特集 2013年6月25日

危険!だが美味!!毒ウニ「ガンガゼ」を食べる

ガンガゼ、嫌われ者だけど案外おいしい。
ガンガゼ、嫌われ者だけど案外おいしい。
「ガンガゼ」というウニの名前を聞いたことがあるだろうか。
ただでさえウニの殻にはトゲが生えていて触ると痛いものだが、このガンガゼのトゲにはさらに毒があって刺されるととても痛い。その上、大量発生して海藻をたくさん食べて漁場を荒らしてしまう。
そんなわけで海水浴客からも漁師からもひどく嫌われているガンガゼだが、なんと食べられるらしい。毒針というハードルを乗り越えて料理してみた。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

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漁港にうじゃうじゃいる

さっそくガンガゼを探しに海へ出かけよう。具体的なポイントは特に知らないが、わりとどこにでもいる生き物である。特に九州・沖縄地方にはやたら多く、適当な漁港や波止場を覗けば大抵見つかる気がする。
磯にもよくいるけど今日は足場のいい漁港をチョイス。
磯にもよくいるけど今日は足場のいい漁港をチョイス。
というわけでやってきたのは九州のとある漁港。ここを選んだ理由は特に無い。ただなんとなくである。
ガンガゼを食べる文化は壱岐や天草など九州の一部地域に見られるのみなのだとか。
そんなわけでほとんどの地域では漁師さんも採らないため、あちこちの沿岸にたくさん沸いている。ウニのくせに希少価値皆無だ。
でもすぐ見つかるんだこれが。
でもすぐ見つかるんだこれが。
海中を覗くといるいる。やけにトゲの長い不良っぽいビジュアルのウニが数個ずつ固まって点在している。ガンガゼだ。数百メートル歩く間に100匹以上が確認できた。ただしけっこう深場にいるので、なかなか撮影も捕獲もできない。
見た目があからさまにヤバい。ちなみにウニのわりには動きも早く、ワサワサうごめいて怖い。
見た目があからさまにヤバい。ちなみにウニのわりには動きも早く、ワサワサうごめいて怖い。
暗くなるまで探し続けてようやく浅場で孤独に転がっているガンガゼを発見できた。改めて間近で見ると外見が凶悪すぎる。「そのウニ危ないよ」と教えられなくても本能的に触るのをためらってしまうほどのツッパリぶりである。
普段僕たちが食べているムラサキウニくん(左)と並んでもらった。凶悪さが際立つ。
普段僕たちが食べているムラサキウニくん(左)と並んでもらった。凶悪さが際立つ。
普通のウニと比べてみるといかに攻撃的なルックスかがよくわかる。
ウニは英語で「sea urchin」、海のいたずら小僧と言うそうだが、このガンガゼはそんなかわいいものではないだろう。触れるもの皆傷つける、海の非行少年くらいのレベルには達しているはずだ。
刺されてみよう
刺されてみよう
冒頭にも書いたが、このウニのトゲには毒がある。僕も沖縄の海で泳いでいる時に何度か刺されて痛い思いをした。痛みはハチに刺されたときのそれに似ているが、もっとジンジンヂクヂクといやらしい感じがする。ねっとりした痛さにやり場のない怒りがこみ上げてくる。人をいらつかせるタイプの痛みなのだ。海水浴は台無しになる。思い出すだけでこの毒ウニ野郎を粉々に踏み潰したくなってきたぜぇーッ!!
しかも刺さったトゲが折れてシャープペンの芯のように皮下に残り、患部は紫色に腫れる。刺さったトゲが1~2本であれば痛みは数時間もすれば大方引くが、その間は極めて不愉快な思いをすることになる。

その危険性を読者の方々に理解してもらうため、ここであえて自分から今一度刺されてみることにした。
あれ?刺さらない。
あれ?刺さらない。
しかし、意を決して指を差し出すも残念ながら毒針は刺さらなかった。
この直前に撮影、観察をするためにあれこれいじくりまわしたので針先が少し削れていたようだ。もろすぎる。
どうやらちょっとでも針先が傷んで鈍ると、手のひらのように分厚い皮膚にはなかなか刺さらないらしい。
拍子抜けすると同時に、刺されてやろうという意志も萎え果てた。たぶんシャープなトゲも残ってるんだろうけどもういいや。痛さは先程の文章で伝わったろうと思いたい。

だがこれでこのウニの対処法と言うか扱い方がわかった気がする。きっと刺されずに料理できるぞ!
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採っちゃいけません!でも釣り餌屋さんで買えました!

