特集 2013年12月3日

画材イベントが豆知識いっぱいだった

絵具、ボリューミー。
絵具、ボリューミー。
Twitterを眺めていたら、画材メーカーのホルベイン社がイベントを行うというツイートが流れてきた。
イベント詳細に「モデルクロッキー会」「水彩体験」などアーティスティックな内容が並ぶ中、なぜか「マーカー、絵の具、筆など画材のつかみ取り各種」という妙に砕けたものが混じっている。
クロッキー会に参加するような絵心はないが、筆や絵の具のつかみ取りは面白そうだ。
それぐらいの気持ちで行ってみたイベントが、想像以上に豆知識の宝庫で面白かったのだ。
1973年京都生まれ。色物文具愛好家、文具ライター。小学生の頃、勉強も運動も見た目も普通の人間がクラスでちやほやされるにはどうすれば良いかを考え抜いた結果「面白い文具を自慢する」という結論に辿り着き、そのまま今に至る。(動画インタビュー)

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画材イベントは豆知識に溢れている

画材イベント。
画材イベント。
今回お邪魔してきたのは、日本の画材メーカーであるホルベイン画材とホルベイン工業による共催イベント『エンジョイペインティング フェア 2013 in TOKYO』である。

という冒頭の情報がいきなり豆知識だ。
まず「Holbein」というなんかカッコいい社名はルネッサンス期のドイツ人画家ハンス・ホルベインに由来しているということだが、会社自体は1900年創業の大阪の老舗画材メーカーである。
で、創業時の絵具製造部門が「ホルベイン工業」として絵具に特化、舶来の洋画材を扱っていた卸部門が「ホルベイン画材」となり、現在では絵具以外の画材を生産している。

絵具とそれ以外の画材は、同じ名前だけどそれぞれ別会社だった、という二段構えの豆知識である。
【豆知識】ホルベイン工業は絵具、ホルベイン画材はそれ以外の画材。どちらも創業100年を超える日本のメーカー。
…という豆知識を、入ってすぐのパネルで知る。
…という豆知識を、入ってすぐのパネルで知る。

場所は浅草橋の東京文具共和会館。名前の通り文房具関係の発表会やイベントで使われる建物なので文房具関係のライターをしている僕にとっては、わりと何度も来ている馴染みの会場である。
ただ、文房具と画材というのは似ているようで全く別の世界なのだ。同じイベント会場なのに、なんか会場の空気感が違う。落ち着いているというか、妙なしっとり感がある。アウェイだ。
文房具マニアとして感じるアウェイ感。
文房具マニアとして感じるアウェイ感。
静かにクロッキーする一角。
静かにクロッキーする一角。

見たことない道具がある

とりあえずクロッキーをされている皆さんの邪魔をしないように移動して、画材コーナーを見て回ることにする。
ちなみにこの画材コーナーは絵具ではないので、ホルベイン画材さんの分野だ。
今後、何かの機会にホルベインのマークを見かけたら、絵具かそれ以外で当たりをつけて「ああ、これは画材の方のホルベインさんだね」とか言ってみると、なんかアート業界を知っている風に見えるかもしれない。
奇っ怪な調理道具的なあれこれ。
奇っ怪な調理道具的なあれこれ。
それにしても、あちこち見回しても、絵を描かない人間には何に使うのか想像も付かないような道具ばかりである。フライ返しなのか、お好み焼きのコテなのか判別がつかない。
]こんな感じで使うらしい。
こんな感じで使うらしい。
【豆知識】絵具を凸凹に盛ったりする道具は調理道具そっくり。
最初に少ししっかりとした豆知識的なものを披露してみたが、いきなりこれである。
これ以降もだいたいこんな感じなので、あまり気負わずに読み進めて欲しい。

それにしても、「こうして使う」という作例の写真が茶色やオレンジ色ばかりなので、どうしても肉やお好み焼きを焼いているように見えて困る。
アート界に電化の波。
アート界に電化の波。
【豆知識】絵を描く時にカンバスを置くイーゼル(台)は電動のものもある。
カンバスが大きくなると、端の方を描く時に背伸びしたり腰をかがめたりと大変らしい。電動でイーゼルが動かせるとそういう苦労もなくラクラク、ということだそうだ。
画用紙以上に大きな絵など描いたことがないので実感はないが、なるほど美術館にあるような大きな絵はこれがあると描きやすいんだろう。
パレットには左きき用もある。
パレットには左きき用もある。
パレットの秘密。(専門家のみ)の記述が誇らしげ。
パレットの秘密。(専門家のみ)の記述が誇らしげ。
【豆知識】パレットの形は四角いオプロング型、楕円形のオーバル型、雲形のフランゼン型がある。

