あれはランプではなくやかんじゃないのか
前から気になっていたのは、アラジンのランプだ。
子供の頃に絵本で見て、誰もが一度は「これ、やかんじゃないの?」と大人にたずねたことだろう。
大人はみんな「これはやかんじゃない、ランプだよ」と答えていたが、かなりのところ、これはやかんだと思う。大人たちだって、その前の大人たちに「ランプだよ」と教わったからランプだと言っているだけだ。
「そうだね、やかんでもランプになるんだよ」
僕はそう言い切るために、ランプを作ることにした。
アルミのやかんで。
さて燃やす油だが、先日博物館で聞いたところ、室町時代とかでは普通にサラダ油のような植物油を灯用の油として利用していたらしい。
じゃあ、この間てんぷらを作った余りでいけるだろう。
できた。
びっくりするぐらい普通にできた。芯は細長く丸めたティッシュだ。
最初はむしろ調子よすぎるぐらいに燃え盛るが、次第にほどよいろうそく程度の火に落ち着く。
創意工夫のしどころがまるでない。
100%のランプがここに完成した。
ものすごく安定して燃える。サラダ油に隠された想定外の性能。
蓮如上人は油を燃やして勉強した。
さて、油を燃やすと言えば一つ思い出すシーンがある。
むかし読んだ歴史伝記マンガで、蓮如上人が若い頃に油を燃やして勉強していたら、高くてもったいないから暗くても炭を使えと母親に叱咤されるシーンがあった。
それ以来、油って明るくてぜいたくなんだ、油を燃やして夜に本を読みたい、と長年思っていたのだが、やかんランプのおかげで夢が叶えられる。
ちょっとデスクで試してみた。
半径50センチ以内なら、読めなくはない。
しかし途方も無く読みづらい。
近いところと遠いところで明るさの違いがものすごく、全部近づけて読もうとすると本が燃えそうになる。
近い距離。本燃えそうだし10ページぐらいで目が超絶に痛くなる。
蓮如、これより暗い光で勉強したと思うと根性がすごい。
そりゃ浄土真宗も再興する。
やかんランプ、森に出る
さて、ここまで3時間ほど燃焼させて油はどれくらい減っただろうか。
減った油はたった12gだ。1時間に4gしか減らない。なんとすぐれたパフォーマンスだろう。このやかんにある油であと丸6日以上燃え続ける。
中国で肥満の武将が殺された後、腹に芯をさして燃やしたら七日七晩燃え続けたという逸話を聞いたことがあるが、たぶん本気でやったら、七日どころじゃなく燃える。
恐るべきやかんランプの実力!
というわけでやかんランプの能力を計るため最後に実地訓練に向かいたい。
家の近くに小さな森がある。街灯も無い。真っ暗だ。
そこを、このランプの灯りで通り抜けられたら合格だ。
屋外にて、気炎を吐くやかんランプ。(ギャグ)
思ったよりランプは風に強く、むしろ火は勢いを増して森に着いた。さて、やかんランプの灯りでどこまで行けたか。写真でお見せしよう。
森の真ん中で、あたりを照らすやかんランプ。
真剣にやっている。
カメラの設定を最大に上げて撮影しているが、何も写らない。僕は本当に森の中にいる。
こんな森。森ボーイと呼んでほしい。
道も、かろうじて足元が見えるのみで、不安この上ない。しかしそれも写らないので伝えようがない。
この企画を伝えたら編集部に「撮影、大丈夫ですか?」と心配されたが、悲しくもその不安が的中した。
あ、シダ植物があった。
足元の雑草だけなら何とか写せるが、ここまで近づくと枯草に引火しそうで怖い。
知らない人が今の僕を見たら、確実に森に放火しようとしている不審人物だ。
もしくは火のついたやかんしか見えなくて、新手の妖怪と思われるかもしれない。動画でもあげておけば、次の妖怪図鑑に記載されるだろうか。
心に引っかかっていた「アラジンのランプ=やかん」の件には、それ相応の結論が得られた気がするが、森の闇には全く対処できなかった。
しかもこれが山道だったら不安定で油もこぼれるだろうし、液体では携帯や保管もしにくい。
そんな時のために、液体ではなく固体の油が照明に使えるよう、油を細長く固め、中に芯を挿したものを発明し、世の中の役に立つようにしたい。