匂いでどこか分かるのか
嗅覚はとても大切な機能である。動物を見ているとそれは顕著でまず匂いを嗅ぐ。人間はまず嗅ぐということはないが、部屋はもちろん車にも芳香剤を乗せたりする。匂いはとても大切な要素だ。
ちなみに匂いのせいで次のページでこうなります
映画「もののけ姫」では大きなイノシシが目が見えず、匂いを頼りに状況を把握する描写もある。
では、人間も視覚や聴覚が機能しなければ、匂いでその状況を把握できるのだろうか。冒頭にも書いたように街や場所にはそれぞれの匂いがある。匂いだけでどこか分かっても不思議ではないのだ。
と、編集部・安藤さんに言われました
上記のような話を当サイトの編集部・安藤さんに言われた。ということで、私は目隠しをして、耳栓をして、さらにヘッドフォンをつけて安藤さんに手をひかれ、辿り着いた場所がどこか当ててみたいと思う。ちなみにではあるが、これは私を騙す前フリだった。長い前フリだ。
手前が安藤さんで奥が私です
空間を広く感じる
目隠しをした瞬間に当たり前だけれど、周りの状況が分からず不安になる。音から状況を知りたいが、ヘッドフォンをしており、聞こえてくるのは聞くだけで英語が話せるようになる英語のテープ。知ることができるのは英語でのステーキの頼み方だけだ。
電車に乗ってるな、くらいしか分からない
電車に乗せられるが見えないので不安である。降りて歩き出しても自分がどこを歩いているのか分からないので不安。一方で空間を広く感じる。常識的に考えて歩道を歩いていると思うが壁やガードレールを認識できないので体育館を歩いているような感覚に陥る。
駅を出たらヘッドフォンを外した
そして匂いに敏感になる。マクドナルドの匂いだ、ということは駅前だな、とか、ドブっぽい匂いがするということは川が近くに流れているんだな、と普段は匂いで判断しないことも匂いで判断できるのだ。匂いはすごい。
不意にいい匂いがする
特に何も聞かされず、これが本当の企画だと思っていたのでマジメに匂いを頼りにここがどこかを判断していた。
不意にいい匂いがして、何なのだろうと思っていたが、その匂いこそがこの企画の本題。しかし目隠しでよく分からないので、「すごくいい匂いします!」と嬉々として答えていた。
この匂いこそが次のページの騙しにつながる。いま思えばこの頃は平和だった。
そして連れてこられた場所!
動物の匂いがした。今はヘッドフォンを外しているので「モー」という動物の鳴き声もする。以上からここが牧場と分かる。
「牧場」と私が答えると、「正解です」と安藤さんが言い、目隠しを外した。目の前にいる牛。視覚が機能せずともどこかは意外と分かるものらしい。
牧場でした!
ケバブの上野
再び目隠しをして次に場所へと向かう。匂いだけが頼りであるが、匂いが薄い場所ではなんの手がかりも無くとても心配になる。たまにさっきと同じいい匂いがする。これが非常に安心した気持ちに導いてくれる。匂いには癒しの効果もあるのだ。なんていい匂いなのだろう。でも、なぜこの匂いがするのか目隠し越しでは分からない。
答えは芳香剤(詳しくは後述)である
次は上野のアメ横だった。これは非常に分かりやすい。海鮮の匂い、果物の匂い、ケバブの匂いが立ちこめる。人も多くよくぶつかる。こんなにいろいろな匂いがある場所はあまり無い。匂いだけでも人は知っている場所なら判断できるようだ。
嗅覚だけで上野と分かる!
自信を持って安藤さんに「上野」と言う。正解です、と安藤さんは答える。「すごいですね」と褒められて嬉しい。
そして、この取材はラクだなと思う。視覚、聴覚がない私を心配して安藤さんが階段などではおんぶまでしてくれている。高待遇。
私は手を引かれるままに歩けばいいのだ。そして匂いで場所を当てればいい。ラクな仕事である。
次の場所に向かいます(ここからが本番です!)
ラクじゃなかった!
上野から新宿に移動してまた目隠しとヘッドフォンを装着する。「次がラストです」と安藤さんが言う。彼の声は明るい。日は暮れはじめている。「夕方には終わります」と聞いていたので薄着の私は若干寒い。
バスに乗る
バスに乗ったくらいは視覚、聴覚がなくとも分かる。どこに向かうか緊張の時間ではあるが、乗車時間が今までに比べると長く眠ってしまった。目隠しと英語のテープは眠るには最適なのだ。
そして気がついたら目的地。今までのような手がかりとなる匂いはない。どこなのだろう。後で写真を見たら心配な私をよそに、安藤さんが嬉々としていた。憎たらしい笑顔である。
安藤さんが嬉々としている!