しかーし!ここで重大な問題に気付いた。ウニ類は漁業権の関係で一般人は採っちゃいけないのだ。ほとんどの地域では漁業対象でない(それどころか駆除の対象である)ので、採っても漁師さんに咎められることはほぼ無いだろう。でもいかに嫌われ者のガンガゼとはいえ、ウニはウニ。ルールはルール。素人が手を出してはいけない。

じゃあどうするか?
買うでしょ!
買うでしょ!
買えばいいのだ。金にモノを言わせるのだ。
だがガンガゼは食材としてはあまりにマイナーすぎて、鮮魚店やスーパーでは買えない。じゃあどこで買うか?釣り餌屋さんでしょ!
実はガンガゼはイシダイと言う魚の好物で、この魚を狙う釣り人に向けて採集・販売をしている業者があるのだ。一見邪魔者扱いされてばかりのガンガゼも、そういう人たちにとっての立派な収入源となっているのだ。

そんなわけで釣り餌屋さんに石鯛を釣りに行く体で予約を入れ、2000円で20個ほど購入した。これは高いのだろうか安いのだろうか。この時点ではまだ判断できない。しかし近所の堤防にいくらでもいる生物をわざわざ買うと考えるとちょっと高い気もする。
あれ。トゲが短い。
あれ。トゲが短い。
釣り人の安全を考えて処理をしてくれたのか、運搬・ストック中に折れてしまったのかはわからない。しかしトゲの先端がある程度折れている。おかげで気をつければなんとか素手でも扱える。(お店によっては鋭いトゲがビシバシ残った新鮮なガンガゼを提供してくれることも多いらしい。)

しかしまだ針先が無事なトゲも残っているし、折れてなお普通のウニよりははるかに長いので殻を剥くのに難儀する。と、ここで良い案を考えた。
適当なBOKにINしてSHAKEしてDANGERなNEEDLESをCLASH&CRUSHだ!
適当なBOXにINしてSHAKEしてDANGERなNEEDLESをCLASH&CRUSHだ!
適当な入れ物にガンガゼを放り込んでガシャガシャとシェイクするのだ。するともろいトゲはみるみるうちに入れ物の中で折れていき、ガンガゼは攻撃力と防御力を大幅に失う。
無残…
無残…
自分でやっといて何だが、容器から取り出したガンガゼはなんとも哀れな姿になっている。さっきまでの凶悪な姿の面影はもう無い。
じっくり観察すると案外綺麗。
じっくり観察すると案外綺麗。
毒の恐怖を忘れてよくよく見てみると、殻に綺麗な青いスポットが5つ並んでいる。その中央にあるオレンジ色の目玉のような部分は肛門らしい。水中でやけにここが目立つのもガンガゼの特徴だ。白い点もいいアクセントになっている。
真っ白な斑点もある。実はけっこうおしゃれなウニだ。
真っ白な斑点もある。実はけっこうおしゃれなウニだ。
いくつも処理していくと、紫のもの、真っ黒なもの、緑がかっているもの、ツートンカラーのものといった具合にカラーバリエーションもあることに気付く。意外に洒落ている。全部同じ種類なんだろうか?
まだ細くて短い針は残っている。続いてはこれも処理する。
まだ細くて短い針は残っている。続いてはこれも処理する。

思いのほか簡単に処理できる

この時点でもうかなり扱いやすくなっているのだが、さらに万全を期すために残りのトゲをハサミで切って丸坊主にしてしまう。
お客さん、髪質硬いっすね。
お客さん、髪質硬いっすね。
ジョキジョキ簡単に切れてしまう。本当にびっくりするほどもろいトゲだ。他のウニではこうはいかない。一般的なウニにとってトゲは鎧であり城壁のようなものなんだから。ガンガゼはウニ界の異端児なのだろう。
さて、いよいよ安心して素手で掴めるようになった。このまま解体して身を取り出す。
白いかたまりがガンガゼの口。アリストテレスの提灯と呼ばれるやつだ。
白いかたまりがガンガゼの口。アリストテレスの提灯と呼ばれるやつだ。
まずガンガゼを裏返してハサミを入れ、硬い口を取り外す。この時、箸でえぐってしまってもいいが、殻がもろいのでハサミを使った方が無難だと感じた。どうせこの前後の過程でも使うし。
口が外れると殻にぽっかり穴が空くのでそこから数か所、ほんの小さくハサミで切れ目を入れる。
生卵を割る感じで。
生卵を割る感じで。
あとは軽く押し広げるとパリパリと簡単に殻が割れる。トゲと同じく、殻がウニにしてはとても軟弱なのでほとんど力がいらず、驚くほど楽に剥ける。最初はトゲを落とす手間が面倒くさいと感じていたが、その後がこんなに楽ならむしろガンガゼの方が処理しやすいかなとさえ思えた。
簡単に開けられる
簡単に開けられる
殻が割れると餌の海藻が詰まった内臓と身が見える。はやる気持ちを抑えて内臓を取り除く。先の細い箸やピンセットがあるとやりやすいかも。
花みたい!
花みたい!
殻の中には予想していたよりもたっぷりの身が花や星のような形で詰まっていた。しかもハズレがなく、どのガンガゼも食べがいがありそうに見える。
ところで、可食部であるこの黄色い「身」はウニの卵巣や精巣なのだそうだ。鮭で言うとイクラとか白子にあたる。そりゃ美味いに決まってる。
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身の色がバリエーション豊富

