特集 2013年6月23日

昔ながらの貝塚を訪ねる

カジュアルに貝が落ちていました。
カジュアルに貝が落ちていました。
親が転勤族だったため、幼い頃は引っ越しが多い生活でした。
現在は東京近郊の新興住宅地に住んでいます。
そんな住環境のせいでしょうか。「昔ながらの人情商店街」「町に息づく由緒ある寺社」のような歴史あるものに過剰な憧れを持っていました。
ですが、私の町にも歴史の息吹を感じさせるものがありました。
それは、貝塚です。
1980年北海道生まれ。
気が付くと甘いものばかり食べている偏った食生活を送っています。


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貝塚がある町・都筑区

私が住む横浜市都筑区は、東京のベッドタウンとして発展したニュータウン地区。
一般的に横浜と聞いて思い浮かべるであろう、みなとみらいやら中華街やらといったイメージとは一線を画するのどかな田園地帯です。
横浜市全体図。港から遠い都筑区に横浜っぽさはほとんどありません。
横浜市全体図。港から遠い都筑区に横浜っぽさはほとんどありません。
田舎というだけでなく、20年ほど前に港北区と緑区が統合・分割されて出来た歴史の浅い区であることもあるのでしょう。かつて横浜市中心部に住む知人に
「青葉区とか都筑区に『横浜』って名乗ってほしくないんだよね」
と言われて以来、『横浜市民』ではなく『神奈川県民』と名乗るようになりました。
そんな肩身の狭い都筑区の一角にある公園の、何の変哲もないこの広場。
若夫婦とお子様がくつろぐ昼下がり
若夫婦とお子様がくつろぐ昼下がり
テーブルやベンチが設置されており、地元の人の憩いの場としても利用されているのですが、実はこちら、縄文時代は貝塚だったんです。
縄文時代前期の貝塚、『境田貝塚』だそうです。
縄文時代前期の貝塚、『境田貝塚』だそうです。
貝塚といえば大森、くらいの貧相な知識しか持たない私は、このような丘陵地帯に貝塚があるだなんてまったく知りませんでした。
歴史の教科書で3行くらいの説明がされている、狩猟・採集をして暮らす人々が捨てた貝殻が積み重なってできたというあの貝塚にこんなところでお目にかかれるなんて!
横浜開港は1859年でこの貝塚ができたのは紀元前4000年くらい。
中区や西区は150年くらいの歴史で偉そうな顔していますが、こっちは6000年の歴史です。勝った! 都筑区が中区西区に勝った!!
今度西区の住民に会ったら、150年くらいで歴史語ってんじゃねえよって言ってやる!!
都筑には縄文期からの歴史が息づいてるんだって言ってやる!!
相当根に持っている自分にドン引きしつつ、区内には他にいくつか貝塚があったようなので巡ってみることにしました。
境田貝塚
貝塚だと分かる程度に親切度:★★★★★

早渕川近隣の貝塚

都筑区内には鶴見川の支流・早渕川が流れています。
一級河川・早渕川。水はわりと緑っぽい色です。
一級河川・早渕川。水はわりと緑っぽい色です。
縄文時代前期は今より気温が2度、海面は5m高かったため海岸線は最も内陸にまで入り込み、今では海の気配など感じさせないこの早渕川にまで及んでいたということです。
当時の早渕川近隣は貝の採集に適した浅瀬であり、いくつもの貝塚が形成されました。

まずは、早渕川にほど近い位置にある北川貝塚。
貝塚としてだけでなく、1万年以上前の石器が発掘されたり弥生時代や平安時代前期のムラが発掘されるなど、幅広い年代で利用されてきた遺跡です。
旧石器時代の遺跡としては、横浜市内で最古のもののひとつに数えられています。
市内最古の遺跡・北川貝塚。
市内最古の遺跡・北川貝塚。
緑豊かな公園もありました。
緑豊かな公園もありました。
北川貝塚
川も緑もあってほどよく田舎度:★★★★★
次は都筑区で一番有名な南堀(みなんぼり)貝塚。
50ほどの竪穴住居に貝塚、墓などを含めた縄文時代のムラ全体を発掘したのですが、これは1955(昭和30)年当時全国初の試みだったそうです。
発掘に専門家以外の一般市民が多く参加したことも画期的でした。
横浜郷土史に欠かせない南堀貝塚。
横浜郷土史に欠かせない南堀貝塚。
私立高校のグランドを見下ろす丘。
私立高校のグランドを見下ろす丘。
南堀貝塚
登るだけで達成感を覚えるくらい急な坂の角度:★★★★★
南堀貝塚からほど近い位置には西ノ谷貝塚があります。
縄文時代の遺跡からは道の痕跡が発掘されることは珍しいのだそうですが、西ノ谷貝塚からは付近にある古梅谷遺跡へ続く木道が発掘されました。
比較的大きい集落だった西ノ谷貝塚。
比較的大きい集落だった西ノ谷貝塚。
墓地があって遺跡っぽい雰囲気(?)
墓地があって遺跡っぽい雰囲気(?)
西ノ谷貝塚
まごうことなき住宅地度:★★★★★
冒頭で紹介した境田貝塚に近く、おそらく同時期に形成されたものだと言われている茅ヶ崎貝塚。
『茅ヶ崎』だなんて聞くと湘南のこじゃれた景色を想像するかもしれませんが、どちらかというと山寄りの地域です。この辺りは地名に『茅ヶ崎』と付くのですが、何か関係あるんですかね。
茅ヶ崎貝塚。水の流れる遊歩道。
茅ヶ崎貝塚。水の流れる遊歩道。
貝みたいなのも採れました。
貝みたいなのも採れました。
茅ヶ崎貝塚
休日のウォーキングにお勧め度:★★★★★
何もないじゃないか、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、考えてみてください。
貝塚は当時の人々の生活の跡であり、貝塚の近辺には住居がありムラが形成されていた。
つまり、歴史が浅いだの田舎だの住宅しか無いだのと馬鹿にされる都筑区ですが、実は6000年前からの由緒ある住宅地だったのです。
あのマンションあたりに、縄文人も竪穴住居を構えていたのかもしれない。
あの公園で、ムラの祭事が行われていたのかもしれない。
そう思うと、何だか歴史の息吹を感じるような気がしませんか?