ヘッドフォンをはずされ、「どこでしょう?」と言う安藤さんの声が笑っている。先述の通り手がかりとなる匂いはないし、音も安藤さんの笑い声以外特にヒントとなるものはない。
また例のいい匂いがした(嗅がされた)がヒントにはならない。いや、実際は大ヒントなのだけれど、何も知らない私には分かるはずがない。
分かるのは安藤さんが笑っていることと、手渡された何かがパスポートなこと。触った瞬間にパスポートと分かった。
パスポートだ! その瞬間に成田空港と分かった
現実を認めたくないので笑ってしまう。思い当たる節があるのだ。私のパスポートはしばらく前から安藤さん預かりになっている。このためか、と思う。「目隠し外していいですよ」と言う安藤さんの声がやっぱり笑っている。目隠しを外してもやっぱり笑っていた。改めて正解を見て驚く。やっぱり成田だ!
マジで! という顔
騙されてフランス
「フランスに行きます」と安藤さんが言う。「はぁ?」と私は答える。夕方には撮影が終わると聞いていたが、彼は「今日の夕方とは言っていない」と続けた。撮り直しがあると思うので1週間スケジュールを空けといてください、と事前に言われていた意味がいま分かった。だってフランスだ。
まんまと騙された自分が憎い
初めて説明を受ける。カーメイトから新しい車の芳香剤「
Sai.mignon(サイ ミニヨン)」が登場した。よく嗅がされていたいい匂いのやつのことだ。そのデザインがフランスの会社で、香料もフランスの会社がプロデュースしているらしい。
これです
だからフランスの匂いを嗅ぎに行こうと思います、と彼は言う。今すごい飛躍があった、と思うが手元には航空券がある。日中からヒント出してたでしょう、と言われるが分かるはずが無い。電車や牧場で嗅がされ、「いい匂い」と言っていたが、今となっては若干鼻につく。
何も知らずにこれからフランスが結びつくはずがない
彼は満足げに「準備大変でした」と言う。いや、言ってくれれば手伝うから。その日帰るつもりの人間がフラッとフランスに行くことなんて普通ないのだ。フランス寒いらしいですよ、と安藤さんが言う。事前に言って欲しい。何の準備もしていない。
安藤さんは満足げ
本当にフランスへ
リュックを背負っているので荷物があるように見える。でも、カメラとパソコンしか入っていない。長袖を着ているので寒くないように見える。ただフランスは10℃なのでこの格好では確実に寒い。それらが写真では分かりにくい。同じ騙されるなら半袖で手ぶらがいい。そもそも騙さないで欲しいけど1000歩譲ったご提案だ。
父に電話した
飛行機に乗る前に父に「フランスに行く」と電話をした。父は「はぁ?」と言っていた。私と同じリアクション。それは親子だからではない。誰もがそうなのだ。編集部の方と一緒に行くと伝えると息子をよろしくと伝えてくれと言われた。でもね、父さん、その人に騙されたから、あなたは「はぁ?」って言ったのだよ。
騙した人は乗ったとたんに寝ていた
安藤さんは「大丈夫、僕も何にも調べてないから条件は一緒です」と言う。彼は何を言っているのだろう。
全部調べておいて初めて「大丈夫」で、条件を揃える必要はないのだ。なぜ騙す方と騙される方の条件が一緒なのだ。心配になるでしょ。乗ったら調べます、と言いながら彼は乗ったとたんに寝たよ。牧場の頃が懐かしい。
ちなみに私の機嫌は機内食で直る、安い!
アブダビからフランス
飛行機はフランスに向かうツアーのお客さんと一緒だった。その方たちに話を聞けばフランスは寒いと言う。北海道くらいの寒さよ、と言い、この格好では寒いですか、と聞けば「ええ」と綺麗な返事をいただいた。フランスはやっぱり寒いのだ。
アブダビは暑くて半袖で十分だった
アブダビで飛行機を乗り換えフランスに向かうのだが、時間があったのでアブダビの街に出た。そのアブダビは暑かった。袖が邪魔で腕まくりしている。ここがゴールでいいのではないだろうか。もう全く「Sai.mignon(サイ ミニヨン)」とは関係ない場所だが寒くないのでゴールでいいと思うのだ。
しかし、アブダビでフランス行きの飛行機に乗り換え、
フランスに!(日本を発って24時間)
寒いな、安藤ちゃん、これは本気で寒いな!
