渋谷の居酒屋に協力を仰いで
お店にとってもお客にとっても気持ちのいいことをしたい。しかし、迷惑行為が横行したこの頃では、ちょっと変わったことをしただけでもお店から警戒されかねない。いい事をしようとしているのにお店側に余計な心配をかけたり怒られたりしたくない。
そこで、普段から仲良くさせていただいているお店に「おもてなしなう」のお願いをした。渋谷中央街にある「つくしんぼ」という居酒屋だ。
居酒屋つくしんぼ
「つくしんぼ」はここ何年か通っているお店で、マスターは僕と同年代。気心が知れた仲なので(僕が勝手に思ってるだけかもしれないが)今回のお願いも二つ返事で快諾いただいた。
了承を得たとはいえ、なるべくお客さんが少ない時間帯がいいだろうと考え、開店直後にお店に伺った。開店時間は16時半、外はまだ明るい。つくしんぼに集まった僕と林さんは、とりあえずビールで乾杯した。
乾杯なう
おもてなしの心を持って
まずはこのテーブル周りでやってみよう。
迷惑行為の写真には醤油差しを口にくわえたり鼻の穴に入れたりしたものがある。そんなことをしたら汚いじゃないか。
醤油差しを鼻に入れたらいけない
僕たちの場合、おもてなしの心を持って醤油差しをこうする。
醤油差しを
どこでも除菌で
除菌なう
つくしんぼにある醤油差しが汚いという訳ではない。そのままでも十分きれいなのだが、とりあえず除菌をしておいた。除菌しておけば間違えはないはずだ。
さらにテーブルセットの中に異変を見つけた。
あ、楊枝が少ない!
これはいけない。日々の忙しさから補充を忘れてしまったのだろう。補充せねば。
テーブルのつま楊枝を
おもてなしの心で
補充なう
乾杯を終えて早速2つのおもてなし行為を行った。
ちなみにこのようなおもてなし行為にモザイクをかけるとどうなるだろう。
除菌なう(拡散希望)
補充なう(拡散希望)
いかんいかん。なんだか迷惑行為の香りがぷんぷんしてくる。僕たちは「お店にとってもお客にとっても気持ちのいいこと」をモットーにやっているのだ。モザイクはいらない。
引き続き、モザイクなしでおもてなし行為を写真に収めていこう。
料理が出てくるまでの間にできることをやっていく。
テーブルをさっさで拭いてるなう
他のテーブルもさっさなう
消火栓なう
これからいらっしゃるお客様のために、林さんがきれいにする範囲を広げていった。僕もコロコロで後に続く。コロコロによってナノ単位の汚れを除去するおもてなしだ。
コロコロ導入
コロコロなう
消火栓なう
日本酒の棚に異変
吟醸酒桜花と浦霞の間にある日本酒のラベルがこちらを向いていない。ここはやはりラベルを揃えたいところだ。
日本酒のラベルを
揃えたなう
このようにラベルを揃えることで、酒造元に対してもおもてなしマインドを伝えることができると考える。
お酒を飲めばトイレが近くなる。トイレの状態はどうだろう?
僕たちはトイレに向かった。
トイレなう
開店前に店員さんがしっかりと掃除をしたのだろう。トイレはとてもきれいだった。
しかし、一点だけ気にかかったことがある。
早速直そう。
トイレットペーパーの
エッジを直して
一旦離れてから
確認
三角なう
だんだんバイトのようになっていく
店内のおもてなし巡回を終えて席に着くと、忙しそうにしているマスターの姿が目に入った。
忙しそうなマスター
ここは居酒屋さんだ。これからの時間帯、混雑することが予想される。それに備え、マスターは仕込み作業に入っているのだ。
何か我々でお手伝いできることはないだろうか?
仕込み作業中のマスターに声をかけてみた。
なにかお困りかな?
