特集 2013年10月8日

鉄板に鉄板ギャグを書く

電気で書きます。
電気で書きます。
知り合いの文房具屋さんから「電気ペンシルって知ってる?いまウチにあるんだけど書きに来ない?」というお誘いをいただいた。
書きに来ない?という誘い方も良く分からないが、それ以前に「電気ペンシル」というモノを知らない。なにその筆記具。というか本当に筆記具なのか。
そもそもペンシルに電気という組み合わせに疑問を抱きつつ、書きに行ってきた。
1973年京都生まれ。色物文具愛好家、文具ライター。小学生の頃、勉強も運動も見た目も普通の人間がクラスでちやほやされるにはどうすれば良いかを考え抜いた結果「面白い文具を自慢する」という結論に辿り着き、そのまま今に至る。(動画インタビュー)

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古文具屋で電気ペンシルに出会う

「電気ペンシル、書きに来ない?」と誘って下さったのは、武蔵小金井にある古文房具屋・中村文具店さんだ。
自宅を改装した店舗。営業は土日のみというエクストリーム系。
自宅を改装した店舗。営業は土日のみというエクストリーム系。
店内は明治から昭和にかけての古文具がギッシリ。
店内は明治から昭和にかけての古文具がギッシリ。
中村文具店さんはもともと武蔵小金井で三代続く古くからの地域密着型文房具屋さんなのだが、当代の店主がどうにも酔狂な人で、通常の業務とは別に、土日だけ限定で「骨董的な古い文房具」を扱うお店をオープンしているのだ。
三代目店主の古文具マスター・中村さん。
三代目店主の古文具マスター・中村さん。
中村さんとは数年前からの文房具友達としてお付き合いがあり、古文具の仕入れで僕好みの珍品文具があったら連絡をくれたりする、ありがたい人だ。
今回の電気ペンシルも仕入れ中に見つけ、面白そうだということで買い取ってきたそうだ。
これから電気ペンシル漫画家になっていただく栗原まもる先生。
これから電気ペンシル漫画家になっていただく栗原まもる先生。
あと、今回は同じく文房具関連のお友達であり、中村文具店のご近所さんでもある少女漫画家の栗原まもる先生にもお声がけした。
何か書くための道具なら、プロに使ってもらった方がクオリティが上がるのではないかといういやらしい算段である。

電気ペンシルを使ってみよう

面子が揃ったところで中村さんが「じゃ早速使ってみましょうか」と出してくれたのが、箱だ。
箱。電気ペンシルA型。
箱。電気ペンシルA型。
「電気ペンシル」という名称から、ドラえもんの秘密道具ライクな、鉛筆に何か機械部品的なパーツがくっついた的なものを予想していたのだが、いきなり予想を分厚くハズして、箱が出てきた。しかもでかい。少なくとも筆記具のサイズではない。
とはいえ秘密道具感は、ある。
とはいえ秘密道具感は、ある。
箱から出したところ、こんな内容だった。
ダイヤルのついた箱と、半田ごてっぽいもの、そして鉄板。これが三点そろって電気ペンシルということらしい。

…というところまでスッとぼけてきたが、もちろん記事を書くにあたってここまで何も知らないままで取材に望むことというのは、そんなにない(そういうのも無くはない)。もちろん「電気ペンシルがどういうものか」ぐらいは調べている。

電気ペンシルというのは、金属に文字などを書き込むための筆記具なのだ。
中村さんは古文具屋さんなので骨董ルートで仕入れたということだが、実際は今でも生産販売されている現行商品である。
説明書にも「金属のマーキングに」と書いてある。
説明書にも「金属のマーキングに」と書いてある。
文系が考える、いかにも「電気」な四角い機械。
文系が考える、いかにも「電気」な四角い機械。
いかにも工具なゴツい見た目なのに、ダイヤルには「ペン先」と「下敷」の文字。文房具だ。

このゴツい箱から電源を取って、ペン先(電極)と鉄の下敷きにつなぐ。下敷きの上に金属板などを置いてペン先をくっつけると電気が流れ、その部分がスパークして焼けることで字などが書けるという仕組みらしい。
こんな感じになるらしい(イメージ)
こんな感じになるらしい(イメージ)
スパークして金属が焼ける、とかいうと何やら恐ろしい工具のように聞こえるが、実際のところは数ボルト程度の電圧なので、普通に使う限りはビリビリ感電するとかそういう話ではない、とのこと。
セッティングする中村さんと、なんとなく離れて見ている栗原先生。
セッティングする中村さんと、なんとなく離れて見ている栗原先生。
アースもちゃんととります。怖いし。
アースもちゃんととります。怖いし。
さて、準備もできたし、書いてみようか。、鉄板に電気で。
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鉄板に電気で書くの、面白い

