芯の補充よ、さようなら
シャープペンの芯の補充をしなくても済む機械を作った。芯の補充は面倒だ。ケースから芯の頭を出し、細い芯を折らないように慎重に1本だけ掴み、折れやすい細い芯を持ったままシャープペンのキャップを開け……、等々。気の遠くなるような多くの手順があるうえ、芯の折れやすさのプレッシャーで、一手一手が精神のすり減るような作業だ。
一方で、僕が作った機械の操作は、たったの3ステップで済む。
1.シャープペンを立てる。
2.芯を投入。
3.スイッチを入れる。
それで何が起きるかは、動画で見ていただこう。
一応写真でもダイジェストを。シャープペンを穴に立てる
芯を上のチューブから差し込みます
差し込まれた芯は自動的に下のスリットにセットされる
スイッチを押すと…
シャープペンがシャープペンの芯を叩き折る!!
ここからは後始末です。矢印のところに芯の破片が残っているので
機械がグワッと開いて芯の破片を排出
みごと、芯は真っ二つです
見事にシャープペンの芯は真っ二つだ。この機械を使って手持ちの芯を全部折りつくしたら、あとは晴々した気持ちとともに、シャープペンのことは忘れてボールペンを使おう!
そう、シャープペンさえ使わなければ、芯を入れるストレスは存在しないのだ。この機械はその決断へ向けて、あなたの背中を押してくれる。後腐れなくシャープペンに別れを告げるための、いわば文具版「別れさせ屋」みたいなガジェットだ。
シャープペンの芯を折るのに、重りや刃物を使わずシャープペン自身に叩き折らせる、というのも悪意に満ちていてよいと思う。
メイキング
この機械が今のかたちになるには、それなりに紆余曲折あった。最初につくったのが、こちらである。
紙!
今回は動作原理に重力をあてにしている。こちらではどうにも制御できない自然の力だ。頼りにしてよいものかどうか、いちおう事前に試すことにした。
検証のための試作なのに、シャープペンじゃなくてより重いボールペンを使っている。手元に見つからなかったんで。エヘヘ。
…そう、何を隠そう、僕はボールペンユーザーなのである。
シャープペンに対する愛のなさが、こんなモンスターマシンを生み出したのかもしれない…。
自分の心の闇に気づいたところで、動作原理については検証できた。さっそく実機の制作に取り掛かることにしよう。
あれから2週間が過ぎた…
たっぷり2週間、ほったらかしの日々である。僕も大人なので何かとほかにやるべき仕事もあるし、ほうっておくこと自体は仕方ない。ただ問題は、いざ取り掛かろうとしたとき、試作品がこんなんなってたことである。
ベチャ
ここにあった
最近見ないなーと思って、うすうす気になってはいたのだ。我ながらひどい。
そういうわけで試作品を見ずに作ったので、本番はいろいろ違うところがある。そこはあんまり気にしないでください。
まずは買出し
さて、何を隠そうこの記事は東急ハンズとのコラボ記事である。
工作においてバックに東急ハンズがついている、これ以上の頼もしいことはあろうか。
こんだけ買いました
最初にご了承いただきたいのだが、僕の工作は一言でいえば「雑」である。設計図も引かなければ試作品も潰す、全体に計画性がない。なので材料の買い出しも、「こういうのがあれば使えるかも」と思われるものを片っ端から買う、というスタイルだ。
「プレミアゴールド」というビールみたいな名前のボンドとホース
事前に設計するどころか、「あ、これであそこ組めそう」と、店頭の材料を見てその場で構造を決めている節がある。買出しにハンズじゃなくうっかり豆腐屋に行っていたら、豆腐を積んだタワーの上から湯葉を落としてシャープペンの芯を折る機械を作ろうとしていたところだ。
金具類一式
豆腐で芯折り機、それはそれで見てみたいが、実際作ってたら到底完成しなかっただろう。
その点、雑なスタンスで行っても、ハンズならちゃんと完成にたどり着いてしまう。ハンズはすごい。
板と棒いろいろ
僕がプラ板を見ているとき、店員さんにちゃんした図面を見せながら何か尋ねているお客さんがいた。ちゃんとしている人もハンズで買っているのだ。雑な人もちゃんとした人も、ハンズは平等に完成に導いてくれる。懐が深い。
余談ですがデイリーポータルZ編集部内にはいたるところに東急ハンズの袋が偏在しており、自分の材料を一度見失うと捜索が非常に困難。
ハンズで買ったのはここまでで、それとは別に、本体ケースはペン立てを買った。
ケースは失敗して買い直すケースが多いため(ケースだけに)、貧乏性特性が発動し100均で買ってしまいました
それから電子部品類も別途、秋葉原で調達。いよいよ制作に入ります。
ロストテクノロジーを取り戻せ
まずやるべきことは、不注意によりロストテクノロジーとなってしまった、試作品の再現である。
底をいったん引っぺがして
プラ板を切って天板を作る
ここを切り取りたい
ここで登場するのが、今回購入した新兵器、ホットナイフである。
はんだごてみたいな道具の先にナイフの刃がついており、熱でプラスチックを溶かし切るのだ。
固いプラスチックのケースが
みるみる切れていく…!!