つくしんぼはかつて渋谷界隈でお肉屋さんを営んでいたという。だから、肉料理がとてもおいしいのだ。そのおいしい肉料理の筆頭、ソーセージを仕込んでいるらしい。
ソーセージの空気を抜く作業
マスタは楊枝でソーセージの空気を抜く作業をしていた。空気を抜かないと茹でている最中にソーセージが爆発してしまうのだとか。それは大変だ。
僕たちはお手伝いを買って出た。
ソーセージの仕込みなう
空気がたまっている場所に楊枝を刺す作業
このようにして空気を抜いた後、3日ほど干すとソーセージが出来上がる。3日干した後のソーセージがこれだ。
自家製ソーセージ
僕たちのおもてなしマインドによって、つくしんぼの看板メニューが爆発から免れた。
つくしんぼには、ソーセージの他にも絶品料理が沢山ある。
とろけるビーフシチュー
スタミナバッチリ、チキングリル
野菜も摂ってね、シーフードサラダ
僕たちが料理を堪能していると、マスターの姿が見えなくなった。店内を見渡すと、マスターが次の仕事をしている。
たばこを補充しているマスター
入り口付近に設置されたたばこの自動販売機にたばこを補充していた。手伝わないと。
たばこ補充なう
僕は学生時代に酒屋さんでバイトをしていたから、たばこの自販機の補充は経験がある。それほど難しい作業ではないが、ポイントは銘柄を間違えないことだ。当たり前だけど。
一通りの補充を終えて、マスターに聞く。
「他に手伝うことはないですか?」
手伝いたくて仕方ない
マスターは「もう、大丈夫ですから飲んでてください」と、少し困惑しながら言った。
あっ!
おもてなしのつもりが親切の押し売りになってる。それはダメだ。僕たちはこのお店にアルバイトでやって来た訳ではない。おもてなしの心が行き過ぎて仇となってはいけないのだ。
仕上げのおもてなし
マスターに言われた通り、おとなしく席についておいしい料理とお酒を堪能することにした。
と、その時、また気がついてしまった。
何ビールがあるのか?
文字がかすれていて、何ビールがあるのか分からない状態になっている。これでは僕たちの次のお客さんが悩んでしまうだろう。
油性ペンで書き足さないといけない。林さんがかすれた部分を書き足していく。
書き足しなう
エビスビールあります。(くっきり)
これでエビスビールがあることをしっかりと伝えることができる。
奥の座敷席から楽しげな笑い声が聞こえてきた。つくしんぼには大人数で宴会が出来る座敷席もあるのだ。
座敷席の団体さんにも何かおもてなしをしなければ。
そこで僕が目をつけたのがトイレ用サンダルだ。座敷席へは靴を脱いで上がるから、トイレに行く時にいちいち自分の靴を履いたりしない。そこで登場するのがトイレ用サンダルな訳だが、ここのところ一気に冷え込んで来たのでトイレ用サンダルでは寒いと思うのだ。
うん、冷えてる
頭寒足熱といわれているのに、このサンダルで足下を冷やしてはいけない。
カイロを用意しました
用意しておいたカイロで団体さんの足下を暖めてあげよう。
カイロを2つ
トイレサンダルに
置いて
秀吉なう
信長の草履を懐に入れて暖めた秀吉の逸話からヒントを得たおもてなしである。トイレサンダルを懐に入れるべきなのでは、とも考えたが団体さんに対して忠誠心がある訳ではないのでカイロを使用した。
居酒屋つくしんぼの協力を得て、おもてなし行為を実践してみた。
しかし、おもてなそうとすればするほど、それは中々難しい。どうしても親切の押し売りになってしまうのだ。
そしてきっと、ほんとうにおもてなしの心がある人は、その行為を写真に撮って拡散しようなんて考えないのでしょう。
駅の広告にあった昔の写真。今だったら「危ない!」と炎上しそうだ
取材協力:
居酒屋つくんしぼ
東京都渋谷区道玄坂1丁目7-1
03-3476-2983