安全靴にはイヤな記憶が
高校時代に自動車の整備工場でバイトをしたことがあった。で、そこでは爪先を鉄板など硬い板でカバーした、いわゆる安全靴というものを必ず履かねばならなかった。
安全靴。赤く塗った辺りに鉄板が入っている。
それさえ履いていれば足の上に鉄骨が落ちてこようが怪我をしないで済むという素晴らしい靴である。
ただ、僕に支給された靴は微妙にサイズが合わなかったのか、鉄板と靴の境目の部分が歩くたびに擦れて、半年ぐらい続く壮絶な靴擦れを足の甲という普通ありえない部分に作ってしまった。
とはいえ足の上に重い荷物を落としたら、靴擦れどころの騒ぎじゃない大怪我を負う可能性だってあるじゃないか。
安全靴、やっぱり履くべきか。
仕事用靴なのに紳士カジュアル。
「鉄芯」の芯を平仮名で書くとラーメン屋っぽい。福しんか。
単に「なんでもいいから安全靴ください」ぐらいの気軽さでホームセンターの安全靴売場に来てみたが、あまりのバラエティにドキドキした。こんなにあるのか安全靴。
カジュアルな安全靴や、軽くてはきやすいプロのワーカーのセーフティな靴とか。
フライングVはギター、ハイパーVは靴。
かかとが踏めて、しかも安全。そんな需要もある。
最近の安全靴が安全かつバラエティに富んでいるのは理解できたが、実際に試履させてもらうと、いきなりもう、うっすら足の甲が痛い。どんなに進化した安全靴でも靴擦れができそうな気がする。
実際に履きこんでみればまず問題無いのだろうが、それでも過去の靴擦れの記憶が購入に二の足を踏ませるのだ。靴だけに。(すごく言ってみたかった)
自分で痛くないのを作ろう
安全靴における今回の問題点は「靴の中に硬い板が入っており、その板の端の部分が足に当たるのが痛い」だ。
ならば話は簡単だ。硬くない安全靴、つまりソフト安全靴の開発で解決ではないか。
今こそ安全靴業界の古きパラダイムよ、変われ。
プチプチ長者。日本の貨幣単位がプチプチになればいいのに。
最初に書いた通り、現在、我が家は引越準備の真っ最中。ソフトに衝撃を吸収するための梱包材にはまったく事欠かない。
とりあえずキングオブ梱包材、プチプチのシートが4抱えほどある。これさえ靴に貼っておけば、足に荷物を落とした時の衝撃はおむね吸収してくれるはずだ。
プチプチを帯状に裂いて、
テープでつなぎ止めてロングプチプチ帯を作成。
ただひたすらに巻く。
あとは、普段から履き慣れた靴の爪先部分にグルグルとプチプチを巻き付けていくだけのシンプル工作プラン。
作業中、靴にグルグル巻くのがあまりにシンプルというかプリミティブすぎて、工作というよりもむしろお婆ちゃんの知恵袋とかおまじないに近いような感じに思えてきた。「乗り物酔いを防ぐにはヘソに梅干しを貼ればいいよ」みたいな。
「靴にプチプチを巻くと荷物を落としても足が痛くならない」という斬新なおまじない、果たして効くのか。
ソフト安全靴(バージョン1)
安全靴なのに、前半分がほぼギプス。
真上からビュー。荷物が落ちる前から大怪我してる。
実際に履いてみたシミュレーション的な真上からの写真も載せておくが、なおのこと怪我してるようにしか見えない。
とにかくテンションが下がること滝のごとしである。ドウドウと轟音を立てて落ちるテンション。辛い。
前回の引越しに使ったダンボールがまだ残ってたので、サンプルとして使用。
最初から辛がってばかりいてもしょうがないので実際に履いてみたのだが、見た目以上にいろいろと辛いことも判った。
まず、足が本格的に窮屈。いちおうプチプチを巻く前に靴紐を大幅にゆるめておいたのだが、それにしてもプチプチの形が崩れないように強めに巻いている。
靴紐を十重二十重に巻き付けたようなもので、爪先あたりは完全に血流ゼロ。なにより履くのが大変。
そして爪先だけ大きく盛ってあるので、重心が後ろにずれる。平地を歩いているのに坂道を登ってるような辛さ。
さて、もちろん「安全靴を作ってみた」という記事なので、安全性の確認は避けて通れない。
さすがに怪我するぐらいたっぷりと重量物を詰め込むわけにはいかないので、少し…というかそれなりの手加減をくわえた重量に調整した段ボールのカドを足の甲めがけて落としてみた…いや、落としたというか軽くポン、ぐらいの勢いで乗せた。
何度も言う。怪我をしたくはないのだ。
軽くポン。
硬いカバーで支えるわけではないので荷物の重量自体はダイレクトに足にかかってしまうが、カドが足に当たる衝撃はそこそこ吸収できているような気はする。痛くはない。むしろプチプチで締め付けてる方が痛いぐらいだ。
まあ落とす勢いや重量から大幅に手加減してるので、元より痛くならないようにはコントロールしてるけど。
ソフト安全靴(バージョン2)
正直な話、プチプチのソフト安全靴を作ってる途中で「こりゃアカン」ということには気付いていた。
完成する前から問題点はある程度把握できていたので、同時進行で別バージョンも作成していたのだ。