怒りの矛先
到着したシャルルドゴール空港はその名前の響き通りオシャレなところだった。人はフラっとフランスに来れるんだと驚いたが、一歩空港の外に出たとたんにフラッと来る場所じゃないと分かった。寒いのだ。周りの人はモコモコの服を着ている。
寒い!
この寒さに騙した安藤さんにも腹が立つが、その安藤さんも寒そうにしている。安藤さんは厚着でいいのに薄着。震えでシャッターを押せない場面もあった。騙したのに平等。
そうなると矛先は「Sai.mignon(サイ ミニヨン)」である。彼がフランスなばっかりに寒いのだ。ハワイ生まれならいいのに。
寒い原因!
バスに乗り込みとりあえずは凱旋門を目指す。やはりフランスと言えば凱旋門である。流れる街並を見ながら、オシャレだな、とつくづく思う。近代的な建物より歴史を感じる建物が圧倒的に多い。その結果、オシャレなのだ。女子大生がフランス旅行に行く意味が初めて分かった。
到着! デカいよ!
知ってるよ!
凱旋門は圧倒的な大きさだった。大きいは素晴らしいと素直に思う。震えながらそう思っていたら「ということで」と安藤さんが目隠しを私に渡す。どこか分かっていますよ、と言ったが無理矢理つけられる。そして「ここはどこでしょう?」と安藤さんが言う。夢かな、と思う。
絵は豪華
「フランス」と私が言う。「正解」と安藤さんが答える。いま世界一無駄なやり取りがあった。知っているのだ。日本から24時間かけてやってきたのだ。
しかし凱旋門周辺はマクドナルドのポテトの匂いがして、匂いだけなら日本の駅前と変わらなかった。フランスはマクドナルドのポテトの匂いなのだ。
エッフェル塔に行く(ただいま7℃)
シャンゼリゼ通りを抜けてセーヌ川沿いのエッフェル塔に向かう。ただここに来て体はすっかり冷え、鼻の感覚はなくなり、鼻水が出始め、もう全く匂いを感じることができなくなっていた。しかし、安藤さんから目隠しを渡される。無駄なやり取り再びである。鼻も利かないのに。
また目隠しを渡される
言われるがままにつける
「ここはどこでしょう?」と安藤さん。「フランス」。「正解」。だから知っているのである。次はエッフェル塔に行きましょう、と提案したのは私である。そして鼻が利かないのでここがどんな匂いなのかもはや分からない。クレープ屋さんがあったりするのできっと甘い匂いなのだと思う。現地にいるのに予想だ。
とにかく寒い!
でも、楽しい!
寒いので今日はもう帰りましょう、となった。安藤さんが暖かい格好なら私をもっと連れ回して「なんでそんな格好で来るの」「騙したからでしょ」のようなやり取りがあったと思うが、なぜか騙した方も負けず劣らず寒いのだ。これがリアルである。どっちも騙された感じになっている。
何となくメリーゴーランドに乗る
ただオシャレをこよなく愛する私としてはパリを楽しみたいと思いメリーゴーランドに乗った。子供たちに混じり私も思わずはしゃいでしまった。私の心の奥底に眠るフランス魂が目覚めつつあるのだ。いま思えば「Sai.mignon(サイ ミニヨン)」をいい匂いと感じたのはオシャレなフランスを愛する私だからかもしれない。
楽しい!
地主、パリジャンを目指す
ホテルの辿り着いたのはすっかり日も暮れたころだった。電車の中で安藤さんがガイドブックを開き「治安の悪いところらしいですよ」と言う。初めての有益な情報である。でも、せっかくなら治安のいいところがよかった。
治安の悪いところ
そんな場所だが服を買いに行こうとなった。寒いのだ。ただフランスは物価が高い。シャンゼリザ通りには高級ブランドのお店が建ち並び、そうでないお店でも服を見たら薄いシャツですら4500円はした。厚手のコートとなるとどんな値段になるのだろうか。
ここ安そうだわ!
パリではあちこちで蚤の市を開催していると知っていた。それは情報でしか知らなかったのでもっとオシャレだと思っていたのだけれど、こういう感じなのだと初めて知った。タバコの匂いと危険の匂いがする。「Sai.mignon(サイ ミニヨン)」からは感じることのできない求めていないフランスがあった。
コートもあった!