貝のある貝塚もあります

とはいえ、貝塚ならば貝に出会いたいと思うのもまた人情。
そこで最後にご紹介したいのが折本貝塚です。
第三京浜に『折本貝塚橋』という橋が架かっているのですが、その付近は比較的規模の大きい貝塚だったそうです。
折本貝塚橋(下に見えるのは第三京浜)。
折本貝塚橋(下に見えるのは第三京浜)。
近くに小学校があるようです。
近くに小学校があるようです。
この辺りが貝塚だったらしいです。
この辺りが貝塚だったらしいです。
確かに貝塚です。
確かに貝塚です。
これは多分ハイガイ。
これは多分ハイガイ。
イイボニシ…だと思う。
イイボニシ…だと思う。
この辺りの貝塚からは、ハイガイやイボニシ以外にもカキやハマグリ、アサリ、オキシジミなどが発掘されたそうです。
昨日の晩ごはんの味噌汁に入っていたシジミをここに埋めたら、3000年後くらいに
「ひとつだけ時代の違う貝が混ざっている!」
「この時代、ここは貝塚としては使われていなかったはずだ!」
と歴史学者や考古学者たちを混乱するんじゃないか…と妄想しましたが、生ごみの不法投棄になるのでやめておきました。
縄文期のハイガイと平成のシジミのコラボレーション。
縄文期のハイガイと平成のシジミのコラボレーション。
その辺に無造作に貝が落ちていて、学校帰りの小学生が足で土を掘ったりしていました。
遺跡というと堅苦しい、かしこまった印象をありますが、こんなラフな普段使いの遺跡もいいものですよね。
折本貝塚
貝:★★★★★

貝塚ってそんなに珍しくないんですね

ところで、貝塚ってこんな雑な扱いでいいんでしょうか。
もっとちゃんと保存しなくていいの?
ということで、横浜市歴史博物館で調べてみました。
都筑区隋一の文化的な施設・横浜歴史博物館。
都筑区隋一の文化的な施設・横浜歴史博物館。
何でも貝塚は全国で2500ヶ所ほど発掘され、特に東京湾近辺に集中しているそうです。横浜市内でも80ヶ所以上発掘されており、そんなに珍しいものでもないのだとか。
そして、都筑区における発掘の多くは港北ニュータウンの開発や第三京浜道路開通のための工事を前提として行われたものであり、出土品を記録および保護した後は、発掘場所については特に保存などせずに開発されてしまったとのことでした。
都筑区で一番有名な南堀貝塚についても、
「今は住宅地と学校になってるからねぇ。山田神社の裏あたりは手付かずだから何か残ってるかもしれないけど」
とのことで、貝が残っている折本貝塚は
「特別貝を残そうとしたわけではなく、たまたま残っている」
ということでした。
国や自治体の文化財になったものはともかく、その辺の雑多な遺跡の扱いはそんなものみたいです。
このカジュアルさ、歴史を身近に感じられるような気がします。

もう田舎だなんて言わせない!

今までは「横浜市とはいえ、歴史も浅いし…」「観光する場所も特にない、ただの住宅地だし…」と、横浜中心部に対する遠慮や劣等感を持ってきました。
ですが、文明開化以降の150余年程度の歴史に遠慮してきましたが、縄文時代からの由緒正しい住宅地であるという誇りを胸に、堂々と横浜市民を名乗っていきます。

東京近郊ではさして珍しいものでもないと知った今でも、都筑区の名物は貝塚だと言い張っていく所存です。
皆さまも是非、貝を見に都筑区にお越しください。お待ちしております。
折本貝塚の近くにIKEAがあります。買い物ついでに貝塚はいかがでしょうか。
折本貝塚の近くにIKEAがあります。買い物ついでに貝塚はいかがでしょうか。
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