特集 2013年10月18日

いつも使っている商品に「ありがとう」を言う

ありがとう……この思いを伝えたい。
ありがとう……この思いを伝えたい。
「シェフを呼んでくれ」という文化があるらしい。

らしい、というのは自分ではやったことがないからなのだが、要するに作り手に「よかった、ありがとう」と伝えることらしい。

健やかな作法ではないか。僕もやってみたい。でも、レストランでそういうことをやるのは生意気すぎる。

そういえば商品のパッケージの裏には電話番号が書かれている。あれに電話をかけれて感想を伝えれば、同じようなことが自然にできるのでは?
1986年埼玉生まれ、埼玉育ち。大学ではコミュニケーション論を学ぶ。しかし社会に出るためのコミュニケーション力は養えず悲しむ。インドに行ったことがある。NHKのドラマに出たことがある(エキストラで)。(動画インタビュー)

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ありがとうを言うべきものはいくらでもある

さて、ありがとうを伝える相手だが、どれがどれだけお世話になっているか順番をつけることは「ありがとう」に相応しくない気がするので、目に入ってお世話になってそうなものにお礼を言っていこう。

「なにがいいかなー」と家の中を探し始めて、最初に目に入ったのはわさビーフだった。あまりポテトチップ系のスナック菓子は食べないが、わさビーフは例外でパクパク食べてしまうことがある。これ、ありがとう言っておきたいな。
親しみのあるお菓子のひとつだ。
親しみのあるお菓子のひとつだ。

わさビーフにありがとうを言う

フリーダイヤルにかけようとしたが、携帯電話からだとかけられないようだった。改めて普通の電話番号にかけてみる。

プルルル……。

『山芳製菓でございます』

男性の声が聞こえてきた。

「ええと……」

まず名乗ろうとしたが、自分のことを何と言ったらいいのだろう。名も無き消費者のつもりである。もっと考えてから電話をかければよかった。しかし電話であまり長考するのは難しい。電話は戦場だ。

「あの、久々にわさビーフを食べておいしかったんですけど、パッケージに商品の感想をお気軽にお寄せくださいと書いてあったので、そのおいしかったっていう感想を伝えようと思って……」

一息のうちにいろいろと長いことを言ってしまった。これで僕が「わさビーフをおいしいと思ってそれを報告しに電話をかけに来た男」だということはわかってもらえただろうか。

ちなみに冒頭の「久々に…」と言ったのは実はウソである。物語感を出そうとそういう設定にしてしまった。わさビーフをよく食べるか久々に食べるか、という世界一無駄なウソをついた。
お気軽に…ということが書いてある
お気軽に…ということが書いてある

引き際がよくわからなくなる

『ありがとうございます』
「おいしいと思って、ほんとにそれだけなんですけど」

『そういったご感想がいただけると、開発陣の励みにもなりますので』
開発陣! 僕の「おいしい」が開発陣に伝わってしまうのか。わさビーフにおけるシェフだ。電話した甲斐があった。

「……」
『……』
「あの、前食べたときよりおいしい気がするんですが、前と味が変わったりしてますか?」
時間にしたら0.2秒くらいだったと思うが、間があった。それが気まずくてつい質問をしてしまった。

しかも、味が違うなんて思っていない。つかなくてもいいウソパート2だ。でも、味が変わっているなんていうのはありそうなことだ。実際はどうなのだろう。
ありがとうと引き換えについたウソ
ありがとうと引き換えについたウソ
以前と味は違うのか? その答えはこうだった。

『基本的には作り方は変わっていません。しかし、お客様が食べた商品がコンビニで売られていたものだとしたら、コンビニの商品につかわれているわさびは長野のわさび農場で作られたわさびを使っているので、より上質のものになっております』

思わぬ情報を手に入れてしまった。コンビニで売られているわさビーフは、わさびが違うそうだ。

「おいしいので今後も食べていこうと思います。失礼致します」
……終わった。今後もわさビーフを食べていくことを宣言してしまった。理由は美味しいから。少し「褒めハイ」になってしまった。ばかみたいだ。

通話時間を確認すると「2分」と表示されている。30分は経っていたかと思った。

「ありがとう」という直接的な感謝のフレーズは出てこなかったが、わさビーフを食べておいしいと感じているというポジティブな感想は伝わったはずだ。

心なしか相手方も喜んでいたような気がするし、僕のほうもなんというか、健やかな気持ちになった。少しウソをついてしまったが。
ちなみにコンビニで買ったわさビーフと、他で買ったわさビーフを食べ比べてみたが、味の違いはよくわからなかった。なにか間違えているのかもしれない。
ちなみにコンビニで買ったわさビーフと、他で買ったわさビーフを食べ比べてみたが、味の違いはよくわからなかった。なにか間違えているのかもしれない。
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エルモアにありがとう

エルモアというティッシュがある。よく使っていて使い心地がいい。

目の前にあることが多いので、適当なゲームとかウェブサービスを新しく始めるときに、ハンドルネームを「エルモア」にすることがある。主人公が飼っているペットの名前が「エルモア」だったりする。

まったく余談だが、漫画の「名探偵コナン」の主人公コナンが自分を「江戸川コナン」と名乗ったのは、名前を聞かれたときにたまたま本棚に「江戸川乱歩」と「コナン・ドイル」が並んでいたのをとっさに組み合わせたからなので、仮に大技林の上にエルモアが乗っているのを見て組み合わせたら「大技林エルモア」になっていたはずである。~余談終わり~
大技林ってゲームの裏技集です。
大技林ってゲームの裏技集です。
思い起こせば意外なところで生活に密着していたエルモアに、お礼の電話をしよう。エルモアを売っているカミ商事に電話した。