【豆知識】パレットは厚みが均一ではない。体に近い方を厚く、遠い方を薄くなっている。さらに指を置く部分には重りを入れて重量バランスをとっているので、長時間使っても疲れにくい。
絵具を置く板、という認識していなかったが、やはりプロ用のパレットは重量バランスを取るなど繊細な工夫がしてあるものだ。かっこいい。
パレットの形については、いずれ誰かにドヤ顔で言う機会を楽しみに、記憶の深いところに沈めておきたい。たぶん二度と思い出せないような気もする。
コミック用品も取り扱っている。
コミック用品も取り扱っている。
ちなみにホルベイン画材では、MAXONという別ブランドでコミックパターン(スクリーントーン)も作っている。
背景トーン。「新種!」
背景トーン。「新種!」
この柄は売れるのか、勝手に心配になる。
この柄は売れるのか、勝手に心配になる。
【豆知識】MAXONのコミックパターンを使えば歌舞伎町の入口が誰でも描ける。除霊もできる。
自由にトーン貼りができるお試しスペースも。
自由にトーン貼りができるお試しスペースも。

絵具も豆知識に溢れていた

画材の次は絵具も見よう、ということで回ってみたのだが、これがもうとにかくいろんな色がドカドカと置いてあって、正直、「わー、色、いっぱいあんなー」以上の感想がない。
すごいカラフルですねー(せいいっぱいのコメント)
すごいカラフルですねー(せいいっぱいのコメント)
このままでは埒が明かないので、ホルベインの方に絵具に関してお話を聞くことにした。
ホルベインの高木さん。絵具なので、工業の方だ。
ホルベイン工業の高木さん。絵具豆知識の宝庫おじさん。
ホルベイン工業の高木さん。絵具豆知識の宝庫おじさん。
「そうですね、まず絵具ってどうやって作るかご存知ですか?」
「いや、考えたこと無かったです」
「絵具というのは、基本的に顔料などの“色素”と、糊など“固めて定着させる成分”を練り合わせて作るんです。なので、接着剤が手元に無い時は代わりに使えるんですよ」

高木さん、いきなり豆知識である。
【豆知識】絵具には固める成分が入っているので、接着剤代わりに使える。
これなんかは、覚えておくといざという時にピンチを脱することが出来るんじゃないか、という気もする。糊が無くて絵具だけ手元にある危機的状況、というのは今ひとつ想像がつかないが。
「ざっくりした質問ですいません、ホルベインで一番スゴい絵具ってどんなんですか?」
「そうですね、品質で言うとこの『油一(ゆいち)がすごいんですよ。お値段もなかなかスゴいですけど」
これが油一。
これが油一。
『油一』は、ホルベイン工業と東京藝術大学の産学協同で開発した、きめが細かく透明度が高い超高品質の油絵具だとのこと。
と聞いただけでは良く分からないのだが、値段を見せられて納得はできた。
セットではなく、1本あたりの価格。マジか。
セットではなく、1本あたりの価格。マジか。
油絵具は、色素として使用する顔料にピンキリの価格差がある。そのため、高い色と安い色があるのだ。
それにしたって、最安で絵具のチューブ1本3800円。高いものは7000円以上である。
【豆知識】油絵具は色によって値段が違う。

【豆知識】高い油絵具は冗談抜きで高い。
ただ、よく見ると値段の横にもう一つ手書きで金額らしきものが書かれている。
実は油一、今年の八月に価格改定を行い、半額から1/4近い大幅値下げとなったのだ。
「今までの油一は錫製のチューブに熟練の職人がひとつひとつ手作業で絵具を詰めてたんですよ」
そりゃまあこんな値段にもなるだろうという感じである。
それがこのほど機械で詰められるように改良されたり、チューブもアルミになったりと、絵具の品質以外の部分でコストダウンを行った結果の値下げなのだそうだ。
リニューアルした油一。これでも高そう。
リニューアルした油一。これでも高そう。
「あと、油一の技術を活かしてホルベインで開発したのが『ヴェルネ』です。これも伸びが良くていい絵具ですよ」
こちらもおすすめの『ヴェルネ』
こちらもおすすめの『ヴェルネ』
『油一』のあとだと安く見えるけど、でもやっぱりなかなかのお値段。
『油一』のあとだと安く見えるけど、でもやっぱりなかなかのお値段。

