ターゲットは「バカチョウ」ことオオゴマダラ!
オオゴマダラとは日本では南西諸島に分布する蝶で、先ほども触れたとおり日本で一番大きい立派な種である。カラーリングもシンプルな白黒模様でとても綺麗だ。
日本最大の蝶、オオゴマダラ。今回はこいつらをメロメロにして差し上げる。
さらにこのオオゴマダラ、幼虫の頃にアルカロイド系の毒素を含む植物を食べる。成虫になってもその毒が体内に残るようで鳥などに襲われにくい。そのためかフワリフワリとよく言えば優雅な、悪く言えばどんくさい飛び方をするので、素手で捕えることすらできてしまう。そんな様から沖縄では「バカチョウ」と不名誉なあだ名で呼ばれているのだ。
日本最大である他にさなぎが金ピカであることも特徴の一つ。
そんな蝶だから、捕まえようと思えば何の苦労もなくたくさん捕まえられる。
しかし今回は僕は追う側ではなく追われる側でありたい。向うから積極的に寄ってきてほしいのだ。
沖縄県那覇市にある漫湖公園内の「ちょうちょガーデン」
「蝶を呼び寄せる」そんな実験の舞台がこちら。那覇市の漫湖公園内にたたずむ「ちょうちょガーデン」なる温室施設である。
ちょうちょガーデン内部は一見植物園のようだが…
オオゴマダラをはじめ、さまざまな沖縄の蝶たちが無数に飛び交っている。
ちょうちょガーデン内にはオオゴマダラが数百匹も飛んでいるという。これなら実験の結果もオオゴマダラの羽色のように白黒はっきり出ることだろう。オオゴマダラの羽色のように白黒はっきり出ることだろう。
オオゴマダラは赤が好き?
ではどういった方法でオオゴマダラを惹き寄せるのか?
――先日、散髪中に美容師さんが面白い話をしてくれた。ちょうちょガーデンと同じように蝶を飼育している施設を家族で訪ねたところ、息子さんがかぶっていた赤い帽子にオオゴマダラが殺到したというのだ。そうか!オオゴマダラは赤が好きなのか!
何も対策を取らないままではもちろん一匹も寄ってこない。
赤=花の色だと思ってしまうのかな?
なら赤い服に身を包めば蝶にまみれることが出来るだろう。簡単なことだ。
というわけで着替えてきたぞ!いつでも来いや!
ちょうちょガーデンへ向かう道中で、イタリア人でも着るのをためらいそうな鮮やかな赤のポロシャツを購入した。こんな原色バリバリの真っ赤な服を買ったのは生まれて初めてだ。
これでもはや僕は歩くハイビスカス。オオゴマダラも黙ってはいられないはずだ。
いつでも来…あれ?
…全然ダメ。群がってくるどころか一匹として寄りつくそぶりさえ見せない。
一匹も来ない…。
誰がどう見ても、文句のつけようもないほどの大失敗である。
これはどういうことかとちょうちょガーデンの職員さんに尋ねてみると意外な答えが返ってきた。
――オオゴマダラは赤い色に寄って来ると聞いていたんですが…。
「あー、よく聞く話だけど実はあんまり確実な方法じゃないんですよ。確かに赤い服や帽子に集まることもあるにはあるんですが、まったく興味を示してくれないケースの方が多い。なぜか黄色に寄りつくこともあるし、その辺のメカニズムはよく分からないですね。」
泡盛と整髪料で挑む!
オオゴマダラたちの気まぐれなのか、季節や時間帯などタイミングの問題なのか。
ひょっとすると人間にとっては同じ赤色の衣類でも、蝶たちの眼にはまったく違う色に見えているのかもしれない。
――どうにかしてオオゴマダラの気をひけないですかね?
「うーん、じゃあ視覚じゃなくて嗅覚に訴えるといいんじゃないですかね。」
職員さんはそう言うと面白い光景を見せてくれた。
アルコールのスプレーボトルにオオゴマダラが群がっている!
施設の一角、事務室のようなスペースを仕切る網にオオゴマダラがたかっている。
これは…!?
「蝶が集まってる先にボトルがあるでしょう?消毒用のアルコールなんですけど、なぜかあれの匂いが大好きなんですよ。」
泡盛を浴びるように塗るやんばるたろうさん。
実は今回、取材にあたって本サイトでもおなじみの沖縄情報ポータルサイトDEEokinawaに協力していただいた。
この日は
こんな企画を撮影した直後だったのでたまたま泡盛を持っていた。やんばるたろうさんが腕に塗って効果を試してみることになった。
さらに、職員さんが貴重な情報の掲載されたパンフレットを見せてくれた。
パンフレットにはオオゴマダラにモッテモテの女性が!
パンフレットを開くと、「整髪料に惹かれるチョウ」という文字とともに大量のオオゴマダラをはべらせている女性の写真が。これだ!
