渋谷の真ん中の野良
きっかけは、今デイリーポータルZ編集部が入っている渋谷ヒカリエのエレベーターホールである。
ドアの上、現在地表示の部分に注目
これは……
バーコードっぽい!
(参考)本物のバーコード
商品についたバーコードみたいに明らかなバーコードではないが、リーダーをかざせば読める。これこそが、野良バーコードだ。
このエレベーターの模様がバーコードをモチーフとした意匠なのか、それとも意図せずたまたまバーコードっぽいデザインなのかは定かではない。定かではないが、そこにどんな意図があろうと、実態としてこれはバーコードだったのである。
バーコードリーダーをかざすと
読める!
エレベーターホールに隠された謎のメッセージ、「942591872782」。何か深い意味があるに違いない。解読してみよう。
まず冒頭の「942」は急渋、東急渋谷の略だろう。続く「591」は極秘。いよいよ隠しメッセージめいて来たぞ。そして「872782」は、「放つ那覇に」。
「急渋極秘、放つ那覇に」。これはつまり、極秘情報だが近い将来、東急渋谷駅から那覇まで直通の電車が通るということを表しているのではないだろうか。ちなみにヒカリエは東急のビルなので、東急に関する極秘メッセージが隠されていてもおかしくはない。すごいスクープをつかんでしまった……。
野良バーコードを探せ
ちなみに上で使っているバーコードリーダーは、スマートフォンと無料のバーコードリーダーアプリだ。簡単に手に入るこのアイテムを使えば、世界中の野良バーコードを発見し、隠しメッセージが読めるようになる。
RPGだったら終盤に手に入るやりこみ系アイテムだ。プレーヤーはこれまで通過した街をしらみつぶしに調べ直して、これまで気づかなかった隠しアイテムをゲットできるパターンのやつである。
今回は六本木ヒルズで野良バーコードを探してみます
まずはその脇の
ウッドデッキ
木の樹齢を表す年輪。それが木材に加工されると木目となり、このような縞模様が残る。いわば何十年もかけて紡がれてきたひとつの生命の歴史である。それを、「これバーコードっぽくね?」と現代人ならではの舐めた態度でスキャン。
端から全部スキャンしていくと
発見!
「08987933」
このへん
「08987933」。さっそく読み解いていこう。まず真ん中あたりにある「87」、これは花のことに違いない。するとその先に続く「93」「3」、これは草と実だろう。問題は頭の「089」だが、松山市の市外局番である。これは松山転じて、「待つ山」と解釈していいだろう。
「待つ山、花・草・実」、つまりすっかり都会になってしまった六本木の地が、また花・草・実などの緑にあふれた山に戻ってほしい。切り倒されてしまった樹が最後に体を張って伝えようとしたのは、そんなメッセージなのだった。少し切なくなった。
次も同じく自然物で攻める、流れる水は刻一刻と変わっていく縦縞模様であるが
バーコードリーダーには特に反応せず
では緑豊かな遊歩道はどうかというと
出た
ここだ
「19」。先ほどの木目に比べてずいぶん短いメッセージだが、解釈が難しい。「行く」だろうか、それとも「引く」だろうか、あるいは「一休」…。
と、ここでバーコードリーダーのアプリに「インターネットで検索」というボタンがついているのに気が付いた。押してみよう。
ジューク!
いた!すっかりその存在を忘れていたが、2000年頃に流行ったフォークユニットでそんなのが確かにいたぞ。
そのジューク、2002年に解散していたらしい。六本木ヒルズができたのは翌年の2003年のこと。みんながジュークの解散を残念に思う気持ちが六本木ヒルズの奥深くに刻み込まれており、それが草の葉脈の形をとって、このように地上に現れているのかもしれない……。
鉱物もいってみよう。人々行きかう石畳
ここにも野良バーコードが…
いた!
この石である
09646403、「まったく蒸し蒸し、おっさん」ということで、たしかにとても蒸し暑い日であった。「おっさん」部分は、そんな暑い日に座り込んでスマートフォンを向けてくる僕に対する罵倒だろう。石畳って毎日踏まれて大変そうだなと思っていはいたけど、実際イライラしているようだ。
さて、だんだんゴロ合わせも雑になってきており、読者の皆様的にも、もういいんじゃないの?という声が聞こえてくるようである。ここで野良バーコード探しは一休みして、次のページでは野良バーコードがいかに稀有かという点について説明しておきたい。
特集:野良バーコードはここにない!