色の名前が豆知識

色の名前もいろいろと面白いんです、と高木さんは教えてくれた。
「たとえばシェンナという色があるんですが、これはイタリアのシエーナ地方の土を使った茶色の顔料で、人類が使った顔料でも一番古いようなものなんですよ」
これがイタリアの土の色か。
これがイタリアの土の色か。
「シェンナにはロー・シェンナとバーント・シェンナがあるんです。ローは生という意味で、バーントは焼いたということ。つまりロー・シェンナは生の土の色ということです」
【豆知識】人類が使った一番古い顔料は土を使った茶色。

【豆知識】シェンナはイタリアの土の色で、生と焼いたのがある。

「あと、ウルトラマリンブルーっていう色があるんですが、このウルトラって、どういう意味かご存知ですか?」
「超、とかそういう意味ですよね。だから、ものすごく海に近い青とか超海っぽい青だからウルトラマリンブルー?」
確かに言われてみたら分からない。
しかしそれにしたって、なんなんだ、超海っぽい、て。
これが超海の青。
これが超海の青。
「ウルトラマリンブルーは、今でこそ合成顔料なんですが、昔は宝石のラピスラズリを粉にして作ってたんです。で、当時ラピスラズリはアフリカのアフガニスタンでしか採れなかったんで、ヨーロッパまでは遠く海路で運んでくるしかなかった、と」
「それで『遠く海を越えて来た』という意味で、距離的にウルトラなマリン経由のブルー。だからウルトラマリンブルーという名前になりました」

なんと、まさかのウルトラ距離。海の青とか関係なかった。なので「ウルトラマリンピンク」という、一瞬耳を疑うような色も存在するとのこと。
【豆知識】ウルトラマリンブルーのウルトラマリンは、海を越えて来た、という意味。マリンブルーとは関係ない。

【豆知識】ウルトラマリンピンクという色もある。

「テールベルト」は「緑の土」という意味。
「テールベルト」は「緑の土」という意味。
他にもなんか気になる色の名前がいっぱいある。
他にもなんか気になる色の名前がいっぱいある。
あと、高い絵具にまぎれてこっそり絵具のチューブを搾って最後まで使う用の器具も置いてあったので安心した。
こういう高い画材を使う人は、少しチューブの中身が減って絵具が出しづらくなってきたらポイと捨てるんじゃないかと勝手に思っていたからだ。もしくは一万円札を細くねじってチューブに突っ込んで絵具を掻き出すとか。
安心のチューブしぼり器。名前もそのまんまだ。
安心のチューブしぼり器。名前もそのまんまだ。
【豆知識】高い絵具を使っている人も、チューブをしぼりたがっている。

掴むぜ筆

賑わう物欲の街角。
賑わう物欲の街角。
高木さんに絵具の話を伺っているうちに、会場の端がだいぶ賑やかになっていた。
あれが人々の欲望渦巻くつかみ取りコーナーである。

つかみ取りのラインナップとして準備されていたのは、アクリル絵具(300円)・パステル(300円)・筆(1000円と500円の2種)・マーカー(500円)・コミックパターン(引いたくじに書かれた枚数だけ貰える。500円)。
例えばアクリル絵具などは普通に買っても1本200円~500円するので、どう取ったって損はしないようになっているらしい。
つかみ取りと聞いた時は縁日などで子供が群がってるイメージだったのだが、このつかみ取りは大人が本気で箱に手を突っ込み、ガッサガサ掻き回している。順番待ちの列も出来てるし。
アクリル絵具つかみ取りは、ビン。
アクリル絵具つかみ取りは、ビン。
学生らしき方が筆を手に「おおー、新記録!」とかガッツポーズしていたり、そこそこお年を召した上品そうなご婦人が「だめよ、アタクシもう一回並ぶわ」など言いながら結構な量のマーカーを握っていたり。あちこちから勢いの良い声が聞こえてくる。
正直、このイベントを取材したいと思ったきっかけは「へえ、画材のつかみ取りだって。そんなのもあるんだねえ」ぐらいのユルい感じで考えていたが、侮っていた。これは本気の催しだったのか、画材つかみ取り。
だらっしゃオラー!(かけ声)
だらっしゃオラー!(かけ声)
もっと正直に言うと、「絵具のつかみ取りって、ちゃんとチューブに入ってるやつかなあ。なんか液体を直接ねちゃっと掴むのだったらイヤだなあ」ぐらいのことまで考えていた。本当に申し訳ない。
アクリル絵具ゲット。
アクリル絵具ゲット。
絵具、手早く5本ゲットである。
300円の投資でいきなり2000円近い儲けが出てしまった。あー、これはテンション上がるわー。

