「これからはスナックの時代だ!」と社長は言った
降り立ったのは小田急線の祖師ヶ谷大蔵駅。そこから歩くこと数分、目指す店が見えてきた。
祖師ヶ谷大蔵はウルトラマンの街としても有名だ
扉を開けると…
そこにいたのは、平本精龍さん(37歳)。
彼はSEOやインターネット広告を手がける企業の社員だが、「これからはスナックの時代だ!」という社長の命を受けて、昨年4月にスナック情報検索サイト「
スナッカー」を立ち上げた。
以来、スナック文化のさらなる隆盛に向けて奮闘しているスナックの達人なのだ。
「音楽はメタルが好きです」
「もともと『カフェバー』と呼ばれていたお店が、70年代ぐらいから『スナック』に転じたんです。正式には『スナックバー』、つまり軽食(スナック)を提供するバーを意味します」
なるほど。あ、先生、注文はどうしましょうか。
「いいちこのボトルでいいんじゃないですかね」
さっそく、スタッフのゆいなさん(20歳)がお酒を作ってくれる。
「バイト募集の貼り紙を見て何となく応募しました」という大学生
ちなみに、いいちこのボトルは4000円。これに「チャーム」と呼ばれるお通し1000円と、水や氷代などが別途かかる。
手作りのお通し2品が付いた「チャーム」
「スナックは素の自分を出せるからラク」
平本さんは続ける。
「テーブルチャージとして1000円~3000円程度かかるお店が多く、その場合は時間無制限。ここもそうですね。一方で、セット料金の場合は2~3時間で平均3000円~5000円前後です」
ボトルをキープすれば、次回はチャームと水、氷代だけで安上がりに飲めるのもスナックの特徴だ。また、キャバクラと違ってお勘定はママの心積もり次第という面があり、常連になればなるほど、いろいろと融通が利くケースも多いそうだ。
初春やずらりと並ぶボトルかな
と、ここでカウンターのお客さんと目が合った。ずいぶん楽しそうなので挨拶をすると、なんと最近、女の子の双子が生まれたとのこと。
「『みどり』『あおい』と名付けました!」
双子で「みどり」「あおい」はかっこいい。そして、なんとなんと「ビール飲みなよ」と1杯ごちそうしてくれた。
1本から2本に増える指
ありがたくいただいているところへ、千春ママ(50歳)が登場。
ママがうさぎ年ゆえにこの店名だとか
店のオープンは1999年。その前から祖師ヶ谷大蔵でスナックを経営していて、ここが3軒目だという。
「今はお酒控えめにしてるの。暴れると困るから」と笑うママ。アットホームな雰囲気は、彼女の人柄によるところが大きいのだろう。
続いてインタビューに応じてくれたのは、博多出身のゆかさん(25歳)。
火はお客さんが熱くないように差し出す
「スナックは素の自分を出せるからラク。売り上げノルマがないのも大きいですね」
「スナッカー」でのこの店の紹介文には、「女の子たちの笑顔が絶えないお店です。笑いすぎて歯が乾きます!」という秀逸な文言があるが、これはゆかさん発案とのこと。
人口10万人当たりの軒数1位は宮崎県
ここで平本さんが紙の資料を出してきた。聞けば、スナックに関する統計データだという。これが、じつに面白い。
「ほら、ここ見て下さいよ」
たとえば、現在日本にあるスナックは10万軒とも18万軒ともいわれるが(そのうちのほとんどはHPがない)、人口10万人当たりの軒数で見ると1位は宮崎県なんだそうだ。
宮崎県には人口10万人当たり約163軒のスナックがある
「じゃあ、一番多い店名は何だと思いますか?」
えー、何だろう。「来夢来人」?
正解は「さくら」でした
スナック「さくら」は全国に226軒。「桜」「サクラ」などの表記ブレを含めると313軒にものぼる。ちなみに、「来夢来人」は50軒。意外と少ないんですね。
「いつものところ」はお約束、ゴルフ用語も多い
見知らぬ常連さんが隣でギターを担当
さて、十分楽しんだのでそろそろお勘定をする頃合いかなと思っていると、平本さんが言った。
「せっかくスナックに来たんだから、カラオケを歌わないと」
確かに、他の常連さんはさっきから楽しそうに歌っている。「じゃあ、あれ歌います。あの、『プロフェッショナル仕事の流儀』の主題歌の…曲名何だっけな」と煩悶していると、ゆかさんが素早く検索してくれた。
「kokuaで『Progress』…と」
♪ぼ~く~ら~は位置~について~
カラオケボックスと違って、真ん中のステージで歌えるのが気持ちいい。
あれ?
気づくと、見知らぬ常連さんが隣でギターを担当してくれている。よくわからないが、気分はさらに盛り上がる。
ギタリストともにサビ部分を熱唱する筆者
2時間前には知る由もなかった世界
かくして、楽しすぎるスナック入門の一夜は終わった。常連さんたちに挨拶をして店を出る。
丁寧なお見送りに恐縮
2時間前には知る由もなかった世界が、扉の向こうにあると思うと感慨深い。かなりの量のお酒を飲んだが、不思議と足どりは軽やかだ。また来ます。
電飾のハートマークは果たして偶然か
いいちこのボトル飲み干し4000円
平本さんに寄れば、最近では都市部を中心に若いママやスタッフの店が増えており、「スナッカー」ではこれを「ニュースナック」と呼んで推していきたいそうだ。
なお、今回のお勘定は撮影スタッフの分と合わせて3人で1万2300円。いいちこのボトルは飲み干した。常連さんとも交流できた。カラオケも熱唱した。これで、一人4000円なら満足だ。いつもなら「もう1軒行こう」となるところだが、この日は駅で解散した。スナック、いいではないか。