作るのに尽力して下さったよしださん、安藤さんのことを思えば「これ、全然意味ないっすよ」とは言えない。
もう完全に演技に徹することにした。新入社員養成ギプスのお陰で名刺交換ができるようになりました、とアピールするのだ。
スッ…
ビョオォォワッ!
バーン!
「どうですか、コーチ! 僕、100点満点の名刺交換ができるようになりましたよ!」という感じで、いかにもギプスのお陰でできるようになったように装う。
だが、たった1日の間にこんなに効果があるはずがない。実際はすべて状況から来るプレッシャーがそうさせたのである。コミュニケーションの本質は演技だという話もあるが、まさにそれだ。
こういう使い方もできるんじゃないですか? ねえ!?
演技に興が乗ってきて、「これって正しい姿勢でPCを操作する練習にもなりますね」などと言って余計なことを言い出すくらいになった。
子どものころあんまり嬉しくないプレゼントを親から貰ったとき、「これで喜ばなかったら、次、プレゼントもらえなくなるかもな……」と思って無理に喜んだことを思い出す。 あれがビジネスの起源だったかもしれない。
ビジネスマナーとは思いやりであった
新入社員養成ギプスの効果はほぼ無かった(ちょっと筋肉痛になった)。しかし、結果としてビシッとした名刺交換ができるようになったのは事実である。
プレッシャーから演技をせざるを得なかったのだが、これは思いやりだとも言えるのではないだろうか。ビジネスマナーとは思いやりだったのだ。
コラボ企画であった手前、できませんでしたでは済まされなかったと思われるが、これで円満解決である。
名刺交換をマスターしたら次のステップはこちら。社会の荒波にもまれる前に全部読んでおこう。