身入りが少ないものでもこの量
身入りが少ないものでもこの量
殻を割ってみるとどれもこれもしっかり身が詰まっている。
だが色合いはまちまちだ。黄色が強いもの、淡いもの、灰色がかったものとバリエーション豊富。しかしムラサキウニのように鮮やかなオレンジ色をしたものは無かった。見た目では一歩劣っている印象だ。
こういうちょっとくすんだ色合いのものも多かった。
こういうちょっとくすんだ色合いのものも多かった。
しかしこうやって殻の中を覗いてみると、ウニがヒトデに近縁な生き物だというのもうなずける。体の基本構造は五角形、星型なのだ。
色、色々。
色、色々。
なお、身の色に関して、殻を剥く際に一つ注意しないといけない点がある。
殻の色が移る…
殻の色が移る…
ガンガゼを剥き続けていると、指が紫色に染まる。殻や内臓を乱暴に扱うと、その色素が染み付くのだ。手はどんなに汚れても石けんで洗えば済むのだが、これがせっかく取り出した身に付くと厄介だ。紫色の染みができて見た目が悪くなるので、作業には結構神経を使う。味はたいして変わらないようなので、気にならない人はそれでもいいだろう。

ガンガゼ、おいしい!

ここでちょっと生ガンガゼをつまみ食い
ここでちょっと生ガンガゼをつまみ食い
新鮮な生ウニ、いや生ガンガゼ。さっそく味見をしてみよう。
おお、イケるイケる!
おお、イケるイケる!
おいしい!なんだ、十分食べられる味だ。安心した。
正直に言うと、さすがにムラサキウニやバフンウニに比べると味はやや落ちる。甘み旨みが薄いのだ。しかし、ウニの風味はしっかりある。よく言えばさっぱりしていて、これはこれで十分にアリだ。
また、僕自身が生ウニと言うものを食べた経験があまり多くないので正確な比較は難しいのだが、ガンガゼにはたまに特有のクセがあるものもあり、その点では好き嫌いが分かれるかもしれないと思う。
見た目は完全に見慣れたウニ。
見た目は完全に見慣れたウニ。
身はスプーンですくい取り、すぐ食べる分以外はいったん塩水に漬ける。直接皿に盛るとみるみるうちに崩れてしまうのだ。
塩水の濃さは海水と同じくらい。
塩水の濃さは海水と同じくらい。
塩水の濃さは海水と同じくらい。
こんなに身がとれた。これぞ宝の山やね。
身はたっぷりと、食べきれないほど取れたが、代わりにかなり時間がかかった。市販のウニが高い一番の理由も加工に掛かる手間の問題なのかもしれない。
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ウニ丼、ウニパスタが食べ放題!…でもあんまり食べられない

ガンガゼ丼!パッと見で「間違いない」と思わせてくれる。
ガンガゼ丼!パッと見で「間違いない」と思わせてくれる。
塩水に漬けずキープしておいた新鮮な生ガンガゼでウニ丼を作った。味の薄さは新鮮さとボリュームでカバー。普通のウニ丼に負けない味わいとなった。ただし、あまりたくさん身を乗せるとこってりしすぎていてたくさん食べられない。やはりウニはウニ。けっこうしつこいのだ。
ガンガゼの姿をイメージして海苔を盛ったガンガゼパスタも。
ガンガゼの姿をイメージして海苔を盛ったガンガゼパスタも。
ペーストにしたガンガゼをバター、醤油と和えてスパゲティに絡めてみた。見た目はとても地味だが、それに反して味はめっぽう濃厚でおいしい。個人的にはガンガゼ丼よりこちらの方が好みかもしれない。ただ、やはりたくさんは食べられない味の強さ。ガンガゼ料理はおかずよりもお酒のつまみに向いているのかもしれない。

