特集 2014年2月1日

瀬底島の砂文字を探して

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沖縄本島北部、那覇空港から約90kmほどの距離にある周囲約8キロの離島、瀬底島(せそこじま)。離島といっても本部半島(もとぶはんとう)から瀬底大橋でつながっているため、車で気軽に行くことができます。
その瀬底島で、毎年元旦の朝に集落の道に「砂文字」が現れるという噂を聞きつけました。砂文字とはいったい何?しかもなぜ元旦の朝に?

しかし、地元うちなーんちゅの友人に聞いてもネットで調べてみても、どこにも詳しい情報がありません。かくなるうえは実際に見に行ってみなければ。いうわけで、元旦の朝に早起きして瀬底島を訪れてみました。
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元旦の瀬底島へ

2014年の元旦は、冬の沖縄にしては珍しく雲ひとつ無い晴天(冬の沖縄は曇天の日が多いのです)。
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本部半島と瀬底島を結ぶ瀬底大橋も美しく見えました。
私が到着した頃にはすでに橋の上に釣り人の姿もチラホラ。新年の釣り初めでしょうか。

周囲約8kmの小さな瀬底島に集落はひとつ。元旦の朝に現れるという砂文字をまずは歩いて探してみることにします。
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とても静かでのどかな集落。
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まだ朝早いせいか人の気配はまったく無し。
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集落内のいたるところに美しいフクギ並木が見られます。
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集落に美しい朝日が差し込み、元旦を知らせる町内放送が流れてきました。
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うーん、なんとものどか。

……って、あれ?
肝心の砂文字はどこに?


テクテクと20分ほど集落内を歩いてみたのですが、道の上に砂文字らしきものをひとつも見かけることはありませんでした。
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もしかしたら時間が早すぎたのでしょうか…。つのる不安。
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集落のはずれに瀬底島公民館を発見。しかし入り口はぴっちり閉まっており、掲示されている張り紙などをくまなく見たところでなにも手がかりはつかめず。
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島で行われる様々な行事が載っているというカレンダー『ちゅら島瀬底歴』がちょっと気になりました。

商店で聞き込み

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大晦日のゆく年くる年も初日の出も諦め、せっかく早起きしてここまで来たのに、なにも収穫無しで帰るわけにはいきません。
元旦の朝から営業していた「金城商店」の方にお話を伺ってみることに。

「ああ、砂文字というか、砂絵のことかしらね。海の砂をもってきてね。昔は集落内のあちこちで文字を描いたりいろいろやっていたけど、今はほら、海の砂をとってくるのがダメだったりとかいろいろあってあまり見かけなくなってしまったわね。うーん、今もやっているところは少しはあるとは思うんだけど…。あ、◯◯さん家なんかはやっているんじゃないかしら。ちょっと待って。」

わざわざお店の外に出て、1軒の住宅の前まで案内してくれました。

ついに発見!?

「あ、これこれ。庭先に太陽のマークを砂で描いてるのよ。」
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本当だ!太陽のマークが!!
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あっちのお宅にも!
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そう。私は集落内の道ばかり探していたので全然気が付かなかったのですが、数軒のお宅の庭先に砂で太陽のマークが描かれていたのでした。商店の方にお礼を言い、太陽マークを探して集落内をもう一度歩いてみることに。
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ひとつだけのところもあれば、庭いっぱいにいくつも描いているところもあり。
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中心の大きさも周囲の放射状の線の数もいろいろ。各家庭によって個性豊かな太陽マークたちです。

そして探し求めていた砂文字も発見

太陽マークを探して集落を歩いていると、さきほどは通らなかった筋道でちょっと様子の違うものが目に入りました。
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なにやら数字のようなものが見えます。逆さまのようなので道の反対側にまわってみましょう。
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全長20mほどの細い道を反対側に回りこむとそこには太陽マーク!念のため持ってきていた脚立にのぼってみても全容が写真に収まりきらない大きさです。

というわけで、パーツに分けて順番に詳しく見ていくことに。
2014、太陽マーク
2014、太陽マーク
馬年
馬年
新年
新年
あけまして
あけまして
おめでとう
おめでとう
S.89
S.89
午年、馬の絵
午年、馬の絵
元旦
元旦
太陽マーク
太陽マーク
まさしく、これが探し求めていた砂文字でした。しかし、太陽マークのみ庭先に描いている家庭がいくつかあるのみで、こんなふうに道の上に大々的に砂文字が描かれているのはおそらく集落内でここ一箇所のみ。
詳細が知りたかったのですが、周りには人の気配が無くいったいいつ誰がどのように描いたのか気になります。

別の商店で再び聞き込み

なにか情報は無いかと、さきほどの砂文字のすぐ近くにあった別の商店「ストアーこーばん屋」でまたお話を聞いてみることにしました。
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商店の方は瀬底島出身でしたが、小さい頃から島外に出ていて4年程前に島に戻ってきたばかりなので、元々瀬底島にそういう習慣があると聞いたことはあるものの自分でやったことは無いし、あまり詳しくは知らないのだそう。