この手のプラスチック製品って意外に加工しにくくて、カッターはもちろん、ノコギリでも全然切れなかったりする。
それがホットナイフならヌルヌル切れてしまう。
溶かすのでちょっと糸引いたりしますが、それすらも神秘的に見えてくる
関係ないけどさっき天板に使った「プラ板」という商品は、カッターでもスルスル切れてすごく使いやすかったです。ひと言で「プラスチック」と呼んでるものにも、かなりいろいろあるっぽい。
こうしてケースが完成。
つぎは芯を送り出す部分に取り掛かる。
ホースを半分に切って半筒にし、投入した芯を送るためのレールに使う。
長いものを縦に裂くときは、魚をさばく気分で
先の方を加工して
ケースの中へ
スリットの奥にホースの先がきていて、芯はこことネジのあいだにまたがって止まる
「またがって止まる」ってひと言で書いたが、ここは完全に重力頼みなので、微妙なさじ加減での調節が必要だ。
ホースの角度や曲がり具合を何回も調節した。地表の重力にかなりがんばって合わせたので、たとえば月面では動作しないはずだ。
そうして一通り組みあがったところ
上から入れた芯がスリット部分に止まり、手動で倒したペンが叩き折る。試作品と同じところまで来たぞ!
と、うまくいったのは実は5回目に撮りなおした時であった。あれだけ調整したのに、入れた芯をうまく飛び出させる精度がまだ低いのだ。もうちょっと頑張ってみる。
精度を上げるためにホースに支柱を立てたり、
芯が飛び出すぎないようストッパーをつけたり
一発!
できた喜びと夜中のテンションで、カメラにはこんな写真が残っていた (持っているのは借り物のダイソン縦型掃除機。充電式でコードレス。このすごさに興奮しての一枚である)
エレキへの道
さあ、工作はまだ折り返し地点で、ここから電動化作業が始まる。
スリットに蓋をした
試作品および昨日の段階では、立てたシャープペンを手で倒していた。
本番では、最初は閉まっているスリットの蓋が開くことによって、シャープペンが倒れるようにしたい。
なのでこうやって動かす
はんだ付けをして
サーボモーター(好きな角度で止められるモーター)を2つセット
こんな感じにしました
サーボごとケースの内側にくっつける
ここ、前日に無計画にホースをつけてしまったせいで、モーターの位置とホースの位置が干渉してくっつかず、結局1回ホースを外すことになった。昨日あれだけ微調整したのに…。
「悪いのは俺じゃない、ぜんぶ無計画が悪いんや…」(貧乏が悪いんや、のノリで)と自分に言い聞かせながら泣く泣く再調整したが、無計画は自分のせいなので結局悪いのは俺である。
動いたぜ!
本当は蓋が空いたらペンはそのままバターンと倒れるはずだったのだが、途中で止まってシュルルと戻ってしまった。でもなんかマンボNo.5みたいで面白いので、一旦これでよしとする。(あとでちゃんと対策しますから!)