長崎の郷土食「ガゼみそ」を作る

どんぶりにパスタと腹いっぱいにガンガゼを堪能した。一晩で二年分くらいのウニを食べた気分である。が、まだガンガゼの剥き身がたっぷり残っている。
どうしよう。デリケートなウニなんてほうっておくとあっという間にダメになってしまうだろう。でももう食べられない。これ以上食べたらウニが嫌いになりそうだ。

ここである案を閃く。
長崎県南島原市を訪れた際に発見。
長崎県南島原市を訪れた際に発見。
僕の故郷である長崎のごく一部に伝わるウニを使った伝統的な保存食、「ガゼみそ」を作ればいいのだ。
「ガゼみそ」とはウニと味噌を混ぜ合わせただけのシンプルな食べ物だ。それなら僕でも作れるかもしれない。

ちなみに「ガゼ」とはウニ類の古い呼び名らしい。ガンガゼという名の由来もこの辺りにあるのだろう。ちなみに熊本県上天草地方ではヒトデの一種を「イツツガゼ」と称して食用とする。おそらく腕が5本あるウニの仲間、という意味だろう。
味噌と余ったウニをすり鉢で混ぜる。なぜか罪悪感を覚える。
味噌と余ったウニをすり鉢で混ぜる。なぜか罪悪感を覚える。
加熱したガンガゼのペーストに味噌を適量加えて混ぜ合わせる。
ただしこれは我流の作り方。実際はウニを丸ごと茹でて、卵巣も他の内臓も一緒くたにほじくり出して味噌と混ぜる豪快な調理法で、その方がうまみや香りが増すのだとか。
そしてそもそもガンガゼがガゼみそに用いられることはあまり無いようで、普通は一般的に食用とされるムラサキウニやバフンウニの、型が小さいなどの理由で選別漏れしたものを漁師さんが保存食として加工するようだ。
瓶に小分けして保存する。
瓶に小分けして保存する。
見た目はただの味噌だが、ガンガゼの剥き身が大量に入っているのでやや明るい色合いになった。そして香りがとてもいい。これは絶対うまい。
市販のガゼみそは内臓や殻、トゲの欠片が混じるので泥っぽい色合い。でも風味は良い。
市販のガゼみそは内臓や殻、トゲの欠片が混じるので泥っぽい色合い。でも風味は良い。
ガゼみそはご飯に乗せて食べるのが一般的なようだ。日本人は白米に合う保存食を作らせたら世界一だと思う。
ただ、市販のガゼみそは甘口であることが多いようで、その点が個人的に気に食わなかった。なので今回は自分好みの辛口味噌で作ってみた。
ご飯がすすみすぎる。
ご飯がすすみすぎる。
味はというとガンガゼの旨味と香りが効いていて当然おいしく、とてもご飯がすすむ。
しかもちびちび食べることになるのでなかなか減らない。長く楽しめそうだ。
でもせっかくなのでこのガゼみそを贅沢に使ってみそ汁でも作ってみよう。きっと、間違いなく、絶対に美味いだろう。
またも地味すぎるビジュアルですが…。
またも地味すぎるビジュアルですが…。
間違いなかった。美味かった。ウニの味噌汁と言うのは初めて味わったが、なかなか良い。アサリ汁に似た磯の香りと、ウニ独特の風味が強く、「贅沢なモン食ってんな~」という気にさせられる。まあ普通のウニでは値段を考えると絶対作れないけどね。釣り餌価格で入手したガンガゼならではの大胆メニューだろう。
具無し(?)のみそ汁がこんなにおいしいとは。
具無し(?)のみそ汁がこんなにおいしいとは。
こうしてけっこうな量をご飯のお供とみそ汁にしたが、ガゼみそまだ冷蔵庫に残っている。もうしばらく楽しめそうだ。

ガンガゼ、どうせ駆除するなら食べたいよね

ガンガゼはあちこちの海に掃いて捨てるほどいるウニだが、食べる習慣があるのは全国的に見てもごくごく限られた地域である。一方、各地で駆除の対象にはなっており、海中で潰されるなどして特に人間の役には立てられることなく海の藻屑と化している。確かに捕獲と加工がかなり手間ではあるが、味は悪くないのだから水産資源としてもっと有効に活用できるのではないだろうか。と思いました。
漁港に大きなウミウシがいた。水中では超かわいかったのに、陸に掬い上げると超ぶさいくになってしまった。
漁港に大きなウミウシがいた。水中では超かわいかったのに、陸に掬い上げると超ぶさいくになってしまった。
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