今から電気スパークります。
今から電気スパークります。
普通の生活において電気スパークとか起こすこともまず無いので、そこそこビビッて絶縁用にゴム手袋なんか装着してみた。なんか手術前みたいな見た目だが、やるのは鉄板にスパークだ。
ちなみに手袋は、スパークで発生した熱のせいで手が汗まみれになってしまったので、使い始め1分で脱いでしまった。
じゃ、書きます。スパーク!(必殺技っぽく)
じゃ、書きます。スパーク!(必殺技っぽく)
おっかなびっくりペン先を鉄板に押し付けると、鉄板の表面からバババッと線香花火のような火花があがり、黒く変わっていく。ゆっくりペンを動かすと線もちゃんと引ける。おおー。
書けてる!
書けてる!
黒い線を引いているというよりは、鉄板の表面を細かく彫っている感じ。すばやく動かすと電気を通しきれないのか線がかすれたように途切れる。ゆっくりじわじわとスパークさせながらペン先を動かすのがポイントのようだ。

やっていると、「火花がバシバシ上がって、線が引ける」というのが面白いのだ。とにかく派手すぎて笑える。
あたりまえだが、ボールペンや鉛筆で紙に書いても火花は上がらない。もちろんそれが普通なのだろうが、いちど電気ペンシルで鉄板にスパークさせて書き込んでしまうと物足りない。
いちおう今回は取材ということでボールペンでメモを取りながら作業していたのだが、火花が上がらず地味なので、すぐに飽きてしまった(なので今回の記事はほぼ記憶頼りで書いている)。
今思えば、鉄板に電気ペンシルでメモを取ればよかったのか。

電気ペンシルの使い道を考える

電気ペンシル、ひとまずちゃんと書けるということは確認できたので、ここからは応用タイムだ。
各自でいろいろと使い道を考えてみようということになった。
中村さんはスパナに名入れ。超火花飛んでる。
中村さんはスパナに名入れ。超火花飛んでる。
ガッツリと彫り込まれた「ナカムラ」の文字。
ガッツリと彫り込まれた「ナカムラ」の文字。
溶接材に直接、サイズや作業指示などを書き込むのが電気ペンシルの主な用途なのだが、現場ではこのように自分の工具に名入れするのにも使っているらしい。
電気ペンシルの無骨な筆跡が、なかなかにプロツールっぽい。
一番ビビッていた栗原先生も挑戦。
一番ビビッていた栗原先生も挑戦。
火花飛びまくり。テンションあがる。
火花飛びまくり。テンションあがる。
栗原先生は何を描くんだろうと思ったら、鉄板に集注線を描き込んでいた。
これは「さすがは漫画家さん」というべきなんだろうか。これがプロの魂というやつなんだろうか。他に描くものはなかったんですか、先生。
下敷きに収まらないサイズの鉄板は、端子を直結すればOK。
下敷きに収まらないサイズの鉄板は、端子を直結すればOK。
さて、僕はと言うと、電気ペンシルが鉄板に文字を書き込むことができる道具だと知った瞬間からやりたかったことがあるのだ。
鉄板に、鉄板ギャグを書き込むのだ。
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鉄板に鉄板(に関する)ギャグ

鉄板に鉄板に関するギャグを書き込めば、それはもう揺るぎなく本物の、どこに出しても馬鹿受け間違い無しの鉄板ギャグなんじゃないだろうか。
「砂に書いたラブレター」とかそういうワードの真逆にある、筋の通った頑強さの象徴と言えよう。鉄板に書いた鉄板ギャグ。

で、先だって『コンピューターにダジャレを教える』という記事を書かれたデイリー編集部石川さんに「あのプログラムで鉄板に関するダジャレを生成してください」とお願いして、「鉄板銅板アルミ板」「冷間圧延鋼板」などいくつか鉄板に関するワードを託してみた。
なぜプログラムにお願いしたかというと、事前に「馬鹿受け間違いなしの鉄板ギャグ」とかハードルを上げておきながら自分の考えたギャグで受けないと恥ずかしいから。こういう、人間には難しい極所での作業こそ機械に任せるべきだろう。
石川さんから送り返してもらった鉄板ギャグ(プログラム生成)
石川さんから送り返してもらった鉄板ギャグ(プログラム生成)
お願いして数時間のうちに送られてきた、ざっと100種類の鉄板ギャグ群。さすが機械の力はすさまじいと実感した。
あと、石川さんすいません。ここでお詫びをするのもなんなんですが、送っていただいた鉄板ギャグ、使いませんでした。
プログラムと元ワードの相性というのもあるのだろう、なんというか、えー、ちょっと使いどころが難しかった。
ダジャレプログラムと鉄板はあまり上手くいかなかったみたいだ。