『……カミ商事株式会社でございます』
一呼吸置いて、ハキハキとした若そうな女性が電話に出た。
「あの、おたくのエルモア200という商品を使って、いいなあと思ったのでその感想を伝えようとお電話したのですが……」
おたく、という言い回しはよくなかったと思う。ただ、いいということだけをベストな形で伝えたいのだ。
「肌触りとか、いいなあと思って……。ほんとにそれだけなんですけど……」
ハンドルネームつけるときによく使っているというような事実は伝えることができなかったが、エルモアがいいものだという肝心なことはあっという間にいうことができた。

すると相手の声のテンションが明るく変わったような気がした。クレームの電話とは違うことがわかったからだろうか。たぶん、「よかった」だけで電話する人はいないんだろうなと思う。
これを「すごくいい!」と思う人は…たしかにそんなにいないかもしれない。
これを「すごくいい!」と思う人は…たしかにそんなにいないかもしれない。
『ご感想は上の方に申し伝えておきます。わざわざ遠いところありがとうございました』
電話かけるだけなのにわざわざ遠いところも何もないと思うのだが……。わざわざ電話口まで、ということだろうか。携帯電話からかけているので物理的に電話が遠いということはない。僕は電話が苦手なので、心理的に電話が遠いということはあるかもしれないが。

「ほんとうにそれだけなので……」
『ありがとうございます』
「……」
『……』
「では失礼します」


先程と同じように、一瞬の間があった。愛の告白をしたときのような緊張が走る。こんどは質問をせずに電話を終えた。およそ1分。

「エルモアってどういう意味?」「肌触りのよさの秘訣は?」など聞くのは蛇足ではないだろうか。

ポカリスエットにありがとう

いままでのところ、結局「よかった~」という抽象的なメッセージしか伝えられていない。もっと、エピソードのような深みのある事実を交えてありがとうを届けたいのだが……。

と、いうところで、ちょうど風邪をひいて熱を出していたときに飲んでいたポカリスエットが手元にあった。

出した汗の分を、これで水分補給をしていたので助かった。シェフにありがとうと言いたい。
最近ありがとうと言いたいもの筆頭である
最近ありがとうと言いたいもの筆頭である
『大塚製薬お客様サービスセンターです。この電話は内容を正確に承るため録音をさせて頂いております』

電話をかけるといきなり録音する旨が伝えられる。ちょっとびっくりした。

電話の向こうはすごく申し訳なさそうな声のトーンの女性だった。

「問い合わせということではないんですけど……」と前置きしながら、先ほどと同じようにポカリスエットが良かったことを伝える。ただし今回は、先日熱を出したときにポカリスエットを飲んでだいぶ体調が楽になったエピソードを付け加える。
熱出たアピールでありがとうを伝える。
熱出たアピールでありがとうを伝える。
すると、「お体の方はもうよろしくなったのでしょうか?」と気遣われてしまった。大丈夫です、お気遣いありがとうございます、と答えてよろよろと電話を切った。

それでもなんとか「ありがとう」は伝えられたと思う。
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なにか質問したほうがいいのでは?

わさビーフにも、エルモアにも、ポカリスエットにも、なんとか「ありがとう」をいうことができた。

感じたのだが、やっぱりどうしても要件が「よかった」だけだとおかしな空気が漂ってしまう。ちょっときつかった。やっぱり質問を1つは用意しておくと自然な流れになるなあと思い直した。(2ページ目なんだったんだ!という話になりかねないけど。)

だいたいの会話は前までと同じなのだが、「一つ質問があるんですけど…」と質問をしてみることにした。
酢昆布って、旬とか季節による味の違いってあるんですか?→ありません
酢昆布って、旬とか季節による味の違いってあるんですか?
→ありません

質問、必要

ものすごく話がスムースになった。最初にいつもありがとうという感想を伝えてから質問をしてもいいし、逆の順番でも問題なかった。例の不穏な刹那の間も無かった。

そもそも「お問い合わせはこちらへ」という形で電話番号が書かれているのだ。「別に問い合わせじゃないんですけど…」というような会話の始まりはどうかしている。

質問、必要。いきなりの「ありがとう」は相手が抵抗できないので暴力。
太田胃散をよく飲んでるんでけど、毎日飲んでもいいんですけど?→一日三回を限度に、体に異変がなければ毎日飲んでも大丈夫です
太田胃散をよく飲んでるんでけど、毎日飲んでもいいんですけど?
→一日三回を限度に、体に異変がなければ毎日飲んでも大丈夫です

最後に気恥ずかしさが

画像編集ソフトのフォトショップなどを売っている、あのアドビにも「フォトショップ便利で楽しく使ってます。ありがとう」というようなことを言ったが、なんだかイチローに「野球うまいっすね」と言っているようで恥ずかしくなってしまった。

それと、やりすぎるといたずらをしているのと同じなような気がしてきたのでこの辺りで最後にした。手間を取らせてしまっているので。
フォトショップお世話になってます
フォトショップお世話になってます

ありがとうを伝えたい

ありがとうという気持ちを口頭で伝えるのは難しい。電話を使う方法も、窓口が平日午後5時までが普通なので難しい人には難しい。1、2分で済むことだけど。

しかし、やってみるとこちらは気持ちいいし、僕の勘違いでなければ向こうも少し明るい声になっていたように思える。

どう影響するのかはわからないけれども、よっぽど気に入った製品などがあれば、ちょっとした質問にかこつけて声を届けてみるのもいいかもしれない。
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