なぜライブでラップをやることになったのか?
「ピロリ菌の除菌を歌にする」という記事で「ピロリ」という歌が生まれ、僕がラッパーとしてデビューしてからまだ2ヶ月。人様の前でラップを披露するなんてあまりにも気が重い。
では、何故ライブでラップをやることになったのか。
それは、僕のラップをプロデュースしている林さんからの提案だった。
「ひよせさんのライブでやらせてもらったら面白いと思います」
いつもの調子で林さんから連絡が入った。林さんは見ていればいいのだから、それは面白いだろう。しかし、やるのは僕だ。とても出来る気がしない。まぁ、ひよせさんはイエスと言わないだろう、と思っていたら二つ返事でオッケーが出てしまった。もうやるしかない。
さらに林さんから、
1.ラッパーっぽい格好をした方がいい。
2.自己紹介を今井メロのラップ風でお願いします。
というメッセージが届いた。Facebookで。
僕は今井メロというラッパーを知らなかったのだが、林さんが教えてくれた動画を見て驚いた。
まず、今井メロさんはラッパーじゃなくてスノボの選手だった。そしてあんなラップをやっていたなんて知らなかったし、ラッパー歴2ヶ月の僕にあれをやれと言っているのだ。人前で2曲やるだけでもナーバスになっているというのに。
とりあえず、ラッパーっぽい格好を用意しないといけない。
NYで流行っている
ラッパーっぽい格好を調達するために、渋谷のセンター街へ向かった。センター街を奥の方に進むと、黒人さんが近寄って来て洋服を薦めてくる。いつもは目を合わさないようにしているが、今回はあの黒人さんたちの力を借りようと思う。
センター街
センター街を歩いていても、いつものように黒人さんが洋服を薦めてこない。あまり勧誘しないように、とセンター街から注意されたのかもしれない。寄って来てくれないから、僕から黒人さんのお店に入っていった。
黒人さんの洋服屋さん
普段の格好がラッパーからはほど遠い感じなので、黒人の店員さんに
「友人が余興でラッパーをやることになったので」
と回りくどい説明をした。今考えたら「余興」なんて日本語は通じてなかったかもしれない。
店員さんは、オッケーと言ってまずはキャップを提案してくれた。
ラッパーはキャップだよネー
特に左手に持っているシカゴブルズがおすすめだと言う。さらにそのキャップに合わせるパーカーも見繕ってくれた。
ブルズに合わせるんだったら…
これだよネー
ブルズのキャップに赤いパーカー。この組み合わせが今ニューヨークで流行っていると言っている。そういえばこの人はニューヨークヤンキースの帽子を被っている。ヤンキースの帽子を被った人が「ニューヨークで流行っている」と言うのだから間違いはないのだろう。
他にも袖が着脱式になっているクールなトレーナーや、
着脱式の袖が自慢の逸品
これもクールだよネー
店員さんは色々と薦めてくれたのだが、どれも結構な値段がするのだ。着脱式の袖のトレーナーなどは2万円近くする。確かに夏場は袖を取って着ることも出来るからお得といえばお得だが、あの洋服を着て歩く自分を全く想像出来ない。
ただ、キャップとパーカーという組み合わせを知ることは出来た。それだけでも大収穫だ。
このお店で買うのはやめて、キャップとパーカーを別の安いお店で購入することにした。
「写真を友人に見せて相談してきます」
と言ってお店を出た。最初に友人に頼まれたことにしておいて良かった。
いざ、ライブ会場へ
黒人さんのお店で得た情報をもとに、サカゼンという安いお店でキャップとパーカーを手に入れた。ラッパーの格好が用意出来たので、その足でライブ会場へ向かう。
ライブ会場の「渋谷guest」
今回、ひよせさんとイチゲさんのユニット「ひよゲ」が参加するライブは渋谷のguestというライブハウスで開催される。ひよゲのお二人以外に2組のアーティストが参加するらしい。僕は音楽ライブに参加したことがないので良く分からないのだが、3組のアーティストが登場するということは、「対バン形式」ということで理解している。ラッパーとして他の2組に負ける訳にはいかない。
リハーサルが始まる時間は17時半。10分前に会場へ行くと既にひよゲのお二人がいた。
会場前にひよゲのお二人
まだ会場が開いていないらしく、会場の外で店長さんが来るのを待つ。
今回のライブに僕が参加するということで、ひよせさんはいつもとは違う緊張感を感じているという。本来、ひよゲのお二人の楽曲にはラップが入るような余地はない。無理を言って「ピロリ」と「ネギのうた」という2曲を作ってもらい、それを更にライブでやらせてもらうのだ。ひよせさんが感じている緊張感は、未知なものへの恐怖、という感情が大きいのだと思う。
しばらくすると長髪を後ろに束ねた細身で長身な男性がやって来た。店長さんだ。
ひよせさんとイチゲさんが店長と挨拶を交わし、ひよせさんが僕を店長さんに紹介してくれた。
「今回、ラップで参加する住さんです」
店長さんは大きな声で、
「ラップ?」
と怖い顔で聞き返してきた。その顔には「聞いてない」と書いてある。
いや、事前にひよせさんから聞いていた情報では、お店の人もデイリーポータルをよく読んでいて今回のラッブを楽しみにしているとのことだった。それが怖い顔で「ラップ?」と聞き返されたのだ。ライブハウスで一番偉い店長さんから。
この時点で僕のナーバス度は更に上がったし、不安と緊張感がグッと高まった。
そんな気持ちを抱えたまま、とりあえずリハーサルに突入していく。
リハーサルでさらに高まる緊張感
会場に入ると、ひよゲのお二人が早速リハーサルに入った。店長さんが各パートのボリューム調整などをしている。