整髪料の成分表。重要なのはメチルパラベンとプロピルパラベンという成分
さっそく実行しようと詳細を調べていくと、どうやら整髪料なら何でもいいというわけではないらしい。保存料として「――パラベン」という薬品が使用されていることが重要なようだ。どうもこのパラベンという物質はオオゴマダラのメスが発するフェロモンに匂いが似ており、オスのオオゴマダラが大喜びで集まってくるのだとか。
オオゴマダラ(♂)を魅了すべく、さっそく偽フェロモンをまとう。
相手が人間だろうが蝶だろうが、気をひくためには身だしなみが重要ということか。
酒の力と化学の力で、引き寄せられるかオオゴマダラ!!
アルコールとパラベン。ちょうちょガーデン職員さんお墨付きの物質を持ち出したのだ。我らの勝利は約束されたも同然だ。
酒が勝つか、
整髪料が勝つか。
泡盛と整髪料、よりオオゴマダラたちの人気を博すのは果たしてどちらか。衝撃の結果は次のページで!!
苦戦の後に奇跡が!
まったくダメである。これではお話にならない。記事にもならない。
泡盛、不人気。
独特のにおいがダメなのか。はたまた腕に広く塗り延ばしたのではアルコール分の蒸発が早すぎたのか。いずれにせよ今回は泡盛にオオゴマダラが集まってくることはなかった。
整髪料も、ダメ。
整髪料でビシバシにキメた髪にも一向に寄りつく気配はない。
「あれぇー、理論上はこれでモテモテなはずなんだけど…」といかにもダメなセリフを吐きつつ、こちらからオオゴマダラに近付く戦法にシフトする。
水場に群れるオオゴマダラを一網打尽にしてやる!
花や水入れに群れるオオゴマダラに積極的に頭を差し出す。ホレホレ、これが好きなんだろ?パラベン好きなんだろ?
ただの水の方がいいのか…。
一切興味を示してくれないオオゴマダラたち。これはアレだな。実験失敗ってやつだな。
まあ生物相手の実験ならこういうこともあるか。諦めてちょうちょガーデンの出口へ向かってとぼとぼ歩いているとDEEokinawaのmiooonさんから声がかかる。
「平坂さん、ストップ!蝶来てます!!」
決定的瞬間!
驚いて立ち止まると、確かに頭頂部でパタパタと羽ばたきの音が聞こえる。ついでに虫の仕業とは信じがたい大げさな風圧も感じる。
確かにオオゴマダラがやってきた!だがまだ一匹だ。単なる偶然かもしれない。
続々集まる!
そう思いつつもその場に立ち止まり続けると、瞬く間に2匹、3匹とオオゴマダラが集まってきた!これは偶然じゃない!ここにきて実験成功である。
明らかにモテはじめている!
結局、4匹のオオゴマダラを同時に集めることが出来た。
蝶といえど4匹も乗っかると若干の重みすら感じる。
しかしなぜここへきて、帰る間際のタイミングでブレイクしたのだ僕は。周囲を見渡すと答えはあっさり見つかった。
扇風機!
温室内の空気を循環させるために設置されている扇風機。ちょうどその前を通りがかっていたのだ。整髪料の香りが扇風機の風に乗って拡散し、温室内のオオゴマダラたちの元へ届いたというわけだ。
問題は拡散力だったのか!
テンションが上がってしまっております。
扇風機の前に立てば整髪料のポテンシャルを生かせる!
ならばと整髪料を髪の毛のみならず顔や腕に塗りたくる。衣服にまで刷り込む。
これなら全身蝶まみれになれるはずだ!
さあおいで、蝶たちよ!
あれ?
真っ白になったのに結局頭にばかり寄ってくる。
全身整髪料まみれ作戦はパッとしない結果に終わった。量を増やせばいいというものでもないのだろうか。
と思ったら最後の最後に腕にも来た!
でも待ち続けていると、ちらほら腕や服にもまとわりつくオオゴマダラが現れはじめた。今回はちょうちょガーデンの閉館時間が迫ってきたので実験はここまでとなったが、条件をしっかり整えて万全の態勢で臨めば、全身蝶まみれになるのも夢ではないのかもしれない。
まとわりつかれてなかなか退出できない!
沖縄じゃなくても試せるかも
このオオゴマダラは見栄えがよいためか、沖縄に限らず各地の動物園や昆虫館などの温室で飼育されている。そういう施設を訪れる機会があったら「パラベン」が含まれる整髪料を鞄に忍ばせて行くと楽しい経験ができるかもしれない。
ただし、実験をする際には職員さんに一言断りを入れてから試すようにしよう。頭に大量の蝶を乗せた人がいたら、他のお客さんがびっくりしてしまうかもしれないから。
漫湖公園のちょうちょガーデンにはオオゴマダラ以外の蝶もたくさんいる。これはタテハモドキという蝶。