パクパク
もう一つ電動化したいところがあった。シャープペンの芯はネジとホースにまたがって折れるため、折れた芯の片方がホースの中に残ってしまう。そこで、芯の排出機能も作ることにした。
パクパクさせます
冒頭の動画で見てもらった通り、ケースの上半分がパカッと開くことで、ホースの中の芯を外に落とす。(また重力頼み!)
穴をあけてちょうつがいで止めます
切りやすいと(自分の中で)評判のプラ板を切って
貝柱的なやつを作りました。
内側にもうひとつのサーボモーターを仕込んで
できるだけ閉めた状態で、さっき作った貝柱を固定
これで、サーボが動くと貝柱が回転して伸び、ケースの底をガバッと開く機構ができたはず。
いざ、動かしてみます。
ガクガク~
あっ、歩いたっ!!!!すごい!
……すごいけど、やりたかったのはこういうことじゃない。
ケースが重すぎてサーボのパワーが足りなかったようなので
中に板バネを仕込んで、開く力をサポートします
ガバッ!きました
仕上げ
動作テストを繰り返して、最後にもうちょっとだけ微調整。
ケースの底にこういうのを仕込んだ。蓋が空いてもシャープペンが倒れない問題を解決するため、斜面にしたのだ
シャープペンを差し込むときにスムーズにいくようにガイドを設置
折れた芯が飛んでいってしまうので芯受けを広げた
で、できた…
ここから先は、冒頭に動画で見ていただいた通りである。
おまけ・「雑」集
今回、手数が多かったので、制作の様子は簡潔にお伝えした。そのため記事上は割とスムーズにいったかのように見えるが、実際にはいろいろな雑ポイントがあったことをここでご紹介しておこう。
さいしょに仮止めのつもりでマスキングテープで貼った天板、あとでボンドでやり直そうと思っていたが、中身にホースやらサーボやら詰めてしまったせいで取り外せなくなり結局マスキングテープのまま
ホースの先も同じくマスキングテープ
今回に限ったことではないけど、銅線の保管が雑なので絡まり放題
出したものを一切片付けないため、「アレさっきどこ置いたっけ…」に作業時間全体の4/1くらいを費やしている気がする
ネジ穴を適当に開けたらずれたので開け直した
ネジ入れるの面倒で針金で止めた
計画性のなさにより、蓋を閉めた状態で内側に部品を固定しなきゃいけないことに
基板は中に収納するつもりだったのに、いろいろ仕込んだ結果、入れる場所がなく外に貼ることに…。
以上はいわばこの記事のNG集なのだが、映画のNG集と違うところは、NG部分を作り直さずにそのまま完成品になっているところである。
俺の自慢話を聞いてくれ
冒頭の動画の気合の入り方でもしかしたら感づかれたかもしれないが、この機械、かなり気に入っている。もう、誰かに自慢したい一心である。
そして、これほどの偶然もあろうかという話だが、編集部の隣の部屋で、たまたま電子工作の展示会が開催されていたのだ。
KOKUYOさん主催、ひらめきガジェットラボ展(すでに終了しました)
ここのスタッフの方に、僕の芯折り機を見ていただくことにした。いうなれば道場破りである。
展示会会場に、勝手に自分のブースを設置する(今考えたらひどい)
僕が女性二人にひたすら自慢をしている様子を動画でご覧ください。
1度目はシャープペンが倒れず失敗、2度目はシャープペンが倒れるところまではうまくいったが、途中で引っかかってしまい失敗。3回目でやっと成功した。自慢も、しどろもどろである。
でも最終的にはウケてよかった
映像には入っていないが、「1回目で成功したらもっといいリアクションできたと思います」とのコメントが印象的であった。そうですよね……。(お付き合いどうもありがとうございました)
雑な工作楽しい
何するにも、雑にやるのが一番楽しいんじゃないかと思っている。きちんと計画立てて見通し立ててやればちゃんとしたものができるけど、そうしないで、実際に手を動かしながらリアルタイムで試行錯誤するのはとにかく楽しい。
とはいえその分、完成品はいびつになる。でもいびつなところが、逆にかわいく思えたりするんですよ、これが。
そういうわけですので、今後も悪意のある機械を雑に作り続けていきたいと思います。