「砂文字がある通りの左側に立派なおうちがあったでしょ。宮城さんていうんですけど。そこの方があの砂文字をやっているので、聞いたら教えてくれると思いますよ。」

ちょうど砂文字が描かれた通りに面して1軒のお宅があったのですが、どうやらそこの宮城さんという方が描いたものだということが分かりました。
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砂文字があった場所に戻って来てはみたものの、今日はお正月。しかも早朝。
とても玄関のチャイムを押す勇気は無いな…と帰ろうとしていたところ、なんとちょうどお家の方が外に出て来られたのです!正月早々、なんたる奇跡か。

砂文字の作者、宮城さん

しかも出てきたのは砂文字を描かれた宮城さんご本人。
これから牛の世話をしに行くというところ少し時間を頂いて、砂文字についてお話を伺ってみました。
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ー この砂文字はいつ頃から続いている習慣なんですか?

「さあ、いつからかなぁ。はっきりとはわからないけど、自分の親父の時代からずっとやっているからね。これはね、お正月の子どもたちの作業なんですよ。今年は子どもたちは初日の出見に行っていたから私と女房とふたりで描いたけど(笑)毎年の楽しみだよ。描いたのは8時すぎぐらいかな、明るくなってから。

昔は島のあちこちでやっていたけど、今は少なくなったね。以前は旧正月にやっていたんだけど、最近は旧正月はキビ刈りが忙しかったり、また子どもたちも仕事が休めるのがこの時期ぐらいだから。」

ー この文字はどうやって描いているんですか?スコップとかで?

「いやいや、手よ。手で描いているさ。手でやるから湿った砂はダメだわけ。飛ばないから。
これも昨日の夕方浜に下りて、人の踏んづけていないところの砂を運んできた。人の踏んでいるところは砂が汚れているさ。これだとダメ。誰がも踏んでいない砂、きれいな砂、しかも乾いている砂じゃなきゃダメ。

浜辺に下りて、岩場の中の砂を潜っていってとるの。そこなら人が踏まないでしょ。どこからでもとっていいもんじゃない。初日の出を見るときもあがってくる日の出をまっさきに見るでしょ、これと同じ。砂も新しい一番の砂じゃないと。前までは朝に取りに行っていたんだけどね。」
(海から砂の運搬に使っているというバケツ)
(海から砂の運搬に使っているというバケツ)
ー 他でも沖縄でこういう習慣はあるんですか?

「おそらく他では無いんじゃないかな。うちの親父は昭和2年生だわけさ。で、もし私が伝えなければ子どもたちも分からんわけさ。昭和の時代の人まではやっていたけど、その子どもたちがやらんから今は途絶えているわけ。砂はどれを使うかとか、どうやったらいいかも分からんと思う。自分なんかが子どもの頃はね、このすーじ全体みんなやっていたよ。もう瀬底全体。

まずお正月には、仏壇に供え物やる前にこれ(砂文字)を描くわけ。何故かというと、供え物をやらない前に女の人が門をくぐると、昔はダメというのがあった。だから砂文字から先に描いて、そして供え物をやって、それから女性が入ってきてもいいと。そういう風習があった。昔はこの風習をみんな瀬底の人はわかっているから、まず女性が訪ねて来ることは無かったよ。瀬底は田舎だからそういう風習がけっこう残っていたさ。今はもう殆どなくなっているけどね。

そうそう、いちど久米島出身の方から電話もらったこともあったな。その人も小さい頃に久米島で砂文字をやったことがあるということで、なにかで僕のことを知ってわざわざ役場かなんかで聞いて連絡してきたみたい。久米島のことを思い出して感動しましたーって言っていたよ。遠く久米島でも昔同じことやっていたなんて面白いよね。

ー 砂文字にあった S.89 はどういう意味ですか?

「今年は昭和で換算したら89年でしょ。だからS.89。昭和の時代からずっと続いてやっているよーということで、これも僕のこだわり(笑)

ー 来年もやるんですか?

「いやもう、もちろんもちろん!ずっとやる!」

砂文字は昭和から瀬底島に脈々と伝わる素敵な風習

というわけで偶然にも運良くご本人から詳しいお話を聞くことが出来ました。
誰も踏んでいないきれいな海の砂でなければならないということや、久米島にもかつて同じような風習があったということなど、とても興味深いお話でした。きっとこの砂文字の風習は、これからも瀬底島で宮城さんを中心に伝え残していってくれることと思います。

ちなみに元旦の砂文字は自然に消えるまでこのままおいてくそうです。
お話を聞いている最中に何度か砂文字の上を車が通ったのですが、意外と砂がもっていかれたり文字が崩れたりすることも無くそのまま残っていました。宮城さん曰く、強い雨風でもなければ流されることもないよ、とのこと。

沖縄を訪れた際には、こんな素敵なお正月の風習が残っている瀬底島をのんびりと訪れてみてはいかがでしょうか。砂文字が描かれた宮城さん宅前の筋道の場所は、瀬底島公民館向かい「ストアーこーばん屋」のすぐ近くです。時期によってはこの砂文字の名残が残っているかも?是非探してみてくださいね。
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