僕自身は絵を描かないので画材をつかみ取っても仕方ないのだが、友人にはイラスト仕事や漫画を描いてる人もいるので、プレゼントすれば喜んでもらえるだろう。

一番人気は1000円の筆つかみ取り。
一番人気は1000円の筆つかみ取り。
続けて、一番行列が長かった筆のつかみ取りに挑戦してみた。
1000円という参加料はちょっと高いような気もするが、こちらは果たしてどんなものであろうか。
筆に混じる冷感スプレー。
筆に混じる冷感スプレー。
「500円の方は少し安めの筆とか冷感スプレーとか入ってるんですが、1000円の方は1本1000円以上の筆が入ってるんですよ。すごいお得です」

なんで冷感スプレー(吹き付けると涼しくなるやつ)が入っているのかというと、単にホルベインさんで仕入れて、ちょっと余った在庫品ということだ。まあ、もう冬だし必要ないか。
【豆知識】ホルベインは画材の他に冷感スプレーも取り扱っている。

見ていると、500円のつかみ取りをしている最中の人が「あ、これスプレーだ。さっき取っちゃったから要らないよー」と言っていた。筆よりあきらかに太いので、手触りでバレバレらしい。
「イボの方を使われると大量に取れちゃうので、裏側で…」
「イボの方を使われると大量に取れちゃうので、裏側で…」
お得と言われれば、そりゃあ1000円に挑戦してみたいだろう。
筆のつかみ取りには、細い筆の軸などが手に刺さってケガをしないように、念のため軍手を着用することになっている。
ただ、たまたま軍手がゴムのイボ付きしかなかったので、裏向け着用でお願いしますとのことだった。「たまたま準備した軍手がイボ付きだったから」という辺り、手作り感たっぷりというか、素朴でいい。
うぉらっしゃドリャゴアー!(かけ声)
うぉらっしゃドリャゴアー!(かけ声)
手を1000円箱に突っ込んで掻き回す。確かにスプレー缶らしき太さは無い。全部筆っぽい細さである。
筆の善し悪しは良く分からないが、やる以上はできるだけ高額の筆をゲットしたいのがいじましくも人情であろう。高そうなの、高そうなの、と呟きながら引き抜いた。
「マジすかー…」
「マジすかー…」
引き抜いた筆を「ひーふーみー…」と確認しているホルベインの方の表情がみるみる曇っていく。これはもしかして、結構な高額記録が出たのではないか。
「…余裕で一万円以上出ちゃいましたねー」
1本1000円の筆を中心に10数本ごっそりと引き抜いてしまったらしい。
いやもうそれは申し訳ないが、挑戦した側としては達成感半端ない。いやー、掴んだ掴んだ。

ちなみに担当していただいたこちらの方、筆を確認している最中にとてもいい表情で「ギャー」と叫んで下さったのだが、こちらがその写真を取り損ねたのを察すると「あ、じゃあもう一回やりましょうか?」と自分から表情を作ってくださった。
「ギャー(2回目)」
「ギャー(2回目)」

『エンジョイペインティングフェア』は、昨年から東京・関西で開催されている。
来年は今のところ未定だそうだが、行ってみたい方はホルベインさんのホームページで情報を確認してください。
社員さんが皆さんすごいサービス精神と画材知識の持ち主なので、話を聞くだけでもめちゃくちゃ面白いです。

ホルベイン画材ホームページ
ホルベイン工業ホームページ
会場ではこんなのもアウトレットで売ってる。足。
会場ではこんなのもアウトレットで売ってる。足。
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