ソフト安全靴、バージョン2。
足の甲にゴムまりをくっつけた。あと靴が汚れててすいません。
・緩衝材を巻くことによる締め付け→巻かない。
・テンション下がるビジュアル→見た目ポップに。
・歩きにくい→ソールには緩衝材を付けない。
バージョン1の問題点はこの3点だろうと踏んで、事前に対策を立てたおいたのが、バージョン2とバージョン3だ。
申し訳ない。もうこの時点で言っておくが、バージョン2も作っている最中から問題点が丸見えだったので、バージョン3までは作ってある。
恐縮だが、ひとまずこのページの最後の方まではバージョン2の茶番にお付き合いいただければありがたい。別にそういうのは要らない、という方は飛ばして次のページに進んでもらっても大丈夫だ。
真上からビュー。見よこのポップさ。
さて、改めてバージョン2の改善点だが、靴紐と大きめのゴムまりを接続することで足の甲側を全面カバー。カラフルさと丸さ、ぽよぽよの手触りでテンションもアップ。ソールにじゃまな物は何も付けていないので歩きにくさも無し。
一体この靴のどこか問題点があるというのか。(数行後に明らかに)
履いた瞬間からテンション下がった。
何が問題かって、足上面全域をカバーするために採用した大型のゴムまりが、ぶっちゃけ大きすぎた。
歩くたびに足の甲で大きなゴムまりがぼんよよ、ぼんよよと弾むのだ。大きいゴムまり、歩くのに超じゃま。作ってる最中に「こんなの、じゃまだよなあ」と思っていたのが、案の定じゃまだ。
そして、足元でこんな丸いものに弾みまくられたらつい気を取られて常に視線が下を向いてしまう。これも危険な現場では大きな問題だ。ぜんぜん安全じゃない。
ゴムまり、防御力高いわー。
しかし肝心の「荷物から足を守能力」に関しては、バージョン1からはっきりと進化した。
荷物が足の上に落ちても、ゴムまりがぼよんと弾き返してしまうのだ。これは手加減無しでもかなりダメージコントロールできている。
あとは、歩きにくささえクリアできれば良いのでは無かろうか。
よし、今こそ出でよ真の改良型、バージョン3!
ソフト安全靴(バージョン3)
バージョン2の問題点と対応策はただ一つ。
・緩衝材のゴムまりが大きすぎて、じゃま→小さくする。
これなら非常にシンプルである。
というわけで追加で材料を準備した。
ゴムボールいっぱい。
ゴムまりを小さくするのはいいが、足をカバーできなくなっては安全ではない。
なに、サイズを小さくした分は数でフォローすれば良いのだ。足の上にいっぱいのゴムボール。想像しただけでポップだ。
引越準備真っ最中の部屋で僕は何を作っているのだろうか。
大量のゴムボールに、ナイロンのベルトを切ったものを片っ端からホットボンド(熱で溶ける樹脂接着剤)でべたべたと貼り付けるだけで下準備は完了。
あとはベルトに靴紐を通して靴に固定、というのをいくつかつなげていけば上手くいけるはずだ。
接着したナイロンベルトに靴紐を差し込む。
こんな感じ。これを次々に着けていけば完成。
超ポップ。超キュート。超安全(予定)。
ヤバい。安全靴なのにポップ過ぎる。勢いに任せてポップモンスターを作ってしまった。ポップのお化けだ。
真上からビュー。ボールが足の甲をちゃんとカバーしてる。
あと、先のゴムまりの防御力を体感したからか、ボールに対してすごく信頼感がある。
根拠は一切無いけど、これだけボールが付いてたら荷物落ちてもまあ平気だよねー、ぐらいの安心感。
ポップに浮かれてる。テンション超高い。
履くだけでとんでもない浮かれ気分になってしまう。カラフルで楽しいし、なにより歩いても邪魔にならないのがありがたい。
重量も、片足でボール6個分ずつ重くなっているはずなのに、あまりに見た目がポップ過ぎてむしろ軽くなっているようにすら感じてしまう。
このソフト安全靴バージョン3を履けば、みんな現場で足どり軽くスキップしながら作業できるんじゃないだろうか。
防御力も悪くないよ。
荷物を落としても大丈夫!
ゴムまりほどの跳ね返しは無いが、重量物が足に当たる衝撃はボールの弾力によってかなり緩和されている。痛くない。
もちろん、本物の安全靴は鉄骨とかそういう、普通に落ちてくるとケガじゃ済まない手加減無しの重量物にも耐えられるようになっているので、元から比較できるレベルのものでは無い。
しかしこの「履くだけで浮かれる気分」だけは、これまでの地味な安全靴ビジュアルに対して評価されても良いのではないか。
「ソフト安全靴」というイメージが相反する単語を思いついた、というだけで走り抜けた記事であったが、なんかバージョン3の予想以上のポップさに救われた思いである。
ところでバージョン2、歩きにくさはあるものの、履いてるだけでサッカーのリフティングがすごい上手な人に見えるというメリットがあった。
これから徐々に忘年会など宴席も増えてくるだろうが、隠し芸としても使える安全靴、という売り込みはできるかもしれない。楽しげに見えるし。