バーコードがありそうでなかった場所である。
以下は読めないもののほんの一例だ。ペース的にはバーコードリーダー片手に15~20分くらい探してやっとひとつ読めるものが見つかるという感じ。数探すのは結構大変だ。
エスカレーターの溝。こういう等間隔の縞模様にはまずない
横断歩道もだめ
線の太さが均一だからか、漢字もだめだった
ペンキの垂れた部分もダメ
植物だって縞ならどれでもいいわけではない
あとこれまで見てきたとおり、人工物より自然物の方に意外によく見つかる。縞模様のランダム性が高いため、偶然読める柄ができやすいのだろう。
バーコード狭き門
なんでそんなに野良バーコードがレアかというと、バーコードには読み取りエラー防止の機能がついているからだ。バーコードは線とその間隔の太い細いで数字を表現しているのだけど、その最後のひと桁は「チェックデジット」といって、他の数字がちゃんと読めているかの確認に使われている。
チェックデジットの例
これがあるおかげで、読み取りの精度が10倍~1000倍くらいになるらしい。野良バーコード的には、まず「線の太さや間隔が偶然バーコードの形式になっている」という一次試験に加えて、さらに合格率10%~0.1%のチェックデジット二次試験が加わるわけだ。
野良バーコード合格への道は本当に狭き門。その存在の貴重さがわかってもらえただろうか。
新宿の野良バーコード
あらためて、今度は新宿で野良バーコードを探してみた。
最初に見つけたのはこの石畳
バーコードの鉱脈か
難なく02534787を発見。ここからは検索ボタンでサクッと調べていきますが
該当なしでした
ちなみにこのへんです
ここで唐突にクイズです。どこに野良バーコードが隠れているでしょうか?
正解は赤い「100 YEN SHOP」の看板の下、このプレート
見れば見るほどバーコードだ
08184320発見!
該当なし
ちなみに上の写真でバーコードに出てくる数字と検索されてる数字が違うのだけど、これはUPC-Eっていうバーコード形式の仕様らしいです(桁が圧縮されて格納されてる)。
ブラインド探究
前々から「バーコードっぽい!」と思っていたものがある。それがブラインドだ。特に銀行等にあるブラインドは縦縞でいかにもといった感じ。さらに風や見る角度によって縞の具合が変わるので、リーダーを向けっぱなしにしておけば、ある一瞬だけ偶然にバーコードになった瞬間をとらえることもできるだろう。
ほら、バーコードでしょ?
が、意外にヒットしてくれない……
その後もいくつかのブラインドを試したのだが、リーダーはピクリとも反応しない。あれーと思いながら街中をうろついていると、運命の出会いが待ち受けていた。
ブラインドの一つ一つが横縞!
縦横、両方向にバーコード。ある意味、二次元バーコードである
すぐ読めた。04512316
検索してみると……ヤマト運輸!
「お問い合わせいただいた伝票番号は、今現在コンピュータに登録されておりません」でガックリ
もうひとつの検索結果も見てみた。ロシアのネットゲームのフォーラムらしい
保険会社のブラインドから意外なサイトにたどり着いた。「オリオンに価値のある何かを持っている?」(自動翻訳)とのことなので、もし持っている人がいたら新宿の明治安田生命のブラインドからこのサイトにアクセス、回答してあげてほしい。
おとうさんも
最後に、「おっ」と思った野良バーコードを紹介し、この記事を締めくくろう。
再びクイズ。野良バーコードはどこでしょう?
こたえはここ。
件のお父さんである。シャッターに巨大なお父さんの絵が描かれており、横縞に見えるのはシャッターの表面の溝だ。
これが実にすんなり反応。76070495
検索した結果がこれ。最初のリンクをクリックすると、どこかの地図が出てきた
ズームアウトしてみると、フランス!
ロシアに続いてフランス。野良バーコードの世界は国際色豊かだ。さらに
Wikipediaを見てみると、お父さんはフランスに留学していた経験があるらしい。いよいよ核心をついた情報の登場だ。
そのままWikipediaを読み進めると、『(お父さんにフランス時代について尋ねると)本人は「昔のこと」と多くを語りたがらない』という記述もある。何かを隠すようなこの態度、現地で女性関係で何かがあったパターンではないだろうか。
さらなる情報を求め、次のリンクを見てみよう。画像素材集サイトのURLだが。
そこにはフランス人と思われる女性の姿が……
けっこう読めて面白い
絶対無理だと思っていたけど、やってみると街中の縞模様もけっこうバーコードリーダーで読める。まあ読めたところで出てくるのは特に意味のない数字の羅列なのだが、それでも野良バーコードの出現頻度がちょうどいい具合にレアなので、探す行為自体が楽しい。
ところでここでやはり気になるのは、いわゆる「バーコードヘアー」は読めるのか、という点である。今回は頼める被験者がおらず実験には至らなかったのだが、誰か見つかり次第、あるいは自分がそうなり次第、試そうと思う。