とは言え、自分で鉄板ギャグを作るのはやはりイヤである。
そこでプランB。鉄工所で働いている友人に「鉄に関する業界定番のギャグ」を電話で聞いてみた。
そんなものがあるのかどうか危険な掛けではあったが、どうやら鉄業界の定番ギャグは存在するらしい。「俺が考えたんじゃないから」と言い渋る友人を説き伏せて聞き出した定番の鉄ギャグ、ご覧いただこう。
鉄板ギャグだから、受けるはず。信じて書く。
鉄板ギャグだから、受けるはず。信じて書く。
「おは溶接。」
「おは溶接。」
鉄工業界における定番挨拶、ということなんだろうか。
おは溶接。何度も口中で噛んで味わいたくなる語感だ。鉄の冷たい硬さを柔らかく丸め込んだような優しい挨拶ではないか。
笑顔が若干ヤケ気味にも感じる。おは溶接。
笑顔が若干ヤケ気味にも感じる。おは溶接。
これなら誰が聞いても間違いなく笑顔になれる、まさに鉄板オブ鉄板ギャグだろう。
恥ずかしがらずに皆さんも使っていただいて良いと思う。だってハズレない鉄板ギャグだもの。鉄板に書いてあるんだから間違いない。

日本初か、鉄板漫画家

ところで筆記具の用途といえば字を書くだけではない。電気ペンシル、絵だって描けるはずだ。
あらためて栗原先生、お願いします。
栗原先生、執筆中。
栗原先生、執筆中。
電気ペンシルにもすっかり慣れてきて、鉄板に向かう姿にも違和感がない。「原稿用紙、なんかいつもより硬いなー」ぐらいのものではないだろうか。
ざっと検索をかけてみたが、少なくとも日本国内で鉄板に漫画を描いた例は無さそう(鉄板焼きをテーマにした料理漫画はあったが)なので、栗原先生は日本初の鉄板漫画家を名乗っていただいても大丈夫そうだ。
枠線も引ける。
枠線も引ける。
フキダシにはあの鉄板ギャグも。
フキダシにはあの鉄板ギャグも。
集中されています。
集中されています。
「…うーん、電気ペンシルで連載とかは無理ねぇ」
「え、やっぱり描きづらいですか」
「っていうかペン先をゆっくりとしか動かせないから、時間が足りない」

能書 筆を選ばず、とは言うが、さすがに鉄板に焼き込む速度まではどうにもならないか。
これが上手く行くようなら、栗原先生を鉄板漫画家として売り込むべく出版社に営業をかけるつもりだったのだが、機械の方の技術的ブレイクスルーが無い限り難しそうだ。
でも、ちゃんとベタも塗れる。
でも、ちゃんとベタも塗れる。
火花飛び散るカケアミ作業。
火花飛び散るカケアミ作業。
そして執筆時間10分強。
できあがった「鉄板の一コマ」が、こちらだ。
おは溶接。
おは溶接。
なんか普通にちゃんと描け過ぎていて、わざわざ鉄板にスパークで描いたとかそういう苦労要素が感じられないのがすごい。というかわずかな時間で背景にカケアミ(手で描くスクリーントーンのようなもの。普通にペンでやっても面倒くさい作業)までいれてもらえるとは。漫画家のクオリティ、おそるべしだ。
栗原先生ありがとうございます。
栗原先生ありがとうございます。

今回、鉄板ギャグと鉄板1コマには0.5mmの薄い鉄板を使用したのだが、作業後に見たら、筆記跡がぐにゃっと反り曲がっていた。おそらく、スパークによる発熱でひずんでしまったのだろう。
電気ペンシル、やっぱり漫画を描く用にはむいていないのかもしれない。

熱でこれだけ反ってしまった。
熱でこれだけ反ってしまった。

ところで、今回ご協力いただいた栗原まもる先生が先日まで講談社Kiss誌で連載されていた『つぶつぶ生活』が、現在、続刊を描き上げるべくクラウドファンディングにて支援募集中です。ご興味がある方は、こちらから。
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