時代と疲労が、ゆでたまごを求めた
過労である。
帰るのが遅く、22時、23時、日付をまたぐときもある。
僕の最高の伴侶とも言えるスーパーの半額刺身も、とっくに売り切れた時間で、立ち寄る場所はコンビニしかない。
光の射す方へ。
太りやすくなった。
30代も後半に差し掛かり、ちょっと気を抜くと、めきめき太る。
乾燥ワカメもかくや、という体積増加である。
太ると背骨が痛むので、無意識に椅子の背もたれのカドでごりごりマッサージをしてしまう。
これを後輩女子に「猫のマーキングですか」と指摘され、恥ずかしさで悶える思いであった。
ほぼこんな感じで背中を擦り付けている。情けない。
なので帰りにラーメン食べない。牛丼も食べない。「ペヤング超大盛」の誘惑にも打ち勝つ。
コンビニでなるべくカロリーが少ない、心が満たされる、体にやさしい食べ物を探す。
そのとき僕は味付き半熟ゆでたまごと出会った。
それは想定もしていなかったクリーミー
ビールのお供に、なにか、おいしくて滋養のあるものを少し、とコンビニでゆで卵など初めて買ったのだが、これが驚いた。
すごいうまい。
すごいすごいものすごい、うまい。
なんで塩味ついてるの！？しかも中はとろっと絶妙クリーミーだし！
ひとくち食べるごとに、たまごの甘味、黄身の濃い味、白身のやわらかさが、高級西洋料理のクリームのように広がって、23時に帰宅した体へ浸みわたっていく。
ああ、今日一日がまぼろしのようだ……
天然ビタミンの摂取もばっちり、タンパク質もOK、カロリー・脂質も問題なし！
すごい、すごいぜ、味付け半熟ゆでたまご！ こんな完全食品がコンビニで売っていたのか。
ビールとコイツで、明日も頑張れるかな……！
奇遇にも僕の帰り道には、コンビニ大手３社が軒をそろえる。
僕は今日も迷う。ローソン、セブン、ファミマ、今日はどこのゆでたまごにしようか。
こうして残業帰りの僕に、半額刺身に代わる新たな楽しみが生まれたのだ。
徹底比較、３つの味付き半熟ゆで卵
最初に出てきたセブンイレブンのゆで卵は、最もバランスが取れている。
黄身のゆで具合は中ぐらい、とろりとほっこりの間ぐらいでぴたりと押さえてある。さすが最大手だ。
１個68円。２個136円という特にお買い得でもないパックもある
一方、ファミマのゆでたまごは白身も黄身もやわらかくて、中央のレア感が強い。
黄身のふちの部分はしっかり固ゆで、中央は半熟。
ほかにはない黄身の食感の混ざり合いを楽しむことができ、これも優れた逸品となっている。
優雅にコーヒーのおともにも楽しみたい。
こちらも１個68円。扱ってない店舗もあるので注意。
それに対して、ローソンのゆでたまごは8円高い、76円だ。
1個76円！ ヱビスビールぐらいのほんのり高級感。
こちらは味付けににがりを使用しているということで、だしの甘味より、塩の深みで攻める味である。
３社の中で最も硬めの仕上り。黄身のゆで具合が均一化されているのもさすが。
こうして僕は毎日３社の中から、その日の体調と気持ちに合わせて厳選したゆでたまごを味わいつつ、今日一日のハードワークを思い返すのである。
全ての苦しみは、FAXから始まった
しかし僕は思うのだが、諸悪の根源はFAXなのではないだろうか。
電話の時代は、夕方つながらなかったら、「じゃあ今日は無理だな、飲み行くか！」ぐらいであきらめることも多かったのではないかと思う。
しかしFAXが発明されてから、複雑な書類もすぐに相手に伝わるようになり、深夜でも届くようになった。
発注などの効率は劇的に向上しただろう。
そして今や、メール、携帯、ノートPCの普及で効率化は際限が無い。
僕が万国の労働者を率いて、資本家層との闘争を繰り広げることがあれば、悪の根源としてFAXを徹底糾弾したい。
味付き半熟ゆでたまごは、ひっそりと確実にコンビニで扱われている。売り切れも無いし、販売期間が終了して落胆することも無い。
適齢期、女性が着実にそばにいてくれる男を選んで結婚していくように、ゆでたまごは確実に疲れた僕のそばにいてくれる。
同じポジションにいるなと思うのが、袋入り巻きトルティーヤいわゆる「セブンイレブンのブリトー」である。
こちらについてもひと語りあるのだが、今日はここらで筆をおき、残った残業へと戻ろうかと思う。
