特集 2013年10月22日

ほぼお好み焼きを食べる

お好み焼きと、ほぼお好み焼き。
お好み焼きと、ほぼお好み焼き。
子供のころ、駄菓子のソースせんべいが「わりとお好み焼きだ」と思っていた。単にソースをかけただけでもなかなかにお好み焼きだったが、マヨネーズを一緒に塗るともう揺るぎなくお好み焼きだった。
数十年後の僕は、まだソースとマヨネーズをお好み焼きと感じるのだろうか。そして他の食べ物でもそういう感覚はあるだろうか。確かめてみた。子供味覚、アゲイン。
1973年京都生まれ。色物文具愛好家、文具ライター。小学生の頃、勉強も運動も見た目も普通の人間がクラスでちやほやされるにはどうすれば良いかを考え抜いた結果「面白い文具を自慢する」という結論に辿り着き、そのまま今に至る。(動画インタビュー)

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あの味を確認しておこう

ソースせんべいというのは、サクサクしたせんべいに付属のソースを塗って食べる駄菓子だ。
せんべいというか、小麦粉をきわめて薄く焼いた円盤で、手の湿気ですぐへなへなとなるぐらいに頼りない食い物だ。
右端がソースせんべい。
右端がソースせんべい。
いちおう当時の味を確認するために、駄菓子問屋でソースせんべいを買ってきた。
隣の梅ジャムせんべいは僕の地元には売ってなかったが、名前だけはこち亀か何かで見て知ってた。
付属のソースを塗った状態。これだけでもお好み焼きだ。
付属のソースを塗った状態。これだけでもお好み焼きだ。
ソースを塗ったらとにかく早く食べないと、ソースの水分を吸ってしなしなと折れ曲がってしまう。そうだそうだ、そういう頼りのない奴だった。

味は、なんというか、記憶にあるほどにはお好み焼きではなかったが、それでもまあ世の中をお好み焼きかそうでないかに二分したらお好み焼き側だろう、ぐらい。
せんべいがほんのり甘く、それがお好み焼き感を邪魔しているっぽい。こんな味だっけかなあ。頼りにならない上に邪魔までするか。

せんべいが邪魔をするなら、もういっそそんなものは要らないんじゃないか。
もしかして、上からかけるソースとかそれだけでいいんじゃないか。
その辺を実験してみよう。

もう、味だけでいい

以前に、コンビニでフランクフルトを買った時にもらったものの使わずに余らせたケチャップがある。
真ん中でパキッと折るとケチャップとマスタードが同時にかけられるようになる、あの入れ物。初めて見た時は「これ考えた人はもうノーベル賞もらったかなあ」と思ったぐらいスゴい発明だ。
ちなみに正式名称は「ディスペンパック」。アメリカで発明されたらしい。
ちなみに正式名称は「ディスペンパック」。アメリカで発明されたらしい。
それはさておき、フランクフルトの味の大部分はケチャップとマスタードなんじゃないか。
いや、それはいくらなんでも言い過ぎだろうが、それにしてもそこそこはいいところまで行くんじゃないか。
間違いなく美味いやつ。
間違いなく美味いやつ。
まず上の画像をじーっと見つめて脳にフランクフルトの感じを焼き付ける。
そしてすかさず口に運ぶのが、これだ。
ケチャップとマスタード串。
ケチャップとマスタード串。
ちょっと物足りないか。フランクフルトにしちゃ、な。
ちょっと物足りないか。フランクフルトにしちゃ、な。
驚いたのは、まず最初に感じたのが「これは100%フランクフルトじゃない」という全否定ではなく、「フランクフルトにしては物足りないなあ」という軽い寂しさだったこと。
いま、僕の脳はあきらかにこのケチャップとマスタードを塗りたくった串をフランクフルトのローカロリーな1バリエーション、ぐらいに捉えている。
なんだこんなのでいいのか。脳、案外チョロいな。

甘辛いのもいけるか

串物が続くが、これはいけるんじゃないかという確信に近いのを持ってるやつがある。
どろっとしたタレが主張強い。
どろっとしたタレが主張強い。
どろっとした甘辛タレがとにかく自己主張する団子界の大師匠、みたらし団子だ。
実はタレこそがみたらし団子の本体であり、団子は所詮つけあわせに過ぎないのではないかという疑念もあるぐらいだ。
あのタレさえあれば、とにかくみたらし団子の体裁は整うはずだ。
見事なまでの食べ終わり感。
見事なまでの食べ終わり感。
改めて写真を見返したら、普通に「団子を食べ終わった後のお皿」でびっくりしたが、いまから団子部分抜きのタレだけを串でいただくのだ。ぺろりと。
物足りないけど美味いなー、みたらし団子。
物足りないけど美味いなー、みたらし団子。

タレは近所で評判の和菓子屋さんで買ってきたみたらし団子のタレ部分を流用した。つまり、タレだけでも美味い。
そして今回も感じたのは物足りなさ。団子としてはスカスカだけど、タレの自己主張で押し通せば団子カテゴリの範囲内には収められる。充分に団子だ。
脳、超チョロいわ。

いよいよお好み焼きを食べる

味さえそれっぽければ、脳はいとも簡単に騙せるということは理解できた。
ここで満を持してお好み焼きの登場である。
ソース。お皿にダイレクトに。
ソース。お皿にダイレクトに。
まずはお皿にソースをオン。
正直、なにもない空間にソースだけ注ぐのは度胸がいる。とにかく「いま自分はお好み焼きを調理しているのだ」と思い込まないとけっこう辛い。そして本当に僕は今お好み焼きを作っているのか。
イメージ図。
イメージ図。
この感じを想像しながら、皿ソースにマヨネーズや青海苔などを追加していく。
さあ、こんな感じになれ。こう思え、僕の脳。
これが僕のお好み焼きです。
これが僕のお好み焼きです。

見た目的には意外とアリのような気もする。
記号としてのソース、マヨネーズ、カツオ節、青海苔のお好み四天王がきちんと揃っているので、この時点でお好み焼きとしては間違っていない。香りもばっちりお好み焼きだ。
お好み焼き、いただきます。
お好み焼き、いただきます。
あー、お好み焼き美味いなー。ちょっと物足りないけど。
あー、お好み焼き美味いなー。ちょっと物足りないけど。
よし、脳、騙された。お好み焼きだコレ。ボリュームは足りないけど、ほぼお好み焼き。とくにカツオ節にソースとマヨネーズが絡んだところなんか見事にお好み焼きだ。
「お好み焼きゼロカロリー」とかそういう名前にしてしまえば、本場大阪でも充分に押し切れるはずである。
今後、夜中に急にお好み焼きが食べたくなった時は、これで行こうと思う。

今回の料理全般、食べながら、じんわりとわき上がる切ない気持ちをグッと飲み込むのがコツだ。むしろ切なさを味わいに感じるぐらいで丁度いい。愛しさと切なさとソースとマヨネーズとカツオ節と青海苔と、だ。良く分からないけど。
あと、駄菓子屋でソースせんべいと一緒に買ったみそカツは味噌の風味が全く感じられなかったので、脳はみそカツとして受け入れてはくれなかった。これはこれで美味しいけど。
みそカツ、味噌感は無いけどピリ辛で癖になる。
みそカツ、味噌感は無いけどピリ辛で癖になる。
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