リモコンやライターと同じ並びにコートもあった。行き交う言葉は完全にフランス語で何一つ分からない。英語で話しかけてもフランス語で戻ってくる。パリジャン御用達の蚤の市なのだろう。凱旋門やエッフェル塔ではたくさんいた観光客がここではゼロ。フランスも広い。
買いました!
オシャレの最先端を走るフランスに馴染むためにはこのような場所での買い物も重要だろう。だってフランスの住人しかいないのだ。ということはこここそフランスだ。
10ユーロと言われたコートを値切って6ユーロで買った。約900円。安い。実はフランスは安いのだ。その後、着替えを1ユーロ程で数枚買ってすっかり私はパリジャンとなった。
パリジャン!
私はパリジャン
ほぼフランス仕様となった私と、フランス生まれの「Sai.mignon(サイ ミニヨン)」、どちらからフランスをより感じることができるだろうか。フランスで購入したコートを着こなしている私を見て欲しい。いい勝負なのではないだろうか。
きっとオシャレ
コートのブランドは多くの人がきっと憧れている「jungkamp」である。私はファッションに疎いので全く聞いたことのないブランドだけれど、詳しい人は知っているのだろう。周りの誰もこんなコートを着ていないので最先端だと思われる。
パリのカップルとパリジャン
もっともこのコート、とても薄くではあるが豚骨スープのような匂いがする。これがフランスの匂いなのだろうか。しかし、今の私には 「Sai.mignon」がある。
寒さで忘れかけていたがフランスに来た最大の理由だ。彼を本来の使い方とは大きく異なるがポケットに入れると、豚骨の香りからフランスの香りを放 つ存在になれた。
車用の芳香剤の新しい使い道である。この匂いでコートが若干高級感を放ち出したと思う。服の価値は見かけだけでなく匂いも大切な要素なのだ。
ありがとう、「Sai.mignon(サイ ミニヨン)」。ちなみに三種類のデザインがあります!
これにより私とSai.mignon(サイ ミニヨン)は共にフランスだらけの存在になった。どちらを車に乗せたいだろうか。いい匂いがする「Sai.mignon(サイ ミニヨン)」と「jungkamp」を着こなす私。父に聞けば私を選ぶと思う。息子だから。
パリジャン!
パリジャン、パリジャン、パリジャンです
初めての敗北
オシャレの最先端であるフランスに馴染みたいという気持ちがあり、強がったが全然馴染まなかった。「Sai.mignon(サイ ミニヨン)」と競うところまでも行っていない。インド、タイ、中国では現地で買った服を着ればウォーリーを探せのように上手く馴染めたのにフランスでは浮いた。買ったばかりの風船並みに浮いた。
タイ
フランス
「Sai.mignon(サイ ミニヨン)」からはフランスの匂いがして、私からはどうしたって日本を含まないアジアの匂いがする。
だいたい「jungkamp」って何だろう。ネットで検索しても、Twitterで情報を求めても「jungkamp」については何も分からない。日本人観光客に話しかけたら避けられた。
一方、「Sai.mignon(サイ ミニヨン)」はフランス人にも大好評だった!
しかし私の心はフランスだ。オシャレをこよなく愛する私とフランスは相性がいいのだ。だから「Sai.mignon(サイ ミニヨン)」をいい匂いと感じたのだ。オシャレなフランス人も「Sai.mignon(サイ ミニヨン)」をいい匂いと褒めていた。つまり私はオシャレなのだ。隣の安藤さんもいい匂いと言っていたが、そう考えて生きていこうと思う。
楽しかったです!(セーヌ川沿いのカフェです!!)
心と匂いはフランス!
騙されて連れてこられたフランスだったけれど、意外にも困らないものだった。初日こそ寒かったが、その後はみんなの憧れと信じたい「jungkamp」で寒くない。
また何を見てもオシャレだ。そんなオシャレな街で暮らすオシャレなフランス人も「Sai.mignon(サイ ミニヨン)」をいい匂いと言っていた。ということは「Sai.mignon(サイ ミニヨン)」をいい匂いと思う私もまたオシャレなのだと思う。「jungkamp」についてはフランス人は皆スルーだったけれど。オシャレだと思って本気で買ったのに。
jungkamp < Sai.mignon(サイ ミニヨン)