リハーサル開始
この日、ひよゲのお二人が演奏する楽曲は全部で6曲。その中で僕がラップで参加するのは2曲で、曲順としては最初2曲はひよゲさんの曲、その後僕が合流して「ピロリ」と「ネギのうた」、僕は退場してその後ひよゲの2曲という構成だ。
最初に僕が入って場を乱した後に残りの4曲を演奏するのは辛いし、最後に僕が場を乱したまま終わってしまうのも辛い。ラップを入れるなら真ん中しかない。ひよせさんがそう判断したのだろう。
ちなみにサカゼンで用意したラッパーの格好はこうなった。
ラッパーです。
一生懸命、韻を踏んで参ります。
キャップにパーカーで問題ないはずなのだが、サイズ感を間違えたらしい。パーカーをもっとだぶっと着くずさないといけないのだ。いつもの癖でピッタリめのサイズでパーカーを選んでしまったので、全体的にジャミラっぽさが漂ってしまった。色がグレーなのもいけなかった。
さらにズボンの片方だけめくり上げてみたのだが、
ズボンもめくってみた
どうしても農作業感が出てしまう。
ラッパーの格好がしっくりこないまま、ひよゲのリハーサルを見つめる。
リハーサルがすすむ
最初に演奏する2曲のリハーサルが終わり、僕のラップを合わせる番になった。イチゲさんのマイクを僕が使うという段取りになり、リズムトラックに合わせてイチゲさんのギター、ひよせさんの歌、そして僕のラップがコラボする形だ。
一度合わせてうまくいったので僕のリハーサルはそれで終わりとなったのだが、リハーサルの間ずっと店長さんが険しい顔をしていた。
リハーサルを見守る店長さん
音の具合を慎重に見極めているだけなのかもしれないが、僕には険しい表情に見えてならなかった。一度機会があったら一緒にお酒でも飲んで距離感を縮める必要がある。リハーサルのラップを終えてそう思った。
ライブが始まった
19時になり、ライブ会場がオープンした。関係者やお客さんが入ってくる。僕たちの出番は20時半過ぎ。1時間半もある。緊張感が高まっていくには充分過ぎる時間だ。
本番には林さんも駆けつけてくれる予定なのだが、前の撮影が押しているらしくなかなか来てくれない。
ライブハウスというものに慣れていないせいもありアウェイ感が半端ない。
本番間近。ステージ横で待機する住と林
20時を過ぎた頃、撮影を終えた林さんが合流してくれた。パーカーのサイズを間違えたこと、店長さんが怖かったこと、色々と伝えたいことがあったのだが、何よりも自己紹介ラップはやるべきかどうか、最終確認をした。
「せっかく考えてきたんですから、是非!」
と林さんが明るく答える。
そうか、やっぱりやるのか。
一応、考えてきた自己紹介ラップは次のようなものだ。
11223344
私の名前は住正徳
ヘルニア持ちの43才
好きな食べ物温野菜
胃袋の中にピロリ菌
好きなタイプは菅井きん
疲れが溜まると疼くいぼ痔
いぼ痔が出る場所5時と9時
温野菜と菅井きんさんに関しては韻を踏むことだけを考えて出て来たワードで、特に好きな訳ではない。自己紹介なのに嘘を言ってどうなんだ、という疑問は残る。
このラップに関して林さんから一点だけ赤が入り、「私の名前は」の部分を「ミーの名前は」に変更することとなった。
そんな細かいことは正直どうでもいいのだ。これをこれからやらないといけない。それがかなりのプレッシャーで胃が痛い。
ついにスミラップ登場、会場の反応は?
そして、いよいよひよゲのお二人がステージに上がった。リハーサル通り、2曲を完璧に歌い上げていく。
僕はステージ横のソファーで出番を待つ。
出番を待つスミラップ
ライブを楽しむ林さん
自己紹介ラップの歌詞をiPhoneに入れてあったので、それを見ながら自己紹介することにした。自動ロックを解除して画面が落ちないよう、入念に準備をしておいた。
自己紹介はiPhoneを見ながら
自動ロック、しない
ひよゲの2曲目が終わった。
ついにスミラップの出番である。
ステージ上のひよせさんから、スミラップと名前が呼ばれ僕はステージに上がる。
ひよせさんから呼び込まれ
ステージに上がるスミラップ
随分と猫背だし、今写真を見て気づいたのだが、後ろポケットに長財布が入っている。どうひいき目に見ても、こんなラッパーはいないだろう。
ここからの10分ちょっとの様子を動画におさめたので、僕のラッパーデビューの様子を是非見届けていただきたい。
多くの失笑と手拍子、そして「セイ、ホーオ!」の大合唱。僕のラッパーデビューはこのようにして大盛り上がりのうちに幕を閉じた。
盛り上がったと言い切っても問題ないと思う。
ただ、ひよゲさんのライブでこんなに失笑が起きることは、これまでもこれからもないことだけは確かだろう。
ひよゲのお二人、どうもすいませんでした。
そして、渋谷guestの関係者の皆様、お世話になりました。
大いに盛り上がった(多分)。
ピロリ菌の除菌を歌にすることから始まったラッパープロジェクトだが、今回のライブ映像内の自分を見返してしみじみ思った。
ラップをやる前に、まず除菌をしろ!
と。
楽しげにラップをやっている僕の胃袋の中には、まだピロリ菌がいるのだ。
ひよゲのお二人のライブが12月28日にあるそうです。
今度はちゃんとしたひよゲの音楽を生で感じてください。
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12/28(土)渋谷guest「タイコのタイpresents素敵な仲間達」
詳細はひよせさんのHPをご覧ください
http://hiyose.jimdo.com/